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任期を短縮する定款変更による退任と役員報酬相当額の損害賠償―東京高等裁判所令和8年1月15日判決

公開 2026年1月15日更新 2026年10月30日

▶ 正当な理由のない解任と残存任期の役員報酬の御相談

取締役に再任されて任期2年が始まった後に、株主総会で取締役の任期を1年に短縮する定款変更が決議され、次の定時株主総会で任期満了として退任させられ、再任もされなかった元取締役が、会社に対し、会社法339条2項の類推適用により、残りの任期の役員報酬等に相当する損害の賠償を求めた場面の判例です。第一審の東京地方裁判所令和7年6月4日判決は、会社法339条2項の類推適用を認め、不再任に正当な理由はないとして、2,170万8,334円の請求のうち770万円の支払を命じました。控訴審の東京高等裁判所令和8年1月15日判決は、双方の控訴をいずれも棄却し、770万円の認容を維持しました。

本記事では、2つの審級が類推適用をどのような考え方で認めたのか(控訴審は、定款変更と不再任が「解任と同視できる」ことを要件として理由を補正しています)、会社が主張した11の不再任の理由がなぜ退けられたのか、従業員としての給与や本人が代表を務める会社への業務委託料が損害から外され、取締役としての報酬、賞与及び退職慰労金の差額だけが損害と認められた理由を整理します。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 従業員として入社し、本人の会社との業務委託契約と並行していた
    2. 使用人兼務役員として取締役に就任し、2度再任された
    3. オーナーである前代表取締役と、交代した代表取締役
    4. 再任の7か月後に、任期を1年に短縮する定款変更
    5. 再任しない意向の告知、退職勧奨、業務委託契約の解除通知
    6. 退任後の経過と提訴
  4. 事案の経緯
  5. 定款と規程の定め
    1. 定款23条1項―取締役の任期(変更前と変更後)
    2. 定款14条1項・27条―定時株主総会と事業年度
    3. 定款26条―取締役の報酬等
    4. 役員退職慰労金規程―常勤取締役の支給基準
  6. 当事者の請求と主要な主張
    1. 元取締役の請求
    2. 主要な主張の対比
  7. 結論を左右した争点
  8. 第一審の判断
    1. 任期を短縮する定款変更にも会社法339条2項の趣旨が当てはまる
    2. 定款変更の目的は、類推適用の可否に直ちには影響しない
    3. 従業員を兼務していても、手続に関与していても、類推適用は妨げられない
    4. 正当な理由の判断基準
    5. 会社が挙げた11の事情は、いずれも正当な理由にならない
    6. 損害の範囲は、取締役として得られたであろう利益
    7. 報酬―従業員としての給与と業務委託料は含まれない
    8. 賞与―株主総会の決議前でも、高度の蓋然性があれば損害になる
    9. 退職慰労金―当初の任期まで在任した場合との差額
    10. 従業員名目で受け取った金員は控除しない
  9. 控訴審の判断
    1. 第一審判決の引用と補正
    2. 定款変更と不再任が「解任と同視できる」ことを要件とした
    3. 本件の定款変更は、退任させることを意図したものと認定
    4. 会社の補充主張―具体的な任期への期待はあった
    5. 会社の補充主張―賞与の高度の蓋然性は否定されない
    6. 元取締役の補充主張―各契約は形式的にも実質的にも独立していた
    7. 退職慰労金も、役員報酬月額20万円を基準とする
  10. 審級ごとの結論の推移
  11. 主文及び結論
  12. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
  13. よくあるご質問
    1. 株主総会で解任されたわけではなく、任期を短くする定款変更で任期満了になりました。損害賠償を請求できますか。
    2. 会社は、定款変更は事業上の必要性によるもので、私を退任させる目的ではないと言っています。
    3. 定款変更の手続を自分で担当していました。それでも請求できますか。
    4. 従業員を兼務していた取締役でも、損害賠償を請求できますか。
    5. 残りの任期の報酬として、どこまで請求できますか。
    6. 賞与は株主総会で決まるものなので、請求できないと言われました。
    7. 退任の条件について会社と交渉し、金銭の支払を提案したことが、不再任の正当な理由になると言われています。
  14. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

審級 裁判所 裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審 東京地方裁判所民事第8部 令和7年6月4日 令和5年(ワ)第70358号 判決 会社に770万円及び令和5年4月29日から年3パーセントの遅延損害金の支払を命じる。その余の請求は棄却。訴訟費用は20分の13を元取締役、その余を会社の負担。支払を命じた部分に限り仮執行宣言
控訴審 東京高等裁判所第14民事部 令和8年1月15日 令和7年(ネ)第3638号 判決 元取締役と会社の双方の控訴をいずれも棄却(第一審判決の770万円の認容を維持)。控訴費用は各自の負担

第一審判決に対しては、元取締役と会社の双方が、それぞれの敗訴部分を不服として控訴したことが控訴審判決本文から確認できます。控訴審判決に対する上告又は上告受理の申立ての有無及び控訴審判決の確定は、確認できていません。この表は、各判決本文の冒頭、主文及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。

本記事の表記 立場
元取締役KTR氏 第一審の原告。控訴審では控訴人兼被控訴人(判決は「一審原告」と呼んでいます)。従業員として入社した後に取締役に就任し、取締役企画管理本部長を務めました。従業員を兼務する取締役(使用人兼務役員)でした
建設コンサルティング会社CMK 第一審の被告。控訴審では被控訴人兼控訴人(判決は「一審被告」と呼んでいます)。コンストラクションマネジメント業務、海外インフラ事業及び国内外の各種工事のコンサルティング業務等を主な事業目的とする株式会社で、取締役会設置会社ではありません
代表取締役ATS氏 令和4年2月1日に建設コンサルティング会社CMKの代表取締役に就任した人物です
前代表取締役BNO氏 令和4年1月31日まで建設コンサルティング会社CMKの代表取締役で、その後も取締役です。会社の完全親会社の株式の全部を保有しています
持株会社HDJ 建設コンサルティング会社CMKの完全親会社です。株式の全部を前代表取締役BNO氏が保有しています
コンサルティング会社RCN 元取締役KTR氏が代表取締役を務める有限会社です。建設コンサルティング会社CMKから、管理部門の業務改善・構築アドバイザリー業務の委託を受けていました
出向元の会社SQW 元取締役KTR氏が、建設コンサルティング会社CMKでの勤務を始めた当初に所属していた会社です

