役員のまま出社を拒まれた場合にどうするか

役員のまま出社を拒まれた場合にどうするか

役員の地位を有したまま出社を拒まれる場合がございます。役員には従業員のような労務の提供の義務はございませんので、出社を拒まれたことのみを理由として直ちに争うことは容易ではありません。もっとも、職務を行うことができない状態で責任のみが残ることは望ましくございません。本記事では、採り得る対応を整理いたします。

 結論 記録を作り、取締役会の場に議題を持ち込みます

対応の要点は、次のとおりです。

順序 内容
第1 出社を拒まれた事実を、日時及び態様とともに記録します
第2 職務を行う意思があることを、書面により会社に通知します
第3 取締役会の招集を請求し、業務の状況の報告を議題といたします
第4 報酬が支払われているかを確認いたします
第5 会社の状況を把握するための資料の提示を求めます
第6 退任を求められた場合には、辞任と解任との違いを踏まえて対応します

出社そのものを実現することよりも、職務を行う意思を示した記録を残すことが、実務上は重要でございます。

 役員に出社の義務があるか

株式会社と役員との関係は、委任に関する規定に従うものとされております(会社法第330条)。役員は、善良な管理者の注意をもって職務を行う義務を負いますが(民法第644条)、労働契約に基づく労務の提供の義務を負うものではございません。

したがって、毎日一定の時刻に出社することが法律上当然に求められるものではございません。他方で、会社が正当な理由なく職務の執行を妨げることも、望ましいものではございません。

 職務を行えない状態で残る責任

取締役は、法令、定款及び株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行わなければなりません(会社法第355条)。取締役会は、取締役の職務の執行の監督を行うものとされております(会社法第362条第2項)。

職務を行うことができない状態であっても、役員としての地位が残る以上、任務を怠ったものとして責任を問われる余地は残ります(会社法第423条第1項、第429条第1項)。この点が、放置してはならない理由でございます。

 取締役会の場を用いる

取締役会は、各取締役が招集するのが原則でございますが、招集する取締役を定款又は取締役会において定めたときは、その取締役が招集いたします(会社法第366条第1項)。招集権者以外の取締役は、目的である事項を示して招集を請求することができ、請求の日から5日以内に一定の招集の通知が発せられないときは、自ら招集することができます(同条第2項・第3項)。

取締役会を招集する者は、原則として会日の1週間前までに、各取締役及び各監査役に対して通知を発しなければなりません(会社法第368条第1項)。

代表取締役及び業務を執行する取締役は、3か月に1回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならないものとされております(会社法第363条第2項)。この報告を求めることを議題とすることが考えられます。

 報酬の取扱い

取締役の報酬等は、定款に定めがないときは株主総会の決議によって定めるものとされております(会社法第361条第1項)。出社を拒まれたことを理由として、会社が一方的に報酬を減額し、又は不支給とすることは、原則として認められないと解されております。

報酬が支払われていない場合には、支払を求める書面を送付し、その記録を残してください。また、職務を行うために支出した費用については、委任に関する規定により償還を求める余地がございます(民法第650条)。

 監査役への報告

取締役は、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちにこれを監査役に報告しなければならないものとされております(会社法第357条第1項)。監査役は、いつでも取締役に対して事業の報告を求め、会社の業務及び財産の状況を調査することができます(会社法第381条第2項)。

監査役が置かれている会社においては、監査役に対して状況を報告することが、記録の作成としても意味を持ちます。

よくあるご質問

質問1 入館証を無効にされました。

日時及び態様を記録し、書面により職務を行う意思を通知してください。取締役会の招集の請求と併せて行うことが考えられます。

質問2 電子メールのアカウントを停止されました。

同様に記録を残し、連絡の方法を書面により指定してください。会社の情報システムへの権限のないアクセスは行ってはなりません。

質問3 出社しないと報酬を払わないと言われました。

報酬の減額又は不支給は、原則として役員の同意なく行うことができないと解されております。支払を求める書面を送付してください。

質問4 辞任すれば解決しますか。

辞任した場合には、解任に関する損害の賠償の請求が原則としてできなくなります。署名の前にご相談ください。

質問5 仮処分により出社を実現できますか。

職務の執行を妨げてはならない旨を求める仮処分を検討する余地はございますが、認められるかは事案により異なりますので、断定することはできません。

 確認事項の一覧

確認事項 確認の方法
出社を拒まれた日時及び態様 自らの記録、同席者の記憶
会社からの通知の内容 書面、電子メール
取締役会の開催の状況 取締役会議事録
報酬の支給の状況 給与明細、振込みの記録
定款の招集権者の定め 定款の謄本
自らの登記上の地位 登記事項証明書

記録の積み重ねが、その後の主張の基礎となります。日々の出来事を書面により残してください。

本記事における非開示事項について

職務を行う意思を示す書面の記載の程度、取締役会の招集の請求における議題の立て方、報酬の支払を求める場合の順序、仮処分を検討すべき場面の見極めは、会社の状況及び取締役会の構成により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

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本記事の根拠条文

会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第355条(忠実義務)、第357条第1項(取締役の報告義務)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第362条第2項(取締役会の職務)、第363条第2項(代表取締役等の報告)、第366条第1項・第2項・第3項(取締役会の招集)、第368条第1項(招集の通知)、第371条(議事録の備置き及び閲覧等)、第381条第2項(監査役の調査権)、第423条第1項(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)、第429条第1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)

民法 第644条(受任者の注意義務)、第650条(受任者による費用等の償還請求)

民事保全法 第23条第2項(仮の地位を定める仮処分)

判例法理による部分 職務の執行を妨げられた場合に採り得る手続の選択については、判例法理及び実務の運用によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

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