招集の手続に瑕疵がある取締役会の決議の効力

招集の手続に瑕疵がある取締役会の決議の効力
代表取締役の解職、重要な財産の処分、多額の借財といった事項は、取締役会の決議によって決定されます。したがって、取締役会の招集の手続に瑕疵があった場合には、その決議の効力が問題となります。本記事では、この点を整理します。当事務所は役員の側にも会社の側にも立ちますが、本記事は地位を争う側の方に向けたものです。
結論 瑕疵があれば無効となるのが原則ですが、例外があります
取締役会の招集の手続に瑕疵がある場合、その決議は無効となるのが原則です。もっとも、招集の通知を受けなかった取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、決議は有効となるとする考え方が採られています。この点は判例法理によります(最高裁判所昭和44年12月2日判決)。
したがって、争う側としては、次の2点を主張することになります。
| 主張 | 内容 |
|---|---|
| 第1 | 招集の手続に瑕疵があること |
| 第2 | 「特段の事情」が認められないこと(出席していれば結果が異なった可能性があること) |
招集の手続の内容
招集権者
取締役会は、各取締役が招集するのが原則です。ただし、取締役会を招集する取締役を定款又は取締役会で定めたときは、その取締役が招集するものとされています(会社法第366条第1項)。
招集権者が定められている場合であっても、招集権者以外の取締役は、招集権者に対し、取締役会の目的である事項を示して招集を請求することができます(同条第2項)。請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする招集の通知が発せられない場合には、その請求をした取締役が自ら招集することができます(同条第3項)。
招集の通知
取締役会を招集する者は、取締役会の日の1週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、各取締役(監査役設置会社にあっては、各取締役及び各監査役)に対して招集の通知を発しなければならないものとされています(会社法第368条第1項)。
取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく取締役会を開催することができるものとされています(同条第2項)。
なお、株主総会の招集通知と異なり、取締役会の招集通知については、書面によることや議題を記載することが法律上一律に要求されているわけではありません。もっとも、定款又は取締役会規則により、方法及び記載事項が定められている場合があります。
瑕疵の類型
| 瑕疵の類型 | 内容 | 検討の視点 |
|---|---|---|
| 通知の全部の欠落 | 一部の取締役に通知が発せられていない | 最も典型的な瑕疵です |
| 通知の期間の不足 | 1週間前までに発せられていない | 定款による短縮の定めの有無を確認します |
| 招集権者でない者による招集 | 定款等で定められた招集権者以外の者が招集した | 招集の請求の手続を経ているかを確認します |
| 監査役への通知の欠落 | 監査役設置会社において監査役に通知していない | 監査役の出席及び意見の陳述の機会 |
| 通知の到達の問題 | 発したとされるが現実に到達していない | 通知は発することで足りるとされていますが、発した事実の立証を要します |
| 開催の場所及び時刻の不備 | 出席が現実に困難な場所又は時刻 | 実質的に出席の機会を奪うものかを検討します |
| 議題が示されていない | 解職の議案が事前に示されていない | 定款等の定めの有無、審議の準備への影響 |
実質的に出席の機会を奪う招集
形式上は通知が発せられていても、取締役が現実に出席することが著しく困難な日時又は場所が指定されている場合には、実質的に出席の機会を奪うものとして、瑕疵があると評価される余地があります。例えば、出張中であることを知りながら、その期間中に遠隔の地で開催する場合等が考えられます。
全員の同意による省略
招集手続の省略についての全員の同意は、明示のものである必要はないと解する余地がありますが、争いのある場面では、同意の存在が争点となります。同意をしていない旨を早期に明らかにしておくことに意味があります。
「特段の事情」の判断
判例法理によれば、招集の通知を受けなかった取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、決議は有効となるとされています。この「特段の事情」については、次の視点から争うことになります。
| 争う視点 | 内容 |
|---|---|
| 賛否の数 | 当該取締役が出席し反対した場合に、可決に必要な数を満たさなくなるか |
| 議論への影響 | 当該取締役が出席していれば、他の取締役の判断が変わり得たか |
| 情報の提供 | 当該取締役のみが有していた情報があったか |
| 決議の性質 | 解職のように、当該取締役に直接に不利益が及ぶ事項であるか |
| 定足数 | 当該取締役を除いて定足数を満たしていたか |
賛否の数のみを形式的に計算して「結果に影響がない」と結論付けることは、取締役会が議論を通じて意思決定を行う機関であることを軽視するものであるという指摘が可能です。実際の主張においては、議論の内容に及ぼし得た影響を具体的に示すことが重要となります。
特別の利害関係との関係
決議について特別の利害関係を有する取締役は、議決に加わることができないものとされています(会社法第369条第2項)。代表取締役の解職の決議について、解職の対象となる代表取締役は特別の利害関係を有する取締役に当たるとする考え方が採られています(判例法理によります)。
議決に加わることができない場合であっても、取締役会に出席して意見を述べることまで一律に否定されるものではないとの考え方があり得ます。この点は、招集の通知を受ける権利の有無とも関連します。
議事録の検証
取締役会の議事録は、取締役会の日から10年間、本店に備え置かなければならないものとされています(会社法第371条第1項)。取締役は、議事録の閲覧謄写を請求することができます。
議事録において確認すべき点は、次のとおりです。
| 確認事項 | 着眼点 |
|---|---|
| 開催の日時及び場所 | 現実の開催の有無 |
| 出席した取締役及び監査役 | 定足数の充足 |
