役員の報酬を一方的に減額され又は支給されなくなった場合の弁護士対応

先月まで月額100万円が振り込まれていた口座に、今月は40万円しか入っていない。経理に問い合わせると、社長の指示だと言われた。取締役会でも株主総会でも、減額の話は議題に上がっていない。さらに翌月からは振込みが止まり、担当していた部門も他の取締役に引き継がれた。当事務所には、こうしたご相談が繰り返し寄せられています。

役員報酬は、従業員の給与と異なり、労働基準法による保護が及びません。そのため、減額や不支給に直面した方が、どこに根拠を求めればよいのか分からないまま数か月を過ごしてしまう例が目立ちます。しかし、役員報酬には会社法上の明確な決定手続が定められており、その手続を経ずに一方的に額を動かすことは認められていません。

結論から申し上げます。株主総会の決議又は定款の定めによって一度確定した報酬の額は、本人の同意又は新たな決議がない限り、会社が一方的に減額することはできません。減額の通知を受け取った時点で、同意と扱われないための対応を直ちに採る必要があります。以下、順にご説明します。

この記事の位置付け

報酬の問題と、退任そのものの問題とは、根拠となる条文も請求の相手方も異なります。本記事が対象とする範囲を先に明らかにします。

報酬の額は、いつ、どのように決まったのか

会社法第361条第1項は、取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益(報酬等)についての事項は、定款に当該事項を定めていないときは、株主総会の決議によって定めなければならない旨を規定しています。額が確定しているものについてはその額を、額が確定していないものについてはその具体的な算定方法を定めることとされています。

中小の会社では、定款に報酬の定めを置かず、株主総会で取締役全員分の総額の上限のみを決議し、各人への配分を取締役会又は代表取締役に一任している例が大半です。この方式自体は適法とされていますが、配分の決定がされた後は、その決定に従った額が各取締役の具体的な報酬請求権の内容となります。

したがって、まず確認すべきは、総額の上限を定めた株主総会の議事録と、各人への配分を決めた取締役会の議事録又は代表取締役の決定を記した書面です。これらが存在しない会社も現実にはありますが、その場合でも、毎月同額が支給されてきた事実と源泉徴収票の記載から、黙示の決定があったものとして額を主張することができます。給与明細、賃金台帳、法人税の申告書に添付される役員報酬の内訳を集めてください。

一度確定した報酬は、一方的には減らすことができません

会社と取締役との関係は、会社法第330条により委任に関する規定に従います。報酬に関する定めは、この委任契約の内容の一部を構成します。契約の内容である以上、当事者の一方が単独でこれを変更することはできないというのが原則です。

会社法第361条第1項が株主総会の決議又は定款の定めを要求している趣旨は、取締役が自らの報酬を自ら決めることによる弊害、すなわちお手盛りを防ぐ点にあります。この趣旨からすれば、報酬を増額する場合に決議が必要であることはもとより、減額する場合にも、当初の決定を変更する手続が必要となります。代表取締役の一存で額を動かすことは、決定の手続を欠くものです。

会社の側は、しばしば「取締役会で決めた」と説明します。しかし、株主総会が総額の上限を定め、その範囲内の配分を取締役会に一任したという構造の下では、既に確定した個別の報酬額を本人の同意なく取締役会が引き下げることはできないと解されています。決議書の有無ではなく、当初どのような手続で額が確定したのかを確認することが出発点となります。

減額に同意したと扱われないための対応

実務上、最も多い失敗は、減額された金額を何も言わずに受け取り続けてしまうことです。数か月が経過してから請求を始めると、会社は必ず「異議を述べずに受領していたのだから同意があった」と主張します。この主張を封じるためには、最初の1回目から態度を明示しておく必要があります。

具体的には、減額後の最初の支給日の直後に、会社宛ての書面又は電子メールにより、次の3点を記載して送付します。第1に、減額について同意していないこと。第2に、支給を受けた金額は、報酬の一部の弁済として受領するにとどまり、残額の請求権を放棄するものではないこと。第3に、減額の根拠となる株主総会の決議又は取締役会の決議の議事録の写しの交付を求めること。

してはならないのは、口頭で「分かりました」「やむを得ませんね」と応じることと、減額後の額を記載した委任契約書や同意書に署名することです。会社が同意書への署名を求めてきた場合、それは会社の側も一方的な減額の効力に不安を抱いていることの表れです。署名の前にご相談ください。

株主総会の決議がない場合の請求の仕方

減額の手続が採られていない以上、従前の額による報酬請求権はそのまま存続しています。請求の対象は、本来支給されるべき額と実際に支給された額との差額です。支給が完全に止まっている場合には、全額が対象となります。

