取締役の解任と同時に退職の扱いとされた場合の地位の確認

取締役の解任と同時に退職の扱いとされた場合の地位の確認

使用人を兼ねる取締役が解任された場合、会社が同時に従業員としても退職した扱いとすることがございます。もっとも、取締役の地位と使用人の地位とは、法律上は別個のものでございます。取締役を解任されたことにより、使用人としての地位が当然に失われるものではありません。本記事では、二つの地位の区別と、地位の確認を求める場合の組み立てを整理いたします。

 結論 二つの地位は別個に検討します

整理は、次のとおりです。

地位 根拠 終了の原因
取締役 株主総会の決議による選任、委任に関する規定(会社法第330条) 解任、任期の満了、辞任
使用人 労働契約(労働契約法第6条) 解雇、辞職、合意による解約、定年

取締役の解任は、取締役の地位を失わせるものにとどまります。使用人としての地位を失わせるには、労働契約を終了させる別個の意思表示又は合意が必要でございます。

 使用人を兼ねる取締役とは

 典型的な形態

取締役でありながら、部長、工場長、支店長といった使用人としての職制上の地位を有し、その職務に対して使用人としての給与が支払われている場合が、これに当たります。中小の株式会社では広く見られる形態でございます。

取締役の報酬等は、定款に定めがないときは株主総会の決議によって定めるものとされておりますが(会社法第361条第1項)、使用人としての給与は、これとは別に労働契約に基づいて支払われるものでございます。

 報酬と給与の区別

区分 確認の手掛かり
役員報酬 株主総会の決議、役員報酬の内訳の記録
使用人としての給与 給与規程、給与明細の区分、賃金台帳
社会保険及び労働保険 雇用保険の被保険者資格の有無
就業規則の適用 就業規則の適用範囲の定め

雇用保険の被保険者とされていたかどうかは、使用人としての地位を判断するうえで重要な手掛かりとなります。

 労働者性の判断

使用人としての地位が認められるかは、形式的な肩書ではなく、実態により判断されます。おおむね次の要素が考慮されるものと考えられております。

要素 内容
指揮命令の有無 上位の者の指揮命令の下に業務を行っていたか
勤務時間の管理 出退勤の管理を受けていたか
業務の内容 経営に関する意思決定か、日常の業務の遂行か
報酬の性質 労務の対償としての性格を有するか
就業規則の適用 就業規則が適用されていたか
保険の取扱い 雇用保険の被保険者とされていたか
持株の状況 会社を支配する立場にあったか

代表取締役として会社を支配する立場にあった場合には、使用人としての地位が認められにくいと考えられます。他方、持株を有せず、日常の業務に従事していた場合には、認められやすくなります。

 解雇として争う場合

 解雇の意思表示の有無

まず、会社が労働契約を終了させる意思表示を行ったかを確認いたします。取締役を解任した旨のみが通知され、労働契約について何ら言及がない場合には、労働契約は継続していると主張する余地がございます。

他方、退職の届出への署名を求められ、これに応じている場合には、合意により労働契約が終了したと評価される余地がございます。署名を求められた段階での慎重な対応が重要でございます。

 解雇の効力

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効とされます(労働契約法第16条)。

また、使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならず、予告をしない場合には平均賃金の一定の額を支払わなければならないものとされております(労働基準法第20条)。

 求める内容

請求 内容
労働契約上の地位の確認 従業員としての地位を有することの確認を求めます
賃金の支払 解雇の後の賃金の支払を求めます
役員報酬相当額の損害の賠償 解任に正当な理由がない場合の請求(会社法第339条第2項)
退職金 使用人としての退職金の規程がある場合の請求

 手続の選択

使用人としての地位に関する争いについては、労働審判の手続と、通常の訴訟の手続とが考えられます。取締役としての地位に関する争いは、労働審判の対象とならないのが原則でございます。

両方の地位が問題となる場合には、いずれの手続によるかを慎重に検討する必要がございます。手続を分けることにより、審理が重複し、又は主張が食い違うおそれがあるためでございます。

 確保すべき資料

資料 意義
就業規則及び給与規程 適用の範囲を示します
給与明細及び賃金台帳 報酬と給与の区分を示します
雇用保険の被保険者証 労働者としての取扱いを示します
出退勤の記録 勤務時間の管理を示します
組織図及び職務分掌 指揮命令の関係を示します
解任及び退職に関する通知 会社の意思表示の内容を示します
株主総会議事録 解任の決議の内容を示します

これらの資料は、退職の扱いとされた後は入手が難しくなります。可能な限り早期に写しを確保してください。

よくあるご質問

質問1 退職の届出に署名してしまいました。

合意による終了と評価される余地が生じます。もっとも、内容を理解しないまま署名した事情がある場合には、なお争う余地が残ることがございます。

質問2 雇用保険に加入しておりませんでした。

使用人としての地位を認めにくい方向に働く事情でございます。もっとも、これのみで結論が決まるものではございません。

質問3 役員報酬と給与が区分されておりませんでした。

区分がない場合には、実態による判断の比重が大きくなります。業務の内容及び指揮命令の関係を整理してください。

質問4 取締役を解任された時点で自動的に退職になると言われました。

取締役の解任により使用人としての地位が当然に終了するものではございません。就業規則にそのような定めがある場合には、その定めの効力が争点となります。

質問5 どちらの請求を先に行うべきですか。

事案により異なります。使用人としての地位の回復を重視するか、金銭による解決を重視するかにより、順序が変わります。

 確認事項の一覧

確認事項 確認の方法
解任の決議の日及び内容 株主総会議事録、登記事項証明書
労働契約の終了に関する会社の意思表示 通知書、電子メール
就業規則の適用の範囲 就業規則
報酬と給与の区分 給与明細、賃金台帳
保険の加入の状況 被保険者証、資格の記録
業務の実態 組織図、業務の記録
持株の状況 株主名簿

二つの地位を分けて整理することが、主張の出発点となります。まず資料を揃えてご相談ください。

本記事における非開示事項について

二つの地位に関する請求の順序の判断、労働審判と通常の訴訟との選択、使用人としての地位を基礎づける事実の選び方、退職の届出に署名した場合の主張の構成は、業務の実態及び資料の状況により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
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弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第363条第1項(業務を執行する取締役)

労働契約法 第6条(労働契約の成立)、第16条(解雇)

労働基準法 第9条(労働者)、第20条(解雇の予告)、第89条(就業規則の作成及び届出)

民法 第623条(雇用)、第644条(受任者の注意義務)、第651条第1項(委任の解除)

判例法理による部分 使用人を兼ねる取締役の労働者性の判断の要素については、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

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