同族会社の株主総会に手続の不備が生じやすい理由

同族会社の株主総会に手続の不備が生じやすい理由

同族会社の株主総会は、平時においては形式的に処理されていることが多く、紛争が生じて初めて、その手続の不備が問題として浮かび上がります。本記事では、不備が生じやすい理由と、解任の決議を争う際に着目すべき点を整理します。当事務所は役員の側にも会社の側にも立ちますが、本記事は地位を争う側の方に向けたものです。

 結論 平時の運用がそのまま瑕疵となります

同族会社では、次の運用が広く見られます。

平時の運用 紛争時に生じる問題
総会を現実には開催せず、議事録のみを作成する 決議の不存在の主張の余地が生じます
招集通知を発しない 招集手続の法令違反
株主名簿を作成していない、又は更新していない 議決権を行使すべき者が不明確となります
相続が生じた株式の名義を書き換えていない 議決権の帰属が争われます
親族の名義で株式を保有させている 名義株式の帰属が争われます
議事録を後日まとめて作成する 記載の正確性が争われます
定款を長年見直していない 定款の定めと実際の運用とが乖離します

これらの運用は、経営者と株主とが実質的に同一であった間は問題となりません。ところが、親族間に対立が生じ、一方が他方を解任しようとする段階に至ると、これらの運用がそのまま手続の瑕疵として現れます。

したがって、解任された側からは、これらの点を検証することになります。もっとも、同じ運用を自らも行ってきた場合には、その点が反論の材料とされ得ることにも留意を要します。

 招集手続に関する検証

 招集の決定

株主総会を招集する場合には、取締役会設置会社においては取締役会の決議によって、株主総会の日時及び場所、目的である事項等を定めなければならないものとされています(会社法第298条第1項、第4項)。

したがって、取締役会の決議を経ずに招集された株主総会については、招集の手続に法令の違反があるものとして、決議取消しの訴えの事由となり得ます(会社法第831条第1項第1号)。

 招集の通知

株主総会を招集するには、株主総会の日の2週間(公開会社でない株式会社にあっては、1週間。当該株式会社が取締役会設置会社以外の株式会社である場合において、これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、株主に対してその通知を発しなければならないものとされています(会社法第299条第1項)。

書面による議決権の行使を認める場合等を除き、取締役会設置会社以外の株式会社においては、通知は口頭によることも可能とされています。もっとも、通知が現実に発せられたかどうかが争点となりますので、記録の有無が重要となります。

 招集手続の省略

株主の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく株主総会を開催することができるものとされています(会社法第300条。ただし、書面又は電磁的方法による議決権の行使を定めた場合を除きます)。全員の同意があったかどうかが争点となります。

 決議の省略に関する検証

取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限ります)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなされるものとされています(会社法第319条第1項)。

同族会社では、この方法が用いられることがあります。争う側としては、次の点を検証します。

検証の視点 内容
全員の同意があるか 議決権を行使することができる株主の全員の同意を要します
書面又は電磁的記録によるか 口頭の同意では足りません
同意書の真正 署名又は押印の真正、作成の時期
提案の内容 提案された事項と決議されたとされる内容との一致

同意書に署名を求められた記憶がないにもかかわらず、同意書が存在するという事案があります。この場合、文書の成立の真正が争点となります。私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定されるものとされています(民事訴訟法第228条第4項)。

 議決権の帰属に関する検証

 株主名簿の記載

株式の譲渡は、その株式を取得した者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載し、又は記録しなければ、会社に対抗することができないものとされています(会社法第130条第1項)。したがって、名簿の記載が誰であるかは、議決権の行使において重要な意味を持ちます。

もっとも、名簿が作成されていない、又は現状を反映していない場合には、実際の帰属を検討することになります。

 相続が生じた株式

株式が相続により複数の者に承継され、遺産分割が未了である場合には、当該株式は相続人の準共有となります。株式が2以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者1人を定め、会社に対しその者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができないものとされています(会社法第106条。ただし、会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでないとされています)。

この手続が履践されていないまま議決権が行使されている場合には、その点を指摘し得ます。

 名義株式

親族の名義で株式が保有されている場合、実質的な帰属が争われます。資金の出所、配当の受領者、従前の議決権の行使の実態、税務上の取扱い等により判断されます。この点は判例法理及び個別の事実関係によります。

 自己株式

会社は、自己株式については、議決権を有しないものとされています(会社法第308条第2項)。同族会社では、過去に自己株式を取得したまま処理が明確でない例がありますので、確認を要します。

 議事録に関する検証

株主総会の議事については、議事録を作成しなければならないものとされています(会社法第318条第1項)。議事録の記載事項は、会社法施行規則の定めるところによります。

同族会社の議事録には、次の問題が生じがちです。

問題 検証の視点
開催の日時及び場所が実態と異なる 当日の関係者の所在、他の記録との整合
出席したとされる株主が実際には出席していない 本人の記憶、他の記録
議事の経過の記載が形式的である 現実の議論の有無
署名又は記名押印が後日行われた 作成の時期
複数の議事録の記載が矛盾する 相互の照合

