執行役員・顧問・相談役の地位を一方的に解かれた場合 自分の地位が委任か雇用かを先に確定する

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執行役員、顧問及び相談役の契約変更や地位の喪失について、会社法上の役員、委任、雇用のいずれに当たるかを整理するページです。従業員から委任型への切替えを求められた場合も、変更前後の実態と合意内容から検討します。使用人としての地位は別のページをご参照ください。
「来月から執行役員の委嘱を解く」「顧問契約は今月限りとする」という一片の通知を受け取った。名刺には役員と記載され、社内でも役員として扱われ、経営の会議にも出席してきた。ところが、登記事項証明書を取り寄せてみると、自分の氏名はどこにも記載されていない。また、仕事は変わらないのに「来月から従業員ではなく委任型の執行役員になる」と告げられ、退職届と新しい契約書への署名を求められる場合もあります。地位を解かれたときだけでなく、契約の切替えを求められた段階でも、自分の法的な立場の確認が出発点となります。
会社は「役員であるから、いつでも解任することができる」と述べ、あるいは「委任であるから、いつでも解約することができる」と述べます。いずれの言い分も、その方が会社法上の役員であること、又は委任契約上の受任者であることを当然の前提としています。しかし、その前提こそが、最初に確認しなければならない事柄です。
結論から申し上げます。「役員」と呼ばれてきた方の地位は、会社法上の役員、委任型の執行役員等、雇用型の執行役員等の三つに分かれます。いずれに当たるかによって、争い方も、請求することができる内容も、期限も異なりますので、争い方を選ぶ前に、自分がどれであったかを資料により確定する必要があります。以下、順にご説明します。
「役員」と呼ばれる三つの地位
日本の会社において「役員」という語は、二つの意味で用いられています。第1は、会社法が定める意味であり、取締役、会計参与及び監査役を指します(会社法第329条第1項)。第2は、社内の呼称としての意味であり、執行役員、本部長、顧問、相談役、参与など、実務上「役員待遇」として扱われる地位を広く含みます。紛争は、この二つの意味が混同されているところから生じます。
第一の類型 会社法上の役員
株主総会の決議により選任された取締役、会計参与又は監査役です(会社法第329条第1項)。会社との関係は委任に関する規定に従います(同法第330条、民法第643条以下)。株主総会の決議によりいつでも解任することができますが(会社法第339条第1項)、正当な理由がない場合には、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(同条第2項)。監査役の解任については、株主総会の特別決議を要します(同法第309条第2項第7号)。
第二の類型 委任型の執行役員等
取締役として選任されてはいないものの、会社との間で委任又は準委任の契約を締結し、一定の職務を委ねられている場合です。顧問、相談役、非常勤の技術顧問などがこれに当たることが多く見られます。この場合、契約の終了は民法の委任の規定によります。各当事者はいつでも解除することができますが(民法第651条第1項)、相手方に不利な時期に解除した場合、又は委任者が受任者の利益をも目的とする委任を解除した場合には、やむを得ない事由があるときを除き、損害を賠償しなければなりません(同条第2項)。
第三の類型 雇用型の執行役員等
名称は執行役員であっても、実質は従業員として雇用されている場合です。使用者の指揮命令の下で労務を提供し、労働の対償として賃金を受け取っているのであれば、労働基準法第9条の労働者に当たります。会社が委嘱の解除とともに雇用関係も一方的に終了させる場合は解雇に当たり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、権利の濫用として無効となります(労働契約法第16条)。会社が「委任であるから自由に解約できる」と述べていても、実質が雇用であれば、この主張は通りません。
登記の有無は決め手になりません
ここで注意を要するのは、登記されているかどうかが、取締役であるかどうかを決めるものではないという点です。取締役の地位は株主総会の決議による選任と、本人の承諾により生じます。登記は、生じた地位を公示する手続にすぎません。したがって、株主総会において選任の決議がされ、本人が承諾していながら、登記の申請が行われていないという事案では、登記がなくとも取締役です。反対に、登記されていても選任の決議がない場合には、取締役としての地位は生じていないことになります。もっとも、登記の記載を信頼した第三者との関係では、会社は登記と異なる事実を主張することができない場面があります(会社法第908条第1項、第2項)ので、対外的な関係と社内の関係とを分けて考える必要があります。
