業績の不振を理由とする解任は正当な理由となるのか

業績の不振を理由とする解任は正当な理由となるのか
業績が悪化したことのみをもって解任の正当な理由があるとすることは、一般には困難であると考えられております。正当な理由として認められやすいのは、法令若しくは定款に違反する行為、職務の執行における不正、又は心身の故障といった類型でございます。本記事では、正当な理由の意義を確認したうえで、業績の不振という事情がどのように評価されるかを整理いたします。
結論 業績の悪化のみでは正当な理由となりにくいと考えられます
正当な理由の有無の判断の枠組みは、次のとおりです。
| 会社が挙げる事情 | 評価の傾向 |
|---|---|
| 法令又は定款に違反する行為 | 正当な理由として認められやすいと考えられます |
| 職務の執行における不正 | 同上 |
| 心身の故障により職務の執行に堪えないこと | 同上 |
| 経営能力の著しい欠如 | 具体的な事実の裏付けが求められると考えられます |
| 業績の悪化それ自体 | これのみでは正当な理由となりにくいと考えられます |
| 経営方針の相違 | 正当な理由となりにくいと考えられます |
もっとも、いずれの類型についても、事案の具体的な事実関係により判断が異なりますので、結果を保証することはできません。
正当な理由の意義
条文の位置付け
役員は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができます(会社法第339条第1項)。株主が役員を選び、また解くことができるという原則を定めたものでございます。
他方で、解任について正当な理由がないときは、解任された役員は会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(同条第2項)。この規定は、株主の解任の自由と、役員が任期の満了まで職務を行うことへの期待とを調整するために設けられたものと解されております。
判断の主体と立証
正当な理由の有無は、最終的には裁判所が判断するものでございます。会社が正当な理由があると説明していることのみをもって、正当な理由があることにはなりません。
実務上は、会社の側が、解任の理由として具体的にどのような事実を挙げるかが出発点となります。したがって、解任の理由を書面により明らかにさせることが、防御の第一歩となります。
業績の不振という事情の評価
業績は多数の要因により決まること
会社の業績は、経済の情勢、業界の動向、取引先の事情、為替及び原材料の価格その他の多数の要因により左右されます。したがって、業績が悪化したという結果のみから、特定の役員の職務の執行に問題があったと評価することは、一般には困難でございます。
会社の側が業績の悪化を理由として挙げる場合には、当該役員のいかなる行為が、いかなる経路により、いかなる損失をもたらしたのかが具体的に示されているかを確認することになります。
経営判断の合理性
取締役は、善良な管理者の注意をもって職務を行う義務を負い(民法第644条、会社法第330条)、法令、定款及び株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行わなければなりません(会社法第355条)。
もっとも、経営上の判断には不確実性が伴いますので、結果として損失が生じたことのみをもって義務の違反があったとされるものではないと解されております。判断の前提となった事実の認識に不注意な誤りがなく、判断の過程及び内容に著しく不合理な点がないかが問われることになります。
業績の悪化が正当な理由に近づく場合
| 事情 | 評価が変わり得る理由 |
|---|---|
| 取締役会の決議を経ずに重要な財産を処分したこと | 手続の違反という具体的な事実を伴います |
| 会社の資金を私的に用いたこと | 職務の執行における不正に当たり得ます |
| 報告すべき重大な事実を秘匿したこと | 忠実義務の違反に当たり得ます |
| 合理的な根拠を欠く投資を繰り返したこと | 判断の過程の不合理が問われ得ます |
これらはいずれも、業績の悪化という結果ではなく、行為そのものの評価でございます。会社が業績を理由に挙げていても、実質はこれらの事実の主張である場合がございますので、主張の内容を丁寧に切り分ける必要がございます。
会社の主張への反論の視点
第一に、解任の時期でございます。業績の悪化が生じた時期と解任の時期とが離れている場合や、業績が回復に向かっている時期に解任が行われた場合には、業績が真の理由であるかが問われます。
第二に、他の役員の取扱いでございます。同じ期間に在任していた他の役員が解任されていない場合には、業績が理由であるという説明との整合性が問題となります。
第三に、解任の直前の事情でございます。株主間の対立、経営権をめぐる争い、報酬の減額の提案といった事情が先行している場合には、業績が後付けの理由である可能性を指摘することが考えられます。
記録として残すべき事項
| 事項 | 意義 |
|---|---|
| 解任の理由として説明された内容 | 会社の主張の変遷を明らかにします |
| 取締役会における議論の経過 | 経営判断の過程を示します |
| 自らが提出した資料及び提案 | 職務を適切に行っていたことを示します |
| 業績の推移に関する資料 | 因果関係の不存在を示します |
| 株主間の対立の経過 | 真の理由を推認させます |
解任の直後は資料を入手しにくくなりますので、可能な範囲で早期に整理しておくことが望まれます。
よくあるご質問
質問1 会社が解任の理由を説明してくれません。
書面により理由の開示を求め、その記録を残してください。会社が理由を後から追加する場合には、当初の説明との齟齬を指摘することができます。
質問2 赤字が続いていたことは事実です。
赤字という結果があることと、正当な理由があることとは別でございます。赤字の原因が何であったかを整理することが重要でございます。
質問3 経営方針をめぐって対立しておりました。
経営方針の相違は、一般には正当な理由となりにくいと考えられております。もっとも、対立の過程で会社に損害を与える行為があったと主張される余地はございます。
質問4 正当な理由がないと認められれば全額が支払われますか。
認められる損害の範囲は、残存する任期に対応する報酬を中心として判断されます。請求の全部が認められるとは限りませんので、結果を保証することはできません。
質問5 解任の決議そのものを争うこともできますか。
招集の手続又は決議の方法に瑕疵がある場合には、決議の取消しを求める訴えを提起する余地があります。この訴えには決議の日から3か月という期限がございます。
確認事項の一覧
| 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|
| 解任の理由の説明 | 書面、電子メール、議事録、録音 |
| 解任の決議の日 | 株主総会議事録、登記事項証明書 |
| 業績の推移 | 計算書類、月次の資料 |
| 取締役会の議論の経過 | 取締役会議事録 |
| 他の役員の取扱い | 登記事項証明書 |
| 株主構成の変化 | 株主名簿 |
会社が挙げる理由と、資料から読み取れる事実とを対照させることが、反論の基本的な方法でございます。
本記事における非開示事項について
会社が挙げる解任の理由の類型ごとの反論の組み立て、経営判断の合理性を示すための資料の選び方、解任の真の理由を推認させる事情の主張の方法は、会社の状況及び資料の状況により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
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本記事の根拠条文
会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第355条(忠実義務)、第362条第2項(取締役会の職務)、第423条第1項(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
民法 第644条(受任者の注意義務)
判例法理による部分 正当な理由の意義及び経営判断の合理性の評価の枠組みについては、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。
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