招集通知を受け取っていない場合の主張

招集通知を受け取っていない場合の主張

「解任の決議があったと聞きましたが、招集通知は受け取っていません」「後から郵便が届きましたが、総会の日を過ぎていました」。招集通知の欠落は、株主総会の決議を争う際に最も多く問題となる瑕疵です。本記事では、この点の主張の組み立てを整理します。当事務所は役員の側にも会社の側にも立ちますが、本記事は地位を争う側の方に向けたものです。

 結論 招集通知の欠落は重大な瑕疵と評価されやすい類型です

株主総会を招集するには、株主総会の日の2週間(公開会社でない株式会社にあっては、1週間。当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、株主に対してその通知を発しなければならないものとされています(会社法第299条第1項)。

したがって、通知が発せられていない場合には、招集の手続が法令に違反することとなり、決議取消しの訴えの事由となり得ます(会社法第831条第1項第1号)。

招集通知の欠落は、株主の議決権の行使の機会そのものを奪うものですので、重大な瑕疵と評価されやすい類型です。もっとも、裁判所は、違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、請求を棄却することができるものとされていますので(会社法第831条第2項)、この点への反論を併せて準備する必要があります。

 招集通知に関する規律

事項 内容 根拠
発すべき時期 総会の日の2週間前まで(公開会社でない株式会社にあっては1週間前まで。取締役会設置会社以外の株式会社では定款により短縮可能) 会社法第299条第1項
書面によることを要する場合 書面又は電磁的方法による議決権の行使を定めた場合、取締役会設置会社である場合 会社法第299条第2項
記載事項 総会の日時及び場所、目的である事項等 会社法第299条第4項、第298条第1項
電磁的方法による通知 株主の承諾を得た場合 会社法第299条第3項
招集手続の省略 株主の全員の同意があるとき(書面等による議決権行使を定めた場合を除きます) 会社法第300条

 発信主義

招集の通知は「発しなければならない」と定められています(会社法第299条第1項)。したがって、通知を発した時点で足り、株主に到達したことまでは要求されないと解されています。

この点は、争う側にとって不利に働く場合があります。会社が「発送した」と主張し、株主が「受け取っていない」と述べる場合、発送の事実が立証されれば、招集手続の瑕疵は否定される方向に働きます。

もっとも、次の点を主張することが考えられます。

主張 内容
発送の事実自体の否認 発送の記録がないこと、発送簿がないこと
送付先の誤り 株主名簿上の住所と異なる場所に送付されたこと
期間の不足 発送の日から総会の日までが法定の期間に満たないこと
記載事項の欠落 目的である事項が記載されていないこと
意図的な不到達 到達しないことを企図した方法が用いられたこと

 議題の記載

招集の通知には、株主総会の目的である事項を記載しなければならないものとされています(会社法第299条第4項、第298条第1項第2号)。取締役会設置会社においては、株主総会は、招集の通知に記載された事項以外の事項については決議をすることができないものとされています(会社法第309条第5項。ただし、一定の場合を除きます)。

したがって、招集通知に解任の議案が記載されていなかったにもかかわらず解任の決議がされた場合には、その点自体が瑕疵となります。

 裁量棄却への反論

裁判所は、招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、請求を棄却することができるものとされています(会社法第831条第2項)。

これに対する反論の視点は、次のとおりです。

反論の視点 内容
瑕疵の重大性 議決権の行使の機会そのものを奪うものであること
議決権の割合 通知を受けなかった株主の議決権が結果を左右し得たこと
議論への影響 出席していれば、他の株主の判断に影響を与え得たこと
情報の提供 当該株主のみが有していた情報があったこと
意図性 通知を発しなかったことが意図的であったこと
反復性 従前も同様の取扱いが繰り返されていたこと

裁量棄却は、要件として「重大でないこと」及び「決議に影響を及ぼさないこと」の双方を要求しています。したがって、いずれか一方を否定すれば、裁量棄却は認められないことになります。

 招集手続の省略の主張への対応

会社が「株主全員の同意があったので招集手続を省略した」と主張することがあります(会社法第300条)。この場合、次の点を検証します。

検証の視点 内容
全員の同意の有無 議決権を行使することができる株主の全員の同意が必要です
同意の対象 招集手続の省略についての同意であるか
同意の時期 総会の開催前に同意があったか
同意の立証 書面その他の記録の有無

また、株主総会の決議があったものとみなす制度(会社法第319条第1項)が用いられたと主張される場合には、書面又は電磁的記録による全員の同意の意思表示があったかを検証します。同意書が存在するとされる場合には、その成立の真正が争点となり得ます。私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定されるものとされています(民事訴訟法第228条第4項)。

