役員を解任された後に保有する株式はどうなるか

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役員を解任された後に残る株式の扱いに関するメインのページです。本ページは、役員の解任をめぐるトラブルで賠償の請求と株式の買取りとを切り分けて進める順序をご説明します。弁護士への依頼の時期は別のページをご参照ください。
▶ 役員の解任について弁護士に依頼するとき 解任された取締役が最初に確認する事項と3か月の期限
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臨時の株主総会が開かれ、自分を取締役から解任する議案が可決された。翌週、会社の顧問弁護士から手紙が届き、「保有株式を1株当たり額面で会社に譲渡していただければ、解任の件も含めて円満に解決したい」と書かれていた。解任の理由は説明されておらず、株式の価格の根拠も示されていない。当事務所には、解任の直後にこうした申入れを受けたというご相談が数多く寄せられます。
解任された方の多くは、取締役の地位を失ったのだから会社との関係は終わったと考えます。しかし、株式を保有している限り、株主としての関係は続いています。会社の側は、この2つの関係を混ぜ合わせ、一括の解決という形で処理しようとします。混ぜ合わせることによって得をするのは、通常は会社の側です。
結論から申し上げます。解任による損害賠償の請求と、保有株式の処遇とは、根拠となる条文も評価の方法も異なる別個の問題であり、一括の提案に応じる前に、それぞれの金額を別々に把握しておく必要があります。以下、順にご説明します。
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退任の後に株式が残るという結果は同じでも、退任の原因が解任であるか、M&Aに伴うものであるかによって、立てられる請求が異なります。本記事の対象を先に明らかにします。
- 株主総会の決議により解任され、解任の損害賠償と株式の処遇とが同時に問題となる場面……本記事
- M&Aにより株式の一部を譲渡し、その後に退任して少数株式が残った場面(相手方は買主)……M&Aの後に役員を退任したが非上場株式だけが残った場合
- 辞任届への署名を求められている場面……辞任を強要された場合の弁護士対応 辞任届を提出する前と提出した後
- 在任中の報酬が減額され、又は支給されなくなった場面……役員の報酬を一方的に減額され又は支給されなくなった場合の弁護士対応
解任されても、株式は当然には失われません
会社法第339条第1項は、役員及び会計監査人は、いつでも株主総会の決議によって解任することができる旨を定めています。この決議の効果は、役員としての地位を終了させることに尽きます。株式の帰属について、何らの効果も生じません。
会社法第341条は、役員を選任し、又は解任する株主総会の決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の過半数をもって行わなければならない旨を定めています。定款により、定足数を3分の1以上の割合まで引き下げ、又は決議の要件を加重することが認められています。ここで問題とされているのは議決権の数であって、解任された者が株式を保有し続けることとは無関係です。
したがって、解任の決議の後も、株主名簿に記載された株主としての地位は変わりません。株主総会の招集通知は届きますし、議決権も行使することができます。会社が「役員を辞めたのだから株主でもなくなる」という説明をしてきた場合、それは誤りです。会社の担当者が誤解している場合と、意図的にそう説明している場合とがありますので、書面で確認を求めておくことをお勧めします。
解任の損害賠償と、株式の買取りとは別の請求です
会社法第339条第2項は、前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる旨を定めています。この請求の相手方は会社であり、請求の内容は損害の賠償です。金額の算定は、残存する任期に対応する報酬相当額を基礎として行われるのが通常です。
これに対し、株式の買取りは、財産の売買です。相手方は、会社である場合と他の株主である場合とがあり、金額は株式の価値によって決まります。損害賠償の額と株式の価値との間には、算定上の関係はありません。任期の残りが1か月であっても株式の価値は変わりませんし、逆に、株式の価値が低くても残存任期が長ければ損害賠償の額は大きくなります。
この2つを混ぜると、必ず一方が犠牲になります。実際に多いのは、株式を額面で引き取る代わりに損害賠償の請求権を放棄させるという提案です。会社の側は、放棄させたい請求権の金額を示さないまま提案してきます。まず、残存任期と報酬の額から損害賠償の見込額を算出し、次に、直近の決算に基づいて株式の評価額を算出してください。2つの数字を並べて初めて、提案の当否を判断することができます。