自分がどれに当たるかを資料により確定する手順
三つの類型のいずれに当たるかは、名称ではなく、選任の手続と日々の実態により決まります。次の順序で資料を集めてください。会社に在籍している間の方が資料を得やすいため、通知を受けた日のうちに着手することを御勧めします。
第1 登記事項証明書を取得します
法務局において、会社の登記事項証明書(履歴事項全部証明書)を取得します。誰でも手数料を納めて取得することができ、会社の許可を要しません。役員に関する事項の欄に自らの氏名があるかどうか、就任及び退任の年月日、並びに現在の役員の構成を確認します。過去に取締役として登記され、その後に退任の登記がされている場合には、その原因(辞任、解任、任期満了による退任)が記載されていますので、身に覚えのない記載がないかを併せて確認します。
第2 選任の決議の有無を確認します
株主総会議事録及び取締役会議事録を確認します。株主は、営業時間内であればいつでも株主総会議事録の閲覧及び謄写を請求することができます(会社法第318条第4項)。株式を保有していない場合には、会社に対して任意の開示を求めることとなります。執行役員については、支配人その他の重要な使用人の選任及び解任として取締役会の決議を経ている例があり(会社法第362条第4項第3号)、この決議の有無は、会社が当該の地位をどのように位置付けていたかを示す資料となります。
第3 就任時の書面を確認します
委嘱状、執行役員契約書、顧問契約書、雇用契約書、労働条件通知書、執行役員規程のいずれが交付されているかを確認します。書面の表題ではなく、条項の内容が重要です。職務の内容、報酬の定め方、任期の定め、解任又は解約の条項、就業規則の適用の有無、秘密保持及び競業避止の定めを書き出します。
第4 支払の記録を確認します
報酬又は給与がどのように支払われてきたかを、源泉徴収票及び給与の明細により確認します。源泉徴収票の摘要欄の記載、給与所得として処理されているか報酬として処理されているか、社会保険及び雇用保険の被保険者資格の有無は、いずれも会社の側の取扱いを示す客観的な資料です。とりわけ、雇用保険の被保険者となっている場合は、会社が労働者として取り扱ってきたことを示す有力な事情となります。
第5 日々の実態を書き出します
出退勤の管理を受けていたか、上司に当たる者から個別の業務の指示を受けていたか、勤務の場所及び時間が定められていたか、業務の遂行について裁量があったか、経営に関する会議において議決権を有していたか、自らの判断で契約を締結することができたかを、具体的な出来事とともに書き出します。委任型か雇用型かの区別は、最終的にはこの実態により判断されます。
第6 名刺、組織図及び社内の掲示を保存します
対外的にどのように表示されてきたかは、第三者との関係において意味を持ちます。名刺、会社の案内、社内の組織図、電子メールの署名、ウェブサイトの役員紹介の頁を、日付が分かる形で保存します。画面の写しを保存する場合には、取得した年月日を記録します。
従業員から委任型への切替えを求められた場合
以上の資料は、既に地位を失った場合だけでなく、契約を変更する前にも役立ちます。「執行役員になる」という説明だけでは、従業員の地位を残して職位を変更するのか、労働契約を終了して委任契約を結ぶのかが分かりません。まず会社が求めている変更の内容と開始日を確認し、現在の雇用契約、提示された委任契約、退職届を並べて読みます。
労働契約の内容は労使の合意により変更できますが、会社が一方的に「委任型に変更した」と通知しただけで、労働者としての権利が当然に失われるわけではありません。就業規則による不利益な変更についても、労働契約法第9条・第10条の要件を検討する必要があります。さらに、書面の名称を委任契約に変えても、指揮命令、勤務時間の管理、報酬の性質等の実態が労働者であれば、名称だけで労働法の適用を排除することはできません。
報酬の総額だけで判断せず、従業員としての勤続期間と退職金の精算、年次有給休暇の扱い、契約の終了条件を確認します。保険の資格は制度ごとの加入要件によるため、「委任型だからすべて対象外」という説明をそのまま前提にしないことも大切です。退職届や権利放棄を含む書面への署名は、その後の地位や金銭請求の判断に影響します。説明が曖昧なまま署名を求められている場合には、変更前の権利と変更後の条件を整理して対応します。
会社法上の役員であった場合に採り得る手続
株主総会の決議により選任された取締役又は監査役であったことが確認できた場合には、会社法の枠組みにより争います。
解任の決議がある場合
解任そのものは、正当な理由の有無にかかわらず効力を生じます。争点は、正当な理由の有無であり、これがない場合には、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(会社法第339条第2項)。損害の中心は、残存する任期に対応する役員報酬相当額です。任期は、定款の定めにより異なりますので(同法第332条第1項及び第2項)、定款を必ず確認します。