議事録は、株主総会の日から10年間、本店に備え置かなければならないものとされ(会社法第318条第2項)、株主及び債権者は、その閲覧又は謄写を請求することができます(同条第4項)。

 瑕疵の主張の枠組み

瑕疵の内容 主張し得る訴え 期間の制限
招集手続又は決議方法の法令若しくは定款違反、著しい不公正 決議取消しの訴え(会社法第831条第1項第1号) 決議の日から3か月
決議の内容の定款違反 決議取消しの訴え(同項第2号) 決議の日から3か月
特別の利害関係を有する者の議決権行使による著しく不当な決議 決議取消しの訴え(同項第3号) 決議の日から3か月
決議の内容の法令違反 決議無効確認の訴え(会社法第830条第2項) ありません
決議の不存在 決議不存在確認の訴え(会社法第830条第1項) ありません

なお、招集の手続又は決議の方法が法令又は定款に違反するときであっても、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができるものとされています(会社法第831条第2項)。したがって、瑕疵の重大性及び決議への影響を併せて主張する必要があります。

 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 資料
1 招集を決定した取締役会の決議の有無 取締役会議事録
2 招集通知の有無、方法、時期 通知書、記録
3 定款上の招集に関する定め 定款
4 株主名簿の記載 株主名簿
5 実際の株主構成 法人税申告書別表二、贈与又は相続の資料
6 相続が生じた株式の権利行使者の通知の有無 記録
7 自己株式の有無 計算書類、株主名簿
8 議事録の記載と実態との一致 議事録、他の記録
9 決議の省略が用いられたか 同意書
10 決議の日からの経過期間 議事録、登記事項証明書

 弁護士にご相談いただく意味

同族会社の総会の瑕疵は、複数の点にわたって存在することが通常です。他方、瑕疵があれば必ず決議が取り消されるわけではなく、重大性及び決議への影響が問われます(会社法第831条第2項)。したがって、どの瑕疵を主軸に据えるかの判断が重要となります。

弁護士は、解任された役員の代理人として、招集から決議に至る経過の検証、株主構成の確定、議事録の分析、訴えの選択、訴訟の遂行を行います。

なお、どの瑕疵を主軸に据えるか、主張の順序、資料の提示の時期は、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してまいりました実務上の知見に属しますので、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 これまでも総会は開いていませんでした。今回だけを問題にできますか。

従前の運用が同様であったことは、会社側から反論の材料とされ得ます。もっとも、従前の運用がどうであれ、今回の決議について法定の手続が履践されていなければ、瑕疵は瑕疵です。従前の運用の実態を含めて整理したうえで主張を組み立てます。

質問2 瑕疵があれば必ず決議は取り消されますか。

違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、裁判所は請求を棄却することができるものとされています(会社法第831条第2項)。したがって、瑕疵の重大性及び決議への影響を併せて主張する必要があります。

質問3 議事録に自分が出席したと書かれていますが、出席していません。

議事録の記載が事実と異なることを主張することになります。当日の所在を示す資料(移動の記録、他の予定、通信の記録)が有用です。

質問4 同意書に署名した覚えがないのに、決議があったことにされています。

文書の成立の真正が争点となります。私文書は本人の署名又は押印があるときは真正に成立したものと推定されますので(民事訴訟法第228条第4項)、印章の管理の状況等を主張して推定を覆すことを検討します。

質問5 株主名簿がありません。

法人税申告書別表二、過去の株式の異動の記録、贈与又は相続に関する資料等により、実際の株主構成を確認することになります。

本記事における非開示事項について

どの瑕疵を主軸に据えるか、主張の順序、資料の提示の時期は、株主構成、従前の運用、資料の状況等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、株主総会の決議の効力に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

決議の日から3か月が近い場合には、その旨をお申し出ください。ご相談に際しましては、登記事項証明書、定款の写し、株主名簿の写し、法人税申告書別表二の写し、招集通知、株主総会議事録の写しをお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。

本記事の根拠条文

会社法 第106条(共有者による権利の行使)、第121条(株主名簿)、第125条第2項(株主名簿の閲覧等)、第130条第1項(株式の譲渡の対抗要件)、第296条(株主総会の招集)、第298条第1項・第4項(株主総会の招集の決定)、第299条第1項(招集の通知)、第300条(招集手続の省略)、第308条第2項(自己株式の議決権)、第318条第1項・第2項・第4項(株主総会議事録)、第319条第1項(株主総会の決議の省略)、第339条第1項(役員の解任)、第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)、第830条第1項・第2項(決議不存在確認及び決議無効確認の訴え)、第831条第1項・第2項(決議取消しの訴え及び裁量棄却)

民事訴訟法 第228条第4項(文書の成立の推定)

判例法理による部分 名義株式に関する株主権の帰属の判断については、判例法理及び個別の事実関係によります。

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