後任が選任されない場合に残る権利義務を有する役員の地位

後任が選任されない場合に残る権利義務を有する役員の地位
任期の満了又は辞任により退任したにもかかわらず、後任の役員が選任されないため、なお役員としての権利義務を有する状態に置かれることがあります。この地位にある間は、退任の登記がされず、役員としての責任も原則として免れません。本記事では、この地位の内容と、これから離脱するために採り得る手続を整理いたします。
結論 地位が残る以上は責任も残ります
役員としての権利義務を有する状態の要点は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 生ずる場面 | 役員が欠けた場合又は法律若しくは定款で定めた員数を欠くこととなった場合 |
| 対象となる者 | 任期の満了又は辞任により退任した役員(会社法第346条第1項) |
| 解任された者 | 解任により退任した者は、この地位に立ちません |
| 登記 | 退任の登記は原則としてされません |
| 責任 | 役員としての義務及び責任は原則として残ります |
| 離脱の方法 | 後任の選任、又は一時役員の職務を行うべき者の選任の申立て(同条第2項) |
会社を離れたつもりでいたところ、後日に会社の債務や登記の懈怠について責任を問われるという事態が生じ得ますので、放置すべきではございません。
権利義務を有する役員とは何か
条文の内容
役員が欠けた場合又は法律若しくは定款で定めた役員の員数を欠くこととなった場合には、任期の満了又は辞任により退任した役員は、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有するものとされております(会社法第346条第1項)。
この規定は、役員が存在しない状態を避けるために設けられたものでございます。株式会社と役員との関係は委任に関する規定に従うものとされておりますが(会社法第330条)、この場合には、退任した後もなお役員としての職務を行うべき地位が法律上残ることになります。
対象となる者と対象とならない者
| 退任の原因 | 権利義務を有する地位に立つか |
|---|---|
| 任期の満了 | 立ちます |
| 辞任 | 立ちます |
| 解任 | 立ちません |
| 死亡 | 立ちません |
| 資格の喪失 | 立ちません |
解任により退任した者がこの地位に立たないのは、会社が当該者を役員として置かないという判断をしたことによるものと解されております。したがって、解任された場合には、直ちに役員としての地位を失うことになります。
員数を欠くこととなった場合
定款において取締役の員数を3名以上と定めている会社において、退任により2名となった場合には、員数を欠くこととなりますので、退任した役員は権利義務を有する地位に立ちます。定款の員数の定めを確認することが必要でございます。
退任の登記との関係
登記がされない理由
会社は、登記事項に変更が生じたときは、2週間以内に変更の登記をしなければなりません(会社法第915条第1項)。もっとも、権利義務を有する役員は、なお役員としての地位を有しておりますので、退任の登記は、後任が就任して初めて申請することができるのが原則でございます。
そのため、登記事項証明書には、退任したはずの役員が引き続き役員として記載された状態が続きます。取引先や金融機関に対しては、なお役員であると認識されることになります。
登記の懈怠に対する過料
登記をすべき期間内に登記をしなかった場合には、過料に処せられることがございます(会社法第976条)。この過料は、原則として会社の代表者に対して科されるものでございますが、代表取締役として権利義務を有する地位にある場合には、自らが対象となる余地がございます。
残る義務と責任
権利義務を有する役員は、なお役員としての職務を行う地位にありますので、善良な管理者の注意をもって職務を行う義務(民法第644条)及び法令、定款並びに株主総会の決議を遵守し会社のため忠実にその職務を行う義務(会社法第355条)を負うものと解されております。
したがって、この期間中に会社に損害が生じた場合には、任務を怠ったものとして会社に対する損害の賠償の責任を問われる余地がございますし(会社法第423条第1項)、職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、第三者に対する責任を問われる余地もございます(会社法第429条第1項)。
実際には会社の業務から排除されているにもかかわらず、責任のみが残るという状態が生じ得ますので、この状態を放置することは望ましくございません。
この地位から離脱するための手続
後任の選任を求めること
最も直接的な方法は、株主総会において後任の役員を選任してもらうことでございます。会社に対して、書面により後任の選任を求め、その記録を残すことが第一歩となります。
一時役員の職務を行うべき者の選任の申立て
