取締役の地位の確認を求める方法

取締役の地位の確認を求める方法

「登記上は退任したことになっていますが、辞任した覚えはありません」「解任の決議があったと言われましたが、そのような株主総会は開かれていません」。このような場合、取締役としての地位が現に存続していることを、法的に確定させる必要があります。本記事では、そのための方法を整理します。当事務所は役員の側にも会社の側にも立ちますが、本記事は地位を争う側の方に向けたものです。

 結論 地位を争う道筋は3つに整理されます

道筋 用いる場面 主な根拠
第1 地位の確認を求める 辞任の意思表示をしていない場合、決議が存在しない場合 確認の利益に関する一般の法理
第2 決議の効力を争う 解任の決議に手続上又は内容上の瑕疵がある場合 会社法第830条、第831条
第3 保全の手続を用いる 本案の判断を待てない事情がある場合 民事保全法第23条第2項

これらは排他的なものではなく、併用されることが通常です。例えば、決議不存在確認の訴えと地位の確認を求める訴えとを併合して提起する形が採られます。

 地位の確認を求める訴え

 確認の利益

確認を求める訴えについては、確認の利益が必要とされています。すなわち、現に法律上の地位に不安があり、その不安を除去するために確認判決を得ることが有効かつ適切であるといえるかが問題となります。この点は民事訴訟法上の一般の法理によります。

取締役の地位については、登記に退任の記録がある、会社が取締役として扱わない、報酬の支払が止まっているといった事情があれば、地位に不安があるといえる場合が多いといえます。

 被告

地位の確認を求める訴えの被告は、会社となるのが通常です。会社法が定める会社の組織に関する訴えについては、被告が法定されていますが(会社法第834条)、地位の確認を求める訴えは、これらとは別の一般の確認の訴えとして位置付けられます。

 任期の満了との関係

取締役の任期は、原則として、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされています(会社法第332条第1項)。公開会社でない株式会社(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除きます)においては、定款によって、選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができるものとされています(同条第2項)。

争っている間に任期が満了すると、地位の確認を求める利益が失われる場合があります。この点は、この類型における実務上の大きな問題です。定款上の任期の定めを早期に確認する必要があります。

 権利義務を有する役員としての地位

法令又は定款で定めた役員の員数が欠けることとなる場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有するものとされています(会社法第346条第1項)。任期が満了した場合であっても、この規定により権利義務を有する立場が残ることがありますので、地位に関する主張の組み立てにおいて検討を要します。

 決議の効力を争う訴えとの使い分け

訴え 対象 期間の制限 根拠
決議取消しの訴え 招集手続又は決議方法の法令定款違反等 決議の日から3か月 会社法第831条第1項
決議無効確認の訴え 決議の内容の法令違反 ありません 会社法第830条第2項
決議不存在確認の訴え 決議の不存在 ありません 会社法第830条第1項
地位の確認を求める訴え 取締役の地位の存否 ありません 一般の確認の訴え

決議取消しの訴えについては、3か月の期間の制限があります。この期間を経過した後に瑕疵に気付いた場合には、不存在又は無効を主張し得るかを検討することになります。

なお、決議取消しの訴えに係る請求を認容する判決が確定したときは、その判決は第三者に対しても効力を有するものとされ(会社法第838条)、また、決議は遡ってその効力を失うものとされています。他方、地位の確認を求める訴えの判決は、当事者間においてのみ効力を有するのが原則です。この違いが、訴えの選択に影響します。

 保全の手続

 仮の地位を定める仮処分

争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときは、仮の地位を定める仮処分命令を発することができるものとされています(民事保全法第23条第2項)。取締役の地位を仮に定める旨の仮処分を求めることが考えられます。

この仮処分は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ発することができないものとされています(民事保全法第23条第4項。ただし、その期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、この限りでないとされています)。したがって、密行性はなく、相手方に知られたうえで手続が進みます。

 職務の執行を停止する仮処分

新たに選任された取締役の職務の執行を停止し、その職務を代行する者を選任する仮処分を求めることが考えられます。取締役の職務を代行する者が選任された場合には、その旨の登記がされることになります(会社法第917条)。

職務を代行する者は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、会社の常務に属しない行為をするには裁判所の許可を得なければならないものとされています(会社法第352条第1項)。

 保全の手続の位置付け

保全の手続は、本案の判断を待てない事情がある場合に用いるものです。要件は厳格であり、疎明の程度も高いものが求められます。また、担保の提供を求められるのが通常です。