民法第648条第2項は、受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければこれを請求することができないとしつつ、期間によって報酬を定めたときは第624条第2項の規定を準用する旨を定めています。月額で定められた役員報酬は、期間によって定めた報酬に当たりますので、各月の経過ごとに、その月分の請求権を行使することができます。全額が退任時にまとめて発生するわけではありません。

手順としては、まず内容証明郵便により、対象となる月と各月の差額を一覧にして支払を求めます。会社が応じない場合には、支払を求める訴えを提起します。この際、既に発生している分だけでなく、将来分についても、毎月の支給日の到来に応じて請求を追加していくことになります。会社が「減額の決議は後から行った」と主張してきた場合には、その決議の日以前の分について、遡って効力を及ぼすことはできない旨を主張します。

役員退職慰労金との関係 支給の時期と決議

在任中の報酬と、退任時の役員退職慰労金とは、区別して扱う必要があります。役員退職慰労金も、職務執行の対価として支払われるものである限り、会社法第361条第1項にいう報酬等に含まれます。したがって、その支給には、定款の定め又は株主総会の決議が必要です。

問題となるのは、支給の内規は存在するものの、株主総会の決議がされないまま退任した場合です。この場合、内規の存在と、これまで退任した役員全員に内規どおりの金額が支給されてきたという運用の実績が重要になります。過去の支給の事例を、いつ、誰に、いくら支給したかという形で整理してください。取締役会議事録、株主総会議事録、勘定元帳の役員退職金勘定が資料となります。

また、会社法第361条第4項は、報酬等に関する事項を定め、又はこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、当該株主総会において、当該事項を相当とする理由を説明しなければならない旨を定めています。会社が役員退職慰労金の議案を株主総会に上程しながら理由の説明を行わなかった場合や、逆に上程自体を怠っている場合には、この規定を踏まえて説明と上程を求めることになります。

支払を求める手続と、消滅時効

報酬の請求権は、民法第166条第1項の適用を受けます。同項は、債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効によって消滅する旨を定めています。役員報酬の場合、各月の支給日が到来した時点で権利を行使することができることを知っていたと評価されるのが通常ですので、支給日から5年が期間の目安となります。

もっとも、5年あるからと放置してよいわけではありません。時間が経つほど、会社の側で「その期間は職務を執行していなかった」との反論が組み立てやすくなり、また会社の資力が失われる危険も高まります。減額から数か月以内に請求を始めることをお勧めします。

手続の選択としては、支払を求める訴えのほか、会社に資産の処分の動きがある場合には、仮差押えの申立てを検討します。会社が支払能力を有していることが確認できる限り、まずは内容証明郵便による請求と、その後の交渉により解決を図るのが通常の順序です。

会社が「業績の悪化」を理由とする場合の反論

減額の理由として最も多く挙げられるのが、業績の悪化です。しかし、業績が悪化したという事実だけでは、既に確定した報酬額を一方的に引き下げる根拠にはなりません。業績連動の算定方法が当初から定められていた場合を除き、業績と報酬額とは自動的には連動しないためです。

反論の材料は、会社自身が作成した資料の中にあります。第1に、減額の対象が自分だけであるかどうかです。他の取締役の報酬が据え置かれ、又は増額されているのであれば、業績を理由とする説明は成り立ちません。第2に、同じ時期に役員の交際費、社用車の維持費、関係会社への支出が減っていないかどうかです。第3に、決算書上の当期純利益と剰余金の額です。

これらを確認するためには、計算書類、附属明細書及び法人税の申告書の写しが必要です。取締役の地位にある間は、取締役会に対する報告の求めや、会計に関する資料の閲覧を通じて入手を試みます。既に職務から外されている場合には、株式を保有していれば株主としての権利を用いる方法もあります。会社が資料の開示を拒む態度自体が、業績を理由とする説明の裏付けを欠くことの間接的な事情となります。

なぜ減額は、解任の前触れであることが多いのか

報酬の減額は、単独で行われることはまれです。多くの場合、担当部門の縮小、決裁権限の引上げ、会議への不招集、社内の情報共有からの除外といった措置と同時に進みます。これらは、いずれも役員としての実績を残させないための措置です。

会社の側の狙いは2つに整理できます。第1は、自発的な辞任を促すことです。収入が減り、職務も与えられない状態が続けば、多くの方は自ら辞める方向に傾きます。第2は、後に解任の決議を行う際に、正当な理由があったと主張するための外形を作ることです。職務を与えなかった期間の実績の乏しさが、そのまま解任の理由として持ち出されます。

