取締役会の決議による代表取締役の解職を争う方法

取締役会の決議による代表取締役の解職を争う方法

「出張から戻ると、取締役会が開かれ、自分が代表取締役を解かれていました」「招集の通知を受けていません」「自分も取締役会に出席していましたが、自分の解職の議案について議決に加われないと言われました」。代表取締役の解職をめぐるご相談は、この形で寄せられます。

本記事では、解職の決議を争う方法を整理します。当事務所は役員の側にも会社の側にも立ちますが、本記事は地位を争う側の方に向けたものです。

 結論 解職は取締役会の決議によるため、取締役会の手続を検証します

解任と解職とは、別のものです。

項目 解任 解職
対象 取締役、監査役等の地位 代表取締役の地位
決定する機関 株主総会 取締役会(取締役会設置会社の場合)
根拠 会社法第339条第1項 会社法第362条第2項第3号
効果 役員の地位を失います 代表権を失いますが、取締役の地位は残ります
争う手段 決議取消しの訴え等(会社法第830条、第831条) 決議の無効の主張(会社法に取消しの訴えの制度はありません)

代表取締役を解職されても、取締役の地位は残ります。したがって、取締役として取締役会に出席し、議決に加わる権利は失われません。この点の確認が出発点となります。

 解職の決議の要件

 取締役会の権限

取締役会は、代表取締役の選定及び解職を行うものとされています(会社法第362条第2項第3号)。この権限は取締役会の専属であり、代表取締役に委任することはできません(会社法第362条第4項)。

 招集の手続

取締役会は、各取締役が招集するのが原則ですが、取締役会を招集する取締役を定款又は取締役会で定めたときは、その取締役が招集するものとされています(会社法第366条第1項)。招集権者以外の取締役も、招集権者に対し、取締役会の目的である事項を示して招集を請求することができ(同条第2項)、請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする招集の通知が発せられない場合には、その請求をした取締役が自ら招集することができるものとされています(同条第3項)。

取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各取締役(監査役設置会社にあっては、各取締役及び各監査役)に対して招集の通知を発しなければならないものとされています(会社法第368条第1項)。ただし、取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができるものとされています(同条第2項)。

 決議の要件

取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)が出席し、その過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)をもって行うものとされています(会社法第369条第1項)。

決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができないものとされています(会社法第369条第2項)。

 争う視点

 招集の手続の瑕疵

招集の通知が一部の取締役に対して発せられていない場合、決議の効力が問題となります。この点については、取締役会の決議に瑕疵がある場合には決議は無効となるのが原則である一方、通知を受けなかった取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、決議は有効となるとする考え方が採られています。この点は判例法理によります(最高裁判所昭和44年12月2日判決)。

したがって、招集の通知を受けなかった場合には、次の点を検討します。

検討の視点 内容
通知の欠落の事実 通知が現実に発せられていないこと
通知の期間 1週間前までに発せられていたか、定款による短縮の定めがあるか
全員の同意の有無 招集手続の省略についての同意があったか
結果への影響 出席していれば結果が異なった可能性があるか
議論への影響 出席していれば議論の内容が変わった可能性があるか

「特段の事情」が認められるかどうかは、単に賛否の数を数えるだけでなく、議論の過程への影響も含めて判断されるべきものと考えられます。

 特別の利害関係を有する取締役

解職の対象となる代表取締役が、その解職の決議について特別の利害関係を有する取締役に当たり、議決に加わることができないとする考え方が採られています。この点は判例法理によります(最高裁判所昭和44年3月28日判決)。

この法理は、解職される側にとって不利に働きます。すなわち、自らの解職の議案について議決に加わることができないため、取締役会において多数を握られている場合には、解職を防ぐことができないことになります。

他方、この法理は、次の場面では有利に働き得ます。

  • 特別の利害関係を有する取締役が議決に加わっていた場合、決議の効力を争う余地が生じます
  • 定足数の計算において、議決に加わることができない取締役を除外すべきことになります