このほか、建設コンサルティング会社CMKの執行役員、技術部門の責任者、従業員、取引先、派遣先、業務委託先、子会社、所轄の税務署が登場します。いずれも本記事では役割だけで表記します。

事案の概要

従業員として入社し、本人の会社との業務委託契約と並行していた

元取締役KTR氏は、平成30年11月、出向元の会社SQWから出向する形態で建設コンサルティング会社CMKでの勤務を始めました。会社から、平成31年1月からは出向ではなく常勤して社内の企画管理業務を担当するよう提案を受け、平成31年1月1日、給与月額20万円で会社と雇用契約を結んで従業員として入社し、企画管理本部長に就任しました。

同じ日に、会社は、元取締役KTR氏が代表取締役を務めるコンサルティング会社RCNとの間で、管理部門の業務改善・構築アドバイザリー業務を委託費月額50万円(消費税別)で委託する業務委託契約を結びました。この業務委託契約はその後毎年更新され、令和4年1月以降は書面を交わさずに同様に更新されています。第一審判決の認定によれば、契約形態を雇用契約と業務委託契約の2つに分け、業務委託契約をコンサルティング会社RCNとの契約にすることは、元取締役KTR氏の側から会社に提案したものでした。会社が支払った委託費は、コンサルティング会社RCNで受取手数料として会計処理されていました。

使用人兼務役員として取締役に就任し、2度再任された

元取締役KTR氏は、株主総会の決議を経て令和元年10月1日に取締役に就任しました。第一審判決の認定によれば、就任に当たり、税務上のメリットや、本人が中小企業退職金共済や雇用保険等の継続を希望したことから、使用人兼務役員として、給与20万円と役員報酬15万円を支給することとされました。給与明細書には、令和4年2月度分では基本給20万円、役員報酬20万円と、両者を分けた記載がされていました。

元取締役KTR氏は、令和2年3月13日と令和4年3月18日に、それぞれ取締役に再任されました。令和4年3月18日当時の定款では、取締役の任期は「選任後2年以内」に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされ、事業年度は毎年2月1日から翌年1月31日まで、定時株主総会は毎事業年度末日の翌日から3か月以内に招集するとされていました。

オーナーである前代表取締役と、交代した代表取締役

建設コンサルティング会社CMKは、持株会社HDJの完全子会社であり、持株会社HDJの株式の全部は前代表取締役BNO氏が保有しています。前代表取締役BNO氏は令和4年1月31日をもって代表取締役を辞任し、2月1日に代表取締役ATS氏が代表取締役に就任しました。令和4年1月31日の臨時株主総会では、前代表取締役BNO氏に対し、退職慰労金として合計7,200万円(4,000万円を同日、3,200万円を同年5月31日に支給)を支給する決議がされています。

再任の7か月後に、任期を1年に短縮する定款変更

令和4年10月18日の臨時株主総会で、定款23条1項の取締役の任期を「選任後1年以内」に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までと変更する決議(判決は「本件定款変更決議」と呼んでいます)がされました。議事録には、変更の理由として、ビジネス領域及びビジネスモデルの急速な変化拡大に伴い、技術部門を含めた体制強化を図ることなどが記載されていました。

元取締役KTR氏は、この臨時株主総会の開催に当たり、前代表取締役BNO氏の指示の下で、司法書士に手続を依頼するなどの役割を果たしました。しかし、第一審判決の認定によれば、その時点で、次の定時株主総会で自分が取締役に再任されないとは認識していませんでした。

再任しない意向の告知、退職勧奨、業務委託契約の解除通知

令和5年1月26日、前代表取締役BNO氏は、元取締役KTR氏に対し、次の定時株主総会で取締役として再任する意向がないことを告げました。会社は、2月15日、組織体制の変更を理由に3月20日をもって退職するよう退職勧奨をするとともに、コンサルティング会社RCNとの業務委託契約を3月20日付けで解除すると通知しました。

令和5年3月20日の定時株主総会(判決は「本件定時株主総会」と呼んでいます)では、前代表取締役BNO氏と代表取締役ATS氏は取締役に再任されましたが、元取締役KTR氏は再任されず、総会の終結により任期満了で取締役を退任しました。定款変更がなければ、任期はさらに1事業年度分続く予定でした。控訴審判決によれば、元取締役KTR氏の後任として選任された取締役はおらず、その後も取締役は代表取締役ATS氏と前代表取締役BNO氏の2名だけでした。

退任後の経過と提訴

会社は、令和5年6月19日、役員退職慰労金規程に基づき、元取締役KTR氏に役員退職慰労金105万円を支払いました(社会保険料等の控除後の振込額は101万0,187円)。雇用契約については、元取締役KTR氏が令和5年3月16日以降出社せず、4月以降の出社命令にも応じなかったことから、会社は7月24日、就業規則の解雇事由に該当するとして解雇を通知しています。

元取締役KTR氏は、令和5年4月12日に到達した内容証明郵便で、会社法339条2項の類推適用に基づく損害賠償として2,187万5,000円を4月28日までに支払うよう請求し、6月15日に提訴しました。

事案の経緯

時期 出来事(各判決本文の前提事実及び認定事実による)
平成30年11月 元取締役KTR氏が、出向元の会社SQWからの出向の形態で勤務を開始
平成31年1月1日 雇用契約(給与月額20万円)を結び従業員として入社、企画管理本部長に就任。同日、会社とコンサルティング会社RCNが業務委託契約(委託費月額50万円・消費税別)を締結
令和元年10月1日 株主総会の決議を経て取締役に就任(給与20万円、役員報酬15万円の使用人兼務役員)
令和2年3月13日 取締役に再任
令和3年12月2日 前代表取締役BNO氏が「新年度(第13期)にむけて」と題する書面を交付(第一審判決の認定)
令和4年1月31日 前代表取締役BNO氏が代表取締役を辞任。臨時株主総会で同氏への退職慰労金合計7,200万円の支給を決議
令和4年2月1日 代表取締役ATS氏が代表取締役に就任
令和4年3月18日 元取締役KTR氏が取締役に再任(当時の定款では任期2年)
令和4年3月31日付け 会社が所轄の税務署に事前確定届出給与に関する届出書を提出
令和4年10月18日 臨時株主総会で、取締役の任期を1年に短縮する定款変更決議
令和5年1月26日 前代表取締役BNO氏が、次の定時株主総会で再任する意向がないことを告げる
令和5年2月13日 元取締役KTR氏が、退任・退職の条件についての合意案をメールで提案。3月7日まで交渉が続く
令和5年2月15日 会社が退職勧奨(3月20日をもって退職)と業務委託契約の解除(3月20日付け)を通知
令和5年3月16日以降 元取締役KTR氏が出社しない
令和5年3月20日 定時株主総会。元取締役KTR氏は再任されず、任期満了により退任
令和5年4月12日 元取締役KTR氏の内容証明郵便が会社に到達(2,187万5,000円を4月28日までに支払うよう請求)
令和5年6月15日 東京地方裁判所に提訴
令和5年6月19日 会社が役員退職慰労金105万円を支払う
令和5年7月24日 会社が雇用契約の解雇を通知
令和7年6月4日 東京地方裁判所が770万円の支払を命じる判決
令和8年1月15日 東京高等裁判所が双方の控訴を棄却する判決

