社長がクーデターを仕掛けられたときに弁護士へ依頼すること 経営権を守るための初動と時間の使い方

代表取締役として会社を経営しておられる方が、社内で御自身を外そうとする動きに直面したときの御案内です。本ページは、取締役会で代表取締役を解職されそうな方、及び株主総会で取締役を解任されそうな方が、弁護士に何を、どの時点で依頼することになるのかを整理したものです。制度の説明ではなく、依頼の時期と、任せられる作業の範囲に絞って述べます。
この場面の特徴は、相手方が先に準備を終えているという点にあります。取締役の何名かが事前に打ち合わせを済ませ、株主の一部と話を付け、場合によっては弁護士にも相談したうえで、こちらに気付かれない時期を選んで動き始めます。気付いた時点で、既に数週間から数か月の差が付いていると考えていただくのが実際に近いといえます。
したがって、この場面で最も重要なのは、法律論の正しさではなく、残された日数の使い方です。取締役会の招集通知は1週間前まで、株主総会の招集の請求から8週間、登記は2週間以内といった具合に、双方の動きはすべて日数で刻まれています。その時計を読めるかどうかが結果を分けます。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
同じ解任の紛争であっても、経営権を守る側と、既に外された側とでは、採るべき手段がまったく異なりますので、次のとおり整理しております。
- 経営権を守る側の初動と、弁護士への依頼の時期……本記事
- 既にクーデターにより解任されてしまった場合……社長がクーデターにより解任されてお困りではありませんか
- 辞任届への署名を迫られている場合……辞任届に署名するよう迫られてお困りではありませんか
弁護士に相談すべき時期は、いつなのか
「もう少し様子を見てから」という御判断が、この場面では最も高くつきます。時期による違いを具体的に申し上げます。
解職の決議がされる前と後とで、作業がまったく変わる
決議の前であれば、招集の手続の適法性を確認し、議題の設定に働きかけ、必要であればこちらから取締役会や株主総会を招集するという能動的な手段が使えます。決議の後は、既に成立した決議の効力を争うという受け身の作業になります。同じ弁護士に依頼するのでも、できることの幅が違います。
兆候の段階で相談する意味
役員の間で説明のつかない会合が続く、株主名簿の閲覧の請求が来る、金融機関から遠回しな照会がある、これまで通っていた稟議が止まる。こうした兆候は、単独では判断が付きません。しかし、時系列に並べますと、相手方がどの手続を目指しているのかが見えてきます。この読み取りは、資料を拝見できれば1回の相談で可能です。
相談から着手までに必要な時間
定款、登記事項証明書、株主名簿、直近の取締役会の議事録を拝見できれば、その日のうちに、相手方が使える手続と最短の日程をお示しできます。逆に、これらが揃わない状態では、助言の精度が落ちます。相談の予約を取っていただく段階で、資料の準備を並行して進めていただくのが最も早い進め方です。
顧問弁護士に相談できない事情
会社の顧問弁護士は、会社の利益のために職務を行います。代表取締役個人と会社との間に利害の対立が生じている場面では、顧問弁護士に相談した内容が相手方に伝わる可能性を否定できません。この場面で別の弁護士に御依頼いただくのは、そのためです。
相手方が使ってくる手続と、その所要日数
相手方が何をどの順序で行うのかは、おおむね決まっています。日数まで含めて把握してください。
取締役会による代表取締役の解職
代表取締役の選定及び解職は、取締役会の決議事項です(会社法第362条第2項第3号)。取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間(定款でこれを下回る期間を定めた場合にはその期間)前までに、各取締役に対して通知を発しなければなりません(会社法第368条第1項)。取締役会が令和8年10月20日に予定されている場合、招集通知は令和8年10月13日までに発せられていなければなりません。定款で3日と定められていれば、10月17日までとなります。定款の定めを確認していないと、この計算ができません。
取締役の全員の同意による招集手続の省略
取締役会は、取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができます(会社法第368条第2項)。逆に申しますと、御自身が同意していなければ、この省略はできません。開催の連絡に対して安易に「了解した」と返信されますと、この同意があったと主張される余地を残します。
株主総会による取締役の解任
役員は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができます(会社法第339条第1項)。決議の要件は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(定款で3分の1以上の割合を定めた場合にはその割合以上)を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数です(会社法第341条)。株主の側から招集を請求する場合には、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主が請求することができ、公開会社でない株式会社では6か月の要件は課されません(会社法第297条第1項、第2項)。
登記は2週間で外形が変わる
取締役の氏名及び代表取締役の氏名及び住所は登記事項であり(会社法第911条第3項第13号、第14号)、変更が生じたときは2週間以内に変更の登記をしなければなりません(会社法第915条第1項)。取引先、金融機関、官公庁が確認するのは登記事項証明書です。登記が変わりますと、事実上の交渉力が一気に移ります。
