使用人としての地位が残る場合の主張の順序

使用人としての地位が残る場合の主張の順序

使用人を兼ねる取締役が解任された場合には、取締役としての請求と、使用人としての請求とが併存いたします。両者は根拠も手続も異なりますので、どちらを先に立てるかにより、進め方が大きく変わります。本記事では、主張の順序を検討するための視点を整理いたします。

 結論 目的により順序が決まります

順序の考え方は、次のとおりです。

目的 先に立てる主張
会社に戻ることを重視する場合 使用人としての地位の確認を先に立てます
金銭による解決を重視する場合 解任による損害の賠償を中心に組み立てます
生活の維持が急を要する場合 賃金の支払を求める仮の救済を先に検討します
解任の決議そのものを争う場合 決議を争う訴えの期限を優先します

解任の決議を争う訴えには決議の日から3か月という期限がございますので、この点は他の主張に優先して確認する必要がございます。

 二つの請求の性質

 取締役としての請求

役員は、いつでも株主総会の決議によって解任することができますが、解任について正当な理由がないときは、会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(会社法第339条第1項・第2項)。

この請求は金銭の請求でございますので、地位の回復を求めるものではございません。残存する任期に対応する報酬が損害の中心となります。

 使用人としての請求

労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて合意することによって成立いたします(労働契約法第6条)。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、無効とされます(同法第16条)。

したがって、使用人としての請求は、地位の確認と、これに伴う賃金の支払を求めるものとなります。

 主張が食い違うことを避ける

使用人としての地位を主張する場合には、指揮命令を受けて業務を行っていたことを述べることになります。他方、取締役としての損害の賠償を主張する場合には、経営に関与していたことを述べることになります。

この二つは必ずしも矛盾するものではございませんが、主張の力点の置き方を誤ると、いずれの主張も説得力を欠くことになりかねません。したがって、あらかじめ事実関係を整理し、いずれの職務がいかなる範囲で行われていたかを明確にしておく必要がございます。

整理の観点 内容
職務の内容 経営に関する職務と、日常の業務とを区分します
報酬の区分 役員報酬と使用人としての給与とを区分します
時間の配分 いずれの職務にどの程度従事していたかを示します
指揮命令の関係 誰の指示を受けていたかを示します

 手続の選択

 労働審判

労働審判の手続は、個別の労働関係に関する紛争を、迅速に、適正かつ実効的に解決することを目的とするものでございます(労働審判法第1条)。使用人としての地位に関する争いは、この手続の対象となり得ます。

もっとも、取締役としての地位に関する争いは、原則としてこの手続の対象となりません。両方の争点が不可分に関係する事案では、通常の訴訟によることが適切な場合がございます。

 通常の訴訟

取締役としての請求と使用人としての請求とを一つの訴訟において求めることが考えられます。審理は長期化しやすくなりますが、争点を一体として解決することができます。

 仮の救済

生活の維持が急を要する場合には、賃金の仮の支払を求める仮処分を検討することがございます。仮の地位を定める仮処分は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発せられます(民事保全法第23条第2項)。

申立ての理由は疎明によることとされておりますので(民事保全法第13条第1項)、資力の状況を示す資料を準備する必要がございます。

 交渉による解決を図る場合

裁判上の手続に先立ち、会社との間で協議を行うことがございます。この場合、地位の回復を求めるのか、金銭による解決を求めるのかを、あらかじめ整理しておくことが重要でございます。

協議の過程で退職の届出に署名することを求められることがございますが、署名により使用人としての地位に関する主張が困難となる場合がございます。署名の前にご相談ください。

 時期に関する留意点

事項 時期の制約
解任の決議を争う訴え 決議の日から3か月以内
解雇を争う場合 明文の期限はありませんが、時の経過は不利に働きます
賃金の請求 消滅時効の定めがございます
解任による損害の賠償 債権の消滅時効の定めがございます

いずれの請求についても、時の経過は不利に働きます。解任の通知を受けた段階で、速やかに方針を定めることが望まれます。

よくあるご質問

質問1 両方を同時に求めることはできますか。

可能でございます。もっとも、手続の選択及び主張の整理を慎重に行う必要がございます。

質問2 会社に戻りたいわけではありません。

その場合には、金銭による解決を中心に組み立てることになります。使用人としての地位の主張は、金額の算定において意味を持つことがございます。

質問3 労働審判は早く終わりますか。

通常の訴訟と比較して短期間で終了することが多い手続でございますが、事案により異なりますので、期間を保証することはできません。

質問4 解任の決議を争わずに使用人としての地位のみを主張できますか。

可能でございます。取締役の地位を争わないことを明らかにしたうえで、使用人としての地位の確認を求めることになります。

質問5 会社から先に訴えられました。

防御と併せて、自らの請求を反訴として提起することを検討することになります。

 確認事項の一覧

確認事項 確認の方法
解任の決議の日 株主総会議事録、登記事項証明書
労働契約の終了に関する通知 通知書、電子メール
就業規則の適用 就業規則
報酬及び給与の区分 給与明細、賃金台帳
職務の実態 組織図、業務の記録
資力の状況 預金の記録、家計の状況

順序の判断は、これらの事実を踏まえて行うことになります。資料を揃えたうえでご相談ください。

本記事における非開示事項について

主張の順序の具体的な判断、労働審判と通常の訴訟との選択、二つの地位に関する主張の力点の置き方、仮の救済を求めるべき場面の見極めは、業務の実態及び資力の状況により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

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弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第361条第1項(取締役の報酬等)

労働契約法 第6条(労働契約の成立)、第16条(解雇)

労働基準法 第9条(労働者)、第20条(解雇の予告)、第89条(就業規則の作成及び届出)

民事保全法 第13条第1項(申立ての理由の疎明)、第23条第2項(仮の地位を定める仮処分)

労働審判法 第1条(趣旨)

判例法理による部分 使用人を兼ねる取締役の労働者性の判断の要素については、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

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