解任の決議がない場合
株主総会が開かれていないにもかかわらず退任の登記がされている場合、又は決議の手続に瑕疵がある場合には、地位そのものを争うこととなります。決議の取消しの訴えは決議の日から3か月以内に提起しなければならず(会社法第831条第1項)、決議の不存在又は無効の確認の訴えには期間の制限がありません(同法第830条)。あわせて、取締役の地位の確認を求める訴えを検討します。
任期が満了していた場合
任期の満了により退任した場合は、解任ではなく不再任です。この場合、会社法第339条第2項による損害の賠償の請求はできないのが原則ですが、任期を短縮する定款の変更が解任と同じ結果をもたらすために行われた場合など、実質的に解任と評価すべき事情があるときは、別途の検討を要します。また、後任者が選任されるまでは、なお役員としての権利義務を有する地位にとどまることがあります(同法第346条第1項)。
委任型であった場合に採り得る手続
取締役として選任されておらず、会社との間で委任又は準委任の契約により職務を委ねられていた場合には、民法の委任の規定により処理します。
解除の効力そのものは争いにくいこと
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができます(民法第651条第1項)。したがって、会社が委嘱を解いたこと自体を無効とする主張は、通常は困難です。争点は、解除の効力ではなく、損害の賠償に移ります。
不利な時期の解除に当たるか
相手方に不利な時期に委任を解除した場合には、やむを得ない事由があったときを除き、その損害を賠償しなければなりません(民法第651条第2項第1号)。担当していた案件が佳境にあった、次の職を探す時間的な余裕を与えられなかった、報酬の支払期の直前であったなどの事情は、この主張を支える事実となります。
受任者の利益をも目的とする委任に当たるか
委任者が受任者の利益をも目的とする委任を解除した場合にも、同様に損害の賠償の義務が生じ得ます(民法第651条第2項第2号)。報酬を得ることのみを目的とする場合はこれに当たりませんが、事業の承継の対価の一部として顧問の地位が設けられた場合、株式の譲渡に伴い一定期間の関与が約束された場合などは、検討に値します。
期間の定めがある場合
契約に期間の定めがあり、中途の解約に関する条項が置かれている場合には、まずその条項によります。予告の期間、違約金の定め、更新に関する定めを確認します。期間の定めがあるにもかかわらず期間の途中で打ち切られた場合には、残存する期間に対応する報酬相当額を損害として主張することを検討します。
未払の報酬及び費用
解除の前に生じた報酬は、当然に請求することができます。委任の事務の処理に要した費用の償還(民法第650条第1項)、及び受任者が自らの名で負担した債務の代弁済の請求も、あわせて検討します。
雇用型であった場合に採り得る手続
実質が雇用であると判断される場合には、労働に関する法令の保護が及びます。会社が「委嘱の解除」として雇用関係も一方的に終了させるなら、解雇の効力が問題となります。役職だけを外し雇用を継続する場合には、配置や労働条件の変更の問題として区別します。
解雇の効力を争う
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利を濫用したものとして無効となります(労働契約法第16条)。まず、解雇の理由を記載した証明書の交付を求めます(労働基準法第22条第1項及び第2項)。会社は、労働者から請求があった場合には、遅滞なくこれを交付しなければなりません。
予告及び予告手当
解雇をしようとする場合には、少なくとも30日前に予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません(労働基準法第20条第1項)。「今月限り」という通知は、この要件を満たしていないことが多く見られます。
手続の選択
労働審判、仮の地位を定める仮処分、通常の訴訟のいずれによるかは、生活の維持の必要性、証拠の状況及び求める内容により選択します。地位の回復を求めるのか、金銭による解決を求めるのかを、早い段階で見定めることが重要です。手続の選択については、労働審判と会社法上の手続のいずれを選ぶかの頁をご覧ください。
本サイトの守備範囲
雇用型であると確定した後の、解雇そのものの当否を争う手続は、労働事件として別途取り扱います。本サイトは、退任の類型を確定し、会社法上の請求と労働法上の請求とを切り分けるところまでを担当します。
報酬、退職金、保証及び株式について生ずる違い
いずれの類型に当たるかは、金銭に関する事項にも影響します。取り違えると、請求できたはずのものを取り落とすことになります。
報酬の性質