弁護士に依頼した場合、こちらから何ができるのか
守るだけでは形勢は変わりません。こちらから動かせる手続を挙げます。
取締役会の招集を請求する
招集権者が定款又は取締役会で定められている場合でも、他の取締役は、招集権者に対し、議題を示して取締役会の招集を請求することができます(会社法第366条第2項)。請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を会日とする招集通知が発せられないときは、請求をした取締役が自ら招集することができます(同条第3項)。令和8年10月1日に請求した場合、令和8年10月6日までに通知が発せられ、かつ会日が令和8年10月15日以内でなければ、こちらが招集できる計算になります。
株主総会の招集を請求する
御自身が株式を保有しておられる場合には、株主として株主総会の招集を請求できます(会社法第297条第1項)。請求の後、遅滞なく招集の手続が行われない場合、又は請求があった日から8週間以内の日を会日とする招集通知が発せられない場合には、裁判所の許可を得て、請求をした株主が招集することができます(同条第4項)。令和8年10月1日に請求した場合、8週間以内の日とは令和8年11月26日までを指します。
決議の効力を争う
招集の手続又は決議の方法に法令若しくは定款の違反があるときは、決議の日から3か月以内に決議の取消しの訴えを提起することができます(会社法第831条第1項)。招集通知が発せられないまま行われた決議など、決議が存在するとは評価できない場合には、期間の制限のない決議不存在確認の訴えも検討します(会社法第830条)。
仮処分により時間を止める
仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができます(民事保全法第23条第2項)。役員の職務の執行を停止し、職務代行者を選任する仮処分が発せられますと、その旨が登記されます(会社法第917条第1号)。職務代行者は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、会社の常務に属しない行為をするには裁判所の許可を得なければなりません(会社法第352条第1項)。会社の資産の処分や重要な契約の締結が進みつつあるときには、これを止める意味が大きい手段です。
数の勝負を変え得る、二つの論点
取締役会の構成上、票数で負けているように見えても、決議の有効性は別の問題です。
解職される代表取締役は議決に加わることができない
取締役会の決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができません(会社法第369条第2項)。代表取締役を解職する決議については、その対象となる代表取締役が特別の利害関係を有する取締役に当たるとされています(最高裁判所昭和44年3月28日判決)。したがって、御自身は自らの解職の決議において票を投じられません。ここを誤解したまま出席され、票数で覆せると考えておられる方が少なくありません。逆に、相手方が定足数の計算を誤っていれば、決議の効力を争う根拠になります。
招集通知が誰に、いつ発せられたか
一部の取締役に招集通知を発しないまま行われた取締役会の決議は、その効力が問題となります。相手方は、こちらに知られずに開催したいという動機を持ちますので、この点に瑕疵が生じやすいところです。開催の事実を後から知った場合には、通知の有無、発送の日時、宛先を直ちに確認してください。
定款の定めを確認する
招集通知の期間の短縮、定足数の軽減、取締役の員数、任期の伸長は、いずれも定款で定められます。相手方が定款の定めを見落として手続を進めていることは、実際に珍しくありません。定款は、こちらの側の最初の武器になります。
相手方はなぜ、この時期に動いたのか
動機を読み違えますと、対応を誤ります。よく見られる三つの背景を挙げます。
資金や株式の異動を目前に控えているから
増資、金融機関からの借入れ、事業の譲渡、株式の売却といった重要な意思決定の前に代表者を交代させたいという動機です。この場合、相手方には明確な期限があります。こちらが手続を提起して時間を要させるだけで、相手方の計画が崩れることがあります。
相続や世代交代の局面にあるから
株式の保有関係が相続によって変動し、これまでの多数派が崩れたことをきっかけとする場合です。この場合、争点は取締役会ではなく、株主名簿と議決権の帰属に移ります。株主総会での決着を見据えた準備が必要になります。
先に動かなければ自分が外されると考えているから
相手方の側も、こちらから解任されることを恐れて先手を打っていることがあります。この構図であれば、交渉による解決の余地が残ります。相手方が何を守ろうとしているのかを見極めることで、全面的な争いを避けられる場合があります。
資料の確保と、費用の考え方
依頼を御検討いただくに当たり、実務的な事柄を申し上げます。
その日のうちに確保していただきたい資料
定款、登記事項証明書、株主名簿、直近3期分の取締役会及び株主総会の議事録、取締役の任期を示す資料、そして相手方とのやり取りが残る電子メールです。代表取締役を解職されますと、会社の情報システムから遮断されることが通例です。手元に複製がない状態からの巻き返しは、著しく困難になります。
会計帳簿の閲覧謄写の請求
株主として、総株主の議決権の100分の3以上の議決権又は発行済株式(自己株式を除きます。)の100分の3以上の数の株式を有していれば、請求の理由を明らかにして会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。外された後に会社の内部で何が行われているかを把握する手段として用います。
