解任された後に会社から損害賠償を求められた場合の防御

解任された後に会社から損害賠償を求められた場合の防御

解任された後に、在任中の職務について任務を怠ったとして、会社から損害の賠償を求められることがございます。この請求は、解任の当否をめぐる争いに対する対抗として行われることが少なくありません。防御においては、任務を怠った事実の有無、損害の発生及び因果関係、責任の免除の有無、消滅時効といった点を順に検討することになります。本記事では、その順序を整理いたします。

 結論 要件ごとに切り分けて反論します

検討の順序は、次のとおりです。

順序 検討の内容
第1 会社が主張する任務を怠った事実を特定させます
第2 当該行為が任務を怠ったものと評価されるかを検討します
第3 会社に損害が生じているか、因果関係があるかを検討します
第4 責任の免除又は限定の制度が適用されるかを検討します
第5 消滅時効が完成していないかを検討します
第6 解任の当否に関する自らの請求との関係を整理します

会社の主張が抽象的である段階で個別の事情を説明することは、かえって不利に働く場合がございます。まず主張の特定を求めることが基本でございます。

 責任の根拠

 任務を怠ったことによる責任

役員等は、その任務を怠ったときは、会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(会社法第423条第1項)。株式会社と役員との関係は委任に関する規定に従うものとされておりますので(会社法第330条)、役員は善良な管理者の注意をもって職務を行う義務を負います(民法第644条)。

また、取締役は、法令、定款及び株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実にその職務を行わなければなりません(会社法第355条)。

 推定が働く場合

場面 推定の内容
承認を得ない競業取引 取締役又は第三者が得た利益の額が損害の額と推定されます(会社法第423条第2項)
利益が相反する取引 一定の取締役について任務を怠ったものと推定されます(会社法第423条第3項)

これらの推定が働く場面では、防御の重点が異なります。承認の有無及び取締役会への報告の有無を、まず議事録により確認する必要がございます(会社法第356条第1項、第365条第1項・第2項)。

 経営判断についての反論

経営上の判断には不確実性が伴いますので、結果として会社に損失が生じたことのみをもって任務を怠ったとされるものではないと解されております。判断の前提となった事実の認識に不注意な誤りがなく、判断の過程及び内容に著しく不合理な点がないかが問われることになります。

したがって、防御においては、判断に至る過程を示すことが重要でございます。取締役会に提出された資料、外部の専門家の意見、社内の検討の記録は、いずれも有用でございます。

示すべき事項 資料
判断の前提となった情報 稟議書、報告書、調査の資料
検討の過程 取締役会議事録、会議の記録
専門家の関与 意見書、報告書
他の役員の関与 議事録の賛否の記載
当時の事業環境 業界の資料、取引先の状況

 損害及び因果関係

会社が主張する損害が、現に発生しているかを確認する必要がございます。将来生じ得る損失にとどまる場合や、他の要因により生じた損失である場合には、賠償の対象とならない余地がございます。

また、当該行為がなければ損害が生じなかったといえるかという因果関係の点も、重要な争点でございます。会社の側が、行為と損害とを結び付ける具体的な説明をしていない場合には、この点を指摘することになります。

 責任の免除及び限定

制度 内容
総株主の同意による免除 総株主の同意があれば、責任を免除することができます(会社法第424条)
株主総会の決議による一部の免除 職務を行うにつき善意でかつ重大な過失がない場合に、一定の額を限度として免除することができます(会社法第425条第1項)
定款の定めによる免除 定款に定めがある場合に、取締役の過半数の同意等により免除することができます(会社法第426条第1項)
責任限定契約 業務執行取締役等でない取締役等については、定款の定めに基づき契約を締結することができます(会社法第427条第1項)

過去に総株主の同意がされていた事例や、責任限定契約が締結されていた事例がございます。定款及び議事録を確認することが必要でございます。

 消滅時効及び株主代表訴訟

会社に対する責任は、債権の消滅時効の規定の適用を受けます。債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間、又は権利を行使することができる時から10年間、行使しないときは、時効によって消滅するものとされております(民法第166条第1項)。

また、会社が請求を行わない場合には、株主が会社に対して提訴を請求し、一定の期間内に会社が訴えを提起しないときは、株主が自ら訴えを提起することができます(会社法第847条)。解任をめぐる争いにおいては、この手続が用いられることがございます。

 初動として行うべき事項

第一に、請求の内容を書面により特定させることでございます。いかなる行為が、いかなる義務に違反し、いかなる損害を生じさせたのかを明らかにさせます。

第二に、資料の確保でございます。在任中に作成された資料は、退任の後は入手が困難となります。手元にある資料を整理し、必要なものについては会社に対して提示を求めます。

第三に、安易に事実を認める発言をしないことでございます。会社との協議の場における発言が、後に不利に用いられることがございます。

よくあるご質問

質問1 解任の損害賠償を請求したら、逆に請求されました。

解任の当否をめぐる争いにおいて見られる展開でございます。双方の請求を一体として整理し、解決の枠組みを検討することになります。

質問2 在任中に取締役会の承認を得ておりました。

承認の有無は重要な事情でございます。承認を得ていた場合であっても責任が当然に否定されるわけではございませんが、防御の中心となり得ます。

質問3 他の取締役も賛成しておりました。

決議に賛成した取締役についても責任が問題となり得ます。議事録の賛否の記載を確認してください。

質問4 役員賠償責任保険に加入しておりました。

保険の適用の有無は、保険契約の内容及び免責の事由によります。契約の内容を確認し、速やかに保険会社へ通知することが必要でございます。

質問5 会社の資料が手元にありません。

会社に対して提示を求め、記録を残してください。訴訟に至った場合には、文書の提出を求める手続を検討することになります。

 確認事項の一覧

確認事項 確認の方法
請求の内容 会社からの書面
問題とされる行為の時期 取締役会議事録、稟議書
承認の有無 取締役会議事録、株主総会議事録
定款の責任の免除に関する定め 定款の謄本
責任限定契約の有無 契約書
役員賠償責任保険の有無 保険証券
提訴の請求の有無 会社からの書面

請求を受けた段階で、これらの資料を揃えたうえでご相談いただくことにより、方針の検討が速やかに進みます。

本記事における非開示事項について

会社の主張の特定を求める書面の記載の程度、経営判断の合理性を示すための資料の選び方、責任の免除の制度の適用の可否の判断、自らの請求と会社の請求とを一体として解決する場合の進め方は、事案の内容及び資料の状況により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第355条(忠実義務)、第356条第1項(競業取引及び利益相反取引の制限)、第365条第1項・第2項(取締役会設置会社における取扱い及び報告)、第423条第1項・第2項・第3項(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)、第424条(責任の免除)、第425条第1項(責任の一部の免除)、第426条第1項(定款の定めによる責任の免除)、第427条第1項(責任限定契約)、第429条第1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)、第847条(株主代表訴訟)

民法 第166条第1項(債権の消滅時効)、第644条(受任者の注意義務)、第709条(不法行為による損害賠償)

判例法理による部分 経営判断の合理性の評価の枠組みについては、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

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