会社が挙げる解任の理由に反論する方法

会社が挙げる解任の理由に反論する方法

解任について正当な理由がない場合には、会社に対して損害の賠償を請求することができるものとされています(会社法第339条第2項)。したがって、会社が挙げる理由が「正当な理由」に当たるかどうかが、この類型の中心的な争点となります。本記事では、理由の類型ごとに反論の視点を整理します。当事務所は役員の側にも会社の側にも立ちますが、本記事は地位を争う側の方に向けたものです。

 結論 「具体性」と「因果関係」の2点を軸に反論します

会社が挙げる理由に対する反論は、次の2つの軸で組み立てます。

反論の内容
第1 具体性 抽象的な評価にとどまり、具体的な事実が示されていないこと
第2 因果関係及び重大性 事実があったとしても、解任を必要とする程度の職務執行上の支障が生じていないこと

これに加え、次の点も重要です。

補助的な軸 反論の内容
手続の経過 事前に注意又は改善の機会が与えられていないこと
理由の後付け 解任の当時に示されていなかった理由が後から追加されたこと
他の役員との均衡 同様の事情がある他の役員が解任されていないこと
真の動機 解任の実質的な動機が別にあること

「正当な理由」があることは、会社の側が主張立証すべき事項と解されています。この点は判例法理によります。したがって、役員の側としては、会社が挙げる事実の一つ一つについて、具体性と重大性を問うていくことになります。

 理由の類型ごとの反論の視点

 経営方針の相違

最も多く挙げられる理由です。会社と役員との間で経営に関する見解が異なることは、通常の企業活動において当然に生じ得ます。したがって、方針の相違があったという事実のみでは、正当な理由に当たるとは限りません。

反論の視点は、次のとおりです。

  • 相違があったとされる具体的な議案又は場面が特定されているか
  • 相違の結果として、会社にどのような具体的な支障が生じたのか
  • 取締役会において議論を尽くしたうえで、決議に従っていたのではないか
  • 相違が解任の直前に生じたものか、従前から存在していたものか

取締役会において反対意見を述べること自体は、取締役の職務の一部です。反対意見を述べたことをもって職務の懈怠とすることはできません。

 業績の不振

業績の不振を理由とする解任については、次の視点から検討します。

検討の視点 内容
因果関係 業績の不振が当該役員の職務執行に起因するものか
外部要因 市況、為替、原材料の価格、災害等の寄与の程度
担当の範囲 当該役員が担当していた部門と業績の悪化した部門との対応
在任期間 就任からの期間が短い場合、責任を問い得るか
他の役員の処遇 同様の責任を負う他の役員が留任していないか

業績は多数の要因により変動するものであり、特定の役員の職務執行に帰することができる場合は限られます。

 職務の懈怠

出社しない、取締役会に出席しない、報告を怠るといった事情が挙げられることがあります。反論の視点は、次のとおりです。

  • 具体的な日時及び回数が特定されているか
  • 欠席等について正当な理由があったか
  • 招集通知が現実に届いていたか
  • 会社の側が職務の遂行を妨げていなかったか
  • 事前に注意又は改善の求めがされていたか

役員が職務から排除されている状況で「職務を行っていない」と主張されることがあります。排除の経緯を示す資料が重要です。

 法令又は定款に違反する行為

具体的な違反行為が挙げられる場合には、その事実の有無が争点となります。事実がある場合には、違反の重大性、会社に生じた損害、是正の有無を検討します。

なお、経営上の判断について結果的に会社に損害が生じたとしても、判断の過程及び内容に著しく不合理な点がなければ、任務を怠ったものとはされない旨の考え方が採られています。この点は判例法理によります。

 心身の故障

心身の故障により職務の遂行に現実の支障が生じている場合について、正当な理由を認めた裁判例があります。この点は判例法理によります。反論の視点は、次のとおりです。

  • 故障の程度及び回復の見込み
  • 職務の遂行に現実の支障が生じていたか
  • 職務の分担の変更等により対応することが可能であったか
  • 会社が状況を把握していた時期

 会社の財産の私的な流用

この理由が挙げられる場合には、事実の有無が最大の争点となります。中小の同族会社では、公私の区分が明確でない運用が長年続いていることがあり、当時の会社の了解の有無、他の役員の同様の取扱いが問題となります。

 株主との信頼関係の喪失

主観的な感情にとどまる場合には、正当な理由に当たらないとの反論が成り立ち得ます。他方、信頼関係の喪失の原因として具体的な事実が挙げられている場合には、その事実について反論することになります。

 反論に用いる資料

資料 示し得る事項
取締役会議事録 出席の状況、発言の内容、議案への賛否
稟議書、決裁の記録 職務の遂行の実態
業績の推移に関する資料 業績の変動の要因
事業計画書 当時の見通しと前提
電子メール、業務日誌 日常の職務の遂行
従業員又は取引先の陳述 職務の遂行の状況、対外的な評価
会社が従前に行った評価 表彰、昇格、報酬の増額
診断書 心身の故障に関する主張への反論