 解任された取締役が株主でない場合

招集通知を受ける権利は、株主に認められたものです。したがって、株式を保有していない取締役は、招集通知の欠落を自らの権利の侵害として主張する立場にはありません。

もっとも、他の株主に対する通知が欠落していた場合には、それが招集手続の瑕疵となります。解任された取締役が決議取消しの訴えの原告適格を有する場合には、他の株主に対する通知の欠落を瑕疵として主張することが考えられます。

なお、取締役は、株主総会に出席し、株主から求められた場合には説明をする立場にあります(会社法第314条)。取締役に対して総会の開催が知らされていなかった場合には、その点も決議方法の瑕疵に関わる事情となり得ます。

 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 資料
1 総会の日 議事録、登記事項証明書
2 招集通知の発送の有無、方法、時期 会社の記録、郵便の記録
3 株主名簿上の住所 株主名簿
4 現実の住所との一致 住民票、実際の居所
5 通知の記載事項 通知書
6 定款上の招集に関する定め 定款
7 公開会社でない株式会社か 定款、登記事項証明書
8 取締役会設置会社か 登記事項証明書
9 全員の同意の主張の有無 会社の説明、同意書
10 決議の日からの経過日数 計算

株主名簿上の住所が古いままとなっている場合、会社が名簿上の住所に発送すれば足りるとされる余地があります。他方、会社が現実の住所を知りながらあえて古い住所に発送した場合には、その点を主張することが考えられます。

 弁護士にご相談いただく意味

招集通知の欠落は、一見すると明白な瑕疵に見えますが、発信主義、裁量棄却、招集手続の省略といった論点により、結論が左右されます。また、決議取消しの訴えには決議の日から3か月という期間の制限があります。

弁護士は、解任された役員の代理人として、招集の経過の検証、発送の事実に関する主張、裁量棄却への反論の構成、訴えの選択、訴訟の遂行を行います。

なお、主張の順序、資料の提示の時期、他の瑕疵との組合せ方は、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してまいりました実務上の知見に属しますので、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 通知を受け取っていなければ、決議は必ず取り消されますか。

招集手続の法令違反として取消しの事由となり得ますが、裁量棄却の規定があります(会社法第831条第2項)。瑕疵の重大性及び決議への影響を併せて主張する必要があります。

質問2 会社は「発送した」と言っています。

招集の通知は発することで足りるとされていますので、発送の事実が立証されれば瑕疵は否定される方向に働きます。発送の記録の有無、送付先、期間の充足を検証することになります。

質問3 総会の3日前に通知が届きました。

公開会社でない株式会社においては、総会の日の1週間前までに通知を発しなければならないものとされています(会社法第299条第1項)。取締役会設置会社以外の株式会社では、定款により期間を短縮することができます。定款の定めと発送の日を確認する必要があります。

質問4 通知に「その他の件」としか書かれていませんでした。

取締役会設置会社においては、株主総会は招集の通知に記載された事項以外の事項については決議をすることができないものとされています(会社法第309条第5項)。目的である事項の記載を確認することになります。

質問5 自分は株主ではありませんが、取締役として総会の開催を知らされていませんでした。

招集通知を受ける権利は株主に認められたものですが、取締役が総会の開催を知らされていなかったことは、決議方法に関する事情となり得ます。他の株主への通知の状況と併せて検討します。

 通知の欠落を示す資料

資料 示し得る事項
郵便受けの状況、受領した郵便の記録 到達していないこと
会社の発送簿、郵便の受領証 発送の有無(会社が保有します)
株主名簿上の住所 送付先の適否
住民票、実際の居所を示す資料 現実の住所
転送の届出の有無 到達の可能性
他の株主への通知の状況 会社の取扱いの一貫性

会社の発送に関する記録は会社が保有していますので、訴訟の段階では文書提出命令の申立て(民事訴訟法第219条から第223条まで)を検討することになります。

本記事における非開示事項について

主張の順序、資料の提示の時期、他の瑕疵との組合せ方は、株主構成、決議の経過等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、株主総会の決議の効力に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

決議の日から3か月が近い場合には、その旨をお申し出ください。ご相談に際しましては、登記事項証明書、定款の写し、株主名簿の写し、届いた通知書及び封筒、株主総会議事録の写しをお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。

本記事の根拠条文

会社法 第298条第1項(株主総会の招集の決定)、第299条第1項・第2項・第3項・第4項(招集の通知)、第300条(招集手続の省略)、第309条第5項(招集の通知に記載された事項以外の事項の決議)、第314条(取締役等の説明義務)、第318条(株主総会議事録)、第319条第1項(株主総会の決議の省略)、第339条第1項(役員の解任)、第830条第1項・第2項(決議不存在確認及び決議無効確認の訴え)、第831条第1項・第2項(決議取消しの訴え及び裁量棄却)、第834条(被告)

民事訴訟法 第228条第4項(文書の成立の推定)

判例法理による部分 瑕疵が取消しの事由にとどまるか不存在に至るかの判断、裁量棄却の当否については、判例法理及び個別の事実関係によります。

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