登記事項証明書から役員の異動をどう読み取るか

登記事項証明書から役員の異動をどう読み取るか

役員の異動は登記事項でありますので、登記事項証明書を確認することにより、会社が対外的にどのような届出をしているかを知ることができます。登記事項証明書は誰でも取得することができますので(商業登記法第10条第1項)、会社の協力を得ることなく確認することが可能です。本記事では、証明書の読み方を整理いたします。

 結論 履歴事項全部証明書を取得し、下線と登記原因を確認します

確認の手順は、次のとおりです。

順序 行うこと
第1 履歴事項全部証明書を取得します
第2 「役員に関する事項」の欄を確認します
第3 自らの氏名に下線が引かれていないかを確認します
第4 下線がある場合、登記原因(辞任、退任、解任等)を確認します
第5 退任の年月日と、登記がされた年月日の双方を記録します

下線が引かれている事項は、既に効力を失った事項、すなわち抹消された事項です。氏名に下線が引かれている場合には、役員でなくなった旨の登記がされていることを意味します。

身に覚えのない退任の登記を見つけた場合には、直ちに証明書を保管し、記載の内容を記録してください。その後の主張の出発点となります。

 登記事項証明書の種類

種類 記載される内容 用いる場面
現在事項全部証明書 現に効力を有する事項 現在の役員の構成を確認する場合
履歴事項全部証明書 現に効力を有する事項に加え、一定の期間内に抹消された事項 役員の異動の経過を確認する場合
閉鎖事項全部証明書 履歴事項全部証明書に記載されない古い事項 相当以前の異動を確認する場合
代表者事項証明書 代表者に関する事項 代表権の有無のみを確認する場合

役員の異動を確認する場合には、履歴事項全部証明書を取得してください。現在事項全部証明書には、既に退任した役員に関する記載が現れませんので、退任の登記がされた事実そのものを確認することができません。

履歴事項全部証明書に記載される期間には限りがありますので、相当以前の異動を確認する必要がある場合には、閉鎖事項全部証明書を併せて取得いたします。

 「役員に関する事項」の欄の読み方

 記載の構造

この欄には、役員の資格(取締役、代表取締役、監査役等)、氏名、代表取締役については住所が記載され、その右側に登記原因及びその年月日、登記の年月日が記載されます。

一つの氏名について、就任の登記と退任の登記とが上下に並ぶ形になります。退任の登記がされると、就任に関する記載と氏名とに下線が引かれます。

 登記原因の記載の違い

記載 意味
就任 選任され、就任を承諾したこと
重任 任期の満了と同時に再び選任され、引き続き在任すること
退任 任期の満了等により役員でなくなったこと
辞任 自らの意思表示により役員でなくなったこと
解任 株主総会の決議により解任されたこと(会社法第339条第1項)
死亡 死亡により役員でなくなったこと
資格喪失 欠格事由に該当したこと等

「辞任」と記載されている場合には、辞任届が添付書面として提出されていることになります。辞任した覚えがないにもかかわらず「辞任」と記載されているときは、辞任届が作成されて用いられた可能性があります。

「退任」と記載されている場合には、任期の満了による退任であることが多いといえます。この場合には、任期がいつ満了したのか、定款の定めはどうであったのかを併せて確認する必要があります。

 二つの年月日の意味

記載される年月日は二つあります。一つは登記原因の年月日、すなわち退任の効力が生じたとされる日です。もう一つは、登記がされた年月日です。

会社は、登記事項に変更が生じたときは、2週間以内に変更の登記をしなければなりません(会社法第915条第1項)。したがって、この二つの日が大きく離れている場合には、その理由を確認する意味があります。過去の日付を退任の日として、相当の期間が経過した後に登記がされている場合には、その経緯が問題となり得ます。

 身に覚えのない登記を見つけた場合

順序 行うこと
第1 履歴事項全部証明書を取得し、原本を保管します
第2 登記原因、原因の年月日、登記の年月日を記録します
第3 会社に対し、書面により経緯の説明を求めます
第4 辞任の意思がないことを書面により明らかにします
第5 登記の申請書及び添付書面の閲覧を検討します
第6 役員の地位を有することの確認を求める手続を検討します

