損害の範囲には何が含まれるのか

損害の範囲には何が含まれるのか
解任について正当な理由がない場合、役員は会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求することができます。この損害の中心となるのは、残存する任期に対応する役員報酬でございます。もっとも、役員退職慰労金、現物による給付、慰謝料の取扱いは一様ではありません。本記事では、損害の範囲に含まれ得るものと、含まれにくいものとを整理いたします。
結論 中心は残存する任期に対応する報酬です
損害の範囲の概要は、次のとおりです。
| 項目 | 取扱いの傾向 |
|---|---|
| 残存する任期に対応する役員報酬 | 損害の中心となります |
| 役員賞与 | 支給の実績及び決議の内容により、含まれ得ます |
| 役員退職慰労金 | 支給の規程及び支給の実績により、含まれ得る余地があります |
| 社宅、社用車等の現物による給付 | 報酬の一部と評価される場合には、含まれ得ます |
| 慰謝料 | 認められにくい傾向にあると考えられます |
| 弁護士費用 | 全額が当然に含まれるものではありません |
いずれの項目についても、支給の根拠となる株主総会の決議、規程及び支給の実績が、主張の前提となります。
請求の根拠
条文の内容
役員は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができます(会社法第339条第1項)。この場合において、解任について正当な理由がないときは、解任された役員は、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(同条第2項)。
株式会社と役員との関係は委任に関する規定に従うものとされておりますので(会社法第330条)、この請求は、委任の解除に伴う損害の賠償の考え方と近い性質を有するものと解されております。
任期の残存が前提となること
取締役の任期は、原則として、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされております(会社法第332条第1項)。損害の中心は、この任期が残っていた期間に対応する報酬でございますので、まず任期の残りの期間を確定させることが必要でございます。
残存する任期に対応する報酬
算定の基礎となる報酬
取締役の報酬等は、定款に定めがないときは、株主総会の決議によって定めるものとされております(会社法第361条第1項)。監査役の報酬等についても、同様に定めるものとされております(会社法第379条第1項)。
したがって、算定の基礎となる報酬の額は、株主総会の決議の内容及び実際の支給の実績により定まります。給与明細、源泉徴収票、株主総会議事録が、資料として重要でございます。
残存する期間の計算
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 就任の年月日 | 登記事項証明書により確認します |
| 定款の任期の定め | 定款の謄本により確認します |
| 任期の満了の時期 | 事業年度及び定時株主総会の時期から算出します |
| 解任の日 | 株主総会議事録及び登記事項証明書により確認します |
公開会社でない株式会社において定款により任期を10年としている場合には、残存する期間が長期にわたることがございます。この場合、損害の額の主張においては、期間の長さそのものが争点となる余地があります。
報酬以外の項目
役員退職慰労金
役員退職慰労金は、支給の規程が存在し、これに従った支給が慣行として行われてきた場合には、報酬の後払いとしての性質を有するものと評価される余地がございます。この場合、解任により支給を受けられなくなったことが損害に当たると主張することが考えられます。
もっとも、株主総会の決議を経なければ具体的な請求権が生じないと解されるのが原則でございますので、当然に損害に含まれると申し上げることはできません。
現物による給付
社宅の提供、社用車の貸与、生命保険の保険料の負担等が、報酬の一部として合意されていた場合には、これらの相当額を損害として主張する余地がございます。福利厚生として全役員に一律に提供されていたにとどまる場合には、認められにくいと考えられます。
慰謝料
解任それ自体による精神的な苦痛については、財産上の損害の賠償によって回復されるものと評価され、独立の慰謝料が認められにくい傾向にあると考えられます。解任の過程において名誉を毀損する言動があった場合には、別個の不法行為として構成する余地があります。
損害の額を減ずる方向に働く事情
| 事情 | 影響 |
|---|---|
| 解任の後に他社から得た収入 | 損益相殺として控除されるべきであると主張されることがあります |
| 解任の後に会社から受けた金銭 | 同上 |
| 任期の途中で辞任する予定であったこと | 残存する期間の認定に影響する余地があります |
| 会社の業績及び支払能力 | 報酬が減額される蓋然性があったと主張されることがあります |
会社の側からは、これらの事情が主張されるのが通例でございます。解任の後の就労の状況及び収入の状況を、あらかじめ整理しておく必要がございます。
請求に先立って確保すべき資料
請求の可否及び額は、資料により大きく左右されます。会社を離れる前後に入手し得る資料は限られますので、早い段階で確保することが重要でございます。
特に、株主総会議事録、取締役会議事録、役員退職慰労金の支給の規程、給与明細及び源泉徴収票は、いずれも算定の基礎となるものでございます。会社が任意に交付しない場合には、株主としての地位に基づく閲覧の請求等を検討することになります。
よくあるご質問
質問1 残りの任期が数か月しかありません。請求する意味はありますか。
損害の額は残存する期間に応じて定まりますので、期間が短ければ額も小さくなります。もっとも、役員退職慰労金その他の項目を併せて検討することにより、請求の内容が変わる場合がございます。
質問2 報酬の決議がされていませんでした。
決議がされていない場合であっても、現に支給されていた実績が算定の基礎となる余地があります。給与明細及び源泉徴収票を保全してください。
質問3 解任の直後に報酬が減額された場合はどうなりますか。
減額の決議が適法に行われたかが争点となります。役員の同意なく報酬を減額することは、原則として認められないと解されております。
質問4 税金はどのように扱われますか。
受領した金銭の課税上の取扱いは、その性質により異なります。税務に関する具体的な取扱いは税理士の職務に属しますので、当事務所において申告の代理を行うことはございません。
質問5 請求できる期間に制限はありますか。
債権の消滅時効の規定の適用がございますので、解任から長期間が経過した場合には請求が困難となる余地があります。早期にご相談ください。
確認事項の一覧
| 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|
| 就任の年月日及び解任の日 | 登記事項証明書 |
| 定款の任期の定め | 定款の謄本 |
| 報酬の決議の内容 | 株主総会議事録 |
| 実際の支給の額 | 給与明細、源泉徴収票、振込みの記録 |
| 役員退職慰労金の規程 | 規程、過去の支給の実績 |
| 現物による給付の内容 | 社宅の賃貸借契約、社用車の管理の記録 |
| 解任の後の収入 | 自らの記録 |
これらの資料のうち、会社が保有するものは、退任の後に入手することが難しくなります。可能な限り早い段階で写しを確保してください。
本記事における非開示事項について
損害の額の具体的な組み立て、役員退職慰労金を損害に含めて主張する場合の構成、損益相殺の主張に対する反論の方法は、報酬の決議の内容及び支給の実績により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
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弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第332条第1項(取締役の任期)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第379条第1項(監査役の報酬等)
民法 第416条(損害賠償の範囲)、第651条第1項・第2項(委任の解除)
判例法理による部分 損害の範囲に役員退職慰労金及び慰謝料が含まれるかについては、判例法理及び学説の議論によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。
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