監査役の解任に特別決議を要する理由と争い方

監査役の解任に特別決議を要する理由と争い方
監査役の解任には、株主総会の特別決議を要します(会社法第309条第2項第7号)。取締役の解任が普通決議で足りるのと異なり、監査役については加重された要件が定められておりますので、決議の要件を満たしていない解任は、決議取消しの訴えにより争う余地があります。本記事では、特別決議が求められる理由、要件の確認の手順、要件を欠く場合に採り得る手続を整理いたします。
結論 特別決議の要件を欠く解任の決議は取消しの対象となります
監査役の解任について、まず確認すべき事項は次のとおりです。
| 確認の順序 | 確認する事項 |
|---|---|
| 第1 | 解任の議案が招集通知に記載されていたか |
| 第2 | 定足数(議決権を行使することができる株主の議決権の過半数)を満たしていたか |
| 第3 | 出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成があったか |
| 第4 | 解任について意見を述べる機会が与えられたか |
| 第5 | 解任について正当な理由があるか |
第2及び第3の要件を欠く場合には、決議の方法が法令に違反するものとして、株主総会の決議の取消しの訴えを提起することが考えられます(会社法第831条第1項)。この訴えには、決議の日から3か月という期間の制限がありますので、期間の管理が最も重要です。
他方、決議そのものは有効であっても、解任について正当な理由がない場合には、会社に対して損害の賠償を請求することができるものとされています(会社法第339条第2項)。決議の効力を争う道と、損害の賠償を求める道とは、いずれを選ぶかを事案に応じて検討することになります。
監査役の解任に特別決議が必要とされる理由
監査役の独立性の確保
監査役は、取締役の職務の執行を監査する機関です(会社法第381条第1項)。監査の対象である取締役又はその意を受けた株主が、容易に監査役を解任することができるとすれば、監査の実効性は失われます。そこで会社法は、監査役の解任について、株主総会の特別決議を要するものとしております(会社法第309条第2項第7号)。
同じ趣旨から、監査役については、任期の途中における解任のほかにも、独立性を確保するための規定が置かれております。監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには監査役の同意を要すること(会社法第343条第1項)、監査役が株主総会において監査役の選任、解任又は辞任について意見を述べることができること(会社法第345条第4項において準用する同条第1項)が、その例です。
取締役の解任との違い
取締役の解任と監査役の解任とでは、要件が次のとおり異なります。
| 項目 | 取締役 | 監査役 |
|---|---|---|
| 決議の種類 | 普通決議(会社法第341条) | 特別決議(会社法第309条第2項第7号) |
| 定足数 | 議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(定款で3分の1未満に引き下げることはできません) | 同左 |
| 可決の要件 | 出席した株主の議決権の過半数 | 出席した株主の議決権の3分の2以上 |
| 任期 | 原則として選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで | 原則として選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(会社法第336条第1項) |
公開会社でない株式会社においては、定款の定めにより、監査役の任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができます(会社法第336条第2項)。任期が長いことは、後に述べる損害の額の検討においても意味を持ちます。
決議の要件を確認する手順
議決権を行使することができる株式の総数の確定
定足数及び可決の要件は、いずれも「議決権を行使することができる株主の議決権」を基準とします。したがって、まず分母となる議決権の数を確定する必要があります。次の株式は、議決権の算定から除かれ、又は行使が制限されます。
- 会社が有する自己株式
- 議決権制限株式のうち当該議案について議決権を有しないもの
- 単元未満株式
- 相互保有の関係にある株式
中小の同族会社では、自己株式の取得の経緯が記録に残っていないこと、名義株式が整理されていないことが多く、分母の確定そのものが争点となることがあります。
定足数及び賛成の議決権の数の確認
株主総会議事録には、出席した株主の議決権の数及び賛成の議決権の数が記載されているのが通常です。記載がない場合、又は記載された数値と株主名簿の内容とが整合しない場合には、決議の方法に瑕疵があることをうかがわせる事情となります。
特に、出席した株主の議決権の3分の2以上という要件は、株主構成によっては満たすことが容易ではありません。過半数の議決権を有する株主が解任を主導した場合であっても、3分の2に達しない限り、監査役の解任の決議は成立しません。この点の確認は必ず行ってください。
招集の手続の確認
解任は、株主総会の目的である事項として招集通知に記載されている必要があります。招集通知に議案の記載がないまま解任の決議がされた場合には、招集の手続が法令に違反するものとして、決議の取消しの訴えの対象となり得ます。
また、招集通知が現実に発送されていたか、発送の時期が法令又は定款の定める期間を満たしていたかも確認します。株主が少数である会社では、招集の手続が省略されていることがありますが、株主の全員の同意がない限り、手続の省略は認められません。
要件を欠く場合に採り得る手続
| 手続 | 用いる場面 | 期間の制限 |
|---|---|---|
| 株主総会の決議の取消しの訴え | 招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反する場合等 | 決議の日から3か月(会社法第831条第1項) |
| 株主総会の決議の不存在の確認の訴え | 総会が現実に開催されていない場合等 | 期間の制限はありません(会社法第830条第1項) |
| 株主総会の決議の無効の確認の訴え | 決議の内容が法令に違反する場合 | 期間の制限はありません(会社法第830条第2項) |
| 監査役の地位の確認の訴え | 解任の効力を前提として地位を争う場合 | 期間の制限はありません |
