弁護士法人M&A総合法律事務所
HOME / 判例 / 取締役・監査役の地位不存在確認と、確定申告書による株式譲渡の認定―東京高等裁判所平成30年8月28日判決

取締役・監査役の地位不存在確認と、確定申告書による株式譲渡の認定―東京高等裁判所平成30年8月28日判決

公開 2018年8月28日更新 2018年8月28日

▶ 役員の不当な解任・辞任の強要の総合案内

有限会社の株式と経営をめぐって争いが生じ、取締役・代表取締役や監査役の地位を主張していた方々が、会社から「取締役の地位にないこと」「監査役の地位にないこと」の確認を求める訴えを起こされた場面の判例です。あわせて、会社が元の所有者から買い受けたはずの土地について、会社名義の所有権移転登記が抹消され、別の者への所有権移転登記と抵当権設定登記がされていたため、会社がそれらの抹消等も求めました。

役員の地位を主張する側は、会社の代表取締役として登記されている者には代表権がなく、訴え自体が不適法であると主張しました。その根拠は、元の大株主から別の株主への株式の移転には株式譲渡契約書も議事録もなく、元の大株主の意思に反するものだというものでした。東京高等裁判所平成30年8月28日判決は、元の大株主が10期分にわたり、株式の保有状況を記載した会社の確定申告書に署名押印していたことを重視して、この主張を「憶測の域を出るものではなく」と退け、会社の請求をすべて認めた第一審判決を維持して控訴を棄却しました。

本記事では、役員の地位を争う側から見て、どのような主張がなぜ通らなかったのかを、株式の帰属、登記上の代表者の代表権、元代表者が締結した自己取引の売買契約の効力という観点から整理します。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 会社が、役員の地位の不存在確認と土地の登記の抹消等を求めた
    2. 役員の地位を主張する側は、登記上の代表者の代表権を争った
    3. 会社の確定申告書に記載された株式の保有状況
    4. 元の土地所有者と会社との土地の売買契約
  4. 事案の経緯
  5. 当事者の請求と主要な主張
    1. 控訴人らの控訴の趣旨
    2. 主要な主張の対比
  6. 結論を左右した争点
  7. 第一審の判断
    1. 会社の請求を全部認容した
    2. 第一審判決の判断の構成
  8. 控訴審の判断
    1. 第一審判決の引用と補正
    2. 確認の利益についての補正
    3. 株式譲渡契約書や議事録がないという主張は、憶測の域を出ないとされた
    4. 本件売買契約の締結当時、意思能力がなかったとまでは認められない
    5. 結語
  9. 審級ごとの結論の推移
  10. 主文及び結論
  11. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
  12. よくあるご質問
    1. 会社から「取締役の地位にないことの確認」を求める訴えを起こされることはあるのですか。
    2. 株式譲渡契約書や株主総会の議事録がなければ、株式の移転は無効だと主張できますか。
    3. 登記上の代表者には代表権がないと主張すれば、会社からの訴えは却下されますか。
    4. 元代表者が会社とした取引は、判断能力がなかったとして無効になりますか。
    5. 役員の地位を争う場合、最初に何を確認すべきですか。
  13. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

審級 裁判所 裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審 控訴審判決本文に記載がなく、確認できていません 確認できていません 確認できていません 判決(控訴審判決本文が「原判決」と表示しています) 会社(原告)の請求を全部認容(控訴審判決本文の記載によります)
控訴審 東京高等裁判所第16民事部 平成30年8月28日 平成30年(ネ)第1944号 判決 控訴をいずれも棄却。控訴費用は控訴人ら(役員の地位を主張した側等)の負担

第一審判決の本文は当事務所では確認しておらず、第一審の内容は、控訴審判決本文が引用し又は補正した範囲でのみ記載しています。控訴審判決本文によれば、第一審で被告とされていた元の土地所有者は控訴しなかったため、その者に対する請求の関係では第一審判決が確定しています。控訴審判決に対する上告又は上告受理の申立ての有無及び控訴審判決の確定は、確認できていません。この表は、控訴審判決本文の冒頭、主文、事案の概要及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。

