株主代表訴訟を提起された場合の初動

株主代表訴訟を提起された場合の初動
解任をめぐる争いの過程で、株主から責任追及等の訴えが提起されることがございます。この訴えは会社のために提起されるものでございますので、会社が原告となる場合とは手続の構造が異なります。本記事では、提訴の請求から訴えの提起に至る流れを確認したうえで、初動として行うべき事項を整理いたします。
結論 まず提訴の請求の書面と訴状の請求原因を確認します
初動の要点は、次のとおりです。
| 順序 | 内容 |
|---|---|
| 第1 | 提訴の請求の書面が会社に到達した日を確認します |
| 第2 | 訴状において、いかなる行為が責任の原因とされているかを特定します |
| 第3 | 手元の資料を整理し、会社に対して必要な資料の提示を求めます |
| 第4 | 責任の免除又は限定の制度の適用の可否を確認します |
| 第5 | 役員賠償責任保険の有無を確認し、保険会社へ通知します |
| 第6 | 担保の提供の申立てを行うかを検討します |
訴状の到達から答弁までの期間は限られております。速やかに着手することが必要でございます。
訴えに至るまでの流れ
提訴の請求
6か月前から引き続き株式を有する株主は、会社に対し、書面その他の方法により、責任追及等の訴えの提起を請求することができます(会社法第847条第1項)。公開会社でない株式会社においては、この期間の要件は課されておりません。
会社が請求の日から60日以内に責任追及等の訴えを提起しないときは、請求をした株主は、会社のために、自ら責任追及等の訴えを提起することができます(同条第3項)。
直ちに提起することができる場合
60日の期間の経過により会社に回復することができない損害が生ずるおそれがある場合には、株主は、請求を経ることなく直ちに訴えを提起することができるものとされております(会社法第847条)。
会社の立場
会社は、訴訟の当事者ではございませんが、株主又は会社は、共同訴訟人として、又は当事者の一方を補助するため、訴訟に参加することができます(会社法第849条第1項)。会社が被告である元役員の側に補助参加する場合もございます。
請求の内容の特定
訴状において主張されている行為を、時期、内容、根拠となる義務ごとに整理いたします。任務を怠ったとされる行為が複数ある場合には、それぞれについて検討することが必要でございます。
| 整理の項目 | 内容 |
|---|---|
| 行為の時期 | 在任中の行為であるか、退任後の行為であるか |
| 根拠となる義務 | 善良な管理者の注意をもって職務を行う義務、忠実義務、法令の遵守 |
| 手続の履践 | 取締役会の決議、株主総会の承認の有無 |
| 損害の内容 | 現に発生しているか、金額の算定の根拠は何か |
| 因果関係 | 当該行為により損害が生じたといえるか |
| 消滅時効 | 行為の時期からの経過期間(民法第166条第1項) |
担保の提供の申立て
被告は、責任追及等の訴えの提起が悪意によるものであることを疎明して、原告に対する担保の提供を命ずるよう申し立てることができるものとされております(会社法第847条の4)。
この申立ては、訴えが不当な目的でされたものであると考えられる場合に、防御の手段の一つとなり得ます。もっとも、悪意の疎明は容易ではございませんので、認められると保証することはできません。
和解及び費用
責任追及等の訴えにおいて和解をする場合には、会社が和解の当事者でないときは、裁判所が会社に対して和解の内容を通知し、異議があるかどうかを催告するものとされております(会社法第850条)。会社が期間内に異議を述べないときは、承認したものとみなされます。
株主が勝訴した場合には、株主は、会社に対し、訴訟に要した費用及び弁護士の報酬のうち相当と認められる額の支払を請求することができます(会社法第852条第1項)。
被告となった元役員の弁護士費用については、原則として自ら負担することとなります。弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
責任の免除及び保険
総株主の同意による責任の免除(会社法第424条)、株主総会の決議による一部の免除(同法第425条第1項)、責任限定契約(同法第427条第1項)といった制度が適用される場合がございます。定款及び過去の議事録を確認してください。
また、会社が役員賠償責任保険を締結している場合には、防御に要する費用が填補される余地がございます。保険の適用の有無は契約の内容及び免責の事由によりますので、速やかに保険会社へ通知し、確認することが重要でございます。
初期に確保すべき資料
| 資料 | 意義 |
|---|---|
| 取締役会議事録 | 手続の履践及び賛否を示します |
| 稟議書及び添付資料 | 判断の前提となった情報を示します |
| 専門家の意見書 | 判断の合理性を基礎づけます |
| 定款 | 責任の免除に関する定めを確認します |
| 責任限定契約書 | 責任の限度を確認します |
| 保険証券 | 保険の適用を確認します |
| 提訴の請求の書面 | 手続の要件を確認します |
退任した後は、会社の資料に接することが困難となります。手元にある資料をまず整理し、不足するものについて会社に提示を求めることになります。
よくあるご質問
質問1 会社ではなく株主が原告になっています。なぜですか。
責任追及等の訴えは、会社のために株主が提起することができるものとされております。会社が訴えを提起しない場合に用いられる制度でございます。
質問2 和解で解決することはできますか。
和解は可能でございますが、会社が当事者でない場合には、会社に対する通知及び催告の手続を経ることになります。
質問3 既に退任しております。責任は残りますか。
在任中の行為についての責任は、退任により当然に消滅するものではございません。消滅時効の完成の有無を確認することになります。
質問4 同時に会社からも請求を受けております。
請求の相手方及び根拠を整理し、一体として解決の枠組みを検討することになります。
質問5 解任の損害賠償の請求は続けられますか。
相手方も根拠も異なる別個の請求でございますので、並行して進めることができます。もっとも、解決の局面では一体として交渉することが少なくありません。
確認事項の一覧
| 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|
| 提訴の請求の日 | 会社又は原告からの書面 |
| 原告の株主としての要件 | 株主名簿、登記事項証明書 |
| 責任の原因とされる行為 | 訴状 |
| 行為の時期 | 取締役会議事録、稟議書 |
| 定款の責任の免除に関する定め | 定款の謄本 |
| 保険の有無 | 保険証券、会社への確認 |
訴状を受け取った段階で、これらの確認を速やかに行うことが、その後の防御を大きく左右いたします。
本記事における非開示事項について
答弁の方針の立て方、担保の提供の申立てを行うかの判断、和解による解決を図る場合の進め方、会社に対する自らの請求との調整の方法は、事案の内容及び株主構成により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
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弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第355条(忠実義務)、第423条第1項(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)、第424条(責任の免除)、第425条第1項(責任の一部の免除)、第427条第1項(責任限定契約)、第847条(責任追及等の訴え)、第847条の4(担保提供の命令)、第849条第1項(訴訟参加)、第850条(和解)、第852条第1項(費用等の請求)
民法 第166条第1項(債権の消滅時効)、第644条(受任者の注意義務)
判例法理による部分 経営判断の合理性の評価及び悪意の疎明の判断については、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。
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