定款と規程の定め

定款23条1項―取締役の任期(変更前と変更後)

以下の定款の条文は、第一審判決本文が鉤括弧で示した文言のまま引用したものです。

(変更前)「取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」

(変更後)「取締役の任期は、選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとする。」

定款14条1項・27条―定時株主総会と事業年度

「当会社の定時株主総会は、毎事業年度末日の翌日から3ヶ月以内に招集」する(14条1項。判決本文の引用の範囲によります)

「当会社の事業年度は、毎年2月1日から翌年1月31日までの年1期とする。」(27条)

定款26条―取締役の報酬等

「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として当会社から受ける財産上の利益は、株主総会の決議をもってこれを定める。」

第一審判決は、この定款26条を挙げて、取締役の賞与は株主総会の決議で定めることとされており、不再任の時点で翌年度の賞与の具体的な支給額は確定していなかったと認定したうえで、賞与相当額の損害を認めています(後述)。

役員退職慰労金規程―常勤取締役の支給基準

次は、第一審判決本文が役員退職慰労金規程の支給基準を要約した内容です。規程の条文そのものではありません。

常勤の取締役に対する退職慰労金は、「退任時報酬月額」(本人が退任1か月前に得ていた報酬月額)に「役員在任年数」(役員へ就任した月から起算し、退任の月までの連続年数。1年未満は月割計算)を乗じ、さらに「役位別倍率」(代表取締役社長経験者3.0、常勤取締役1.5)を乗じて得られた額とする。

このほか、従業員については、賞与を会社の業績、社員の勤務成績等を勘案して毎年2回(7月15日、12月15日)支給する旨の賃金規程と、中小企業退職金共済から退職金が支給される旨の退職金規程がありました。

当事者の請求と主要な主張

元取締役の請求

元取締役KTR氏は、会社に対し、会社法339条2項の類推適用に基づき、2,170万8,334円と、請求後の日である令和5年4月29日から年3パーセントの遅延損害金の支払を求めました。当初の任期の満了時である令和6年3月までの残り1年間に得られるはずであった金員が損害であるという主張で、内訳は次のとおりです。

項目 元取締役KTR氏の計算(判決本文の当事者の主張による) 金額
報酬 従業員名目20万円、業務委託契約名目50万円、役員就任時に増額された報酬額20万円の合計月額90万円×12か月 1,080万円
賞与 200万円×年2回+100万円×年1回 500万円
退職慰労金 90万円×4.5年(令和元年10月から令和6年3月まで)×1.5(常勤取締役の役位別倍率) 607万5,000円
控除 令和5年4月分以降の報酬(従業員名目)として受け取った金員 マイナス16万6,666円
合計 ― 2,170万8,334円

主要な主張の対比

論点 元取締役KTR氏の主張 建設コンサルティング会社CMKの主張
会社法339条2項の類推適用 任期の途中で任期を短縮する定款変更がされ、当初の任期の満了前に変更後の任期の満了により退任させられた取締役は、会社法339条2項の類推適用により損害賠償を請求できる 定款変更は経営環境の悪化に起因する事業上の必要性によるもので、退任を目的としたものではない。不再任は、その後に生じた業務執行上の問題による別個の判断である。従業員兼務の取締役で、失うのは取締役の地位だけであり、解任と同視できない。控訴審では、本人が業績の見込みや任期短縮の必要性を理解して定款変更の手続を進めていたから、解任の自由を制約するほどの具体的な任期への期待はなかったと補充した
不再任の正当な理由 2度再任されている。職務遂行について改善の話合いの場が持たれたことはない。退任を告げられた時から退任までの間に、職務への著しい不適任が理由であるとの説明は全くなく、その主張は訴訟で初めて示された 契約交渉や案件の状況把握の懈怠、コミュニケーションの欠如、経営会議での態度、労務管理業務の放棄、赤字決算、ホームページの記載漏れ、退任に際しての恫喝的な言動など、職務への著しい不適任と善管注意義務・忠実義務違反がある。控訴審では、中小企業の取締役として受動的な対応に終始し、取締役としての不適格性があると補充した
報酬の範囲 雇用契約、業務委託契約、委任契約に分かれていたのは形式的・便宜的な理由によるもので、取締役就任後は実質的に委任契約に一本化されていた。そうでなくても、保護すべき期待はすべての契約が当初の任期中継続することへの期待である 退任時の取締役報酬は月額20万円である。雇用契約の給与20万円、委任契約の報酬20万円、コンサルティング会社RCNへの業務委託料50万円は、当初から厳格に区別して扱ってきた
賞与 年間500万円の賞与が支給されるはずであった 賞与は業績、勤務成績その他の事情を勘案して支給の有無と金額が決まるもので、確定していなかった。控訴審では、各年度の支給額が異なり、令和6年1月期の業績も前年度を下回ったと補充した
退職慰労金 月額90万円を基準に計算すべきである 取締役報酬月額20万円を基準とすると105万円(20万円×3.5×1.5)で、既に支払済みである

表中の主張は、各判決本文が記載した当事者の主張を当事務所が要約したものです。裁判所が認定した事実とは区別してお読みください。

結論を左右した争点

第一審判決は、争点を、(1)会社法339条2項の類推適用の可否、(2)正当な理由の有無、(3)元取締役の損害及びその額の3つに整理しました。控訴審判決も、この整理を引用しています。

