社内で経営権を奪う動きが始まったときに現経営者が確認する事項

社内で経営権を奪う動きが始まったときに現経営者が確認する事項

「役員の何人かが、別の場所で集まっているようです」「主要な株主である叔父が、他の株主に接触しているという話が入りました」「顧問税理士が急に距離を置くようになりました」。経営権をめぐる動きは、正面から始まるとは限りません。

本記事では、そうした動きを察知した段階で、現に経営者の地位にある方が確認すべき事項を整理します。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っております。本記事は、地位を守る側の方に向けたものです。

 結論 議決権の分布と取締役会の構成を、その日のうちに把握します

経営権の帰趨は、最終的には次の2点で決まります。

決定要素 内容 確認する資料
株主総会における議決権の分布 誰が何個の議決権を有するか 株主名簿、法人税申告書別表二、定款
取締役会における多数 取締役の人数と、それぞれの立場 登記事項証明書、定款

この2点の把握なしに採る対応は、方向を誤ります。まずこの2点を確定することが、初動の中心となります。

 議決権の分布の確認

 確認する事項

番号 確認事項 資料
1 発行済株式の総数 登記事項証明書
2 種類株式の有無及び内容 定款、登記事項証明書
3 株主ごとの株式数 株主名簿、法人税申告書別表二
4 自己株式の有無 計算書類、株主名簿
5 相互保有株式の有無 関係会社の株主構成
6 相続により準共有となっている株式 相続に関する資料
7 名義株式の有無 出資の資金の出所に関する資料
8 議決権制限株式の有無 定款
9 譲渡制限の定め 定款、登記事項証明書
10 定款による決議要件の加重 定款

自己株式については、議決権を有しないものとされています(会社法第308条第2項)。したがって、自己株式が存在する場合には、議決権の総数の計算に影響します。

株式が2以上の者の共有に属するときは、共有者は当該株式についての権利を行使する者1人を定め、会社に対しその者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができないものとされています(会社法第106条。ただし、会社が同意した場合を除きます)。相続が生じたまま遺産分割が未了である株式については、この点の整理が重要です。

 決議要件の確認

決議 要件 根拠
役員の選任及び解任 議決権の過半数(定款で3分の1以上に引下げ可能)を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数(定款で加重可能) 会社法第341条
監査役の解任 特別決議 会社法第343条第4項、第309条第2項第7号
定款の変更 特別決議 会社法第466条、第309条第2項第11号
特別決議 議決権の過半数(定款で3分の1以上に引下げ可能)を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上(定款で加重可能) 会社法第309条第2項

定款により決議の要件が加重されている場合があります。定款の確認は、必ず行う必要があります。

 取締役会の構成の確認

確認事項 内容
取締役の員数 登記事項証明書
取締役会設置会社であるか 登記事項証明書
監査役の有無及び権限の範囲 登記事項証明書、定款
代表取締役の人数 登記事項証明書
各取締役の任期の残り 選任の時期、定款上の任期
取締役会の招集権者の定め 定款、取締役会の決議
各取締役の立場 事実の把握

代表取締役の解職は、取締役会の決議により行われます(会社法第362条第2項第3号)。したがって、取締役会において多数を握られている場合には、株主総会を経ずに代表権を失う可能性があります。

なお、解職の対象となる代表取締役は、その決議について特別の利害関係を有する取締役に当たり、議決に加わることができないとする考え方が採られています(判例法理によります)。したがって、自らの議決権を計算に入れることはできません。

 現れやすい兆候

兆候 意味し得ること
一部の役員が別途に会合を持つ 取締役会における多数の形成
株主への接触が行われている 委任状の取り付け、議決権の集約
株主名簿の閲覧謄写の請求があった 株主構成の把握
会計帳簿等の閲覧謄写の請求があった 責任追及の準備、情報の収集
臨時株主総会の招集の請求があった 解任の議案の上程の準備
取締役会の招集の請求があった 解職の議案の上程の準備
顧問税理士又は顧問弁護士の対応が変わった 相手方への助言の開始
金融機関の担当者の対応が変わった 情報の流入
従業員の一部が距離を置く 社内の分断
会社の重要書類の所在が変わった 実印、通帳、登記識別情報等の確保の動き

