創業者が親族である株主により解任された場合に確認する事項
創業者が親族である株主により解任された場合に確認する事項
「自分が一代で作った会社を、息子と弟に追い出されました」「株式の大半は、相続対策のために親族の名義にしてありました」「臨時株主総会が開かれたと聞きましたが、自分は呼ばれていません」。同族会社における解任のご相談は、このような形で寄せられます。
本記事では、創業者が親族である株主により解任された場合に、まず確認すべき事項を整理します。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っております。本記事は、地位を争う側の方に向けたものです。
結論 創業者であることは、法律上、解任を妨げる事由とはなりません
役員は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができるものとされています(会社法第339条第1項)。創業者であること、会社の成長に最も貢献したことは、法律上、解任を妨げる事由とはなりません。
もっとも、同族会社の解任には、争い得る点が残されていることが少なくありません。争点となり得るのは、次の各点です。
| 番号 | 争点 | 概要 |
|---|---|---|
| 1 | 株主総会が現実に開催されたか | 開催されていない場合、決議の不存在を主張し得ます |
| 2 | 招集の手続に瑕疵がないか | 通知の欠落、期間の不足等 |
| 3 | 議決権を行使した者が真の株主か | 名義株式の帰属の問題 |
| 4 | 決議の要件を満たしているか | 定足数、賛成数、定款による加重 |
| 5 | 解任に正当な理由があるか | 損害賠償の可否に関わります |
まず確認する2つの資料
登記事項証明書
履歴事項全部証明書を取得し、次の点を確認します。
| 確認事項 | 着眼点 |
|---|---|
| 自らの退任の登記の有無及び年月日 | 解任として登記されているか、退任として登記されているか |
| 同時に行われた他の役員の変更 | 誰が就任し、誰が退任したか |
| 代表取締役の変更 | 代表権の帰属 |
| 定款の定めに関わる登記事項 | 取締役会の設置、監査役の設置、株式の譲渡制限 |
| 過去の役員の変遷 | 解任に至る経過 |
同時に複数の役員の入替えが行われている場合には、計画的に準備されたことがうかがわれます。
株主名簿
株主名簿には、株主の氏名又は名称及び住所、有する株式の数等を記載し、又は記録しなければならないものとされています(会社法第121条)。株主は、会社の営業時間内であればいつでも、株主名簿の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第125条第2項)。
もっとも、中小の同族会社では、株主名簿が作成されていない、又は現状を反映していないことが珍しくありません。この場合には、法人税申告書別表二(同族会社等の判定に関する明細書)、過去の株式の異動の記録、贈与又は相続に関する資料等により、実際の株主構成を確認することになります。
名義株式の問題
同族会社では、創業者が資金を出しながら、親族の名義で株式を保有させている例が多く見られます。この場合、株主としての権利が誰に帰属するかが争点となります。
| 検討の視点 | 内容 |
|---|---|
| 出資の資金の出所 | 誰が払込みの資金を負担したか |
| 名義を借りた経緯 | 発起人の員数の要件、相続対策、事業承継の準備 |
| 配当の受領者 | 配当が誰に支払われていたか |
| 議決権の行使の実態 | 従前、誰が議決権を行使していたか |
| 株券の保管者 | 株券が発行されている場合 |
| 贈与の有無 | 贈与税の申告の有無 |
| 相続における取扱い | 遺産分割において対象とされたか |
名義株式の帰属をめぐる争いは、立証が容易ではありません。資金の出所を示す資料(預金の記録、払込みの記録)、税務上の取扱い、当事者間のやりとりの記録が重要となります。
なお、株主名簿の記載又は記録は、会社に対する対抗要件としての意味を有します(会社法第130条第1項)。したがって、実質的な帰属を主張する場合には、名義書換えを求める手続を併せて検討する必要があります。
同族会社の株主総会に手続の不備が生じやすい理由
同族会社では、株主総会が現実には開催されず、議事録のみが作成されている運用が長年続いていることが珍しくありません。この運用は、平時には問題となりませんが、紛争が生じた際に、次の形で争点となります。
| 事象 | 主張し得る内容 |
|---|---|
| 総会が現実に開催されていない | 決議不存在確認の訴え(会社法第830条第1項) |
| 招集通知が発せられていない | 決議取消しの訴え(会社法第831条第1項) |
| 議事録の記載が事実と異なる | 決議の不存在又は取消し |
| 株主でない者が議決権を行使した | 決議取消しの訴え |
| 定足数を満たしていない | 決議取消しの訴え又は不存在 |
もっとも、株主の全員が同意している場合には、招集手続を省略して株主総会を開催することができ(会社法第300条。ただし、書面又は電磁的方法による議決権行使を定めた場合を除きます)、また、取締役又は株主が提案をした場合において、議決権を行使することができる株主の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、決議があったものとみなされます(会社法第319条第1項)。したがって、「総会が開かれていない」ことのみで直ちに決議が不存在となるわけではありません。
