労働審判と会社法上の手続のいずれを選ぶか

労働審判と会社法上の手続のいずれを選ぶか
使用人を兼ねる取締役の紛争においては、労働審判の手続と、会社法上の請求を含む通常の訴訟の手続とが考えられます。労働審判は迅速な解決に適しておりますが、取締役としての地位に関する争いは原則としてその対象となりません。本記事では、両手続の特徴を比較し、選択の視点を整理いたします。
結論 争点の中心がどちらにあるかで決まります
比較の概要は、次のとおりです。
| 項目 | 労働審判 | 通常の訴訟 |
|---|---|---|
| 対象 | 個別の労働関係に関する紛争 | 制限はありません |
| 取締役としての請求 | 原則として対象となりません | 取り扱うことができます |
| 期日の回数 | 特別の事情がある場合を除き3回以内(労働審判法第15条第2項) | 制限はありません |
| 期間 | 比較的短期間で終了することが多い手続です | 長期化することがあります |
| 結論の性質 | 異議の申立てにより効力を失います(同法第21条第1項) | 判決は確定により効力を生じます |
| 解決の柔軟性 | 調停による解決が図られやすい手続です | 和解によることができます |
使用人としての地位が争点の中心である場合には労働審判が、取締役としての地位及び解任の当否が争点の中心である場合には通常の訴訟が、それぞれ適していると考えられます。
労働審判の手続
趣旨と対象
労働審判の手続は、労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争を、迅速に、適正かつ実効的に解決することを目的とするものでございます(労働審判法第1条)。
したがって、労働者としての地位が認められることが前提となります。使用人を兼ねる取締役については、この点自体が争点となることが少なくありません。
審理の進行
労働審判委員会は、特別の事情がある場合を除き、3回以内の期日において審理を終結しなければならないものとされております(労働審判法第15条第2項)。したがって、第1回の期日までに主張と資料を整えることが極めて重要でございます。
審理の結果、当事者間の権利関係及び手続の経過を踏まえて労働審判が行われます(同法第20条第1項)。調停が成立した場合には、その内容により終了いたします。
異議の申立て
当事者は、労働審判に対し、審判書の送達又は告知を受けた日から2週間の不変期間内に、異議の申立てをすることができます(労働審判法第21条第1項)。適法な異議の申立てがあったときは、労働審判は効力を失い、申立ての時に訴えの提起があったものとみなされます(同法第22条第1項)。
したがって、相手方が異議を申し立てた場合には、結局は通常の訴訟に移行することになります。この点は、労働審判を選択する際に考慮すべき事情でございます。
事案が適さない場合
労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができるものとされております(労働審判法第24条第1項)。
取締役としての地位に関する争点が大きい事案では、この規定により終了する余地がございます。
会社法上の手続
解任について正当な理由がない場合の損害の賠償の請求(会社法第339条第2項)、及び解任の決議を争う訴え(同法第831条第1項)は、いずれも通常の訴訟によることになります。決議を争う訴えの管轄は、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所に専属いたします(同法第835条第1項)。
これらの争点は、株主構成、招集の手続、議決権の帰属といった会社法上の事項を含みますので、労働審判の枠組みにはなじみにくい面がございます。
選択にあたって考慮する事情
| 事情 | 考慮の内容 |
|---|---|
| 労働者性の見通し | 争いが大きい場合には、労働審判の枠組みで完結しにくくなります |
| 解決までに要する期間 | 生活の維持が急を要する場合には、迅速な手続が望まれます |
| 求める内容 | 地位の回復か、金銭による解決かにより異なります |
| 相手方の姿勢 | 異議が申し立てられる見通しが高い場合には、当初から訴訟による方が効率的な場合がございます |
| 決議を争う期限 | 決議の日から3か月の期限は、他の事情に優先して確認いたします |
| 資料の状況 | 短期間で主張を整えることができるかを検討します |
併用する場合の留意点
労働審判の手続と会社法上の訴訟とを並行して進めることは、制度上は可能でございます。もっとも、主張の整理が不十分であると、双方の手続において不利に働くおそれがございます。
特に、労働者としての地位を主張しながら、他方で経営に関与していたことを強調することは、双方の説得力を損なう危険がございます。事実関係を丁寧に区分したうえで、いずれの手続においても一貫した説明ができるように準備することが必要でございます。
解決までの流れ
いずれの手続によるにせよ、まずは会社に対して書面により事実関係の確認と請求の趣旨を伝え、その回答を得たうえで手続を選択することが一般的でございます。会社の回答の内容により、争点が明らかになるためでございます。
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。ご相談は事前予約制です。
よくあるご質問
質問1 労働審判はどのくらいで終わりますか。
通常の訴訟と比較して短期間で終了することが多い手続でございますが、事案により異なりますので、期間を保証することはできません。
質問2 取締役の請求も一緒に申し立てられますか。
労働審判の対象は労働関係に関する紛争でございますので、取締役としての請求は原則として対象となりません。
質問3 異議を申し立てられたらどうなりますか。
労働審判は効力を失い、申立ての時に訴えの提起があったものとみなされて、通常の訴訟に移行いたします。
質問4 会社が労働者性を全面的に争っております。
争点が労働者性に集中する場合には、3回以内の期日で審理を尽くすことが難しい場合がございます。通常の訴訟を選択することも検討いたします。
質問5 まず交渉から始めることはできますか。
可能でございます。交渉の経過は、いずれの手続に進む場合にも資料となりますので、書面により行うことをお勧めいたします。
確認事項の一覧
| 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|
| 解任の決議の日 | 株主総会議事録、登記事項証明書 |
| 労働契約の終了に関する通知 | 通知書、電子メール |
| 労働者性を基礎づける事実 | 就業規則、給与明細、出退勤の記録 |
| 会社の本店の所在地 | 登記事項証明書 |
| 会社の回答の内容 | 書面、電子メール |
| 求める解決の内容 | 自らの意向の整理 |
手続の選択は、事実関係と目的が固まった段階で行うことになります。まず資料を揃えてご相談ください。
本記事における非開示事項について
手続の選択の具体的な判断、労働審判において第1回の期日までに整えるべき主張と資料の範囲、労働者性が争われる場合の立証の組み立て、並行して進める場合の主張の調整は、業務の実態及び相手方の姿勢により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
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本記事の根拠条文
会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第831条第1項(決議の取消しの訴え)、第835条第1項(訴えの管轄)
労働審判法 第1条(趣旨)、第5条第1項(申立て)、第15条第2項(審理の終結)、第20条第1項(労働審判)、第21条第1項(異議の申立て)、第22条第1項(訴え提起の擬制)、第24条第1項(労働審判事件の終了)
労働契約法 第16条(解雇)
判例法理による部分 使用人を兼ねる取締役の労働者性の判断の要素については、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。
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