これらの兆候は、単独では別の理由による場合もあります。他方、複数が同時に現れている場合には、組織的な準備が進んでいる可能性を考慮すべきです。

 初動として行うこと

番号 対応 内容
1 登記事項証明書及び定款の取得 現状の確認
2 株主名簿及び法人税申告書別表二の確認 議決権の分布の把握
3 会社の重要な物の所在の確認 実印、印鑑カード、預金通帳、登記識別情報
4 重要書類の写しの確保 契約書、議事録、規程
5 電子的な記録の保全 電子メール、社内システムの記録
6 記録の作成 日時、場面、発言者を記した記録
7 助言者の確認 顧問税理士、顧問弁護士の立場
8 相談 早期に弁護士に相談します

 会社の重要な物の管理

会社の実印、印鑑カード、預金通帳、登記識別情報等の所在を確認します。これらが持ち去られると、対外的な行為が事実上できなくなります。関連する対応については、関連記事において取り扱っております。

 記録の作成

日々の出来事を、日付とともに書き留めておきます。後に決議の効力を争う場面、又は解任の正当な理由が争われる場面において、当時の状況を示す資料となります。

 やってはならないこと

行為 理由
感情的な対応 解任の正当な理由として主張される材料となり得ます
会社の資金の私的な使用 責任追及の根拠とされます
会社の資産の性急な処分 差止め又は責任追及の対象となり得ます
取締役会の決議を経ずに重要な業務執行を行う 会社法第362条第4項に反するおそれがあります
従業員への圧力 別の紛争を生じさせます
資料の廃棄 訴訟における評価を著しく損ないます
相手方への直接の詰問 準備の状況を知らせる結果となります

特に、会社の資金及び資産の取扱いについては、通常の業務の範囲を超える行為を控えるべきです。責任追及の材料を自ら作ることになります。

なお、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定は、取締役に委任することができないものとされています(会社法第362条第4項)。

事項
第1号 重要な財産の処分及び譲受け
第2号 多額の借財
第3号 支配人その他の重要な使用人の選任及び解任
第4号 支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止

 法律上採り得る対応

対応 内容 根拠
取締役会の招集 招集権者として、又は請求により招集します 会社法第366条
株主総会の招集 取締役会の決議により招集します 会社法第298条
招集の請求への対応 株主からの請求に対する応答 会社法第297条
株主名簿の閲覧謄写の請求への対応 拒絶事由の有無の検討 会社法第125条第3項
会計帳簿等の閲覧謄写の請求への対応 拒絶事由の有無の検討 会社法第433条第2項
自らの株式の確認 名義書換えの状況の確認 会社法第130条、第133条

株主から株主総会の招集の請求があった場合(会社法第297条第1項)、これに応じるかどうかの判断は、慎重に行う必要があります。応じない場合には、裁判所の許可を得て株主自らが招集する道が開かれます(同条第4項)。この点は、関連記事において取り扱っております。

 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 資料
1 議決権の分布 株主名簿、法人税申告書別表二
2 取締役会の構成 登記事項証明書
3 定款の定め(決議要件、任期、招集) 定款
4 自らの任期の残り 登記事項証明書、定款
5 名義株式の有無 出資に関する資料
6 相続が生じた株式の状況 相続に関する資料
7 会社の重要な物の所在 現物の確認
8 個人保証及び貸付金の状況 契約書
9 会社の財務状況 計算書類
10 兆候の内容及び時期 記録

 弁護士にご相談いただく意味

経営権をめぐる動きは、相手方が周到に準備したうえで、短期間のうちに実行されることがあります。動きが表面化してから対応を始めると、既に多数の形成が完了していることがあります。

他方、兆候の段階で過剰に反応すると、かえって対立を早め、また自らの行動が後に「正当な理由」として主張される材料となることがあります。したがって、この段階での対応は、慎重かつ的確であることを要します。

弁護士は、経営者の代理人として、議決権の分布及び取締役会の構成の分析、定款の確認、資料の保全、相手方からの請求への対応、必要に応じた手続の遂行を行います。

なお、具体的な対応の順序、時期、社内における進め方は、株主構成、取締役会の構成、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してまいりました実務上の知見に属しますので、本記事では詳細を開示しておりません。

当事務所は、役員の解任及び経営権をめぐる紛争を継続して取り扱っており、地位を争う側の代理人となる案件も引き受けております。双方の立場の作業を承知していることが、いずれの側の代理人としての作業にも生きております。