対応の期限
| 手続 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 決議取消しの訴え | 決議の日から3か月 | 会社法第831条第1項 |
| 決議不存在確認の訴え | 期限はありません | 会社法第830条第1項 |
| 決議無効確認の訴え | 期限はありません | 会社法第830条第2項 |
| 損害賠償の請求 | 消滅時効によります | 民法第166条第1項 |
決議取消しの訴えの3か月という期間は、極めて短いものです。解任を知った時点で、まずこの点を確認する必要があります。期間を経過した後は、不存在又は無効を主張し得るかを検討することになりますが、要件は異なります。
解任に正当な理由があるかの検討
解任された役員は、その解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができるものとされています(会社法第339条第2項)。「正当な理由」があることは、会社の側が主張立証すべき事項と解されています(判例法理によります)。
同族会社の事案で会社側から挙げられがちな理由と、検討の視点は、次のとおりです。
| 会社側の理由 | 検討の視点 |
|---|---|
| 高齢により判断力が低下している | 具体的な支障の有無、医学的な資料の有無 |
| 経営方針が時代に合わない | 具体的な事実の有無、職務執行への支障 |
| 会社の資金を私的に用いた | 事実の有無、従前の会社の了解、他の役員の取扱い |
| 従業員との関係が悪化した | 具体的な支障の有無 |
| 親族との関係が悪化した | 職務執行との関連 |
同族会社では、公私の区分が明確でない運用が長年続いていることがあります。従前は会社も了解していた取扱いを、解任の局面で問題として持ち出す例がありますので、従前の運用の実態を示す資料が重要となります。
同時に整理すべき事項
創業者が解任された場合、地位の問題だけでなく、多数の法律関係が同時に問題となります。
| 項目 | 確認すべき内容 |
|---|---|
| 保有する株式 | 株式数、譲渡制限の有無、今後の取扱い |
| 会社に対する貸付金 | 残高、返済の合意、消滅時効 |
| 会社の借入れの個人保証 | 保証契約の有無、解除の可否 |
| 会社に賃貸している不動産 | 賃貸借契約の内容、賃料、解約の可否 |
| 役員退職慰労金 | 支給規程、支給実績、決議の有無 |
| 未払又は減額された役員報酬 | 精算の内容 |
| 社宅、社用車 | 使用の継続の可否、引上げへの対応 |
| 会社が加入している保険 | 契約者、被保険者、受取人 |
| 会社名義の資産のうち私的なもの | 帰属の整理 |
金銭に関する項目については、当法人が運営する別の情報提供のページにおいても取り扱っております。
案件で確認すべき事項
| 番号 | 確認事項 | 資料 |
|---|---|---|
| 1 | 解任の決議の年月日 | 登記事項証明書、株主総会議事録 |
| 2 | 招集通知の有無及び内容 | 通知書 |
| 3 | 総会の現実の開催の有無 | 記録、関係者の記憶 |
| 4 | 議決権を行使した者及びその株式数 | 議事録、株主名簿 |
| 5 | 株主名簿の記載及び実際の帰属 | 株主名簿、法人税申告書別表二 |
| 6 | 名義株式に関する資金の出所 | 預金の記録、贈与の記録 |
| 7 | 定款上の決議の要件 | 定款 |
| 8 | 解任の理由として示された内容 | 議事録、通知書 |
| 9 | 任期の残り及び報酬額 | 登記事項証明書、給与明細 |
| 10 | 株式、貸付金、個人保証の状況 | 契約書、株主名簿 |
弁護士にご相談いただく意味
同族会社の紛争では、法律関係が複数の層に重なっています。役員の地位、株主としての権利、金銭債権、個人保証、不動産の賃貸借、そして相続の問題です。これらを切り離して扱うと、一つを解決しても他が残るという事態になります。
また、当事者が親族であるために、直接のやりとりが感情の応酬に転じやすいという事情があります。代理人が入ることにより、議論が資料と法的な論点に整理されます。
弁護士は、解任された創業者の代理人として、決議の効力の検証、株主構成及び名義株式の整理、損害賠償の請求、株式、貸付金、個人保証を含む全体の整理、交渉、必要に応じた訴訟の遂行を行います。
なお、どの論点から着手するか、資料の提示の順序、交渉の進め方は、株主構成、親族間の関係、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してまいりました実務上の知見に属しますので、本記事では詳細を開示しておりません。
当事務所は、役員退職慰労金及び役員の解任の分野を継続して取り扱っており、会社の側の代理人となる案件も引き受けております。相手方がどのような手順を想定しているかを承知していることが、解任された側の代理人としての作業にも生きております。
よくあるご質問
質問1 自分が創業した会社です。それでも解任されるのですか。
