議決権を有しない者が議決に加わっていた場合

議決権を有しない者が議決に加わっていた場合
解任の決議において、議決権を有しない者が議決に加わっていた場合には、決議の方法が法令に違反するものとして、決議の取消しを求める余地がございます。議決権を有しないとされる場合は複数ございますので、まずいずれの類型に当たるかを整理する必要がございます。本記事では、類型ごとの取扱いと、争い方を整理いたします。
結論 類型を特定したうえで計算をやり直します
検討の順序は、次のとおりです。
| 順序 | 内容 |
|---|---|
| 第1 | 議決権を行使した者を議事録により特定します |
| 第2 | 各人が議決権を有していたかを、類型に照らして検討します |
| 第3 | 議決権を有しない者を除いて、定足数及び多数を計算し直します |
| 第4 | 決議の成否が変わる場合には、決議の取消しの訴えを検討します |
役員を解任する決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数をもって行われます(会社法第341条)。したがって、議決権の数の誤りは、決議の成否に直結いたします。
議決権を有しないとされる場合
法律上の制限
| 類型 | 根拠 |
|---|---|
| 会社が有する自己の株式 | 会社法第308条第2項 |
| 相互に保有する株式のうち一定のもの | 会社法第308条第1項 |
| 単元未満の株式 | 会社法第308条第1項 |
| 特定の株主から自己株式を取得する議案における当該株主 | 会社法第160条第4項 |
| 譲渡等の承認の請求をした者に関する買取りの議案における当該請求者 | 会社法第140条第3項 |
| 相続人等に対する売渡請求の議案における当該相続人等 | 会社法第175条第2項 |
役員の解任の議案そのものについては、対象となる役員が株主である場合であっても、株主としての議決権の行使は制限されないのが原則でございます。この点は、取締役会における特別の利害関係を有する取締役の取扱いとは異なります。
株主でない者が議決権を行使した場合
株式の譲渡は、株主名簿に記載し、又は記録しなければ、会社その他の第三者に対抗することができません(会社法第130条第1項)。名義書換えを経ていない譲受人が議決権を行使した場合には、議決権の帰属が争点となります。
また、基準日が定められている場合には、基準日において株主名簿に記載された株主が議決権を行使することができるものとされております(会社法第124条第1項)。基準日の後に株式を取得した者の取扱いに注意が必要でございます。
共有に属する株式
株式が共同相続により共有に属する場合には、権利を行使する者を1人定め、会社に対してその者の氏名等を通知しなければ、原則として権利を行使することができません(会社法第106条)。通知を経ずに相続人の1人が議決権を行使した場合には、その効力が問題となります。
代理人による行使
株主は、代理人によってその議決権を行使することができます。この場合、株主又は代理人は、代理権を証明する書面を会社に提出しなければなりません(会社法第310条第1項・第2項)。委任状が提出されていない場合や、委任状の効力に疑義がある場合には、議決権の行使の効力が問題となります。
定足数及び多数の計算
議決権を有しない者は、議決権を行使することができる株主に含まれません。したがって、定足数の分母からも、出席の議決権の数からも除かれることになります。
計算をやり直した結果、定足数を満たさない場合や、賛成の議決権が過半数に達しない場合には、決議は成立していないことになります。この場合、決議の方法が法令に違反するものとして、決議の取消しを求める余地がございます。
決議の取消しの訴え
招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反する場合には、決議の取消しを求める訴えを提起することができます。この訴えは、決議の日から3か月以内に提起しなければなりません(会社法第831条第1項)。
もっとも、違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、裁判所は請求を棄却することができるものとされております。議決権を有しない者を除いてもなお決議が成立する場合には、この裁量による棄却がされる余地がございます。
したがって、単に議決権のない者が加わっていたと指摘するだけでは足りず、除いた場合に結論が変わることを示すことが重要でございます。
確認の方法
| 確認事項 | 方法 |
|---|---|
| 出席した株主及び議決権の数 | 株主総会議事録 |
| 株主名簿の記載 | 閲覧又は謄写の請求 |
| 自己株式の有無 | 計算書類、株主名簿 |
| 基準日の定め | 定款、招集の通知 |
| 委任状の提出の状況 | 会社に対する確認 |
| 相続の発生の有無 | 戸籍、株主名簿 |
議事録には出席した株主の議決権の数が記載されるのが通例でございますが、その内訳までは記載されないことがございます。株主名簿と照合することにより、内訳を推定することになります。
会社の側の対応
会社としては、議決権の有無に疑義がある場合には、あらかじめ株主名簿を整理し、委任状の効力を確認しておくことが必要でございます。疑義を残したまま決議を行うと、決議の効力そのものが争われることになります。
当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っております。いずれの立場においても、議決権の確認は総会の準備の中心となる事項でございます。
よくあるご質問
質問1 解任される取締役が株主として賛成に加わりました。
役員の解任の議案について、株主としての議決権の行使は原則として制限されません。したがって、これのみをもって決議を争うことは困難でございます。
質問2 自己株式に議決権があると計算されていました。
会社は自己株式について議決権を有しません(会社法第308条第2項)。計算に誤りがある場合には、決議の方法の法令の違反に当たり得ます。
質問3 委任状の写しを見せてもらえません。
会社に対して書面により提示を求め、記録を残してください。訴訟に至った場合には、文書の提出を求める手続を検討することになります。
質問4 相続人の1人だけが出席しておりました。
権利を行使する者の通知がされていたかを確認してください。通知がない場合には、議決権の行使の効力が問題となります。
質問5 除いても結論が変わりません。
裁量による棄却がされる可能性が高くなります。他の瑕疵と併せて主張することを検討することになります。
確認事項の一覧
| 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|
| 決議の日 | 株主総会議事録、登記事項証明書 |
| 発行済株式の総数 | 登記事項証明書 |
| 自己株式の数 | 計算書類 |
| 株主ごとの持株数 | 株主名簿 |
| 議事録に記載された議決権の数 | 株主総会議事録 |
| 委任状の有無 | 会社に対する確認 |
数字の突合せにより争点が明らかになる場合が少なくありません。まず登記事項証明書と株主名簿を揃えてください。
本記事における非開示事項について
議決権の帰属の争い方、除いた場合に結論が変わることを示す計算の組み立て、裁量による棄却の主張に対する反論、他の瑕疵と併せて主張する場合の構成は、株主構成及び資料の状況により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
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弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第106条(共有者による権利の行使)、第124条第1項(基準日)、第130条第1項(株式の譲渡の対抗要件)、第140条第3項(譲渡等承認請求者の議決権の制限)、第160条第4項(特定の株主からの取得における議決権の制限)、第175条第2項(相続人等に対する売渡請求における議決権の制限)、第308条第1項・第2項(議決権の数)、第309条第1項・第2項(株主総会の決議)、第310条第1項・第2項(議決権の代理行使)、第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)、第831条第1項(決議の取消しの訴え)
判例法理による部分 議決権の帰属及び裁量による棄却の判断については、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。
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