よくあるご質問

質問1 まず何をすればよいですか。

登記事項証明書及び定款を取得し、株主名簿と法人税申告書別表二により議決権の分布を確認してください。そのうえで、できるだけ早い時期にご相談ください。

質問2 自分が過半数の議決権を持っていれば安全ですか。

株主総会における解任の決議は成立しないことになります。他方、代表取締役の解職は取締役会の決議によりますので(会社法第362条第2項第3号)、取締役会において多数を握られている場合には代表権を失う可能性があります。両方の確認が必要です。

質問3 株主名簿の閲覧を請求されました。応じなければなりませんか。

株主及び債権者は、株主名簿の閲覧又は謄写を請求することができるものとされています(会社法第125条第2項)。会社が請求を拒むことができる事由が定められていますので(同条第3項)、その該当性を検討することになります。

質問4 臨時株主総会の招集を請求されました。

要件を満たす請求であれば、会社は招集の手続を行うことが求められます。請求があった日から8週間以内の日を総会の日とする招集の通知が発せられない場合等には、請求をした株主が裁判所の許可を得て自ら招集することができます(会社法第297条第4項)。応じるかどうかの判断は慎重に行う必要があります。

質問5 相手方の中心人物を先に解任することはできますか。

株主総会において解任の決議をするためには、議決権の要件を満たす必要があります(会社法第339条第1項、第341条)。また、正当な理由がない解任については、会社が損害賠償の責任を負うことがあります(会社法第339条第2項)。議決権の分布を確認したうえでの判断となります。

質問6 従業員に事情を説明したほうがよいですか。

社内の動揺を招く可能性があり、また説明の内容が後に問題とされることがあります。時期及び内容については、慎重な検討を要します。

 定款の確認が特に重要となる理由

同じ会社法の下でも、定款の定めにより、経営権をめぐる力関係は大きく変わります。

定款の定め 影響
取締役の任期(2年か10年か) 不再任による退任の時期、損害賠償の額の基礎
役員の解任の決議要件の加重 解任の成立の可否
定足数の引下げ又は引上げ 総会の成立の可否
累積投票の排除 少数株主による取締役の選任の可否
取締役会の招集権者の定め 取締役会の主導権
取締役会の決議要件の加重 解職の成立の可否
株式の譲渡制限 株主構成の変動の可否
種類株式の定め 議決権の配分
相続人等に対する売渡しの請求の定め 相続により株式が分散した場合の対応

定款が長年見直されていない会社では、経営者自身が定款の内容を正確に把握していないことがあります。まず定款の全文を確認することが、対応の出発点となります。

 相談の際に整理していただきたい事項

項目 内容
察知した兆候 いつ、何を、どのようにして知ったか
株主構成 各株主の議決権の割合
取締役会の構成 各取締役の立場
定款の内容 任期、決議の要件、招集に関する定め
自らの任期の残り 選任の時期
会社の財務状況 直近の計算書類
個人保証及び貸付金 契約書

兆候の段階でご相談いただくことにより、選択肢が最も広く残ります。

本記事における非開示事項について

具体的な対応の順序、時期、社内における進め方、相手方からの請求への応答の内容は、株主構成、取締役会の構成、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、経営権をめぐる紛争に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

緊急を要する場合には、その旨をお申し出ください。ご相談に際しましては、登記事項証明書、定款の写し、株主名簿の写し、法人税申告書別表二の写し、計算書類、取締役会議事録の写しをお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。

本記事の根拠条文

会社法 第106条(共有者による権利の行使)、第125条第2項・第3項(株主名簿の閲覧等及び拒絶事由)、第130条(株式の譲渡の対抗要件)、第133条(株主名簿記載事項の記載又は記録の請求)、第297条第1項・第4項(株主による株主総会の招集の請求)、第298条(株主総会の招集の決定)、第308条第2項(自己株式の議決権)、第309条第2項(特別決議)、第330条(株式会社と役員との関係)、第332条(取締役の任期)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)、第343条第4項(監査役の解任の決議)、第362条第2項第3号・第4項(取締役会の権限及び委任することができない事項)、第366条(取締役会の招集)、第433条第1項・第2項(会計帳簿等の閲覧謄写の請求及び拒絶事由)、第466条(定款の変更)

判例法理による部分 解職の対象となる代表取締役が特別の利害関係を有する取締役に当たること、名義株式に関する株主権の帰属の判断については、判例法理及び個別の事実関係によります。

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