解任と同時に社宅及び社用車を引き上げられた場合

解任と同時に社宅及び社用車を引き上げられた場合
解任と同時に、社宅からの退去及び社用車の返還を求められることがございます。これらの現物による給付が報酬の一部と評価される場合には、損害の賠償の算定に反映される余地がございます。他方で、居住及び使用を継続する権利があるかは、契約の性質により異なります。本記事では、この二つの論点を整理いたします。
結論 二つの論点を分けて考えます
整理は、次のとおりです。
| 論点 | 内容 |
|---|---|
| 第1 継続の可否 | 社宅及び社用車の利用を継続することができるかは、契約の性質によります |
| 第2 損害への反映 | 報酬の一部と評価される場合には、損害の賠償の算定に反映される余地がございます |
実務上は、継続を求めることが困難である場合が多く、損害の賠償の算定への反映を検討することが中心となります。
現物による給付と報酬等
報酬等の範囲
取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益については、定款に定めがないときは株主総会の決議によって定めるものとされております(会社法第361条第1項)。監査役についても同様の定めがございます(会社法第379条第1項)。
したがって、金銭以外の利益であっても、職務執行の対価としての性質を有するものは、報酬等に含まれ得ることになります。
該当性の判断
| 事情 | 報酬等に当たりやすい方向 |
|---|---|
| 役員のみに提供されていた | 職務執行の対価としての性質が認められやすくなります |
| 就任と同時に提供された | 同上 |
| 使用料の負担がない、又は著しく低い | 同上 |
| 株主総会の決議において言及されている | 同上 |
| 全役職員に一律に提供されている | 福利厚生と評価されやすくなります |
| 相当額の使用料を負担していた | 同上 |
社宅の法的な性質
賃貸借か使用貸借か
会社が所有する建物に居住し、相当額の賃料を支払っていた場合には、賃貸借(民法第601条)と評価される余地がございます。他方、無償又は著しく低額で使用していた場合には、使用貸借(民法第593条)と評価されるのが通例でございます。
使用貸借においては、目的及び期間を定めなかったときは、貸主はいつでも契約の解除をすることができるものとされております(民法第598条第2項)。したがって、明渡しを求められた場合に、これを拒むことは容易ではございません。
会社が第三者から借り受けている場合
会社が第三者から建物を借り受け、これを役員に使用させている場合には、会社と貸主との間の賃貸借が終了すれば、役員は貸主に対して使用を主張することができないのが原則でございます。
明渡しを求められた場合
明渡しに応じるとしても、転居に要する期間の確保及び費用の負担について協議することが考えられます。協議の内容は、必ず書面により明らかにしてください。
他方、会社が一方的に施錠を変更し、又は家財を搬出した場合には、占有が侵奪されたものとして、占有回収の訴えにより返還及び損害の賠償を請求する余地がございます(民法第200条第1項)。
社用車の取扱い
社用車は、会社の資産でございますので、返還を求められた場合には応じることが原則でございます。私物が車内にある場合には、その返還を併せて求めることになります。
もっとも、車両が報酬の一部として合意されていた場合には、その相当額を損害の賠償において主張する余地がございます。リースによる車両である場合には、契約の名義及び費用の負担者を確認してください。
損害の賠償への反映
解任について正当な理由がないときは、会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(会社法第339条第2項)。損害の中心は残存する任期に対応する報酬でございますが、報酬の一部と評価される現物による給付の相当額を加えて主張することが考えられます。
相当額の算定においては、近隣の同種の物件の賃料の水準、車両の使用に要する費用の水準といった客観的な資料が必要となります。もっとも、これらが当然に認められるものではございませんので、結果を保証することはできません。
確保すべき資料
| 資料 | 意義 |
|---|---|
| 社宅に関する規程 | 提供の根拠及び範囲を示します |
| 使用料の負担の記録 | 賃貸借か使用貸借かの判断に関わります |
| 給与明細における現物給与の記載 | 報酬としての取扱いを示します |
| 株主総会議事録 | 報酬の決議の内容を示します |
| 車両の登録及びリース契約 | 名義及び費用の負担者を示します |
| 明渡しを求められた通知 | 時期及び内容を示します |
これらの資料は、退去の後は入手が困難となります。退去に先立って写しを確保してください。
よくあるご質問
質問1 直ちに出ていくよう求められました。
使用貸借と評価される場合であっても、直ちに退去する義務があるとは限りません。相当の期間を求めて協議することが考えられます。
質問2 鍵を交換されてしまいました。
占有が侵奪されたものとして、返還を求める余地がございます。速やかにご相談ください。
質問3 家族が同居しております。
同居の家族の生活への影響は、協議において考慮を求めるべき事情でございます。転居に要する期間の確保を求めることが考えられます。
質問4 社用車を返還しないとどうなりますか。
会社の資産でございますので、返還しないことは望ましくございません。返還したうえで、損害の賠償において主張することが適切でございます。
質問5 私物が会社に残っております。
返還を書面により求め、記録を残してください。応じられない場合には、返還を求める手続を検討することになります。
確認事項の一覧
| 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|
| 建物の所有者 | 登記事項証明書 |
| 使用料の有無及び額 | 給与明細、振込みの記録 |
| 社宅に関する規程 | 規程、就業規則 |
| 報酬の決議の内容 | 株主総会議事録 |
| 車両の名義 | 自動車検査証、リース契約書 |
| 明渡しの通知の内容及び時期 | 通知書、電子メール |
退去及び返還に応じる前に、資料を確保しておくことが重要でございます。
本記事における非開示事項について
現物による給付を報酬の一部として主張する場合の構成、相当額の算定の方法、明渡しの協議における条件の立て方、占有が侵奪された場合の手続の選択は、契約の性質及び資料の状況により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
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弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第379条第1項(監査役の報酬等)
民法 第198条(占有保持の訴え)、第200条第1項(占有回収の訴え)、第593条(使用貸借)、第597条(期間満了等による使用貸借の終了)、第598条第2項(使用貸借の解除)、第601条(賃貸借)、第616条の2(賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了)、第709条(不法行為による損害賠償)
民事保全法 第23条第2項(仮の地位を定める仮処分)
判例法理による部分 現物による給付が報酬等に当たるかの判断については、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。
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