費用の考え方
この類型では、交渉、取締役会又は株主総会に関する手続、保全の申立て、本案の訴訟が段階的に生じ得ます。すべてを前提とした費用を最初にお預かりする必要はなく、段階ごとに、費用と得られる見込みとを比較して御判断いただきます。保全の申立てには担保が必要になりますので、その資金の手当ても併せて御相談ください。
既に決議がされてしまった後でも、できること
手遅れであるとお考えの方にも、残された手段があります。
3か月の期間の内側にいるかを確認する
決議の取消しの訴えは、決議の日から3か月以内です(会社法第831条第1項)。令和8年10月20日に解職の決議がされた場合、期限は令和9年1月20日となります。この日を過ぎますと、手続の瑕疵を理由に争う道は事実上失われます。
取締役としての地位は残っている場合が多い
代表取締役を解職されただけであれば、取締役としての地位は残ります。取締役として取締役会に出席し、議事録の記載を確認し、招集の請求を行うことができます。ここで動かないまま次の株主総会を迎えますと、取締役としても解任されます。
会社から示される書面に署名しない
辞任届、退任の合意書、清算に関する確認書を求められることがあります。辞任届に署名しますと、解職の決議の効力を争う前提そのものが失われます。署名の前に、必ず弁護士に内容を確認させてください。
いま確認していただきたいこと
本日のうちに着手できることを挙げます。
定款と登記事項証明書を手元に置いてください
招集通知の期間、定足数、取締役の員数、任期がここに書かれています。相手方の手続が適法かどうかは、この2点を見ずには判断できません。
直近の招集通知の発送の記録を確認してください
電子メールの送信日時、郵便の消印、社内の送付記録です。手続の瑕疵を主張する場合の中心的な証拠になります。
会社の電子メールと共有ファイルを複製してください
解職の決議の直後に遮断されます。御自身が正当にアクセスできる範囲で、本日のうちに保存してください。
相手方からの連絡に、その場で回答しないでください
開催の同意、辞任の意向、退任の条件について、口頭であっても言質を取られることがあります。「弁護士と相談のうえ回答する」とだけ述べてください。
よくあるご質問
まだ何も起きていませんが、相談してよいものでしょうか。
差し支えありません。むしろ、この段階での御相談が最も効果的です。定款と株主構成を確認すれば、相手方が採り得る手続と最短の日程を算出できますので、備えの優先順位が明確になります。
取締役会で票数が足りません。それでも争う意味はありますか。
あります。票数が足りていても、招集通知の欠缺、定足数の計算の誤り、特別の利害関係を有する取締役の議決への参加といった瑕疵があれば、決議の効力を争えます(会社法第369条第2項)。また、株主総会の場では、取締役会とは異なる数の勝負になります。
弁護士に依頼したことが社内に知られると、対立が決定的になりませんか。
相手方は既に組織的に動いております。こちらが代理人を立てたことが知られる時期は、手続の設計の中で調整できます。通知を発する時点を選ぶこと自体が、交渉上の判断の一部です。
会社の費用で弁護士に依頼することはできますか。
御自身の地位を守るための依頼は、原則として個人の立場での依頼になります。会社の費用から支出しますと、後に会社に対する責任の問題を生じかねません。この点は、依頼の当初に明確にしておく必要があります。
おわりに
経営権を巡る争いは、長年にわたって築いてこられた事業と、共に働いてきた方々との関係とが、短い期間のうちに切り離されていく出来事です。しかし、相手方が使う手続にも、こちらが使う手続にも、法律が定めた日数があります。その日数を正確に把握し、先に一手を打つことができれば、形勢は変わります。動き始めた日が早いほど、選べる手は多く残っています。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
経営権を巡る紛争に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
- 会社法第297条第1項、第2項、第4項(株主による株主総会の招集の請求、裁判所の許可、8週間)
- 会社法第339条第1項(役員の解任)
- 会社法第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)
- 会社法第352条第1項(取締役の職務を代行する者の権限)
- 会社法第362条第2項第3号(代表取締役の選定及び解職)
- 会社法第366条第2項、第3項(取締役会の招集の請求、5日以内及び2週間以内)
- 会社法第368条第1項、第2項(取締役会の招集通知、1週間前、全員の同意による省略)
- 会社法第369条第2項(特別の利害関係を有する取締役)
- 会社法第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
- 会社法第830条(株主総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え)
- 会社法第831条第1項(株主総会等の決議の取消しの訴え、決議の日から3か月)
- 会社法第911条第3項第13号、第14号(取締役の氏名、代表取締役の氏名及び住所)
- 会社法第915条第1項(変更の登記、2週間以内)
- 会社法第917条第1号(職務執行停止の仮処分等の登記)
- 民事保全法第23条第2項(仮の地位を定める仮処分命令の必要性)
- 最高裁判所昭和44年3月28日判決(代表取締役の解職の決議と特別の利害関係)
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