解任の議案が上程される前にできる準備

解任の議案が上程される前にできる準備
解任の動きが見え始めた段階で行うことのできる準備は、決して少なくありません。議決権の分布の把握、資料の確保、報酬及び個人保証の確認は、いずれも解任の後では著しく困難となります。本記事では、上程の前に行うべき事項を整理いたします。
結論 資料の確保と議決権の把握が中心です
準備の全体は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 議決権の分布 | 株主名簿により、誰がどれだけの議決権を有するかを把握します |
| 資料の確保 | 定款、議事録、報酬に関する資料、契約書の写しを確保します |
| 報酬の確認 | 決議の内容及び実際の支給の額を確認します |
| 任期の確認 | 残存する任期を確定させます |
| 個人保証及び貸付金 | 契約の内容及び残高を確認します |
| 記録の作成 | 職務を適切に行ってきたことを示す記録を整理します |
いずれも、解任の後は入手が困難となるものでございます。動きが見え始めた段階で着手してください。
議決権の分布の把握
役員の解任は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数をもって決議されます(会社法第341条)。したがって、議決権の分布が結論を左右いたします。
株主は、株主名簿の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第125条第2項)。名義株式の有無、共有に属する株式の有無、基準日の定めを併せて確認してください。
株主は代理人によって議決権を行使することができます(会社法第310条第1項)。他の株主の意向を早期に把握することが、見通しを立てるうえで重要でございます。
資料の確保
| 資料 | 後に用いる場面 |
|---|---|
| 定款 | 任期、員数、招集権者、代理人の資格の確認 |
| 株主名簿 | 議決権の分布の確認 |
| 株主総会議事録 | 報酬の決議、過去の決議の内容 |
| 取締役会議事録 | 職務の執行の経過、賛否の記載 |
| 給与明細及び源泉徴収票 | 損害の額の算定 |
| 役員退職慰労金の規程 | 請求の根拠 |
| 保証契約書 | 退任後の負担の把握 |
| 会社への貸付金の資料 | 返還の請求 |
これらは、在任中であれば正当に確認することができるものでございます。無断で持ち出すことは避け、正規の手続により写しを確保してください。
報酬及び任期の確認
取締役の報酬等は、定款に定めがないときは株主総会の決議によって定めるものとされております(会社法第361条第1項)。解任に正当な理由がない場合の損害の賠償は、残存する任期に対応する報酬が中心となりますので(会社法第339条第2項)、報酬の額と任期の残りとを確定させておくことが必要でございます。
就任の年月日は登記事項証明書により、任期の定めは定款により確認することができます。
記録の作成
職務を適切に行ってきたことを示す記録は、正当な理由の有無が争われる場面において重要となります。取締役会に提出した資料、業績に関する報告、改善のための提案といったものを、時系列に沿って整理してください。
また、解任に向けた動きについても、日時、発言の内容、関与した者を記録に残してください。株主間の対立の経過は、解任の真の理由を推認させる事情となり得ます。
取締役会の場の活用
取締役会は、業務執行の決定及び取締役の職務の執行の監督を行うものとされております(会社法第362条第2項)。招集権者以外の取締役は、目的である事項を示して招集を請求することができ、5日以内に一定の招集の通知が発せられないときは、自ら招集することができます(会社法第366条第2項・第3項)。
取締役会において業務の状況の報告を求め、その内容を議事録に残すことにより、後の主張の資料とすることができます。
行ってはならないこと
| 行為 | 問題 |
|---|---|
| 会社の資料の無断の持出し | 責任を問われるほか、後の主張の信用を損ないます |
| 会社の資金の私的な流用 | 正当な理由があると評価される事情となり得ます |
| 議決権の分布のみを目的とする新株の発行 | 決議及び新株発行の効力をめぐる争いを招きます |
| 従業員への一方的な働きかけ | 後に不当な働きかけがあったと主張される余地がございます |
| 感情的な発言の応酬 | 記録に残り、不利に働きます |
この段階での行動が、後の争いにおける評価を大きく左右いたします。慎重な対応が求められます。
よくあるご質問
質問1 まだ何も起きておりませんが相談できますか。
可能でございます。むしろ、動きが見え始めた段階でのご相談が最も有効でございます。ご相談は事前予約制です。
質問2 辞任を勧められております。
辞任した場合には、解任に関する損害の賠償の請求が原則としてできなくなります。署名の前にご相談ください。
質問3 株式を買い増すことはできますか。
他の株主との交渉によります。基準日の定めがある場合には、取得の時期に留意する必要がございます。
質問4 招集の通知が届きました。
議題を確認し、通知の期間が適法かを確認してください(会社法第299条第1項)。期間の不足は、決議の取消しの事由となり得ます。
質問5 総会に出席すべきですか。
出席し、意見を述べ、議事録に記載させることが基本でございます。欠席は、後の主張を弱める場合がございます。
確認事項の一覧
| 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|
| 株主の構成及び議決権 | 株主名簿 |
| 定款の定め | 定款の謄本 |
| 就任の年月日及び任期 | 登記事項証明書、定款 |
| 報酬の決議及び支給の額 | 株主総会議事録、給与明細 |
| 個人保証及び貸付金 | 契約書、振込みの記録 |
| 解任に向けた動きの経過 | 自らの記録、電子メール |
準備の有無が結論を分けることは少なくありません。早い段階でご相談ください。
本記事における非開示事項について
議決権の分布を踏まえた見通しの立て方、資料の確保の順序と方法、総会における対応の準備、辞任を求められた場合の交渉の進め方は、株主構成及び会社の状況により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第124条第1項(基準日)、第125条第2項(株主名簿の閲覧等)、第297条第1項(株主による招集の請求)、第299条第1項(株主総会の招集の通知)、第303条第1項・第2項(議題の提案権)、第305条第1項(議案の要領の通知の請求)、第310条第1項・第2項(議決権の代理行使)、第330条(株式会社と役員との関係)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第366条第2項・第3項(取締役会の招集の請求)、第831条第1項(決議の取消しの訴え)
判例法理による部分 正当な理由の意義については、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。
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