従業員及び取引先への説明をどのように行うか

従業員及び取引先への説明をどのように行うか

解任をめぐる争いが生じた場合、従業員及び取引先は、誰が会社を代表しているのかが分からず、不安を抱えることになります。他方で、説明の内容によっては、名誉又は信用に関する責任を問われるおそれがございます。本記事では、説明の範囲と方法について、法的な観点から整理いたします。

 結論 事実に限り、評価を避けて説明します

基本的な方針は、次のとおりです。

方針 内容
事実に限ること 確認された事実のみを述べ、推測を述べません
評価を避けること 相手方の人格に関する評価を述べません
手続を説明すること いかなる法的手続を採っているかを客観的に述べます
書面によること 後の争いに備え、書面により行い、写しを保管します
範囲を限ること 説明を必要とする相手方に限ります

説明の必要性が高い場面であるほど、表現に慎重を期す必要がございます。文案について事前にご相談いただくことをお勧めいたします。

 説明の目的

説明の目的は、第一に、取引の相手方が誤解に基づく取引を行うことを防ぐことでございます。登記すべき事項は登記の後でなければ善意の第三者に対抗することができませんので(会社法第908条第1項)、争いがある旨を通知しておくことには意味がございます。

第二に、従業員の動揺を抑え、業務の継続を図ることでございます。第三に、後に事実関係を立証するための記録を残すことでございます。

 法的な制約

 名誉毀損

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず処罰の対象となり得ます(刑法第230条第1項)。もっとも、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出た場合において、真実であることの証明があったときは、罰しないものとされております(同法第230条の2第1項)。

民事上も、名誉を毀損した場合には、損害の賠償の責任を負う余地がございます(民法第709条、第710条)。裁判所は、名誉を毀損した者に対して、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができます(民法第723条)。

 信用毀損及び業務妨害

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、処罰の対象となり得ます(刑法第233条)。

また、競争関係にある者の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、又は流布する行為については、不正競争防止法に定めが設けられております。

 在任中の義務との関係

役員の地位を有する間は、会社のため忠実にその職務を行う義務を負います(会社法第355条)。会社の信用を損なう説明を行った場合には、任務を怠ったものとして責任を問われる余地がございます(会社法第423条第1項)。

 説明の内容の組み立て

述べてよい事項 避けるべき事項
令和何年何月何日に解任の決議がされたとされていること 相手方が不正を行ったという断定
当該決議の効力を争う手続を進めていること 相手方の人格に関する評価
登記の現在の記載 確認していない事実の推測
連絡先及び問合せの方法 取引の中止を求める要請
従前の取引の継続を希望していること 結果の見通しの断定

特に、結果の見通しを断定的に述べることは避けるべきでございます。後に見通しと異なる結果となった場合に、信用を大きく損なうことになります。

 従業員に対する説明

従業員は、雇用の継続について強い不安を抱きます。会社の組織の変動により雇用契約が当然に終了するものではないことを、事実として伝えることが考えられます。

他方、従業員に対して一方の側に付くよう求めることは、避けるべきでございます。従業員が板挟みとなり、かえって業務に支障が生ずるほか、後に不当な働きかけがあったと主張される余地がございます。

 記録の残し方

説明は、口頭のみで行わず、書面又は電子メールにより行い、その写しを保管してください。相手方からの返信も、併せて保管いたします。

面談により説明する場合には、日時、場所、出席者、説明の内容を記録に残してください。この記録は、後に事実関係を立証する際の資料となります。

よくあるご質問

質問1 取引先から誰と契約すればよいか聞かれました。

登記の現在の記載と、争いがある旨とを客観的に伝えることが基本でございます。判断を相手方に委ねる姿勢が適切でございます。

質問2 相手方が事実と異なる説明をしております。

その内容と時期を記録に残してください。内容によっては、名誉又は信用に関する責任を追及する余地がございます。

質問3 従業員に会社の資料を持ち出してもらってもよいですか。

行うべきではありません。従業員に責任が及ぶほか、後の主張の信用を大きく損なう結果となります。

質問4 報道機関に説明することは可能ですか。

影響が大きく、回復が困難でございますので、慎重な検討が必要でございます。事前にご相談ください。

質問5 説明の文案を作ってもらえますか。

ご依頼をいただいた場合には、文案の作成を含めて対応いたします。ご相談は事前予約制です。

 確認事項の一覧

確認事項 確認の方法
登記の現在の記載 登記事項証明書
決議の日及び内容 株主総会議事録、取締役会議事録
採っている法的手続 訴状、申立書
説明の相手方の範囲 取引の重要性、契約の内容
相手方が行っている説明 従業員及び取引先からの聴取
説明の記録 書面、電子メール、面談の記録

説明は一度行うと取り消すことができません。文案を確定させてから行うことが重要でございます。

本記事における非開示事項について

説明の相手方の範囲の定め方、文案における表現の選び方、相手方が行う説明への対応、記録の残し方と後の主張への結び付け方は、会社の状況及び取引の内容により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第355条(忠実義務)、第423条第1項(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)、第908条第1項(登記の効力)

民法 第709条(不法行為による損害賠償)、第710条(財産以外の損害の賠償)、第723条(名誉毀損における原状回復)

刑法 第230条第1項(名誉毀損)、第230条の2第1項(公共の利害に関する場合の特例)、第233条(信用毀損及び業務妨害)

その他 営業上の信用を害する虚偽の事実の告知又は流布については、不正競争防止法に定めが設けられております。

判例法理による部分 名誉毀損における違法性が阻却される場合の判断については、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

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