登記の申請書及び添付書面は、利害関係を有する部分に限り、閲覧を請求することができるものとされております。辞任届としてどのような書面が提出されているかを確認することができれば、その後の主張を組み立てるうえで有力な資料となります。

なお、事実と異なる登記がされた場合には、公正証書原本不実記載等の罪が問題となり得ますし(刑法第157条第1項)、辞任届が偽造されている場合には私文書偽造の罪が問題となり得ます(刑法第159条第1項)。もっとも、刑事上の問題と登記の是正とは別の手続でありますので、地位の確認を求める民事上の手続を併せて検討することになります。

 登記の効力と実体との関係

登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができません(会社法第908条第1項)。もっとも、登記がされていることは、その内容が実体としても真実であることを意味するものではありません。

すなわち、退任の登記がされていても、辞任の意思表示がないのであれば、実体としては役員の地位を失っていないことになります。この不一致を解消するために、地位の確認を求める訴えを提起し、勝訴の判決を得たうえで登記の是正を求めることになります。

 退任の登記がされていない場合

反対に、退任したにもかかわらず登記がされていない場合もあります。役員が欠けることとなるときは、辞任等により退任した役員が、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有します(会社法第346条第1項)。この場合、退任の登記は直ちにはされません。

この状態では、対外的には引き続き役員として扱われますので、会社に生じた事象について責任を問われる余地が残ります。後任の選任を会社に求めるとともに、必要に応じて裁判所に対する申立てを検討することになります。

よくあるご質問

質問1 登記事項証明書は自分で取得できますか。

誰でも、手数料を納付して、登記事項証明書の交付を請求することができます(商業登記法第10条第1項)。法務局の窓口のほか、オンラインによる請求も可能です。会社の同意を得る必要はありません。

質問2 下線が引かれていました。どういう意味ですか。

下線は、当該事項が既に抹消されたことを示します。氏名に下線が引かれている場合には、役員でなくなった旨の登記がされていることを意味しますので、登記原因を確認してください。

質問3 「辞任」となっていますが辞任していません。

辞任届が作成されて用いられた可能性があります。会社に対して書面により経緯の説明を求めるとともに、辞任の意思がないことを明らかにし、地位の確認を求める手続を検討することになります。

質問4 登記を直接に取り消してもらえますか。

登記の記載自体を簡便に取り消す手続はありません。役員の地位を有することの確認を求める訴えを提起し、その結果に基づいて登記の是正を求めることが基本となります。

質問5 登記の年月日が退任の日よりずっと後です。

会社は変更が生じたときから2週間以内に登記をしなければなりません(会社法第915条第1項)。期間が大きく離れている場合には、退任の日付そのものが後から定められた可能性がありますので、その経緯を確認する意味があります。

 確認事項の記録の様式

記録する事項 証明書のどこを見るか
自らの就任の年月日 役員に関する事項の欄
退任の登記の有無 氏名の下線の有無
登記原因 登記原因及びその年月日の欄
退任の年月日 同上
登記の年月日 登記の年月日の欄
現在の役員の構成 下線のない氏名
代表取締役の変更 代表取締役の欄
本店、商号、目的の変更 各欄の下線

役員の欄以外にも、本店の移転、商号の変更、事業目的の変更が同時期に行われている場合には、会社の支配の状況に変動があったことをうかがわせます。全体を通して確認することをお勧めいたします。

本記事における非開示事項について

添付書面の閲覧の請求の方法、会社への説明の求め方、地位の確認を求める手続の選択と時期は、事実関係、資料の状況、株主構成により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第339条第1項(役員の解任)、第346条第1項(役員が欠けた場合の措置)、第908条第1項(登記の効力)、第911条第3項(株式会社の設立の登記)、第915条第1項(変更の登記)、第976条第1号(登記を怠った場合の過料)

商業登記法 第10条第1項(登記事項証明書の交付の請求)、第54条(取締役等の変更の登記の添付書面)

刑法 第157条第1項(公正証書原本不実記載等)、第159条第1項(私文書偽造等)

判例法理による部分 登記の記載と実体との不一致がある場合の法律関係については、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

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