例えば、複数の代表取締役の解職が同一の取締役会で議題とされた場合、それぞれの解職について誰が議決に加われるかを整理する必要があります。

 決議の内容の問題

解職の決議そのものは、正当な理由を要件とするものではありません。したがって、理由の当否のみを理由として決議を無効とすることは困難です。

もっとも、取締役の地位の解任と異なり、代表取締役の解職について会社法第339条第2項に相当する損害賠償の規定は置かれていません。代表取締役を解職されたことによる報酬の減額等については、報酬の決定に関する法理により検討することになります。

 争う手続

会社法は、株主総会の決議については取消しの訴えの制度を置いていますが(会社法第831条)、取締役会の決議については、これに相当する制度を置いていません。したがって、取締役会の決議の効力を争う場合には、決議が無効であることを前提として、次の手続を用いることになります。

手続 内容
決議の無効の確認を求める訴え 確認の利益に関する一般の法理によります
代表取締役の地位の確認を求める訴え 同上
職務の執行を停止する仮処分 民事保全法第23条第2項
新代表者が行った行為の効力を争うこと 個別の取引ごとの検討を要します

 職務の執行を停止する仮処分

新たに選定された代表取締役の職務の執行を停止し、その職務を代行する者を選任する仮処分を求めることが考えられます。争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときは、仮の地位を定める仮処分命令を発することができるものとされています(民事保全法第23条第2項)。

取締役又は代表取締役の職務の執行を停止し、又は職務を代行する者を選任する仮処分命令が発せられた場合等には、その登記がされることになります(会社法第917条)。

職務を代行する者は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、会社の常務に属しない行為をするには裁判所の許可を得なければならないものとされています(会社法第352条第1項)。したがって、職務を代行する者が選任されたとしても、会社の重要な意思決定は事実上停止することになります。

 解職された後に残る手段

代表取締役を解職されても、取締役の地位は残ります。したがって、取締役として次の権限を行使することができます。

権限 内容 根拠
取締役会の招集の請求 目的である事項を示して招集を請求します 会社法第366条第2項、第3項
取締役会への出席及び議決 特別の利害関係を有する場合を除きます 会社法第369条第1項、第2項
議事録の閲覧謄写 取締役として 会社法第371条
業務の執行の監督 取締役会の構成員として 会社法第362条第2項第2号
報告の徴収 取締役会を通じて 会社法第363条第2項

これらの権限は、地位を回復するための手続と並行して行使し得るものです。取締役として会社の状況を把握し続けることには、実際上の意味があります。

 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 資料
1 解職の取締役会の日時及び場所 取締役会議事録、登記事項証明書
2 招集の通知の有無、方法及び時期 通知書、電子メール、記録
3 定款による招集の期間の短縮の定め 定款
4 出席した取締役及び監査役 議事録
5 議決に加わった者及び賛否 議事録
6 定足数の充足 議事録、登記事項証明書
7 議題として通知されていた内容 招集通知
8 解職と同時に決議された事項 議事録
9 取締役会の構成及び株主構成 登記事項証明書、株主名簿
10 解職後の報酬の取扱い 給与明細

議事録は、取締役会の日から10年間、本店に備え置かなければならないものとされています(会社法第371条第1項)。取締役は、その閲覧謄写を請求することができます。

 弁護士にご相談いただく意味

代表取締役の解職は、取締役会という比較的少人数の会議体において、短時間で行われます。したがって、手続の瑕疵が生じやすい一方、これを的確に指摘するには、招集から決議に至る経過を精密に検証する必要があります。

また、解職の後は、会社の代表権を有しない立場となりますので、会社の資料へのアクセス、対外的な行為が制約されます。時間の経過とともに既成事実が積み重なりますので、初動の速さが結果を左右します。

弁護士は、役員の代理人として、決議の経過の検証、決議の効力に関する主張の構成、仮処分の申立て、地位の確認を求める手続、取締役としての権限の行使を行います。

なお、手続を用いる順序及び時期、取締役会における対応は、取締役会の構成、株主構成、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してまいりました実務上の知見に属しますので、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 代表取締役を解職されると、取締役でもなくなるのですか。