会社が「株式を売れば解決する」と言ってきた場合
この申入れを受けた場合、応答の前に確認すべき点が3つあります。第1に、提示された価格の算定根拠です。額面によるのか、直近の純資産額によるのか、過去の取引の実績によるのかを、書面で明らかにするよう求めます。根拠を示さない提案は、交渉の出発点として扱う必要がありません。
第2に、和解の対象の範囲です。株式の譲渡に加えて、解任による損害賠償の請求権、未払の報酬、役員退職慰労金、会社に対する貸付金、及び個人保証の解除のうち、どれが含まれるのかを一つずつ確認します。会社の提示する書面には「本件に関する一切の債権債務は存在しないことを相互に確認する」という条項が置かれているのが通例です。この一文により、確認していない請求権まで消滅します。
第3に、期限の設定です。「今週中に回答をいただきたい」という求めに応じる必要はありません。解任の決議を争う訴えには期限がありますが、株式の売却には期限がありません。回答を保留する旨のみを返答し、内容の検討は弁護士に委ねてください。
定款の定めにより株式を取り上げられることはあるか
定款に、退任した役員は株式を会社又は代表取締役に譲り渡さなければならない旨の定めが置かれている例があります。もっとも、この種の定めが直ちに株式の移転をもたらすわけではありません。株式は財産権であり、株主の意思によらない移転には、法律上の根拠が必要です。
会社法第107条第1項第1号は、会社は、その発行する全部の株式の内容として、譲渡による当該株式の取得について会社の承認を要することを定めることができる旨を規定しています。これは、株主が第三者に株式を譲渡する場面を制限する仕組みであって、会社が株主から株式を取り上げる仕組みではありません。譲渡制限の定めがあることを理由に、会社が一方的に株式を回収することはできません。
これに対し、会社法第108条第1項第7号は、当該種類の株式について、会社が株主総会の決議によってその全部を取得することを内容とする種類の株式、すなわち全部取得条項付種類株式を発行することができる旨を定めています。この仕組みを用いる場合には、定款の変更を含む一連の株主総会の決議が必要であり、その手続の中で反対する株主には価格の決定を求める道が開かれています。会社が「定款に書いてあるから」とのみ説明して株式の引渡しを求めてきた場合には、根拠となる条文と経るべき手続を書面で示すよう求めてください。手続を経ないまま株主名簿の記載が書き換えられていた場合には、名義の回復を求めることになります。
解任の後に届く株主総会の招集の通知の扱い
解任の後も株主である以上、株主総会の招集通知は届きます。この通知は、放置してはならない書類です。理由は2つあります。
第1に、議案の内容から、会社の次の一手を読み取ることができるためです。定款の変更、種類株式の発行、募集株式の発行、資本金の額の減少といった議案が上程されている場合、持株比率の希釈化又は株式の取得を意図している可能性があります。第2に、決議を争う期間が進行するためです。会社法第831条第1項は、株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき等の場合には、株主等は、決議の日から3箇月以内に、訴えをもって決議の取消しを請求することができる旨を定めています。この3箇月は、通知を読まなかったという事情によって延びるものではありません。
あわせて確認していただきたいのは、ご自身を解任した株主総会の招集通知が適法に発せられていたかどうかです。通知が届いていなかった、開催日の直前に届いた、議題として解任が記載されていなかったという事情があれば、決議の取消しを求める理由となり得ます。封筒の消印、受領の記録、社内の連絡の履歴を保管してください。
会計帳簿の閲覧を通じて、解任の当否を検証する
会社は、損害賠償の請求に対し、必ず正当な理由があったと反論します。挙げられる理由は、業績の悪化、経費の私的な使用、独断による取引、体調による職務の遂行の不足といったものです。これらの主張が事実に基づくかどうかは、会社の帳簿を確認しなければ検証できません。
会計帳簿の閲覧の請求は、会社法第433条第1項に基づいて行います。同項は、議決権の100分の3以上又は発行済株式の100分の3以上を保有する株主に対し、請求の理由を明らかにした上で、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を求める権利を認めています。解任された方が株式を保有していることは、この場面で意味を持ちます。役員の地位を失っても、株主として会社の内部の資料に接する道は残っているためです。
