取締役会の多数派を握られた代表取締役が採り得る手段

取締役会の多数派を握られた代表取締役が採り得る手段

「取締役5名のうち、3名が明らかに反対の側に回りました」「次の取締役会で代表取締役を解職されると思われます」。取締役会における多数を失った代表取締役は、極めて不安定な立場に置かれます。本記事では、この段階で採り得る手段を整理します。当事務所は役員の側にも会社の側にも立ちますが、本記事は地位を守る側の方に向けたものです。

 結論 株主総会における議決権の分布が最後の拠り所となります

取締役会と株主総会との関係は、次のとおりです。

機関 権限 根拠
株主総会 取締役の選任及び解任 会社法第329条第1項、第339条第1項
取締役会 代表取締役の選定及び解職、業務執行の決定、取締役の職務の執行の監督 会社法第362条第2項

すなわち、取締役会の構成そのものは、株主総会が決めます。したがって、株主総会において議決権の多数を有していれば、取締役会の構成を入れ替えることが可能です。

自らの立場 採り得る対応の中心
株主総会において議決権の過半数を有する 役員の改選により取締役会の構成を変えることを検討します
議決権を有するが過半数に満たない 他の株主との連携、決議の要件の確認、手続の適正の確保
株式を保有していない 取締役としての権限の行使、手続の適正の確保が中心となります

 議決権の過半数を有する場合

 株主総会の招集

株主総会の招集は、取締役会設置会社においては取締役会の決議によって定めるものとされています(会社法第298条第1項、第4項)。したがって、取締役会において多数を失っている場合、取締役会の決議により株主総会を招集することが難しくなります。

この場合、株主としての招集の請求(会社法第297条第1項)を用いることが考えられます。総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができます(公開会社でない株式会社においては、6か月の保有期間の要件は課されません。同条第2項)。

請求の後、遅滞なく招集の手続が行われない場合等には、裁判所の許可を得て自ら招集することができます(同条第4項)。

 役員の改選

株主総会において、取締役の解任の議案及び新たな取締役の選任の議案を上程することが考えられます。役員を解任し、又は選任する株主総会の決議は、議決権の過半数(3分の1以上の割合を定款で定めた場合にはその割合以上)を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数(これを上回る割合を定款で定めた場合にはその割合以上)をもって行うものとされています(会社法第341条)。定款により要件が加重されている場合がありますので、確認を要します。

なお、正当な理由がない解任については、会社が解任された役員に対して損害賠償の責任を負うことがあります(会社法第339条第2項)。解任を行う場合には、この点も考慮する必要があります。

 累積投票

株主総会の目的である事項が2人以上の取締役の選任である場合には、株主は、定款に別段の定めがあるときを除き、累積投票によるべきことを請求することができるものとされています(会社法第342条第1項)。累積投票により選任された取締役の解任は、特別決議によるものとされています(会社法第309条第2項第7号)。

多くの中小会社では、定款により累積投票を排除しています。定款の定めの確認が必要です。

 議決権が過半数に満たない場合

 手続の適正の確保

取締役会において多数を失っている場合、解職の決議を実体的に阻止することは困難です。この場合、次の点に注力することになります。

注力する点 内容
招集の手続 招集通知が法定の期間内に発せられているか(会社法第368条第1項)
議題の明示 解職の議案が事前に示されているか
定足数 議決に加わることができる取締役の過半数の出席(会社法第369条第1項)
特別の利害関係 議決に加わることができない取締役が加わっていないか(会社法第369条第2項)
議事録の正確性 議事の経過及び自らの意見が記載されているか

これらの点に瑕疵があれば、後に決議の効力を争う余地が生じます。取締役会の当日においては、自らの意見を明確に述べ、議事録への記載を求めることが重要です。取締役会の決議に参加した取締役であって議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定されるものとされています(会社法第369条第5項)。

 他の株主との連携

議決権が過半数に満たない場合であっても、他の株主の協力を得ることにより、株主総会における多数を形成し得る場合があります。株主名簿及び法人税申告書別表二により、株主構成を正確に把握したうえで検討します。

 取締役会の招集の請求

招集権者以外の取締役も、招集権者に対し、取締役会の目的である事項を示して招集を請求することができます(会社法第366条第2項)。請求があった日から5日以内に、その請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする招集の通知が発せられない場合には、請求をした取締役が自ら招集することができます(同条第3項)。

自ら議題を設定して取締役会を招集することにより、議論の場を確保することが考えられます。

 差止めの請求

 株主による差止め

取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、6か月前から引き続き株式を有する株主(公開会社でない株式会社においては、この保有期間の要件は課されません)は、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができるものとされています(会社法第360条)。

要件は限定されていますが、相手方が会社の財産を処分しようとしている場合等には、検討の余地があります。

 監査役による差止め

監査役は、取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができるものとされています(会社法第385条第1項)。