結論を左右したのは、次の3点でした。

  1. 任期の途中で任期を短縮する定款変更がされ、短縮後の任期の満了で退任し再任されなかった取締役に、解任の場合の損害賠償を定める会社法339条2項を類推適用できるか。その際、定款変更の目的は問題になるか。
  2. 会社が不再任の理由として挙げた11の事情が、不再任の「正当な理由」に当たるか。
  3. 賠償される損害は、取締役としての報酬等に限られるか、それとも従業員としての給与や、本人が代表を務める会社への業務委託料まで含むか。賞与と退職慰労金はどのように扱われるか。

第一審判決は、(1)を肯定し、(2)を否定し、(3)では損害を取締役としての報酬、賞与及び退職慰労金の差額に限定しました。控訴審判決は、(1)の理由付けを補正したうえで、結論はすべて維持しています。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

第一審の判断

東京地方裁判所は、元取締役KTR氏の請求のうち770万円とその遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却しました。

任期を短縮する定款変更にも会社法339条2項の趣旨が当てはまる

第一審判決は、まず、会社法339条2項の趣旨を、株主に解任の自由を保障するとともに、取締役の任期に対する期待を保護して両者の調整を図る点にあるとしました。そのうえで、次のように述べています。

「当該趣旨は、取締役の任期途中に任期を短縮する旨の定款変更がされて本来の任期前に取締役から退任させられたが、取締役として再任されることがなかった者についても、株主総会決議により取締役の任用契約時に予定されていた任期を短縮する点で同様に当てはまるというべきである」

そして、そのような取締役は、会社が再任しなかったことについて正当な理由がある場合を除き、会社法339条2項の類推適用により、再任されなかったことによって生じた損害の賠償を請求できるとしました。本件では、令和4年3月18日に任期2年として再任されたのに、10月18日の定款変更で任期が1年に短縮され、本来の任期より前に退任させられ、再任もされなかったとして、類推適用を認めました。

定款変更の目的は、類推適用の可否に直ちには影響しない

会社は、定款変更は事業上の必要性によるもので、退任を目的としたものではないと主張しました。第一審判決は、会社法339条2項の趣旨からすれば、次のとおりであるとして、この主張を退けました。

「定款変更決議の理由が取締役の退任を目的としているか否かは類推適用の可否に直ちには影響しないというべきである」

あわせて、第一審判決は、括弧書きで、定款変更の後に取締役の員数が減少していることからすると、技術部門を含めた体制強化を図るなどとする定款変更の理由について、その必要性・合理性には疑問が残ると付け加えています。

従業員を兼務していても、手続に関与していても、類推適用は妨げられない

会社は、元取締役KTR氏が従業員を兼務する取締役で、すべての収入を失う状況になく、コンサルティング会社RCNの取締役の地位もあったと主張しました。第一審判決は、従業員を兼務する取締役であっても、定款変更と不再任によって取締役の任期が本来の任期より早く終了することは変わらず、会社法339条2項の趣旨が妥当するとして、この主張を採用しませんでした。

また、会社は、元取締役KTR氏自身が顧問司法書士に臨時株主総会の議事録の作成を依頼するなど、任期変更の必要性を理解し受け入れていたと主張しました。第一審判決は、手続を依頼するなどの役割を果たしていたとしても、これをもって任期の短縮に伴う不利益を承諾し、会社法339条2項の類推適用に基づく損害賠償請求権を放棄したものとまでは認められないとしました。

正当な理由の判断基準

第一審判決は、再任しなかったことについて正当な理由がある場合とは、解任の場合と同様に、次の場合を指すと解しました。

「会社において取締役としての職務の執行を委ねることができないと判断することもやむを得ない、客観的、合理的事情が存する場合や、会社が取締役に対し取締役としての責務の遂行を期待することが客観的に難しい状況がある場合等を指すものと解される。」

会社が挙げた11の事情は、いずれも正当な理由にならない

第一審判決は、会社が主張した11の事情を一つずつ検討し、いずれも証拠上認められないか、不再任の正当な理由を基礎付けるものではないとしました。

会社が主張した事情 第一審判決の判断(要約)
派遣先との契約条件の把握の懈怠と対応の丸投げ 派遣中の従業員からの契約書の開示の要望に元取締役KTR氏は対応しており、改善策は代表取締役ATS氏が検討するものとされていたから、正当な理由を基礎付けない
各案件の状況把握の懈怠 取引先との契約内容の確定を依頼したメールのやり取りは、自ら対応することがほとんどなかったことを裏付けない。契約締結の流れや役割分担について明確な定めがあったとは証拠上認められない
意見の押し付け・コミュニケーションの欠如 メールを送信したこと自体が不合理、不適切とはいい難く、むしろ代表取締役ATS氏がメールに適切に対応せず口頭でのコミュニケーションを一方的に求めたもので、元取締役KTR氏が非難されるべき内容ではない
経営会議での態度(「事業計画作成は私の役割ではない」との発言、けんか腰の態度) 裏付ける客観的証拠がない。仮に発言があっても職務放棄とは評価できず、役割分担は経営会議や取締役間で議論し決定すべき事項とも考えられる
業務委託先への対応の他の従業員への転嫁 メールの転送は業務委託先の要望に従ったもので問題はない。契約期限の到来に伴う対応の依頼も不適切とは認められない
労務管理業務の放棄(土曜日出勤への対応) メールの内容から、何らかの対応をしなければならないとまではいい難い
契約書作成等の業務遂行の拒絶 役割分担の明確な定めがあったとは認められず、取締役の職務の遂行として不当とは直ちに評価できない。そのやり取りの後の令和4年3月18日に再任されている
債権回収業務の放置 元取締役KTR氏自身も督促のメールを送っており、自ら交渉する姿勢を一切見せなかった事実は認められない
赤字決算の責任転嫁 会社の証拠では認められず、かえってその年度の赤字の原因は前代表取締役BNO氏への退職慰労金3,200万円の支給にあることがうかがわれる
一級建築士事務所の登録のホームページへの不記載 事実自体に争いはないが、会社に具体的な損害が生じた事情は見当たらず、職務の遂行を委ねることができないほどの事由とはいえない
退任に際しての恫喝行為 再任しない意向を告げられた後の、紛争状態の中での解決に向けた提案であり、提案すること自体に問題はなく、内容も著しく不合理とまではいえない。税務署や年金事務所、報道に触れた記載も、直ちに社会通念上許容される限度を超える恫喝とは評価できない