裁判所は、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより、一時役員の職務を行うべき者を選任することができるものとされております(会社法第346条第2項)。権利義務を有する役員は、この申立てをすることができる利害関係人に当たると解されております。
この申立てにより一時役員の職務を行うべき者が選任されれば、権利義務を有する地位を離れることができます。申立てには、会社の状況を示す資料及び候補者に関する資料が必要となるのが通例でございます。
報酬及び費用の取扱い
| 事項 | 取扱いの考え方 |
|---|---|
| 報酬 | 従前の報酬の決議の内容及び職務の実態により判断されますので、当然に従前と同額を請求することができるとは限りません |
| 役員退職慰労金 | 退任の時期の解釈が問題となる余地があります |
| 費用 | 職務を行うために支出した費用については、委任に関する規定により償還を求める余地があります |
報酬の取扱いは事案により異なりますので、断定することはできません。従前の株主総会の決議の内容と、現に行っている職務の内容とを整理しておくことが検討の前提となります。
よくあるご質問
質問1 辞任したのに登記されません。違法ではありませんか。
後任が選任されておらず員数を欠く状態であれば、退任の登記がされないことは制度上あり得ます。まず定款の員数の定めと現在の役員の数を確認してください。
質問2 会社に出入りできないのに責任だけ残るのですか。
職務の執行を事実上妨げられている場合であっても、地位そのものは残ります。妨げられている事実を記録に残したうえで、後任の選任又は一時役員の職務を行うべき者の選任の申立てを検討することになります。
質問3 権利義務を有する役員を解任することはできますか。
この地位にある者を株主総会の決議によって解任することはできないと解されております。会社としては、後任を選任するか、裁判所に対する申立てによることになります。
質問4 申立てには費用がかかりますか。
裁判所に納める費用及び選任された者の報酬が生じます。具体的な額は事案により異なりますので、弁護士費用一覧のページを併せてご覧ください。
質問5 いつまでこの状態が続きますか。
後任が就任するまで続きます。会社が後任を選任しない限り、時の経過によって当然に地位を失うことはございません。
確認事項の一覧
| 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|
| 退任の原因 | 株主総会議事録、辞任届の写し |
| 定款の員数の定め | 定款の謄本 |
| 現在の役員の構成 | 登記事項証明書 |
| 後任の選任の有無 | 株主総会議事録 |
| 職務の執行の実態 | 電子メール、稟議の記録 |
| 報酬の支給の状況 | 給与明細、振込みの記録 |
登記事項証明書と定款の二つを取得すれば、権利義務を有する地位にあるかどうかは、おおむね判断することができます。
本記事における非開示事項について
一時役員の職務を行うべき者の選任の申立てにおける候補者の立て方、会社に対して後任の選任を求める書面の記載の程度、報酬の請求の可否の判断は、会社の状況及び株主構成により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第339条第1項(役員の解任)、第346条第1項・第2項(役員が欠けた場合の措置)、第355条(忠実義務)、第423条第1項(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)、第429条第1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)、第915条第1項(変更の登記)、第976条(過料に処すべき行為)
民法 第644条(受任者の注意義務)、第651条第1項(委任の解除)
判例法理による部分 役員としての権利義務を有する者を解任の対象とすることができるかについては、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。
関連するご案内
任期満了を理由に再任されず事実上排除されてお困りではありませんか のページで、確認すべき事項と採り得る手続を整理しております。ご相談は事前予約制です。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
このページの位置付けと、関連するページ
本ページは、任期の満了による再任の拒否に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページを御覧ください。
同じ主題を扱う関連ページ
具体的な御相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。


