退任の登記がされても保証契約は残るのか

退任の登記がされても保証契約は残るのか

退任の登記がされても、個人保証は残ります。保証は、会社ではなく債権者である金融機関との間の契約でございますので、役員の地位の変動により当然に消滅するものではないためでございます。本記事では、この帰結と、残る範囲を限る方法を整理いたします。

 結論 登記の変更は保証に影響しません

整理は、次のとおりです。

事項 取扱い
退任の登記 保証契約に影響を及ぼしません
会社が承諾したこと 債権者を拘束いたしません
保証の消滅 債権者の同意、主たる債務の消滅等によります
既存の債務 原則として保証が及びます
退任後の新たな債務 根保証の元本が確定しているかによります

したがって、退任に際しては、登記の変更とは別に、金融機関との間で保証の取扱いを協議する必要がございます。

 保証が残る理由

保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負います(民法第446条第1項)。この責任は、保証人と債権者との間の契約に基づくものでございます。

会社が登記事項に変更が生じたときは2週間以内に変更の登記をしなければならず(会社法第915条第1項)、登記すべき事項は登記の後でなければ善意の第三者に対抗することができません(会社法第908条第1項)。もっとも、これらは会社と第三者との関係に関する定めであり、保証契約の効力を左右するものではございません。

 保証の範囲

保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含いたします(民法第447条第1項)。他方、保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは、主たる債務の限度に減縮されます(民法第448条第1項)。

 根保証の場合

 極度額

個人が保証人となる根保証契約は、極度額を定めなければ、その効力を生じません(民法第465条の2第1項・第2項)。極度額の定めがない契約書である場合には、効力そのものを争う余地がございます。

 元本の確定

個人根保証契約においては、債権者が保証人の財産について強制執行等を申し立てたとき、保証人が破産手続開始の決定を受けたとき、又は主たる債務者若しくは保証人が死亡したときに、主たる債務の元本が確定するものとされております(民法第465条の4第1項)。

退任は、法律上の元本の確定の事由とはされておりません。したがって、退任の後に会社が新たに借入れを行った場合にも、なお保証が及ぶおそれがございます。

 退任を理由とする解約

役員としての地位に基づいて根保証をした場合において、退任を理由として将来に向かって解約することができるとする議論がございます。もっとも、事案により判断が分かれ得る領域でございますので、確実に認められると申し上げることはできません。

実務上は、退任の事実を書面により金融機関に通知し、以後の新たな債務について保証の意思がないことを明らかにしたうえで、その記録を残すことが基本でございます。

 保証意思の確認に関する制度

事業のために負担した貸金等債務を主たる債務とする保証契約は、契約の締結に先立ち、公正証書で保証をする意思を表示していなければ、その効力を生じないものとされております(民法第465条の6第1項)。

もっとも、主たる債務者の理事、取締役、執行役等については、この定めが適用されない旨の規定が設けられております(民法第465条の9)。役員としての保証は、この適用の除外に当たることが多いと考えられます。

 残高の確認

主たる債務者の委託を受けて保証をした場合には、債権者は、保証人の請求があったときは、遅滞なく、主たる債務の元本及び利息等についての不履行の有無並びにこれらの残額等に関する情報を提供しなければならないものとされております(民法第458条の2)。

退任の後も、この請求により残高を把握することができます。定期的に確認することをお勧めいたします。

よくあるご質問

質問1 会社が保証を外すと約束しました。

会社の約束は債権者を拘束いたしません。金融機関の同意を得る必要がございます。

質問2 後任者が保証人になれば外れますか。

金融機関が同意すれば外れます。同意を得るための協議が必要でございます。

質問3 退任後の借入れにも保証が及びますか。

根保証であり元本が確定していない場合には、及ぶおそれがございます。書面による通知を速やかに行ってください。

質問4 保証契約書に極度額の記載がありません。

個人根保証契約については、極度額を定めなければ効力を生じないものとされております。契約の時期と併せて確認が必要でございます。

質問5 支払った場合に会社に請求できますか。

委託を受けて保証をした場合には、会社に対して求償することができます(民法第459条第1項)。

 確認事項の一覧

確認事項 確認の方法
保証契約の締結の日 保証契約書
保証の種類 同上
極度額の定め 同上
元本の確定の事由の定め 同上
現在の残高 情報の提供の請求
退任の年月日 登記事項証明書
会社との合意 合意書、株式譲渡契約書

退任の直後に金融機関へ通知を行うことが、範囲を限るうえで重要でございます。ご相談は事前予約制です。

本記事における非開示事項について

金融機関に対する通知の記載の程度、退任を理由とする解約の主張の組み立て、後任者への引継ぎを求める協議の進め方、極度額の定めを欠く場合の主張は、契約の内容及び金融機関の姿勢により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

民法 第446条第1項(保証人の責任)、第447条第1項(保証債務の範囲)、第448条第1項(保証人の負担と主たる債務の目的又は態様)、第458条の2(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務)、第459条第1項(委託を受けた保証人の求償権)、第465条の2第1項・第2項(個人根保証契約の極度額)、第465条の4第1項(個人根保証契約の元本の確定事由)、第465条の6第1項(公正証書による保証意思の表示)、第465条の9(適用の除外)

会社法 第908条第1項(登記の効力)、第915条第1項(変更の登記)

その他 経営者保証に関するガイドラインは、金融機関と経営者との間の保証の取扱いについて定められた自主的な準則でございます。法令ではございません。

判例法理による部分 退任を理由とする根保証契約の解約の主張の可否については、判例法理及び契約の解釈によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

関連するご案内

解任された後も会社の借入れの個人保証が外れず貸付金も返らずお困りではありませんか のページで、確認すべき事項と採り得る手続を整理しております。ご相談は事前予約制です。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

このページの位置付けと、関連するページ

本ページは、解任の後の個人保証及び貸付金に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページを御覧ください。

▶ 紛争を伴う退任の後に個人保証を外すための交渉

同じ主題を扱う関連ページ

具体的な御相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。