したがって、減額を受けた段階での対応は、報酬の回収という意味だけでなく、その後の展開に備える意味を持ちます。職務を与えるよう求めた記録、会議への出席を求めた記録、報告を求めた記録を残しておくことが、後日の防御につながります。減額の通知を受けた時点を、対応の開始点としてください。

弁護士に任せられる範囲と、依頼の時期

お任せいただける範囲は、次のとおりです。同意していない旨の通知の作成と発送、減額の根拠となる議事録の開示の請求、差額の計算と一覧表の作成、内容証明郵便による請求、会社との交渉、支払を求める訴えの提起、役員退職慰労金の支給に関する議案の上程の求め、及び会社が資産を処分する動きを見せた場合の保全の申立てです。

あわせて、職務の取上げに対する対応、すなわち取締役会の招集の請求や、報告を求める書面の作成も並行して行います。報酬の問題と職務の問題は同じ経過の中で生じますので、切り離さずに進めた方が有効です。

ご依頼の時期は、減額後の最初の支給日の前後が最も適切です。この段階であれば、同意の推認を避けることが容易であり、交渉によって解決できる余地も残っています。支給が止まってから半年以上が経過している場合でも、時効の期間内であれば請求は可能ですので、諦めずにご相談ください。

いま確認していただきたいこと

手元に揃えていただきたい資料は5つです。報酬の総額の上限を定めた株主総会の議事録、各人への配分を定めた取締役会の議事録又は決定書、直近3年分の給与明細と源泉徴収票、役員退職慰労金の支給に関する内規、及び定款です。定款は、会社が交付を拒む場合でも、株主であれば閲覧の請求が可能です。

次に、日付を追った経過表を作成してください。減額の通知を受けた日、減額後の最初の支給日、担当部門を外された日、会議に招集されなくなった日、決裁権限が変更された日を並べます。この表があると、減額が単独の措置なのか、退任に向けた一連の措置の一部なのかが明確になります。

最後に、会社に対して既に送った書面と、会社から受け取った書面をすべて保管してください。特に、同意書、覚書、確認書といった題名の書面に署名を求められている場合には、署名の前に必ずご相談ください。

よくあるご質問

報酬を減額されましたが、まだ取締役として在任しています。今から争って問題はありませんか

在任中であっても、差額の請求は可能です。会社が請求を理由に解任の決議を行った場合には、その解任について正当な理由があるかどうかが別途問題となります。正当な権利の行使を理由とする解任は、正当な理由があるとは評価されにくいものです。

減額に同意する旨の書面に、既に署名してしまいました

署名の経過によっては、なお争う余地があります。署名を求められた場面で、断れば解任すると告げられていたか、その場で退室を許されなかったかといった事情を整理してください。同意書の写しと、署名の前後にやり取りした電子メールをご持参ください。

報酬の総額を定めた株主総会の議事録が、会社に存在しないようです

議事録が存在しない場合でも、毎月同額が継続して支給されてきた事実により、報酬の額が確定していたことを主張することができます。給与明細、預金通帳の入金記録、源泉徴収票、法人税の申告書の役員報酬の内訳が資料となります。

非常勤の取締役ですが、同じように請求できますか

できます。常勤か非常勤かは、報酬の決定手続の要否に影響しません。ただし、実際に果たしていた職務の内容を説明できるようにしておくことが望まれます。取締役会への出席の記録や、報告を受けていた資料を整理してください。

会社に資金がないと言われています。請求しても意味がないのではありませんか

資金がないという説明の当否は、計算書類を確認しなければ判断できません。役員報酬の未払は、会社の帳簿上は未払費用として計上されているのが通常です。まずは会社の財務の状況を確認した上で、請求の順序と時期を決めることになります。

おわりに

役員報酬の減額は、金額そのものの問題であると同時に、会社が退任を求め始めたという合図でもあります。金額が小さいから様子を見よう、と考えているうちに月日が経過し、同意があったと扱われてしまう例が後を絶ちません。最初の1回目の支給日に、態度を明示することが何よりも重要です。

報酬に関する資料は、会社の側が保管しています。時間が経つほど、入手は難しくなります。減額の通知を受け取った段階でご相談いただければ、資料の確保から請求までを一続きの流れとして進めることができます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

役員報酬の減額及び不支給に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8:00-21:00(土日祝含む)

出典

  • 会社法(平成17年法律第86号)第330条、第361条第1項及び第4項
  • 民法(明治29年法律第89号)第166条第1項、第648条第2項
  • e-Gov法令検索(デジタル庁) 法令の条文の確認に用いています。

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