株主総会で解任の議案が否決された後に採り得る手続

株主総会で解任の議案が否決された後に採り得る手続

解任の議案が株主総会で否決された場合であっても、株主が採り得る手続は残されております。中心となるのは役員の解任の訴えでございますが、この訴えには総会の日から30日という短い期限がございます。本記事では、この訴えの要件を確認したうえで、他の手続との使い分けを整理いたします。

 結論 30日の期限がある解任の訴えを最優先で検討します

採り得る手続は、次のとおりです。

手続 内容 期限
役員の解任の訴え 裁判所に対し、役員の解任を請求します(会社法第854条第1項) 株主総会の日から30日以内
行為の差止めの請求 法令又は定款に違反する行為の差止めを求めます(会社法第360条第1項) 行為が行われる前
責任追及等の訴え 会社に生じた損害の賠償を求めます(会社法第847条) 提訴の請求から60日等
決議の取消しの訴え 否決の決議に手続の瑕疵がある場合 決議の日から3か月以内
株主総会の招集の請求 改めて議案を諮ります(会社法第297条第1項) 期限はありません

30日という期限は極めて短いものでございます。総会において否決されることが見込まれる段階から、準備を始めることが望まれます。

 役員の解任の訴え

 要件

役員の職務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、当該役員を解任する旨の議案が株主総会において否決されたときは、一定の株主は、当該株主総会の日から30日以内に、訴えをもって当該役員の解任を請求することができます(会社法第854条第1項)。

要件 内容
実体の要件 職務の執行に関する不正の行為、又は法令若しくは定款に違反する重大な事実
手続の要件 解任の議案が株主総会において否決されたこと
原告の要件 総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主等
期限 株主総会の日から30日以内

公開会社でない株式会社においては、6か月前から引き続き有することという要件は適用されません(会社法第854条第2項)。

 実体の要件の内容

不正の行為とは、役員がその義務に違反して会社に損害を生じさせる行為をいうものと解されております。会社の資金の私的な流用、帳簿の改変、承認を得ない競業取引といったものが、これに当たり得ます。

法令若しくは定款に違反する重大な事実については、違反の内容及び会社に与えた影響の程度により判断されます。単に経営方針が対立していること、業績が悪化したことは、これに当たらないのが通例でございます。

 被告及び管轄

訴えは、会社及び当該役員の双方を被告として提起いたします(会社法第855条)。管轄は、会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所に専属いたします(会社法第856条)。

 総会に先立って準備すべきこと

30日という期限を踏まえれば、総会の前に主張及び資料を整えておく必要がございます。

準備 内容
事実の特定 不正の行為又は違反の事実を、時期及び内容とともに特定します
資料の収集 計算書類、会計帳簿、取締役会議事録等を収集します
株主としての要件の確認 持株の割合及び保有の期間を確認します
議案の上程 解任の議案を確実に上程させます(会社法第303条、第305条)
議事録の確保 否決の事実を議事録により確認します

会計帳簿の閲覧等の請求により資料を収集する場合には、請求から資料の入手までに時間を要します。総会に先立って着手することが必要でございます。

 他の手続との使い分け

 行為の差止めの請求

6か月前から引き続き株式を有する株主は、取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、その行為をやめることを請求することができます(会社法第360条第1項)。

解任には至らないものの、特定の行為を止める必要がある場合には、この手続を検討いたします。監査役が置かれている会社においては、監査役による差止めの制度もございます(会社法第385条第1項)。

 責任追及等の訴え

既に会社に損害が生じている場合には、責任追及等の訴えにより、役員に対して損害の賠償を求めることが考えられます(会社法第847条、第423条第1項)。解任と異なり、金銭による回復を目的とするものでございます。

 決議の取消しの訴え

否決の決議に手続の瑕疵がある場合、たとえば議決権を有しない者が議決に加わっていた場合には、決議の取消しを求める余地がございます(会社法第831条第1項)。取消しが認められれば、改めて決議を行うことになります。

 改めて総会を招集する

株主構成に変動が生じた場合や、新たな事実が判明した場合には、改めて株主総会の招集を請求し、解任の議案を諮ることが考えられます(会社法第297条第1項)。

 仮の救済

解任の訴えの判決を待つ間に会社に回復し難い損害が生ずるおそれがある場合には、職務の執行を停止する仮処分を検討することがございます(民事保全法第23条第2項)。

もっとも、保全の必要性の疎明が求められますので、認められるかは事案により異なります。結果を保証することはできません。

 費用及び見通し

解任の訴えは、会社及び役員の双方を相手とするものでございますので、審理は容易ではございません。実体の要件が厳格でございますので、認容されるかは事実関係により大きく左右されます。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。ご相談は事前予約制です。

よくあるご質問

質問1 総会の日から30日を過ぎてしまいました。

解任の訴えを提起することはできません。責任追及等の訴え、差止めの請求、改めての総会の招集を検討することになります。

質問2 議案が上程されませんでした。

否決されたことが要件でございますので、上程されていない場合には要件を欠きます。議題の提案権を用いて上程させる必要がございます。

質問3 持株が100分の3に満たない場合はどうしますか。

他の株主と共同して要件を満たす方法がございます。定款により要件が緩和されている場合もございます。

質問4 不正を裏付ける資料がありません。

会計帳簿の閲覧等の請求により収集することが考えられます。総会に先立って着手してください。

質問5 会社側の代理人を依頼することもできますか。

当事務所は、株主の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っております。

 確認事項の一覧

確認事項 確認の方法
株主総会の日 株主総会議事録
議案の上程及び否決の事実 同上
持株の数及び割合 株主名簿
保有の期間 取得の記録
定款の要件に関する定め 定款の謄本
不正の行為を示す資料 会計帳簿、取締役会議事録、契約書
会社の本店の所在地 登記事項証明書

総会の日から30日という期限が最も重要でございます。総会の前にご相談ください。

本記事における非開示事項について

不正の行為又は違反の重大な事実の主張の組み立て、総会に先立つ資料の収集の順序、解任の訴えと他の手続との組合せ、仮処分を検討すべき場面の見極めは、株主構成及び資料の状況により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第297条第1項(株主による招集の請求)、第303条第1項・第2項(議題の提案権)、第305条第1項(議案の要領の通知の請求)、第339条第1項(役員の解任)、第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)、第360条第1項(株主による取締役の行為の差止め)、第385条第1項(監査役による取締役の行為の差止め)、第423条第1項(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)、第831条第1項(決議の取消しの訴え)、第847条(責任追及等の訴え)、第854条第1項・第2項(役員の解任の訴え)、第855条(被告)、第856条(訴えの管轄)

民事保全法 第23条第2項(仮の地位を定める仮処分)

判例法理による部分 不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実の判断については、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

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