会社法上の役員の報酬は、定款に定めがないときは株主総会の決議により定めます(会社法第361条第1項)。決議を欠く支給は、後に返還を求められる原因となり得ます。これに対し、委任型の報酬は契約により、雇用型の賃金は労働契約及び就業規則により定まります。会社が「株主総会の決議がないから支払えない」と述べている場合には、そもそも自分がどの類型であったかを確認する必要があります。
役員退職慰労金と退職金との区別
役員退職慰労金は、株主総会の決議又は決議に基づく内規により支給の額が定まるものであり、従業員の退職金とは根拠を異にします。使用人としての勤務期間に対応する退職金と、役員としての在任期間に対応する役員退職慰労金の双方が問題となる事案では、それぞれの支給根拠と計算対象期間を分けて確認します。従業員から委任型に切り替わる場合も、それまでの勤続期間を精算するのか、将来の支給時に通算するのかを、適用される規程と合意に沿って検討します。名称の変更だけで過去の勤務期間に関する権利が消えると決め付けることはできません。役員退職慰労金の請求そのものの進め方については、当事務所の役員退職慰労金の回収に関する専門の窓口において詳しく取り扱っています。
個人保証
会社の借入れについて個人保証をしている場合、その保証は、地位を失っても当然には消滅しません。委任型又は雇用型であっても、事実上の経営者として保証を求められている例がありますので、退任の交渉と同時に解除の申入れを行います。
保有する株式
株式を保有している場合、株主としての地位は、役員又は従業員としての地位とは全く別のものです。会社から「地位を失ったのだから株式を返せ」と求められることがありますが、定款又は契約に根拠がない限り、譲渡に応ずる義務はありません。
類型ごとに異なる期限
地位の確定を急ぐ必要があるのは、類型によって期限が大きく異なるためです。確定に時間をかけている間に、選択できたはずの手続が失われることがあります。
決議の効力を争う場合の3か月
会社法上の役員であり、株主総会の決議の手続に瑕疵があることを理由として争う場合には、決議の取消しの訴えを決議の日から3か月以内に提起しなければなりません(会社法第831条第1項)。この期間は伸長されません。他方、決議が存在しない場合、又は決議の内容が法令に違反する場合の確認の訴えには、期間の制限がありません(同法第830条第1項及び第2項)。どちらの主張により組み立てるかによって、動くべき速さが変わります。
損害の賠償及び報酬の請求の時効
解任による損害の賠償の請求権、及び委任の解除による損害の賠償の請求権は、債権の消滅時効の一般の規定によります。権利を行使することができることを知った時から5年間、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。会社との交渉が長引く場合には、時効の完成を猶予する措置を検討します。
賃金の請求権の時効
雇用型であると判断される場合、退職手当を除く賃金の請求権の消滅時効の期間は5年とされていますが、当分の間は3年とする経過措置が置かれています(労働基準法第115条、同法附則第143条第3項)。未払の賃金がある場合には、この期間を意識して請求の範囲を定めます。
登記の是正
実体と異なる退任の登記がされている場合、是正そのものに期間の制限はありません。もっとも、時間の経過とともに、当時の事情を知る者の記憶が薄れ、資料も散逸します。登記の記載を確認した時点で、直ちに写しを取得し、記載の内容と自らの認識との相違を書き出しておきます。
よくある誤解と、控えていただきたい対応
誤解1 名刺に役員と書かれていれば会社法上の役員である
名刺、組織図及び社内の呼称は、会社法上の地位を生じさせるものではありません。地位を生じさせるのは、株主総会の選任の決議と本人の承諾です。もっとも、対外的に取締役であるかのような名称を付されていた場合には、会社が第三者に対して責任を負う場面があります(会社法第354条)。これは会社の対外的な責任の問題であり、社内における自らの地位を定めるものではありません。
誤解2 登記がないから何も争えない
選任の決議がある以上、登記がなくとも取締役です。また、仮に会社法上の役員でなかったとしても、委任型であれば民法により、雇用型であれば労働に関する法令により、それぞれ争う余地があります。三つの類型のいずれにも当たらないという結論になることは、まずありません。
誤解3 委任契約であるから何も請求できない
委任であっても、不利な時期の解除に当たる場合、又は受任者の利益をも目的とする委任である場合には、損害の賠償を請求し得ます(民法第651条第2項)。期間の定めがある場合には、残存する期間の報酬相当額が問題となります。
控えていただきたい対応