他方、地位の回復が争われる事案では、時間の経過とともに既成事実が積み重なりますので、保全の手続を用いる意味が大きい場合があります。

 立証の設計

地位が存続していることを示す資料としては、次のものがあります。

資料 示し得る事項
登記事項証明書 就任の時期、任期の起算点
定款 任期の定め、役員の員数の定め
株主総会議事録 選任の決議、解任の決議の存否
出勤の記録、決裁の記録 職務を継続していたこと
給与明細、預金通帳 報酬の支払が継続していたこと
社会保険の記録 会社との関係の継続
名刺、社内報、対外的な書面 取締役として扱われていたこと
電子メール 職務の遂行の実態
取締役会の招集通知 取締役として扱われていたこと

争いが生じた後は、これらの資料へのアクセスが制限されることが通常です。したがって、争いが表面化する前又は直後の段階で、手元の資料を確保しておくことが重要です。

 弁護士にご相談いただく意味

地位を争う手続は、複数の訴えと保全の手続とを組み合わせて設計する必要があります。また、決議取消しの訴えの3か月の期間、任期の満了の時期といった期限が関わりますので、着手の時期が結論を左右します。

弁護士は、役員の代理人として、事実関係の確定、訴えの選択、保全の手続の申立て、資料の収集、訴訟の遂行、登記の是正までを一貫して行います。

なお、手続を用いる順序及び時期、保全の手続を用いるかどうかの判断は、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してまいりました実務上の知見に属しますので、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 地位の確認を求める訴えに期間の制限はありますか。

地位の確認を求める訴え自体には、法律上の期間の制限はありません。もっとも、決議取消しの訴えには決議の日から3か月という制限があり(会社法第831条第1項)、また任期の満了により確認を求める利益が失われる場合があります。

質問2 争っている間に任期が満了してしまいます。

任期の満了により地位の確認を求める利益が失われる場合があります。他方、法令又は定款で定めた役員の員数が欠けることとなる場合には、権利義務を有する役員としての立場が残ることがあります(会社法第346条第1項)。定款の定めを確認したうえで、主張の組み立てを検討します。

質問3 仮処分を申し立てれば、すぐに職務に戻れますか。

仮の地位を定める仮処分は、要件が厳格であり、疎明の程度も高いものが求められます。また、相手方が立ち会うことができる審尋の期日を経るのが原則ですので、一定の時間を要します。

質問4 解任の決議があったと言われましたが、総会は開かれていません。

決議が存在しないことを主張し、決議不存在確認の訴えと地位の確認を求める訴えとを併せて提起することを検討します。決議不存在確認の訴えには期間の制限がありません(会社法第830条第1項)。

質問5 地位が確認されたら、その間の報酬は請求できますか。

地位が存続していたのであれば、報酬請求権も存続していたことになります。地位の確認と併せて、未払の報酬の請求を検討することになります。金銭の請求については、当法人が運営する別の情報提供のページにおいても取り扱っております。

 地位の回復と金銭による解決との関係

地位の確認を求める手続は、時間と費用を要します。他方、株主総会において多数を相手方が握っている場合には、地位が確認されても、改めて適法な手続により解任される可能性があります。

検討の視点 内容
議決権の分布 相手方が解任の決議を成立させ得るか
任期の残り 任期が短い場合には回復の実益が限られます
事業を継続する意思 会社に戻る意思があるか
対外的な信用 地位の確認そのものに意味がある場合があります
金銭面の帰結 損害賠償、退職慰労金、報酬の未払
付随する法律関係 株式、貸付金、個人保証

地位の確認を求める手続を進めることが、金銭による解決の条件を整える意味を持つ場合もあります。いずれを主とするかは、これらの要素を踏まえた判断となります。

本記事における非開示事項について

訴えの選択、手続を用いる順序及び時期、保全の手続を用いるかどうかの判断は、資料の状況、任期の残り、株主構成等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の地位に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、履歴事項全部証明書、定款の写し、株主名簿の写し、株主総会議事録の写し、給与明細、社内の記録をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。

本記事の根拠条文

会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第332条第1項・第2項(取締役の任期)、第339条第1項(役員の解任)、第346条第1項(役員に欠員を生じた場合の措置)、第352条第1項(取締役の職務を代行する者の権限)、第830条第1項・第2項(決議不存在確認及び決議無効確認の訴え)、第831条第1項(決議取消しの訴え)、第834条(被告)、第838条(認容判決の効力が及ぶ者の範囲)、第908条第1項(登記の効力)、第917条(職務の執行を停止する仮処分等の登記)

民事保全法 第23条第2項・第4項(仮の地位を定める仮処分命令)

判例法理及び一般の法理による部分 確認の利益の有無については、民事訴訟法上の一般の法理によります。個別の事案における判断は、事実関係により異なります。

関連するご案内

知らない間に退任の登記をされてお困りではありませんか のページで、確認すべき事項と採り得る手続を整理しております。ご相談は事前予約制です。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。