創業者であることは、法律上、解任を妨げる事由とはなりません。株主総会は、いつでも役員を解任することができるものとされています(会社法第339条第1項)。もっとも、決議の手続に瑕疵がある場合には、決議の効力を争う余地があります。
質問2 株式は親族の名義にしてありますが、実際には自分が出資しました。
名義株式の帰属をめぐる問題です。資金の出所、配当の受領者、従前の議決権の行使の実態、税務上の取扱い等により判断されます。立証は容易ではありませんが、争点となり得ます。
質問3 株主総会が開かれた覚えがありません。
決議不存在確認の訴えを検討し得ます(会社法第830条第1項)。この訴えには期間の制限がありません。もっとも、株主全員の同意による決議の省略(会社法第319条第1項)が主張される場合には、その要件の充足を検討することになります。
質問4 解任から4か月が経過しています。もう争えませんか。
決議取消しの訴えには決議の日から3か月という期間の制限がありますので(会社法第831条第1項)、この訴えによることはできません。他方、決議不存在確認の訴え及び決議無効確認の訴えには期間の制限がありません。また、損害賠償の請求は別途検討し得ます。
質問5 会社に貸したお金と、個人保証はどうなりますか。
役員を退いたことによって、貸付金の債権が消滅するものでも、個人保証が当然に消滅するものでもありません。貸付金の回収と保証の解除は、それぞれ別の検討を要します。この点は、関連記事において取り扱っております。
質問6 社宅と社用車を引き上げると言われました。
社宅の使用関係が使用貸借か賃貸借か、社用車の使用の根拠が何かにより、扱いが異なります。生活の基盤に関わる問題ですので、早期にご相談ください。
質問7 もう関わりたくないので、株式も含めて全部整理したいのですが。
その方向で解決を図ることも一つの選択です。もっとも、株式の評価、貸付金、個人保証、退職慰労金といった項目の全体の均衡を検討する必要があります。
親族間の紛争において留意すべきこと
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 感情と法的な請求とを切り分ける | 資料により認められる事実に基づいて主張を組み立てます |
| 直接のやりとりを控える | 記録に残らないやりとりが、後に不利に働くことがあります |
| 従業員及び取引先を巻き込まない | 別の紛争を生じさせます |
| 相続の問題を視野に入れる | 将来の相続により株主構成が変動します |
| 会社の事業への影響を考慮する | 会社の価値が損なわれれば、双方の損失となります |
| 解決の形を早期に想定する | 地位の回復か、金銭による解決かを見定めます |
親族間の紛争では、双方が「相手が悪い」と述べる状態が長期化しやすく、その間に会社の事業が損なわれることがあります。株式を保有している場合、会社の価値の低下は自らの損失にもつながります。
解決の形の類型
| 類型 | 内容 | 適する場面 |
|---|---|---|
| 地位の回復 | 決議の効力を争い、役員に復帰します | 議決権の分布に照らして回復の見込みがある場合 |
| 金銭による解決 | 損害賠償、退職慰労金、株式の買取り等により清算します | 相手方が議決権の多数を確定的に握っている場合 |
| 分離 | 事業又は資産を分割し、それぞれが独立します | 複数の事業又は不動産がある場合 |
| 併存 | 株主としては残り、経営からは退きます | 配当その他の経済的利益が見込める場合 |
いずれの類型を目指すかにより、進め方が大きく異なります。早い段階で方向を見定めることが、結果として双方の負担を小さくします。
本記事における非開示事項について
どの論点から着手するか、資料の提示の順序、交渉の進め方、親族との関係を踏まえた対応は、株主構成、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
解任の決議から3か月が近い場合には、その旨をお申し出ください。ご相談に際しましては、登記事項証明書、定款の写し、株主名簿の写し、法人税申告書別表二の写し、招集通知、株主総会議事録の写し、給与明細をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。
本記事の根拠条文
会社法 第121条(株主名簿)、第125条第2項(株主名簿の閲覧等)、第130条第1項(株式の譲渡の対抗要件)、第133条(株主名簿記載事項の記載又は記録の請求)、第296条・第298条・第299条(株主総会の招集)、第297条第1項(株主による株主総会の招集の請求)、第300条(招集手続の省略)、第319条第1項(株主総会の決議の省略)、第330条(株式会社と役員との関係)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)、第830条第1項・第2項(決議不存在確認及び決議無効確認の訴え)、第831条第1項(決議取消しの訴え)、第854条(役員の解任の訴え)
民法 第166条第1項(債権等の消滅時効)、第896条(相続の一般的効力)
判例法理による部分 「正当な理由」の有無の判断及びその主張立証責任の所在、名義株式に関する株主権の帰属の判断については、判例法理及び個別の事実関係によります。
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