請求の理由の記載には注意を要します。同条第2項は、会社が請求を拒むことができる場合を列挙しており、権利の確保又は行使に関する調査以外の目的による請求、会社の業務の遂行を妨げる目的による請求、請求者が実質的に競争関係にある事業を営む場合などが挙げられています。したがって、理由の欄には、解任に正当な理由がないことを確認し、損害賠償の請求権の行使の可否を判断するためであることを、対象となる期間と勘定科目を特定して記載します。閲覧の対象として求めるのは、総勘定元帳、仕訳帳、補助元帳、及びこれらの裏付けとなる契約書と請求書です。
二つの請求を、どの順序で進めるのか
順序の原則は、期限のあるものを先に、期限のないものを後に、です。期限のあるものは2つあります。第1は、決議の取消しを求める訴えで、会社法第831条第1項により決議の日から3箇月です。第2は、解任の議案が株主総会において否決された場合に株主が提起する解任の訴えで、会社法第854条第1項により、役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず解任の議案が否決されたときは、一定の要件を満たす株主は、当該株主総会の日から30日以内に訴えをもって解任を請求することができるとされています。
この第2の手続は、解任された側にとっても意味を持ちます。株式を保有し続けている以上、会社に残った現在の役員の行為が問題である場合には、株主の立場からこの訴えを検討することができるためです。公開会社でない会社については、同条第2項により、6箇月の保有期間の要件は課されません。
期限のない請求、すなわち損害賠償の請求と株式の買取りの交渉は、その後に進めます。もっとも、資料の収集は最初に着手します。会計帳簿の閲覧により得られた資料は、損害賠償の場面では正当な理由の不存在を示す材料となり、株式の場面では価格の主張の基礎となります。一つの手続で二つの請求の材料が揃うため、閲覧の請求は早い段階で行うことが有効です。
会社からの要求を一括して受けないための整理表
解任の後には、会社から複数の要求が同時に届きます。資料を返せ、社宅を出よ、社用車を返せ、競業避止の誓約書に署名せよ、株式を譲渡せよ、といった要求です。これらは根拠も期限も別々ですので、一括して応ずるか否かを決めるのではなく、項目ごとに分けて回答します。次の表により整理してください。
| 要求の項目 | 確認すべき根拠 | 引換えに求め得る事項 |
|---|---|---|
| 会社の資料及び記録媒体の返還 | 当該の資料が会社に帰属するものかどうか | 自らの職務に関する部分の閲覧の機会、返還した物の一覧の作成 |
| 社宅の明渡し | 使用貸借であるか賃貸借であるか、契約の期間の定め | 相当の猶予の期間、転居に要する費用の負担の協議 |
| 社用車の引渡し | 登録の名義、購入及び維持の費用の負担者 | 個人が負担した部分の精算 |
| 競業避止の誓約書への署名 | 在任中の契約に定めがあるかどうか | 対価の定め、期間及び地域の限定。新たな署名の義務は原則としてありません |
| 保有する株式の譲渡 | 定款の定め、株主間の契約の条項 | 価格の算定の根拠となる資料の開示。譲渡に応ずる義務は原則としてありません |
| 個人保証の解除の手続への協力 | 金融機関との保証契約の内容 | 会社から金融機関への申入れ、後任者による引受けの検討 |
回答の仕方
期限を切られた要求については、その日のうちに「項目ごとに確認のうえ回答します」とだけ書面により伝え、個別の可否は保留します。一括の合意書に署名すると、解任による損害の賠償の請求まで放棄したものと扱われるおそれがありますので、清算に関する条項の有無を必ず確認します。
株式の売却を検討する場合の出口
会社との関係を完全に清算する方針を採る場合には、保有する非上場の株式をどのように現金に換えるかが最後の課題となります。売却の相手方の選択、価格の算定、譲渡の承認の請求の進め方については、当事務所の非上場株式の売却に関する専門の窓口において詳しく取り扱っています。本頁は解任と株式との切り分けを、当該の窓口は売却そのものを担当します。
なぜ会社は、解任と株式の買取りを一括で解決したがるのか
第1の理由は、支出の総額を抑えられることです。損害賠償と株式の対価とを分けて計算すれば、合計額は大きくなります。一括の金額として提示すれば、内訳を示さずに済み、金額の妥当性を検証されにくくなります。
第2の理由は、少数株主を残さないことです。解任された元役員が株主として残ると、会計帳簿の閲覧を請求され、株主総会で質問を受け、決議を争われる可能性が続きます。会社にとっては、金銭を支払ってでも関係を断ちたいという判断が働きます。
第3の理由は、時間です。解任の直後は、解任された側が動揺しており、経済的な見通しも立てにくい時期です。この時期に一括の提案を示せば、応じてもらいやすくなります。逆にいえば、応答を急がず、内訳を求め、資料を集めてから交渉すれば、条件は変わります。急がされていること自体が、こちらに交渉の余地があることの表れです。
弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期
お任せいただける範囲は、次のとおりです。解任の決議の手続の適法性の検討、決議の取消しを求める訴えの提起、損害賠償の見込額の算定と請求、会計帳簿の閲覧の請求、株式の評価の検討、会社又は他の株主との買取りの交渉、和解の条項の点検、及び株主総会における議決権の行使の代理です。
会社から示された和解の書面の点検は、特に重要です。請求権を包括的に消滅させる条項、口外を禁ずる条項、競業を禁ずる条項、及び違約金の条項が含まれていないかを一つずつ確認します。署名の前であれば修正を求めることができますが、署名の後では困難です。
ご依頼の時期は、解任の決議を知った日から数日以内が最も適切です。決議の取消しを求める訴えの3箇月の期間は、事実関係の調査と訴状の準備に要する時間を考えると、決して長くありません。会社から一括の解決の提案を受けている場合には、回答の期限として示された日の前にご相談ください。
いま確認していただきたいこと
第1に、解任の決議に関する資料です。株主総会の招集通知、議事録の写し、登記事項証明書、及び決議の日が分かる書類を揃えてください。議事録の交付を会社が拒む場合でも、株主であれば閲覧及び謄写の請求をすることができます。
第2に、ご自身の持株の状況です。株主名簿の記載、株券が発行されている場合には株券の所在、発行済株式の総数、及び他の株主の構成を確認します。100分の3以上を保有しているかどうかにより、採り得る手続が変わります。
第3に、会社から届いた書面です。和解の申入書、株式の譲渡証書の案、確認書、覚書といった書面は、署名も押印もせずに保管してください。押印を求められた場合には、その場では応じず、写しを受け取って持ち帰ってください。
よくあるご質問
解任と同時に、株券を会社に返還するよう求められました。返さなければなりませんか
返還の義務はありません。株券は株式に係る権利を表章する有価証券であり、役員の地位とは関係がありません。会社が保管を申し出てきた場合も、応じる必要はありません。既に引き渡してしまった場合には、返還を求める通知を発することになります。
損害賠償を請求すると、株式の買取りに応じてもらえなくなりませんか
買取りは会社又は他の株主との合意によるものですので、交渉が難しくなる場面はあります。もっとも、請求を控えたからといって有利な価格が提示されるとは限りません。2つの請求の見込額を把握した上で、どちらを先に進めるかを決めることになります。
解任の決議から4か月が過ぎました。もう何もできませんか
決議の取消しを求める訴えは提起できませんが、会社法第339条第2項による損害賠償の請求は可能です。株式に関する交渉も期限はありません。決議が存在しない場合や決議の内容が法令に違反する場合には、期間の制限を受けない主張が可能なこともありますので、議事録をご持参ください。
会社が、解任は正当な理由があったと言っています。どのように反論しますか
会社が挙げる具体的な事実を一つずつ特定させ、その事実の裏付けとなる資料の提示を求めます。会計帳簿の閲覧により、主張された損失が実際に生じているか、他の役員の同種の行為が問題とされていないかを確認することが有効です。
解任された後の株主総会に、出席してよいのでしょうか
株主として出席することができます。会社が入場を拒んだ場合には、その事実自体が決議の方法の瑕疵に当たり得ます。出席が難しい事情がある場合には、議決権の代理行使を委任する方法があります。
おわりに
解任された後に残る株式は、会社との関係を続ける不便な資産である一方、会社の内部の資料に接し、手続に関与するための足掛かりでもあります。解任の直後に示される一括の提案は、この足掛かりを手放すことと引換えのものです。手放す前に、それぞれの請求の金額を把握しておく必要があります。
期限のあるものは決議の取消しを求める訴えの3箇月であり、それ以外は急ぐ必要がありません。この一点さえ押さえておけば、落ち着いて進めることができます。まずは招集通知と議事録をお持ちください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
解任された後の保有株式に関するご相談
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出典
- 会社法(平成17年法律第86号)第107条第1項第1号、第108条第1項第7号、第339条第1項及び第2項、第341条、第433条第1項及び第2項、第831条第1項、第854条第1項及び第2項
- e-Gov法令検索(デジタル庁) 法令の条文の確認に用いています。
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