このうち、退任に際しての交渉について、第一審判決は、元取締役KTR氏が令和5年2月13日に、定時株主総会での退任、5月31日までの有給休暇の消化とその期間の報酬、中小企業退職金共済の解約、役員退職慰労金472万5,000円の支給、会社都合による割増金270万円の支給などを内容とする合意案を提案したことを認定しています。そのうえで、次のように述べました(〔 〕内は本記事の表記への置換えです)。

「〔元取締役KTR氏〕と〔建設コンサルティング会社CMK〕との間で取締役不再任に関する紛争状態となっている中で、〔元取締役KTR氏〕が〔建設コンサルティング会社CMK〕に対してその解決に向けて金銭支払を含む提案を行うこと自体に問題はなく、その内容も著しく不合理とまではいえない。」

第一審判決は、これらの事情を総合しても、職務の執行を委ねることができないと判断することもやむを得ない客観的、合理的事情や、責務の遂行を期待することが客観的に難しい状況があるとは認められないとして、正当な理由を否定しました。

損害の範囲は、取締役として得られたであろう利益

第一審判決は、会社法339条2項の類推適用に基づき賠償されるべき損害の範囲を、次のように解しました。

「取締役の任用契約時に予定されていた任期が短縮されたことにより取締役として受けることができなかった利益、すなわち、取締役として任期短縮がなければその残存期間に得られたであろう利益及び任期満了時に得られたであろう利益の喪失による損害であると解される。」

報酬―従業員としての給与と業務委託料は含まれない

第一審判決は、次の理由から、雇用契約、業務委託契約及び委任契約(取締役任用契約)が実質的に一本化された委任契約であるとは認めませんでした。

  • 雇用契約と業務委託契約は、入社時に元取締役KTR氏の提案により当事者の異なる別個の契約として締結され、区別して支払等がされてきたこと
  • 取締役就任の際、元取締役KTR氏自身が中小企業退職金共済や雇用保険等の継続を希望したことから、雇用契約を解消せずに使用人兼務役員となり、雇用契約とは別に委任契約が締結されたこと
  • 前代表取締役BNO氏から交付を受けた「新年度(第13期)にむけて」と題する書面には、年俸1,580万円、月俸90万円、賞与200万円を2回と100万円を1回とする記載があるが、これは元取締役KTR氏とコンサルティング会社RCNに支払う金員の合計額を記載したものにとどまること
  • 税務署に提出した事前確定届出給与に関する届出書には月額40万円と記載されていたが、これは役員報酬20万円に本来記載されるべきでない使用人分給与20万円を合計したもので、給与明細書では両者が明確に区別されていること

さらに、第一審判決は、業務委託契約は令和5年2月15日の解除通知により3月20日に、雇用契約は7月24日の解雇通知により同日に、それぞれ取締役の不再任とは別個の原因で終了したことを指摘し、次のように判断しました。

「〔元取締役KTR氏〕の主張する従業員名目や業務委託契約名目の報酬相当額の損害は、〔元取締役KTR氏〕の取締役不再任と相当因果関係を欠くものと言わざるを得ない。」

そして、「会社法339条2項類推適用に基づき賠償されるべき損害の範囲は、取締役に係るものに限定されるというべきである」として、委任契約に基づく役員報酬月額20万円に任期短縮分の12か月を乗じた240万円を損害と認めました。

賞与―株主総会の決議前でも、高度の蓋然性があれば損害になる

第一審判決は、取締役の賞与は定款26条により株主総会の決議で定めることとされており、不再任の時点で翌年度分の具体的な支給額が確定していた事実は認められないとしました。しかし、次の事情から、年間500万円の取締役賞与の支給を受けることができる高度の蓋然性があったと認め、1年分の取締役賞与相当額500万円を損害としました。

  • 取締役就任後、令和2年度は400万円、令和3年度は300万円、令和4年度は500万円が支給されていたこと。その額と事前確定届出給与に関する届出書の記載内容から、いずれも取締役としての賞与と認めるのが相当であること
  • 前代表取締役BNO氏から交付を受けた書面に、賞与200万円を2回と100万円を1回とする記載があること
  • 前代表取締役BNO氏が会社の完全親会社である持株会社HDJの株式の全部を保有していること

退職慰労金―当初の任期まで在任した場合との差額

第一審判決は、役員退職慰労金規程があり、元取締役KTR氏にも令和5年3月までの在任年数を基礎として退職慰労金が支給されていることから、当初の任期である令和6年3月まで在任した場合にも退職慰労金の支給を受けることができる高度の蓋然性があったと認めました。そのうえで、退任時報酬月額は役員報酬の20万円であるとして、20万円×在任年数4.5年×常勤取締役の役位別倍率1.5=135万円を退職慰労金相当額とし、既に支給された105万円との差額30万円を損害と認めました。

従業員名目で受け取った金員は控除しない

元取締役KTR氏は、令和5年4月分以降に従業員名目で受け取った16万6,666円を自ら控除して請求していましたが、第一審判決は、この金員は雇用契約に基づく給与として支払われたものであるから、控除するのは相当でないとしました。

以上により、第一審判決は、報酬240万円、賞与500万円、退職慰労金の差額30万円の合計770万円を損害と認めました。

控訴審の判断

東京高等裁判所は、元取締役KTR氏の請求は770万円とその遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないとして、第一審判決と同じ結論をとり、双方の控訴を棄却しました。元取締役KTR氏は控訴審で、第一審で認められなかった1,400万8,334円の支払を求め、会社は第一審で敗訴した部分の請求の棄却を求めていました。

第一審判決の引用と補正

控訴審判決は、前提事実、争点及び当事者の主張について第一審判決を引用し、裁判所の判断についても第一審判決を引用したうえで、次の3か所を補正しました。

  • 賞与の支給状況の記載 令和元年7月12日に支給された70万円が取締役就任前のもので、それ以降の賞与が取締役就任後のものであることを明示する語句を加えました。
  • 類推適用の枠組み 第一審判決の争点(1)の判断の冒頭部分(第一審判決の頁と行で特定された部分)を、後述の文章に改めました。
  • 定款変更の目的に関する部分 第一審判決の「しかし」から「残る。)」までの部分を改めました。補正の始まりと終わりの語句から、定款変更の目的は類推適用の可否に直ちには影響しないとした部分と、定款変更の理由の必要性・合理性に疑問が残るとした括弧書きに当たると考えられます(この対応関係は、当事務所が両判決の本文を照合したものです)。