監査役が中立の立場にある場合には、監査役への情報の提供を検討することが考えられます。

 解職された場合に備えた準備

多数を失っている以上、解職の決議が行われる可能性を前提として、次の準備を進めます。

準備 内容
資料の確保 議事録、契約書、財務資料、電子的な記録
記録の作成 招集の状況、当日の議論、発言の内容
会社の重要な物の所在の確認 実印、印鑑カード、預金通帳、登記識別情報
個人保証及び貸付金の整理 契約書の確認、残高の把握
保有する株式の確認 株主名簿の記載、名義書換えの状況
役員報酬及び退職慰労金 決定の経過、支給規程の確認
保全の手続の検討 職務の執行を停止する仮処分の可否

代表取締役を解職されても、取締役の地位は残ります。したがって、取締役として取締役会に出席し、議事録の閲覧謄写を請求することができます(会社法第371条第2項)。

 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 資料
1 取締役の員数及び構成 登記事項証明書
2 自らの議決権の割合 株主名簿、法人税申告書別表二
3 他の株主の議決権の割合 同上
4 定款上の決議の要件 定款
5 累積投票の排除の定め 定款
6 取締役会の招集権者の定め 定款、取締役会の決議
7 各取締役の任期の残り 登記事項証明書、定款
8 監査役の有無及び権限の範囲 登記事項証明書、定款
9 会社の財務状況及び資産 計算書類
10 個人保証及び貸付金の状況 契約書

 弁護士にご相談いただく意味

この段階では、時間が限られています。取締役会の招集通知が届いてから対応を始めると、選択肢がほとんど残りません。他方、過剰な対応は、後に自らの不利益となる場合があります。

弁護士は、経営者の代理人として、議決権の分布及び定款の分析、株主総会の招集の請求、取締役会における対応の助言、記録の整備、資料の確保、決議の効力を争う手続の準備、必要に応じた保全の手続の申立てを行います。

なお、具体的な対応の順序、時期、他の株主との調整の進め方は、株主構成、取締役会の構成、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してまいりました実務上の知見に属しますので、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 取締役会で少数になりましたが、株式は過半数を持っています。

株主総会における議決権の多数を有していれば、役員の改選により取締役会の構成を変えることを検討し得ます。取締役会の決議により株主総会を招集することが難しい場合には、株主としての招集の請求(会社法第297条)を用いることになります。

質問2 明日の取締役会で解職されそうです。今日できることはありますか。

招集の手続の適法性を確認し、当日の対応(意見の表明、議事録への記載の求め)を準備することになります。あわせて、資料の確保及び記録の作成を行います。緊急を要しますので、直ちにご相談ください。

質問3 解職の議案について、自分は反対の議決権を行使できますか。

解職の対象となる代表取締役は、その決議について特別の利害関係を有する取締役に当たり、議決に加わることができないとする考え方が採られています(判例法理によります)。もっとも、出席して意見を述べることまで一律に否定されるものではないと考える余地があります。

質問4 相手方の取締役を先に解任することはできますか。

株主総会における解任の決議には議決権の要件があります(会社法第341条)。また、正当な理由がない解任については会社が損害賠償の責任を負うことがあります(会社法第339条第2項)。議決権の分布を確認したうえでの判断となります。

質問5 会社の資産が処分されそうです。

法令若しくは定款に違反する行為により会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、株主による差止めの請求(会社法第360条)を検討し得ます。監査役による差止め(会社法第385条第1項)の検討もあり得ます。

本記事における非開示事項について

具体的な対応の順序、時期、他の株主との調整の進め方、取締役会における対応の内容は、株主構成、取締役会の構成、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、経営権をめぐる紛争に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

緊急を要する場合には、その旨をお申し出ください。ご相談に際しましては、登記事項証明書、定款の写し、株主名簿の写し、法人税申告書別表二の写し、取締役会議事録の写し、招集通知をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。

本記事の根拠条文

会社法 第297条第1項・第2項・第4項(株主による株主総会の招集の請求)、第298条第1項・第4項(株主総会の招集の決定)、第329条第1項(役員の選任)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)、第342条第1項(累積投票)、第309条第2項第7号(累積投票により選任された取締役の解任等)、第360条(株主による取締役の行為の差止め)、第362条第2項・第4項(取締役会の権限)、第366条第1項・第2項・第3項(取締役会の招集)、第368条第1項(招集の通知)、第369条第1項・第2項・第5項(取締役会の決議)、第371条第2項(取締役会議事録の閲覧謄写)、第385条第1項(監査役による取締役の行為の差止め)

判例法理による部分 解職の対象となる代表取締役が特別の利害関係を有する取締役に当たることは、判例法理によります。

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