| 仮の地位を定める仮処分の申立て | 本案の判決を待つことができない場合 | 民事保全法第23条第2項 |
実務上、最も重要なのは3か月の期間の制限です。解任の通知を受けてから対応を検討している間に期間が経過してしまう例が少なくありませんので、まず決議の日を特定し、期間を確認してください。
なお、決議の取消しの訴えを提起することができるのは、株主、取締役、監査役、執行役又は清算人であるものとされております。解任された監査役が、解任の効力を争う立場で原告適格を有するかについては、解任の効力そのものが争点となりますので、地位の確認の訴えと併せて検討することになります。株式を保有している場合には、株主としての立場で提起することが考えられます。
正当な理由を欠く解任と損害の賠償
株主総会は、いつでも監査役を解任することができますが(会社法第339条第1項)、解任について正当な理由がある場合を除き、解任された者は、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(会社法第339条第2項)。
監査役の場合に特徴的なのは、任期が長いことです。原則として4年、公開会社でない株式会社において定款の定めがあるときは最長10年でありますので、残存する任期が長期にわたる例があります。損害の範囲については、残存する任期に対応する報酬の額等が問題となりますが、個別の事案により異なりますので、確定的に申し上げることはできません。
「正当な理由」については、監査役の職務の性質を踏まえて判断されるべきものと考えられます。監査役が取締役の職務の執行について指摘を行ったことを契機として解任されたという経緯がある場合には、その経緯を示す資料が重要です。取締役会の議事録、監査役が提出した報告書、往復した書面等を確保してください。
監査を妨げられていた場合の位置付け
監査役は、いつでも取締役等に対して事業の報告を求め、会社の業務及び財産の状況を調査することができます(会社法第381条第2項)。この調査が拒まれていた事実は、解任の当否を判断するうえで重要な事情となり得ます。
会社の側が「監査役が監査を行っていない」ことを解任の理由として挙げる場合には、監査の遂行を妨げていたのは会社の側であるという反論が成り立つ余地があります。資料の請求を書面により行い、その記録を残しておくことに意味があるのは、このためです。
よくあるご質問
質問1 監査役の解任は普通決議では足りないのですか。
足りません。監査役の解任には株主総会の特別決議を要します(会社法第309条第2項第7号)。普通決議により解任がされた場合には、決議の方法が法令に違反するものとして、決議の取消しの訴えを提起することが考えられます。
質問2 自分が株主でもあります。解任の決議に議決権を行使できますか。
株主総会においては、議案について特別の利害関係を有する株主も議決権を行使することができるものとされています。もっとも、特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことにより著しく不当な決議がされたときは、決議の取消しの訴えの理由となり得ます(会社法第831条第1項第3号)。
質問3 解任の理由を告げられていません。
会社法は、解任に際して理由を告げることを要件としておりません。もっとも、理由が示されないこと自体は、正当な理由の不存在をうかがわせる事情となり得ます。書面により理由の説明を求め、その回答又は回答がないことを記録に残してください。
質問4 解任された後、会社に監査役がいなくなりました。
監査役設置会社において監査役が欠けた場合には、退任した監査役が引き続き権利義務を有する場合があるほか、必要があるときは、利害関係人の申立てにより、裁判所が一時監査役の職務を行うべき者を選任することができます(会社法第346条第1項、第2項)。
質問5 3か月を過ぎてしまいました。もう何もできませんか。
決議の取消しの訴えは提起できなくなりますが、決議の不存在又は無効の確認の訴えには期間の制限がありません(会社法第830条)。また、解任について正当な理由がない場合の損害の賠償の請求(会社法第339条第2項)は、決議の効力とは別の問題ですので、なお検討の余地があります。
確認事項を整理する表
解任の通知を受けた段階で、次の表の形で事実を整理すると、採り得る手続が明確になります。
| 確認事項 | 確認の方法 | 意味 |
|---|---|---|
| 決議の日 | 議事録、登記事項証明書 | 3か月の期間の起算点 |
| 招集通知の記載 | 招集通知の原本 | 議案の記載の有無 |
| 出席した議決権の数 | 議事録、株主名簿 | 定足数の充足 |
| 賛成の議決権の数 | 議事録 | 3分の2以上の充足 |
| 意見陳述の機会 | 議事録、録音 | 手続の瑕疵 |
| 解任の理由 | 会社の説明、書面 | 正当な理由の有無 |
| 残存する任期 | 選任の決議、定款 | 損害の額の検討 |
登記事項証明書は法務局において取得することができますので、まずこれにより退任の登記の有無と登記された日を確認してください。
本記事における非開示事項について
決議の効力を争う道と損害の賠償を求める道とのいずれを選ぶかの判断、資料の提示の時期、交渉の進め方は、株主構成、資料の状況、会社との関係により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第309条第2項第7号(監査役の解任に係る株主総会の特別決議)、第329条第1項(役員の選任)、第336条第1項・第2項(監査役の任期)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)、第343条(監査役の選任に関する監査役の同意等)、第345条第1項・第4項(監査役の意見陳述権)、第346条第1項・第2項(役員が欠けた場合の措置及び一時監査役の職務を行うべき者の選任)、第381条(監査役の権限)、第385条(監査役による取締役の行為の差止め)、第389条(定款による監査の範囲の限定)、第830条(株主総会の決議の不存在又は無効の確認の訴え)、第831条第1項(株主総会の決議の取消しの訴え)、第854条(役員の解任の訴え)、第868条以下(非訟事件の管轄)
民事保全法 第23条第2項(仮の地位を定める仮処分)
判例法理による部分 「正当な理由」の有無の判断及び損害の範囲の算定については、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。
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