定款変更と不再任が「解任と同視できる」ことを要件とした

控訴審判決は、会社法339条2項の趣旨について第一審判決と同じ説明をしたうえで、次のように改めました。

「当該趣旨は、取締役の任期途中に任期を短縮する旨の定款変更がされ、本来の任期前に取締役から退任させられたが、取締役として再任されず、この定款変更及び不再任が解任と同視できるような場合、その取締役については、株主総会決議により取締役の任用契約時に予定されていた任期を短縮する点で同様に当てはまるというべきである。」

第一審判決は、任期を短縮する定款変更により退任し再任されなかったことをもって類推適用を認め、定款変更の目的は直ちには影響しないとしていました。これに対し、控訴審判決は、定款変更と不再任が「解任と同視できるような場合」であることを類推適用の要件として明示しました。この点は、控訴審が第一審判決の理由付けを補正した中心部分です。

本件の定款変更は、退任させることを意図したものと認定

控訴審判決は、本件について、次の事情を挙げました。

  • 元取締役KTR氏は、令和4年3月18日に任期2年として再任されたのに、10月18日の定款変更で任期が1年に短縮され、本来の任期より前に退任させられ、再任もされなかったこと
  • 元取締役KTR氏が退任した定時株主総会で、後任として選任された取締役はおらず、その後も取締役は代表取締役ATS氏と前代表取締役BNO氏だけであったこと
  • 会社が、定款変更の時点である令和4年10月18日より前の元取締役KTR氏の行動の多くを、取締役としての業務を履行しなかったことなどの根拠として挙げていること

控訴審判決は、これらの事情から、臨時株主総会の議事録に記載された定款変更の理由(体制強化を図ることを目的とし、人的戦力の継続性とタイムリーな強化に重点を置くため、取締役の任期を1年に変更するというもの)は直ちに採用できないとし、次のように認定しました(〔 〕内は本記事の表記への置換えです)。

「本件定款変更は、〔建設コンサルティング会社CMK〕が、〔元取締役KTR氏〕を翌年3月の定時株主総会で退任させることを意図したものであると認められるから、本件定款変更及びその後の不再任は、解任と同視できるというべきである。」

そして、定款変更は退任を目的としたものではないという会社の主張について、第一審判決の理由(目的は類推適用の可否に直ちには影響しない)に代えて、定款変更は退任させることを意図したものと認められるという理由で採用しませんでした。結論は第一審判決と同じですが、控訴審判決は、定款変更の目的を問わないという考え方ではなく、本件の定款変更が退任させることを意図したものであったという事実認定を基礎に類推適用を認めています(この整理は当事務所の評価です)。

会社の補充主張―具体的な任期への期待はあった

会社は、控訴審で、類推適用には解任の自由の制約を正当化するほどの具体的な任期への期待が必要であり、従業員兼務の取締役は取締役の地位を失っても従業員の地位が残るうえ、元取締役KTR氏は任期短縮の必要性を理解して定款変更を進めていたと主張しました。控訴審判決は、従業員を兼務していても任期が本来より早く終了することは変わらないとし、さらに次のように述べて、この主張を退けました(〔 〕内は本記事の表記への置換えです)。

「〔元取締役KTR氏〕自身は、当時、任期満了後に取締役として再任されないとは認識していなかった(認定事実(5)イ)のであるから、〔元取締役KTR氏〕には、具体的な取締役任期に対する期待があったというべきであって、本件で、会社法339条2項類推適用の基礎を欠いているということはできない。」

正当な理由についての会社の補充主張(中小企業の取締役として受動的な対応に終始し、不適格性があるというもの)も、第一審判決の認定説示のとおり正当な理由があるとは認められないとして、採用されませんでした。

会社の補充主張―賞与の高度の蓋然性は否定されない

会社は、各年度の賞与の支給額が異なること、令和6年1月期の業績が前年度を下回ったこと、事前確定届出給与に関する届出書は令和5年1月期のものであること、前代表取締役BNO氏の書面は交付の有無や時期が不明であることを挙げて、賞与の高度の蓋然性を争いました。控訴審判決は、次のとおり判断しました。

  • 取締役就任後の賞与は、令和3年12月15日と令和5年1月31日の2回が100万円で、その余の6回は200万円であったこと。令和3年12月15日の100万円は、会社の子会社の節税対策として、子会社からの役員報酬名目で100万円を支給する代わりに会社からの賞与を100万円とした経緯があり、令和5年1月31日の100万円は書面の記載に基づくものであったこと
  • この2回も会社の業績とは関係がない理由で額が決められており、「賞与の支給額と〔建設コンサルティング会社CMK〕の業績とが連動していないことを示すものといえる。」こと
  • 第一審判決は、事前確定届出給与に関する届出書の記載をもって令和6年1月期の賞与の蓋然性を判断したのではないこと
  • 元取締役KTR氏の、書面を令和3年12月2日前後に受け取ったとの供述は信用でき、書面の「新年俸(第13期)2022.2~改訂年俸」との文言からすれば、令和5年1月期以降の事業年度の年俸も含む趣旨と解するのが相当であること

控訴審判決は、1年分の賞与相当額として500万円の支給を受けることができる高度の蓋然性があったと認めました。

元取締役の補充主張―各契約は形式的にも実質的にも独立していた

元取締役KTR氏は、控訴審で、3つの契約は形式的・便宜的に分かれていたにすぎないこと、会社が退職勧奨で示した退職日や業務委託契約の解除日がいずれも取締役の任期の終了日と同じ日であったこと、後任として社員が入社していることなどを挙げて、3つの契約すべての報酬を損害とすべきであると補充しました。控訴審判決は、次の事情を指摘しました。

  • 前代表取締役BNO氏の書面の記載は、元取締役KTR氏とコンサルティング会社RCNに支払う金員の合計額を記載したものにとどまること
  • 業務委託契約は、令和5年2月15日の解除通知により終了したもので、取締役の任期満了により当然に終了したものとは扱われていないこと
  • 雇用契約については、元取締役KTR氏自身が5月まで従業員給与分の支払や有給休暇の消化等を主張し、会社も委任契約の終了後も雇用契約が継続していることを認め、7月24日付けで雇用契約を解除する意思表示をしていること

そのうえで、控訴審判決は、「当事者としても、本件各契約が形式的にも実質的も独立した契約であるとの認識であったというべきであり、本件各契約が実質的に本件委任契約に一本化されていたと認めることはできない。」と判断しました(「実質的も」は判決本文の表記のままです)。損害の範囲は第一審判決の説示のとおり取締役として得られたであろう利益の喪失による損害であり、各契約は実質的にも別個の契約であるから、損害の範囲には雇用契約と業務委託契約に係る利益は含まれないとしました。