| 議事の経過の要領及びその結果 | 議論の内容の記載 |
| 議決に加わることができない取締役 | 特別の利害関係の記載 |
| 反対の意見を述べた取締役 | 異議をとどめた旨の記載 |
| 署名又は記名押印 | 出席した取締役及び監査役の署名等 |
取締役会の決議に参加した取締役であって議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定されるものとされています(会社法第369条第5項)。反対した場合には、その旨が議事録に記載されているかを確認する必要があります。
なお、取締役会の決議の目的である事項について提案がされた場合において、取締役の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、一定の要件の下で、決議があったものとみなす旨を定款で定めることができるものとされています(会社法第370条)。この方法が用いられている場合には、全員の同意の有無が争点となります。
決議を争う手続
会社法は、取締役会の決議について、株主総会の決議取消しの訴えに相当する制度を置いていません。したがって、決議が無効であることを前提として、次の手続を用いることになります。
| 手続 | 内容 |
|---|---|
| 決議の無効の確認を求める訴え | 確認の利益に関する一般の法理によります |
| 地位の確認を求める訴え | 代表取締役の地位の存否について |
| 職務の執行を停止する仮処分 | 民事保全法第23条第2項 |
| 個別の行為の効力を争うこと | 取引の相手方の認識等により判断されます |
なお、決議に基づいて行われた登記については、決議が無効であることを前提として是正を求めることになります。
案件で確認すべき事項
| 番号 | 確認事項 | 資料 |
|---|---|---|
| 1 | 招集の通知の有無、方法、時期 | 通知書、電子メール、記録 |
| 2 | 定款及び取締役会規則における招集に関する定め | 定款、規則 |
| 3 | 招集権者の定めの有無 | 定款、取締役会議事録 |
| 4 | 取締役及び監査役の構成 | 登記事項証明書 |
| 5 | 出席者及び定足数 | 議事録 |
| 6 | 賛否の内訳 | 議事録 |
| 7 | 特別の利害関係の有無 | 議題の内容 |
| 8 | 議事の経過の記載 | 議事録 |
| 9 | 全員の同意の有無 | 記録 |
| 10 | 決議に基づいて行われた登記 | 登記事項証明書 |
弁護士にご相談いただく意味
取締役会の決議の効力を争う場合、瑕疵の存在だけでなく、「特段の事情」が認められないことまで主張する必要があります。これは、当日の議論の内容、取締役会の構成、当該取締役が有していた情報等を具体的に示す作業です。
弁護士は、役員の代理人として、招集の経過の検証、議事録の分析、決議の効力に関する主張の構成、仮処分の申立て、地位の確認を求める手続の遂行を行います。
なお、手続を用いる順序及び時期、主張の組み立て方は、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してまいりました実務上の知見に属しますので、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 招集の通知を受けていません。決議は当然に無効ですか。
原則として無効となりますが、出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは有効とされる余地があります(判例法理によります)。したがって、結果への影響及び議論への影響を具体的に主張する必要があります。
質問2 口頭で「明日取締役会をやる」と言われただけです。
取締役会の招集通知の方法については、法律上、書面によることが一律に要求されているわけではありません。もっとも、定款又は取締役会規則に定めがある場合には、その定めに従う必要があります。また、1週間前までという期間の要件(会社法第368条第1項)の充足を確認します。
質問3 議事録に「全員一致で可決」と書かれていますが、事実と異なります。
議事録の記載が事実と異なる場合には、その旨を書面により指摘し、訂正を求めます。訂正に応じない場合であっても、指摘した書面が記録として残ります。議事録の記載の正確性そのものが争点となる場合があります。
質問4 監査役に通知されていませんでした。
監査役設置会社においては、各監査役に対しても招集の通知を発しなければならないものとされています(会社法第368条第1項)。監査役への通知の欠落も、招集手続の瑕疵となり得ます。
質問5 決議を無効とする判決を得れば、登記も戻りますか。
決議が無効であることを前提として、登記の是正を求めることになります。会社が任意に応じない場合には、判決等に基づく手続を検討することになります。
本記事における非開示事項について
手続を用いる順序及び時期、主張の組み立て方、資料の提示の時期は、取締役会の構成、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、取締役会の決議の効力に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
ご相談に際しましては、登記事項証明書、定款の写し、取締役会規則、招集通知、取締役会議事録の写しをお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。
本記事の根拠条文
会社法 第362条第2項第3号・第4項(取締役会の権限)、第366条第1項・第2項・第3項(取締役会の招集)、第368条第1項・第2項(招集の通知及び招集手続の省略)、第369条第1項・第2項・第3項・第5項(取締役会の決議)、第370条(取締役会の決議の省略)、第371条第1項・第2項(取締役会議事録)、第917条(職務の執行を停止する仮処分等の登記)
民事保全法 第23条第2項(仮の地位を定める仮処分命令)
判例法理による部分 招集の通知を欠く取締役会の決議の効力(最高裁判所昭和44年12月2日判決)、解職の対象となる代表取締役が特別の利害関係を有する取締役に当たること(最高裁判所昭和44年3月28日判決)は、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。
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