会社が従前に当該役員を高く評価していた記録(報酬の増額、役位の昇格、社内外での表彰等)は、解任の理由として挙げられる事実との整合性を問ううえで有力です。

 資料の収集の手段

解任された後は、社内の資料へのアクセスが失われます。したがって、次の手段を用いることになります。

手段 対象 根拠
株主総会議事録の閲覧謄写 株主又は債権者として 会社法第318条第4項
取締役会議事録の閲覧謄写 株主として(裁判所の許可を要する場合があります) 会社法第371条第2項、第3項
計算書類等の閲覧等 株主又は債権者として 会社法第442条第3項
会計帳簿等の閲覧謄写の請求 議決権の100分の3以上を有する株主として 会社法第433条第1項
弁護士会を通じた照会 公務所又は公私の団体に対して 弁護士法第23条の2
文書提出命令の申立て 訴訟における相手方等の所持する文書 民事訴訟法第219条から第223条まで

解任された役員が株式を保有している場合には、株主としての権利を用いることができます。この点で、株式を保有しているかどうかが資料収集の可否を大きく左右します。

 手続の経過に関する反論

解任に至る手続の経過も、正当な理由の判断に影響し得ます。

経過 反論の視点
事前の注意又は指導がなかった 改善の機会が与えられていないこと
弁明の機会が与えられなかった 事実関係の確認が行われていないこと
解任の理由が事前に告げられなかった 理由が後から構成されたことをうかがわせること
招集通知に議案の記載がなかった 決議の効力そのものを争う余地があること
解任と同時に他の役員も入れ替えられた 経営権の移転が真の動機であること

招集通知に解任の議案の記載がなかった場合には、決議の効力を争うことも検討し得ます。決議取消しの訴えには、決議の日から3か月という期間の制限があります(会社法第831条第1項)。

 弁護士にご相談いただく意味

反論の作業は、会社が挙げる事実を一つ一つ分解し、それぞれについて資料を対応させていく地道な作業です。また、資料の多くは会社の側にありますので、収集の手段を組み合わせる必要があります。

弁護士は、解任された役員の代理人として、会社が挙げる理由の分析、反論の構成、資料の収集、損害の額の算定、交渉、訴訟の遂行を行います。

なお、反論の順序、資料の提示の時期、交渉の進め方は、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してまいりました実務上の知見に属しますので、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 解任の理由を教えてもらえません。

理由が示されないこと自体が、正当な理由の不存在をうかがわせる事情となり得ます。書面により理由の説明を求め、その回答(又は回答がないこと)を記録に残すことに意味があります。

質問2 「正当な理由がないこと」を自分で証明しなければならないのですか。

「正当な理由」があることは、会社の側が主張立証すべき事項と解されています(判例法理によります)。もっとも、実際の訴訟では、会社が挙げる事実に対する反論の準備が中心的な作業となります。

質問3 訴訟になってから新しい理由を出されました。

解任の当時に示されていなかった理由が後から追加された場合には、その理由が解任の判断の基礎とされていたのかという点を問うことになります。解任の当時の説明の記録が重要です。

質問4 在任中の資料が手元にありません。

株主である場合には会社法上の閲覧謄写の請求を、株主でない場合には債権者としての請求及び弁護士会を通じた照会を検討します。訴訟の段階では文書提出命令の申立てを行います。

質問5 業績が悪かったのは事実です。それでも争えますか。

業績の不振と役員の職務執行との因果関係、外部要因の寄与、担当の範囲、他の役員の処遇との均衡を検討することになります。業績が悪かったという事実のみで正当な理由が認められるとは限りません。

 反論を整理する表

会社が挙げる理由ごとに、次の表の形で整理すると、主張が明確になります。

会社が挙げる事実 事実の有無 事実がある場合の反論 用いる資料
(記載) 認否 具体性、因果関係、重大性、手続 (記載)

事実の認否を先に確定し、そのうえで、事実があるとしても解任を必要とする程度の支障が生じていないことを主張するという二段構えが基本です。事実そのものを争う部分と、評価を争う部分とを混在させると、主張が不明確になります。

本記事における非開示事項について

反論の順序、資料の提示の時期、交渉の進め方は、会社が挙げる理由の内容、資料の状況、株主構成等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、登記事項証明書、定款の写し、招集通知、株主総会議事録の写し、解任の理由が記載された書面、在任中の職務に関する資料をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。

本記事の根拠条文

会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第330条(株式会社と役員との関係)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)、第371条第2項・第3項(取締役会議事録の閲覧謄写)、第423条第1項(役員等の会社に対する損害賠償責任)、第433条第1項(会計帳簿等の閲覧謄写の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)、第831条第1項(決議取消しの訴え)

民事訴訟法 第219条から第223条まで(書証及び文書提出命令)

弁護士法 第23条の2(報告の請求)

判例法理による部分 「正当な理由」の有無の判断及びその主張立証責任の所在、経営上の判断についての責任の判断の枠組みについては、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

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