退職慰労金も、役員報酬月額20万円を基準とする

元取締役KTR氏は、退職慰労金も3つの契約の報酬を合算した月額90万円を基準に算定すべきであると主張しましたが、控訴審判決は、損害の範囲は取締役として任期満了時に得られたであろう利益の喪失による損害であるとして、次のように述べました(〔 〕内は本記事の表記への置換えです)。

「〔元取締役KTR氏〕の役員報酬額は月額20万円と認められるのであるから、この報酬を基準として役員退職慰労金規定に基づいてその損害が認められるべきである。」

「役員退職慰労金規定」は控訴審判決本文の表記のままです(第一審判決は「役員退職慰労金規程」と表記しています)。

審級ごとの結論の推移

項目 第一審(東京地方裁判所令和7年6月4日判決) 控訴審(東京高等裁判所令和8年1月15日判決)
会社法339条2項の類推適用の枠組み 任期を短縮する定款変更により本来の任期前に退任させられ、再任されなかった取締役には、趣旨が同様に当てはまる 補正。定款変更と不再任が「解任と同視できるような場合」に、趣旨が同様に当てはまる
定款変更の目的 退任を目的としているか否かは、類推適用の可否に直ちには影響しない(理由の必要性・合理性には疑問が残る) 補正。後任の取締役が選任されていないことなどから、議事録記載の理由は直ちに採用できず、退任させることを意図したものと認定。解任と同視できる
従業員兼務・手続への関与 類推適用を妨げない。損害賠償請求権の放棄とも認められない 維持。再任されないとは認識していなかったから、具体的な任期への期待があった
不再任の正当な理由 会社が挙げた11の事情はいずれも正当な理由にならない 維持
報酬の損害 役員報酬月額20万円×12か月=240万円。給与と業務委託料は相当因果関係を欠く 維持。各契約は形式的にも実質的にも独立した契約
賞与の損害 高度の蓋然性を認め500万円 維持。賞与額は業績と連動していない
退職慰労金の損害 135万円から支給済みの105万円を差し引いた30万円 維持。役員報酬月額20万円を基準とする
結論 一部認容770万円(請求額2,170万8,334円) 双方の控訴を棄却(770万円の認容を維持)
訴訟費用 20分の13を元取締役、その余を会社の負担 控訴費用は各自の負担

控訴審は、第一審判決を引用しつつ、会社法339条2項の類推適用の要件と、定款変更の目的に関する判断を補正しましたが、正当な理由と損害の判断は維持し、結論を変更しませんでした。

主文及び結論

第一審判決の主文は、「被告は、原告に対し、770万円及びこれに対する令和5年4月29日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。」「原告のその余の請求を棄却する。」「訴訟費用は、これを20分し、うち13を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。」「この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。」というものです(「原告」は元取締役KTR氏、「被告」は建設コンサルティング会社CMKを指します)。

控訴審判決の主文は、「一審原告及び一審被告の本件各控訴をいずれも棄却する。」「一審原告の控訴費用は一審原告の負担とし、一審被告の控訴費用は一審被告の負担とする。」というものです(「一審原告」は元取締役KTR氏、「一審被告」は建設コンサルティング会社CMKを指します)。

最終的に、元取締役KTR氏は、請求額2,170万8,334円のうち、役員報酬240万円、賞与500万円、退職慰労金の差額30万円の合計770万円と遅延損害金について、会社に対する会社法339条2項の類推適用に基づく損害賠償請求が認められました。

判断の射程

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。最終的な判断である控訴審判決を基準とし、第一審判決の判断が改められた点はその旨を示します。

参考となる点

  • 任期を短縮する定款変更による退任にも、会社法339条2項が類推適用され得ること。株主総会で解任されたのではなく、任期の短縮と不再任という形で退任させられた取締役についても、両審級は、会社法339条2項の類推適用により損害賠償を請求できるとしました。解任の決議がないから損害賠償は請求できないと会社から言われた場合でも、任期の途中で定款が変更された経緯が重要になることを示した例です。
  • 控訴審は「解任と同視できる」ことを要件とし、定款変更の意図を事実から認定したこと。控訴審判決は、第一審判決の、定款変更の目的は類推適用の可否に直ちには影響しないという理由を改め、定款変更と不再任が解任と同視できる場合に類推適用されるとしました。そのうえで、後任の取締役が選任されず取締役の員数が減ったこと、会社が定款変更より前の行動を不再任の理由として挙げていることから、議事録に記載された体制強化という理由を直ちに採用せず、退任させることを意図したものと認定しています。退任させられた取締役の側からみると、定款変更の後の役員構成や、会社が後から挙げる不再任の理由の時期が、意図を示す事情として意味を持ちます。
  • 定款変更の手続に関与していても、それだけでは不利にならなかったこと。元取締役KTR氏は、臨時株主総会の手続を司法書士に依頼するなどの役割を果たしていましたが、第一審判決は損害賠償請求権の放棄とは認めず、控訴審判決も、再任されないとは認識していなかったことから具体的な任期への期待があったとしました。
  • 訴訟で初めて示された不再任の理由が、一つずつ吟味されたこと。会社は11の事情を挙げましたが、第一審判決は、客観的証拠の有無、役割分担の定めの有無、その後に再任されていること、会社に具体的な損害が生じたか、赤字の実際の原因などを検討し、いずれも正当な理由にならないとしました。退任を告げられた後の条件交渉での金銭の提案も、紛争の解決に向けた提案として問題はないとされています。
  • 賞与も、高度の蓋然性があれば損害に含まれること。取締役の賞与は株主総会の決議で定めるとされ、具体的な額は確定していませんでしたが、過去の支給実績、オーナーから交付された書面、オーナーが完全親会社の株式の全部を保有していることなどから、1年分の500万円が損害と認められました。控訴審判決は、過去に額が少なかった回の理由が業績と関係がないことも確認しています。
  • 退職慰労金は、当初の任期まで在任した場合との差額が損害になること。役員退職慰労金規程に基づいて実際に支給されていたことから、当初の任期の満了まで在任した場合にも支給を受ける高度の蓋然性があるとされ、在任年数を延ばして計算した額と支給済みの額との差額が損害と認められました。

