役員の解任を求める訴えの要件と期限

役員の解任を求める訴えの要件と期限
役員の解任を求める訴えは、株主総会の決議によっては解任することができない場合に、裁判所に解任を請求するものでございます。実体の要件が厳格に定められており、また株主総会の日から30日という短い期限がございます。本記事では、要件の各項目を順に整理いたします。
結論 四つの要件をすべて満たす必要があります
要件の全体は、次のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 第1 実体の要件 | 役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったこと |
| 第2 手続の要件 | 当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたこと |
| 第3 原告の要件 | 総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主等であること |
| 第4 期限 | 当該株主総会の日から30日以内に訴えを提起すること |
いずれか一つでも欠ける場合には、訴えは認められません(会社法第854条第1項)。
実体の要件
不正の行為
不正の行為とは、役員がその義務に違反して会社に損害を生じさせる行為をいうものと解されております。具体的には、次のようなものが挙げられます。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| 会社の資金の私的な流用 | 会社の資金を個人の用途に用いること |
| 帳簿の改変 | 計算書類又は会計帳簿を事実と異なる内容とすること |
| 会社の財産の不当な処分 | 著しく低額で会社の財産を処分すること |
| 承認を得ない競業取引 | 会社法第356条第1項の承認を得ずに行うこと |
| 取引の機会の奪取 | 会社が得るべき取引の機会を自己又は第三者に移すこと |
法令若しくは定款に違反する重大な事実
取締役は、法令、定款及び株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行わなければなりません(会社法第355条)。この義務に反する行為のうち、重大なものが要件に当たります。
重大性は、違反の内容、継続の期間、会社に与えた影響の程度により判断されるものと考えられます。単に経営方針が対立していること、業績が悪化したこと、報告が不十分であったことのみでは、これに当たらないのが通例でございます。
立証の資料
実体の要件の立証には、会社の内部の資料が必要となることが多くございます。議決権又は株式の100分の3以上を有する株主は、請求の理由を明らかにして、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。
資料の入手には時間を要しますので、株主総会に先立って着手する必要がございます。
手続の要件
解任の議案が株主総会において否決されたことが必要でございます。したがって、議案が上程されていない場合には、要件を欠くことになります。
議案を確実に上程させるためには、議題の提案権及び議案の要領の通知の請求を用いることが考えられます(会社法第303条第1項・第2項、第305条第1項)。これらの権利の行使には期限がございますので、総会の日程から逆算して準備する必要がございます。
また、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数をもって解任の決議が行われますので(会社法第341条)、否決の事実は議事録により明らかにされることになります。
原告の要件
| 会社の区分 | 要件 |
|---|---|
| 公開会社 | 総株主の議決権の100分の3以上の議決権又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を、6か月前から引き続き有すること |
| 公開会社でない株式会社 | 6か月前から引き続き有することという要件は適用されません(会社法第854条第2項) |
いずれの割合も、定款によりこれを下回る割合を定めることができます。定款の定めを確認してください。
複数の株主が共同して要件を満たすことも可能でございます。株主間の意思の統一を図ることが実務上の課題となります。
期限
訴えは、当該株主総会の日から30日以内に提起しなければなりません(会社法第854条第1項)。この期間は極めて短く、資料の収集及び主張の整理を総会の後に始めたのでは間に合わないのが通例でございます。
したがって、否決が見込まれる段階から、訴状の準備を進めておくことが実務上の対応となります。
被告及び管轄
訴えは、会社及び当該役員の双方を被告として提起いたします(会社法第855条)。管轄は、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所に専属いたします(会社法第856条)。
会社を被告とすることから、会社の側にも代理人が就くことになります。訴訟の遂行に相応の期間を要することを見込む必要がございます。
判決の効果
請求を認容する判決が確定すれば、当該役員は解任されることになります。役員に関する登記事項に変更が生ずることになりますので、登記の手続が行われます。
他方、請求が棄却された場合には、当該役員は在任を続けることになります。会社との関係が悪化した状態が継続いたしますので、訴えの提起は慎重に判断する必要がございます。
よくあるご質問
質問1 経営方針の対立を理由に解任を求められますか。
実体の要件を満たさないのが通例でございます。不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実が必要でございます。
質問2 監査役についても同じですか。
役員の解任の訴えは、取締役、会計参与及び監査役を対象とするものでございます。
質問3 訴えの提起により役員の職務は止まりますか。
当然には止まりません。必要に応じて、職務の執行を停止する仮処分を別途検討することになります。
質問4 和解による解決はできますか。
訴訟上の和解が行われることはございます。株式の買取りその他の条件を含めて協議することが少なくありません。
質問5 どのくらいの期間がかかりますか。
事案により異なりますので、期間を申し上げることはできません。
確認事項の一覧
| 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|
| 株主総会の日 | 株主総会議事録 |
| 議案の上程及び否決 | 同上 |
| 持株の数及び割合 | 株主名簿 |
| 公開会社であるか | 登記事項証明書、定款 |
| 定款の要件に関する定め | 定款の謄本 |
| 不正の行為を示す資料 | 会計帳簿、取締役会議事録、契約書 |
| 会社の本店の所在地 | 登記事項証明書 |
30日という期限を踏まえれば、総会の前の段階でご相談いただくことが不可欠でございます。ご相談は事前予約制です。
本記事における非開示事項について
実体の要件を満たすと主張し得る事実の選び方、資料の収集の順序と時期、議案を確実に上程させる方法、複数の株主が共同して訴えを提起する場合の進め方は、株主構成及び資料の状況により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第303条第1項・第2項(議題の提案権)、第305条第1項(議案の要領の通知の請求)、第339条第1項(役員の解任)、第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)、第355条(忠実義務)、第356条第1項(競業取引及び利益相反取引の制限)、第423条第1項(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)、第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)、第854条第1項・第2項(役員の解任の訴え)、第855条(被告)、第856条(訴えの管轄)
判例法理による部分 不正の行為及び法令若しくは定款に違反する重大な事実の判断の枠組みについては、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。
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