いいえ。代表取締役の解職は代表権を失わせるものであり、取締役の地位は残ります。取締役として取締役会に出席し、議決に加わる権利も残ります。

質問2 招集の通知を受けていません。決議は無効ですか。

招集の通知を受けなかった取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、決議は有効となるとする考え方が採られています(判例法理によります)。したがって、通知の欠落のみで直ちに無効となるとは限りません。議論への影響を含めた主張が必要です。

質問3 自分の解職の議案について、自分は議決に加われないのですか。

解職の対象となる代表取締役は、その決議について特別の利害関係を有する取締役に当たり、議決に加わることができないとする考え方が採られています(判例法理によります)。

質問4 解職について損害賠償を請求できますか。

代表取締役の解職について、会社法第339条第2項に相当する規定は置かれていません。もっとも、解職に伴って報酬が減額された場合には、報酬の決定に関する法理により差額の請求を検討し得ます。金銭の請求については、当法人が運営する別の情報提供のページにおいても取り扱っております。

質問5 新しい代表者が勝手に契約を結んでいます。

代表権を有する者として登記されている以上、対外的にはその者の行為が会社の行為として扱われるのが原則です。個別の取引の効力を争い得るかは、相手方の認識等により判断されます。並行して、職務の執行を停止する仮処分の検討を要します。

質問6 まず何をすればよいですか。

登記事項証明書を取得し、取締役会議事録の閲覧謄写を請求してください。招集通知の有無及び時期を確認し、記録を保存してください。できるだけ早い時期にご相談ください。

 解職と併せて行われることの多い措置

代表取締役の解職は、単独で行われることは少なく、次の措置と併せて行われることが多くあります。

併せて行われる措置 検討の視点
新たな代表取締役の選定 同一の取締役会における決議の効力
職務の分掌の変更 業務執行からの排除
報酬の減額 同意なき減額の効力(判例法理によります)
銀行取引の届出の変更 資金の管理の掌握
会社の実印及び通帳の管理者の変更 対外的な行為の制約
社内システムの権限の変更 情報からの遮断
臨時株主総会の招集の決定 取締役としての地位の解任の準備

解職の後に株主総会における解任が予定されている場合には、株主総会に向けた対応を並行して準備する必要があります。取締役の解任は株主総会の決議によりますので(会社法第339条第1項)、議決権の分布の確認が不可欠です。

 解職された後の当面の対応

番号 対応 内容
1 登記事項証明書の取得 現在の代表権の帰属の確認
2 取締役会議事録の閲覧謄写の請求 決議の経過の確認(会社法第371条第2項)
3 招集の経過の記録 通知の有無、時期、方法
4 資料の確保 契約書、財務資料、電子的な記録
5 報酬の取扱いの確認 減額の有無、同意の有無
6 取締役としての権限の行使 取締役会の招集の請求(会社法第366条第2項)
7 株主構成の確認 株主名簿、法人税申告書別表二
8 相談 早期に弁護士に相談します

本記事における非開示事項について

手続を用いる順序及び時期、取締役会における対応、仮処分を用いるかどうかの判断は、取締役会の構成、株主構成、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、代表取締役の解職に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、登記事項証明書、定款の写し、取締役会議事録の写し、招集通知、株主名簿の写し、給与明細をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。

本記事の根拠条文

会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第352条第1項(取締役の職務を代行する者の権限)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第362条第2項第2号・第3号・第4項(取締役会の権限及び委任することができない事項)、第363条第2項(取締役の報告)、第366条第1項・第2項・第3項(取締役会の招集)、第368条第1項・第2項(招集の通知)、第369条第1項・第2項・第3項・第5項(取締役会の決議)、第371条第1項・第2項(取締役会議事録)、第917条(職務の執行を停止する仮処分等の登記)

民事保全法 第23条第2項(仮の地位を定める仮処分命令)

判例法理による部分 招集の通知を欠く取締役会の決議の効力(最高裁判所昭和44年12月2日判決)、解職の対象となる代表取締役が特別の利害関係を有する取締役に当たること(最高裁判所昭和44年3月28日判決)は、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

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