新たな代表者が行った取引の効力を争う場合

新たな代表者が行った取引の効力を争う場合

解任の決議が無効とされた場合であっても、その間に新たな代表者が行った取引がすべて効力を失うわけではございません。取引の相手方が保護される場面があるためでございます。本記事では、取引の効力を争うことができる場合と、困難な場合とを区別し、併せて責任の追及について整理いたします。

 結論 相手方の保護の有無により結論が分かれます

整理は、次のとおりです。

場面 取引の効力
相手方が事情を知らず、登記も変更されていた場合 取引の効力を否定することは困難でございます
相手方が争いを知っていた場合 効力を争う余地がございます
相手方が会社の関係者である場合 同上
取締役会の決議を欠く重要な財産の処分 相手方の認識により結論が分かれます
会社の内部の行為 効力を否定しやすい場合がございます

取引の効力を争うことが困難である場合であっても、会社に生じた損害について責任を追及する余地は残ります。二つの道筋を並行して検討することになります。

 登記の効力と相手方の保護

 登記の効力

会社が登記すべき事項は、登記の後でなければ善意の第三者に対抗することができません。登記の後であっても、第三者が正当な事由によってその登記があることを知らなかったときは、同様でございます(会社法第908条第1項)。

解任及び新たな代表取締役の選定は登記事項でございますので、変更の登記がされている場合には、取引の相手方は登記の記載を信頼して取引を行うことになります。

 不実の登記

故意又は過失によって不実の事項を登記した者は、その事項が不実であることをもって善意の第三者に対抗することができません(会社法第908条第2項)。決議が存在しないにもかかわらず登記がされた場合には、この規定により相手方が保護される余地がございます。

 代表権の制限

代表取締役は、会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有します(会社法第349条第4項)。この権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができません(同条第5項)。

また、社長、副社長その他会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した取締役の行為については、会社は善意の第三者に対して責任を負うものとされております(会社法第354条)。

 取締役会の決議を欠く行為

取締役会は、重要な財産の処分及び譲受け、多額の借財その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができません(会社法第362条第4項)。したがって、これらの行為について取締役会の決議を欠く場合には、内部的な手続の瑕疵がございます。

もっとも、対外的な効力については、取引の安全の観点から、相手方が決議を欠くことを知り、又は知ることができた場合に限って無効を主張することができると解する考え方が有力でございます。

したがって、相手方が会社の内部の事情を知り得る立場にあったかどうかが、実務上の分かれ目となります。

 決議を争う訴えとの関係

解任の決議を争う場合には、決議の取消しの訴え(会社法第831条第1項)、決議の無効又は不存在の確認の訴え(同法第830条第1項・第2項)によることになります。請求を認容する確定判決は、第三者に対してもその効力を有します(同法第838条)。

もっとも、判決の効力が及ぶことと、既に行われた取引の効力が当然に否定されることとは、別の問題でございます。個別の取引ごとに、相手方の認識を検討することになります。

 責任の追及

相手方 根拠
新たな代表者 会社に対する損害賠償責任(会社法第423条第1項)
同上 第三者に対する損害賠償責任(会社法第429条第1項)
賛成した取締役 取締役会の決議への関与に基づく責任
取引の相手方 事情を知って関与した場合の不法行為の責任

会社が新たな代表者の支配の下にある間は、会社が自ら責任を追及することは期待できません。この場合、株主として責任追及等の訴えを提起することを検討することになります。

 早期に行うべきこと

第一に、登記事項証明書を取得し、変更の登記の日を確認することでございます。登記の日は、相手方の認識を判断する際の基準となります。

第二に、取引の相手方に対して、争いがある旨を書面により通知することでございます。通知の後の取引については、相手方の善意を主張することが困難となります。

第三に、会社の重要な資産の処分が進められている場合には、職務の執行を停止する仮処分その他の保全の手続を検討することでございます。

よくあるご質問

質問1 会社の不動産が売却されてしまいました。

登記の状況と、買主の認識とを確認することになります。買主が事情を知り得たといえるかが分かれ目でございます。

質問2 取引先に事情を伝えてもよいですか。

事実に基づく通知であれば差し支えないと考えられますが、表現によっては名誉を毀損する等の問題が生じ得ます。書面の内容についてご相談ください。

質問3 金融機関からの借入れがされました。

金融機関は登記を確認して取引を行うのが通例でございますので、効力を争うことは容易ではございません。会社に生じた損害の点を検討することになります。

質問4 従業員の解雇が行われました。

会社と従業員との間の問題でございますので、地位を回復した後に個別に対応を検討することになります。

質問5 登記を元に戻すことはできますか。

決議を争う訴えにおいて勝訴の判決を得たうえで、登記の是正を求めることが基本となります。

 確認事項の一覧

確認事項 確認の方法
変更の登記の日 登記事項証明書
決議の日及び内容 株主総会議事録、取締役会議事録
行われた取引の内容及び時期 契約書、登記、振込みの記録
相手方の属性 取引の経緯、従前の関係
取締役会の決議の有無 取締役会議事録
会社の資産の状況 計算書類、登記事項証明書

取引が積み重なるほど回復は困難となります。速やかに着手することが重要でございます。

本記事における非開示事項について

取引の相手方の認識を争う場合の主張の組み立て、通知の書面の記載の程度、保全の手続と本案との組合せ、責任の追及の相手方の選び方は、取引の内容及び相手方の属性により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第349条第4項・第5項(代表取締役の権限)、第354条(表見代表取締役)、第362条第4項(取締役会の専決事項)、第369条第1項(取締役会の決議)、第423条第1項(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)、第429条第1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)、第830条第1項・第2項(決議の不存在又は無効の確認の訴え)、第831条第1項(決議の取消しの訴え)、第838条(認容判決の効力が及ぶ者の範囲)、第908条第1項・第2項(登記の効力)、第915条第1項(変更の登記)

民法 第109条第1項(代理権授与の表示による表見代理)、第110条(権限外の行為の表見代理)、第112条第1項(代理権消滅後の表見代理)

判例法理による部分 取締役会の決議を欠く重要な財産の処分の効力及び決議が取り消された場合の取引への影響については、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

関連するご案内

社長がクーデターにより解任されてお困りではありませんか のページで、確認すべき事項と採り得る手続を整理しております。ご相談は事前予約制です。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

このページの位置付けと、関連するページ

本ページは、代表取締役の解職に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページを御覧ください。

▶ 取締役会の決議による代表取締役の解職を争う方法

同じ主題を扱う関連ページ

具体的な御相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。