会社の情報から遮断された役員が資料を確認する方法

会社の情報から遮断された役員が資料を確認する方法

職務を取り上げられた役員は、会社の資料に接することができなくなることが少なくありません。もっとも、取締役としての立場、株主としての立場、監査役としての立場のいずれによるかにより、確認することのできる資料と手続とは異なります。本記事では、立場ごとに採り得る方法を整理いたします。

 結論 立場ごとに使える手続が異なります

確認することのできる資料と手続の概要は、次のとおりです。

資料 取締役として 株主として
定款 職務のために確認することができます 閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第31条第2項)
株主名簿 同上 閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第125条第2項)
株主総会議事録 同上 閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第318条第4項)
計算書類等 同上 閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)
取締役会議事録 職務のために確認することができます 原則として裁判所の許可を要します(会社法第371条)
会計帳簿 職務のために確認することができます 議決権又は株式の100分の3以上を有する場合に請求することができます(会社法第433条第1項)

取締役の地位を有する限り、職務を行うために必要な範囲で会社の資料を確認することができる立場にございます。もっとも、会社が事実上これを拒む場合には、株主としての手続を併せて用いることが実務上有用でございます。

 取締役としての立場による確認

 職務の執行の監督

取締役会は、業務執行の決定のほか、取締役の職務の執行の監督を行うものとされております(会社法第362条第2項)。取締役は、この監督の職務を行う立場にございますので、これに必要な資料を確認する必要がございます。

また、代表取締役及び業務を執行する取締役は、3か月に1回以上、自己の職務の執行の状況を取締役会に報告しなければならないものとされております(会社法第363条第2項)。取締役会が開催されなければ、この報告も行われないことになります。

 取締役会の招集の請求と結び付ける

資料の提示を求めても応じられない場合には、取締役会の招集を請求し、業務の状況の報告を議題として提出する方法がございます。招集権者に対して目的である事項を示して請求し、5日以内に一定の招集の通知が発せられないときは、自ら招集することができます(会社法第366条第2項・第3項)。

取締役会の場において報告を求めることにより、議事録という形で記録が残ることになります。

 監査役に対する報告

取締役は、会社に著しい損害を及ぼすおそれのある事実があることを発見したときは、直ちに、これを監査役に報告しなければならないものとされております(会社法第357条第1項)。監査役は、いつでも取締役に対して事業の報告を求め、会社の業務及び財産の状況を調査することができます(会社法第381条第2項)。

監査役が置かれている会社においては、監査役に対して報告を行い、調査を促すことが、資料の確認につながる場合がございます。

 株主としての立場による確認

 請求の要件が緩やかなもの

定款、株主名簿、株主総会議事録及び計算書類等については、株主であれば、営業時間内はいつでも閲覧又は謄写等を請求することができます。請求に際して理由を明らかにすることは、原則として求められておりません。

これらの資料からは、株主の構成、決議の内容、会社の財産の状況といった基本的な事実を確認することができます。

 会計帳簿の閲覧等の請求

総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主は、会社の営業時間内はいつでも、請求の理由を明らかにして、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。

もっとも、請求者が会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営むときなど、法律に定める事由がある場合には、会社はこれを拒むことができます(同条第2項)。請求の理由の記載の程度も争点となりやすい事項でございます。

 取締役会議事録

株主が取締役会議事録の閲覧又は謄写を請求するには、その権利を行使するため必要があるときに、裁判所の許可を得ることが原則として必要とされております(会社法第371条)。取締役の地位を失った後にこの資料を確認しようとする場合には、この手続によることになります。

 実務上の進め方

段階 内容
第1 手元にある資料を整理し、欠けている資料を特定します
第2 登記事項証明書を取得し、会社の機関の設計を確認します
第3 書面により資料の提示を求め、記録を残します
第4 応じられない場合には、株主としての閲覧の請求を行います
第5 なお応じられない場合には、裁判上の手続を検討します

請求と拒絶の経過そのものが、後の争いにおいて意味を持つ場合がございます。口頭のやり取りにとどめず、書面又は電子メールにより行うことをお勧めいたします。

 注意すべき点

会社の資料を無断で持ち出すこと、又は権限なく会社の情報システムにアクセスすることは、避けなければなりません。これらの行為は、会社に対する責任の問題を生じさせるほか、刑事上の問題となる余地がございます。

在任中に自らが正当に保有していた資料については、その保有の経緯を説明することができるように整理しておくことが望まれます。

よくあるご質問

質問1 取締役なのに資料を見せてもらえません。

書面により提示を求め、拒絶された事実を記録に残してください。そのうえで、取締役会の招集の請求及び株主としての閲覧の請求を検討することになります。

質問2 株式を持っておりません。

株主としての手続は用いることができませんので、取締役としての立場による方法によることになります。取締役の地位を失った後は、確認の手段が大きく制約されます。

質問3 持株が100分の3に満たない場合はどうなりますか。

会計帳簿の閲覧等の請求はできませんが、計算書類等の閲覧の請求は可能でございます。他の株主と共同して要件を満たす方法もございます。

質問4 閲覧の請求に理由は必要ですか。

会計帳簿の閲覧等の請求については、理由を明らかにすることが求められます。計算書類等の閲覧については、原則として求められておりません。

質問5 会社が資料を廃棄するおそれがあります。

資料の保存を求める書面を送付し、記録を残すことが考えられます。事案によっては、証拠の保全の手続を検討する余地がございます。

 確認事項の一覧

確認事項 確認の方法
自らの地位 登記事項証明書
会社の機関の設計 同上
持株の数及び割合 株主名簿、株券、払込みの記録
定款の定め 定款の謄本
手元にある資料 自らの保管の状況
請求及び拒絶の経過 書面、電子メール

資料の確認は、その後の主張の前提となります。時の経過により入手が困難となりますので、早期に着手することが望まれます。

本記事における非開示事項について

会計帳簿の閲覧等の請求における理由の記載の程度、拒絶の事由に対する反論の方法、取締役としての請求と株主としての請求の使い分け、証拠の保全を検討すべき場面の判断は、会社の状況及び株主構成により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
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  • ご相談は事前予約制です

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第31条第2項(定款の閲覧等)、第125条第2項(株主名簿の閲覧等)、第318条第4項(株主総会議事録の閲覧等)、第357条第1項(取締役の報告義務)、第362条第2項(取締役会の職務)、第363条第2項(代表取締役等の報告)、第366条第2項・第3項(取締役会の招集の請求)、第371条(取締役会議事録の備置き及び閲覧等)、第381条第2項(監査役の調査権)、第433条第1項・第2項(会計帳簿の閲覧等の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)

判例法理による部分 閲覧の請求を拒絶することができる場合の判断については、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

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