一般化できない点

  • 従業員としての給与と、本人の会社への業務委託料は損害から外されたこと。請求額2,170万8,334円のうち認められたのは770万円で、差の大部分は、従業員としての給与月額20万円とコンサルティング会社RCNへの業務委託料月額50万円が損害から外されたことによります。本件では、契約を分けることを元取締役KTR氏自身が提案し、取締役就任時にも本人の希望で雇用契約を残したこと、給与明細書で区別されていたこと、雇用契約と業務委託契約がそれぞれ別個の原因で終了したことなどが認定されています。報酬の名目が分かれている場合でも、契約の成り立ちや終了の経緯が異なれば結論が変わり得るため、本件の結論をそのまま一般化することはできません。
  • 控訴審判決の枠組みでは、定款変更と不再任が「解任と同視できる」ことが要件となります。本件では、後任の取締役がいないことや、会社が定款変更前の行動を不再任の理由としたことなどから退任させる意図が認定されましたが、取締役会設置会社でない、取締役が少人数の会社での事案です。定款変更に実際の事業上の必要性が認められる事案や、取締役全員の任期が一律に短縮され他の取締役の扱いにも変化がある事案では、解任と同視できるかどうかの判断が異なり得ます。
  • 第一審判決は定款変更の目的は類推適用の可否に直ちには影響しないとしていましたが、この部分は控訴審判決で改められています。第一審判決のこの理由付けを根拠として引用することには注意が必要です。
  • 報酬の損害は、任期の短縮分である12か月分として計算されました。短縮された期間の長さや、その間に再任される見込みがどの程度あったかによって、損害の計算は事案ごとに異なります。
  • 本件は、元取締役が会社を相手方として会社法339条2項の類推適用を求めた事件であり、雇用契約の解雇の有効性や、業務委託契約の解除の効力については、両判決は判断していません。
  • 控訴審判決に対する上告又は上告受理の申立ての有無及び控訴審判決の確定は、確認できていません。

任期の短縮や役員報酬の減額により退任を迫られている役員の方は、次のページを御覧ください。

よくあるご質問

株主総会で解任されたわけではなく、任期を短くする定款変更で任期満了になりました。損害賠償を請求できますか。

本件では、任期2年として再任された7か月後に任期を1年に短縮する定款変更がされ、次の定時株主総会で退任し再任されなかった元取締役について、両審級とも、会社法339条2項の類推適用により損害賠償を請求できるとしました。控訴審判決は、定款変更と不再任が解任と同視できるような場合であることを要件とし、本件の定款変更は退任させることを意図したものであったと認定しています。定款変更の時期、理由として示された内容、変更後の役員構成などを確認することが重要です。

会社は、定款変更は事業上の必要性によるもので、私を退任させる目的ではないと言っています。

本件の会社も同じ主張をしました。控訴審判決は、定款変更の後に後任の取締役が選任されず、取締役が2名だけになったことや、会社が定款変更より前の行動を不再任の理由として挙げていることから、議事録に記載された体制強化という理由は直ちに採用できないとし、退任させることを意図したものと認定しました。会社が示す理由と、その後の実際の役員構成や会社の主張の内容が整合しているかが問われます。

定款変更の手続を自分で担当していました。それでも請求できますか。

本件の元取締役は、臨時株主総会の手続を司法書士に依頼するなどの役割を果たしていましたが、第一審判決は、それをもって任期の短縮に伴う不利益を承諾し損害賠償請求権を放棄したとは認められないとしました。控訴審判決も、本人が当時、再任されないとは認識していなかったことから、具体的な任期への期待があったとしています。

従業員を兼務していた取締役でも、損害賠償を請求できますか。

両審級とも、従業員を兼務する取締役であっても、取締役の任期が本来より早く終了することに変わりはないとして、会社法339条2項の類推適用を認めました。ただし、損害は取締役としての報酬等に限られ、本件では従業員としての給与は損害に含まれませんでした。

残りの任期の報酬として、どこまで請求できますか。

本件では、取締役として任期短縮がなければ残りの期間に得られたであろう利益と、任期満了時に得られたであろう利益が損害とされ、役員報酬12か月分240万円、賞与1年分500万円、退職慰労金の差額30万円の合計770万円が認められました。従業員としての給与と、本人が代表を務める会社への業務委託料は、別個の契約に基づくもので取締役の不再任とは別の原因で終了したとして、損害から外されています。

賞与は株主総会で決まるものなので、請求できないと言われました。

本件では、取締役の賞与は株主総会の決議で定めるとされ、翌年度の額は確定していませんでしたが、取締役就任後の支給実績、オーナーである前代表取締役から交付された年俸に関する書面、オーナーが完全親会社の株式の全部を保有していることなどから、1年分の賞与500万円を受けることができる高度の蓋然性があったと認められました。過去の支給額の推移とその理由、賞与について示された書面などが重要な証拠になります。

退任の条件について会社と交渉し、金銭の支払を提案したことが、不再任の正当な理由になると言われています。

本件の会社は、元取締役の提案やメールを恫喝行為であると主張しましたが、第一審判決は、再任しない意向を告げられた後の紛争状態の中で、解決に向けて金銭の支払を含む提案をすること自体に問題はなく、内容も著しく不合理とまではいえないとし、税務署や報道に触れた記載も直ちに恫喝とは評価できないとしました。もっとも、交渉の際の表現は記録に残るため、慎重に行うことが大切です。

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任期を短縮する定款変更により退任させられた場合には、定款変更の時期と議事録に記載された理由、変更前後の任期の計算、定款変更の後の役員構成、再任しない意向を告げられた経緯と説明された理由、取締役としての報酬・賞与・退職慰労金の支給実績と、従業員としての給与や業務委託料との区別を整理し、会社法339条2項の類推適用の可否、正当な理由の有無、損害の範囲を分けて検討します。任期を短縮する定款変更がされた場合の考え方は任期を短縮する定款の変更が行われた場合の解説で、任期の変更による強制的な退任と役員報酬については任期変更による強制退任と役員報酬の解説で解説しています。任期満了の際に再任されずに排除された場合の当事務所の対応は任期満了で再任されない役員の御相談のページで、正当な理由のない解任と残りの任期の役員報酬については正当な理由のない解任と残存任期の役員報酬の御相談のページで御案内しています。役員の不当な解任・辞任の強要の全般は役員の不当な解任・辞任の強要の総合案内を、他の裁判例は役員解任・辞任の裁判例の解説記事一覧をご覧ください。

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