職務の執行を止める仮処分を求める場合

職務の執行を止める仮処分を求める場合

代表取締役の解職をめぐる争いにおいては、本案の判決を待つ間に会社の財産が処分され、又は不利益な契約が締結されるおそれがございます。このような場合には、職務の執行を停止する仮処分を求めることが考えられます。本記事では、仮処分の要件と、職務代行者が選任された場合の会社の運営について整理いたします。

 結論 仮の地位を定める仮処分により職務の執行を停止させます

手続の概要は、次のとおりです。

項目 内容
手続の種類 仮の地位を定める仮処分(民事保全法第23条第2項)
求める内容 職務の執行の停止及び職務代行者の選任
要件 被保全権利及び保全の必要性の疎明
審理 原則として債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経ます(同条第4項)
担保 原則として担保の提供が必要となります(民事保全法第14条第1項)
登記 裁判所書記官の嘱託により登記されます(民事保全法第56条、会社法第917条)

仮処分は本案の訴訟とは別の手続でございますが、本案を提起する意思があることが前提となります。実務上は、地位の確認を求める訴えと併せて検討することになります。

 被保全権利

 主張すべき権利関係

職務の執行の停止を求める場合には、争いがある権利関係を特定する必要がございます。代表取締役の解職の決議が無効であると主張する場合には、自らが代表取締役の地位を有すること、及び相手方が代表取締役の地位を有しないことが、権利関係の内容となります。

解職の決議の無効の事由としては、招集の手続の瑕疵、決議の方法の瑕疵、特別の利害関係を有する取締役が議決に加わったことなどが挙げられます(会社法第368条第1項、第369条第1項・第2項)。

 疎明の程度

保全の手続においては、申立ての理由を疎明しなければならないものとされております(民事保全法第13条第1項)。証明よりは緩やかなものでございますが、書証による裏付けが乏しい場合には、認められにくくなります。

取締役会議事録、招集の通知、定款、登記事項証明書は、いずれも疎明の基礎となる資料でございます。

 保全の必要性

事情 必要性を基礎づける理由
会社の重要な資産の処分が進められていること 回復が困難な損害が生ずるおそれがあります
取引先との基本契約の解除が予定されていること 事業の継続に影響が及びます
金融機関からの借入れが計画されていること 会社の負債が増加します
従業員の大量の異動又は解雇が行われていること 組織の回復が困難となります
会計帳簿の改変のおそれがあること 後の立証が困難となります

単に決議に不服があるというだけでは、保全の必要性は認められにくいと考えられます。本案の判決を待っていては回復が困難となる具体的な事情を、資料とともに示すことが求められます。

 職務代行者

 選任と権限

職務の執行を停止する仮処分においては、併せて職務を代行する者の選任を求めるのが通例でございます。職務代行者が選任されない場合には、会社の業務が停滞するおそれがあるためでございます。

仮処分命令により選任された職務代行者は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、会社の常務に属しない行為をするには、裁判所の許可を得なければなりません(会社法第352条第1項)。

 常務の範囲

常務とは、会社において日常的に行われる業務を指すものと解されております。日常の仕入れ、給与の支払、継続的な取引の履行はこれに含まれ得ますが、重要な財産の処分、多額の借財、株主総会の招集といった行為については、裁判所の許可を要すると解される場合がございます。

具体的にいかなる行為が常務に属するかは事案により異なりますので、断定することはできません。

 担保及び費用

仮処分命令は、原則として、担保を立てさせて発せられます(民事保全法第14条第1項)。担保の額は、相手方に生じ得る損害を考慮して裁判所が定めるものでございますので、あらかじめ具体的な額を申し上げることはできません。

担保は、金銭の供託によることが一般的でございますが、支払保証委託契約による方法が認められる場合もございます。申立てに先立ち、資金の手当てを検討しておく必要がございます。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

 登記への反映

職務の執行を停止し、又は職務代行者を選任する仮処分命令が発せられた場合には、裁判所書記官の嘱託により、その旨が登記されます(民事保全法第56条、会社法第917条)。

これにより、取引の相手方に対しても、職務の執行が停止されていることが明らかとなります。登記の記載は、取引先及び金融機関の対応に影響いたしますので、申立てに際してはこの点も考慮する必要がございます。

よくあるご質問

質問1 仮処分だけで解決することはできますか。

仮処分は暫定的な措置でございますので、権利関係を終局的に確定させるものではありません。本案の訴訟を提起することが前提となります。

質問2 申立てから決定まではどのくらいかかりますか。

事案の内容及び裁判所の運用により異なります。仮の地位を定める仮処分は、原則として相手方が立ち会うことができる審尋の期日を経ますので、一定の期間を要します。

質問3 急迫の事情がある場合はどうなりますか。

審尋の期日を経ることにより仮処分の目的を達することができない事情があるときは、期日を経ないことができるものとされております(民事保全法第23条第4項)。

質問4 職務代行者は誰が選ばれますか。

裁判所が選任いたします。当事者と利害関係のない弁護士が選任されることが多いと考えられますが、必ずそうなると申し上げることはできません。

質問5 相手方から先に仮処分を申し立てられました。

債務者として審尋の期日において反論することができます。保全の必要性を争うことが中心となりますので、会社の業務が現に適切に行われていることを示す資料を整理してください。

 確認事項の一覧

確認事項 確認の方法
解職の決議の内容 取締役会議事録
招集の通知の有無及び時期 手元の通知
現在の登記の記載 登記事項証明書
会社の資産の処分の動き 稟議の記録、契約書、電子メール
資金の状況 預金の取引の記録
担保に充てる資金 自らの資力の確認

保全の必要性を基礎づける資料は、時の経過とともに入手が困難となります。会社の内部の資料に接することができる段階で確保しておくことが重要でございます。

本記事における非開示事項について

保全の必要性の主張の組み立て、疎明の資料の選び方、職務代行者の選任を求めるかどうかの判断、担保の額の見通しは、会社の状況及び資料の状況により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

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弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第349条第4項(代表取締役の権限)、第352条第1項(職務代行者の権限)、第362条第2項第3号(代表取締役の選定及び解職)、第369条第1項・第2項(取締役会の決議)、第917条(職務執行停止の登記)

民事保全法 第13条第1項(申立ての理由の疎明)、第14条第1項(担保)、第23条第2項・第4項(仮の地位を定める仮処分)、第56条(法人の代表者の職務執行停止の仮処分の登記の嘱託)

判例法理による部分 常務に属する行為の範囲及び保全の必要性の評価については、判例法理及び実務の運用によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

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