第1に、その場で書面に署名しないことです。「委嘱の終了を確認する」「退任に関し相互に債権債務がないことを確認する」といった文言のある書面に署名すると、その後の請求が困難となります。第2に、会社の資料を持ち出さないことです。自らの職務に関する資料であっても、会社に帰属するものを無断で持ち出せば、別の紛争を生みます。必要な資料は、正規の手続により開示を求めます。第3に、社内又は取引先に対して感情的な連絡をしないことです。後に、会社の側から名誉又は信用に関する主張を受ける材料となります。第4に、退職届又は辞任届を求められた場合に、内容を確認せずに提出しないことです。自らの意思による退職と扱われ、争う前提を失います。
よくあるご質問
執行役員を解かれましたが、取締役会の決議が行われていませんでした。争えますか
執行役員が支配人その他の重要な使用人に当たる場合には、その選任及び解任は取締役会の決議事項です(会社法第362条第4項第3号)。決議を欠くことは、会社の内部の手続の瑕疵として、会社の対応の当否を論ずる際の事情となります。もっとも、決議を欠いたことのみによって直ちに解任が無効となるとは限りませんので、実質が雇用であるかどうかという観点からの検討を併せて行います。
顧問契約を1か月前の通知で打ち切られました。予告の期間は足りていますか
委任の解除については、法律上、一律の予告期間の定めはありません。契約書に予告の期間の定めがあればそれによります。定めがない場合には、不利な時期の解除に当たるかどうかという観点から、損害の賠償を検討することとなります。他方、実質が雇用であると判断される場合には、労働基準法第20条第1項の予告の規定が適用されます。
源泉徴収票が給与所得となっていました。これで労働者と認められますか
税務上の取扱いは、労働者に当たるかどうかを決定するものではありませんが、会社がどのように処理してきたかを示す客観的な資料として意味を持ちます。社会保険及び雇用保険の資格の記録、出退勤の管理の有無、業務の指示の態様と併せて総合的に判断されます。
取締役として登記されていますが、選任の決議を見たことがありません
登記の申請には株主総会議事録を要しますので、何らかの議事録が作成されている可能性があります。株式を保有している場合には、議事録の閲覧及び謄写を請求してください(会社法第318条第4項)。議事録が実際には作成されていない場合、又は総会が開かれていない場合には、選任の決議の不存在が問題となり、退任の登記についても是正を求める余地があります。
相談役に退いた後に、報酬を打ち切られました
相談役としての契約の性質を確認します。退任に際して一定期間の相談役としての処遇が合意されていた場合には、その合意の履行を求めることが考えられます。合意が口頭にとどまる場合には、当時のやり取りの記録、支払の実績、社内の決裁の記録により裏付けます。
まず何から始めればよいでしょうか
登記事項証明書の取得と、就任時の書面及び源泉徴収票の確保です。契約の切替えを求められている場合は、新たに提示された書面も確認します。資料だけで結論が出ない場合は、日々の業務の実態も伺います。資料がすべてそろっていなくても、通知や署名の期限が迫っているときは先に御相談ください。
まとめ
「役員」と呼ばれてきた方が地位を解かれた場合、最初に行うべきことは、争い方を選ぶことではなく、自分がどの地位にあったかを確定することです。会社法上の役員であれば会社法第339条第2項による損害の賠償を、委任型であれば民法第651条第2項による損害の賠償を、雇用型であれば労働契約法第16条による解雇の効力の争いを、それぞれ検討することとなります。判断の資料は、登記事項証明書、選任の決議の有無、就任時の書面、支払の記録、日々の実態の5点です。
会社の側は、自らに有利な類型を前提として話を進めてきます。その前提を確認しないまま交渉に入ると、本来請求することができたはずのものを取り落とすことになります。契約の切替えを求められている段階であれば、署名前に従来の権利と新しい条件を確認することが大切です。お手元の通知や契約書を基に、地位の確認と金銭請求の見通しを整理し、対応の方針を検討します。
出典
- 会社法(平成17年法律第86号)第329条第1項、第330条、第332条第1項及び第2項、第339条第1項及び第2項、第346条第1項、第354条、第361条第1項、第362条第4項第3号、第318条第4項、第830条、第831条第1項、第908条第1項及び第2項
- 民法(明治29年法律第89号)第166条第1項、第643条、第650条第1項、第651条第1項及び第2項
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第9条、第20条第1項、第22条第1項及び第2項、第115条並びに同法附則第143条第3項
- 労働契約法(厚生労働省)第8条、第9条、第10条、第16条
- e-Gov法令検索(デジタル庁) 法令の条文の確認に用いています。
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