本記事の表記 立場
有限会社KTM 第一審の原告、控訴審の被控訴人。本件の会社です。事業年度は毎年6月に終わります。営む事業の内容は、控訴審判決本文には記載がありません
登記上の代表取締役AKN氏 有限会社KTMの代表取締役として登記されている者です。会社の確定申告書には、20株を保有している旨が記載されていました。訴訟では、会社の代表者として訴えを追行しました
取締役の地位を主張したSGR氏 第一審の被告、控訴審の控訴人。会社から、有限会社KTMの取締役及び代表取締役の地位にないことの確認を求められました
監査役の地位を主張したMKT氏 第一審の被告、控訴審の控訴人。会社から、有限会社KTMの監査役の地位にないことの確認を求められました
土地の登記名義人HNM 第一審の被告、控訴審の控訴人。元の土地所有者OYM氏から本件土地の所有権移転登記を受けた者です(個人か法人かが控訴審判決本文から明らかでないため、敬称を付けていません)
抵当権者RKS 第一審の被告、控訴審の控訴人。土地の登記名義人HNMに対する債権を被担保債権として、本件土地に抵当権設定登記を受けた者です(敬称を付けない理由は上と同じです)
元の土地所有者OYM氏 第一審の被告。本件土地の元の所有者で、有限会社KTMの株式を保有していた者です。会社の確定申告書に署名押印していました。控訴審判決本文によれば、本件土地の売買契約は、会社と会社の代表者個人との間の自己取引でした。控訴しなかったため、この者に対する請求の関係では第一審判決が確定しています
株主CHS氏 会社の確定申告書に、40株を保有している旨が記載されていた者です。元の土地所有者OYM氏から株式の譲渡を受けたかどうかが争われました。控訴人らの主張によれば、平成25年7月31日の約2か月前に亡くなっています
顧問税理士ZMS氏 有限会社KTMの顧問税理士であった者です。控訴人らの主張の中に登場します

控訴人ら4名の間の関係や、各人と元の土地所有者OYM氏、登記上の代表取締役AKN氏、株主CHS氏との親族関係は、控訴審判決本文には明示されていません。控訴人らの主張の中に、元の土地所有者OYM氏が保有していた株式について「将来的に控訴人〔SGR氏〕と〔AKN氏〕の間で相続問題が生じる可能性」があるとの記載がありますが、本記事では、判決本文に書かれていない親族関係を推測で補っていません。

事案の概要

会社が、役員の地位の不存在確認と土地の登記の抹消等を求めた

控訴審判決本文によれば、本件は、有限会社KTMが、次の5つを求めた訴訟です。

  1. 取締役の地位を主張したSGR氏が、有限会社KTMの取締役及び代表取締役の地位にないことの確認
  2. 監査役の地位を主張したMKT氏が、有限会社KTMの監査役の地位にないことの確認
  3. 土地の登記名義人HNMに対し、元の土地所有者OYM氏から同人への所有権移転登記の抹消登記手続
  4. 抵当権者RKSに対し、上記3の抹消登記手続についての承諾
  5. 元の土地所有者OYM氏に対し、同人から有限会社KTMへの所有権移転登記の抹消回復登記手続

3から5までの請求は、本件土地の所有権に基づくものです。判決本文は、登記を次のように区別しています。

判決本文の呼び方 内容(控訴審判決本文の事案の概要による)
本件所有権移転登記〈1〉 元の土地所有者OYM氏から有限会社KTMへの所有権移転登記。会社の主張では、この登記がされていたにもかかわらず、不当に抹消されました
本件所有権移転登記〈2〉 元の土地所有者OYM氏から土地の登記名義人HNMへの所有権移転登記
本件抵当権設定登記 抵当権者RKSの土地の登記名義人HNMに対する債権を被担保債権とする、本件土地への抵当権設定登記

本件土地の所在、地目、面積及び各登記の日付は、第一審判決の別紙に記載されているとされ、控訴審判決本文には記載がありません。

役員の地位を主張する側は、登記上の代表者の代表権を争った

控訴人ら(取締役の地位を主張したSGR氏、監査役の地位を主張したMKT氏、土地の登記名義人HNM、抵当権者RKS)は、本案前の申立てとして、有限会社KTMの代表取締役として登記されている登記上の代表取締役AKN氏は会社の代表権を有しないから、訴訟を追行する権限がないとして、各訴えの却下を求めました。また、本案の申立てとして、有限会社KTMは本件土地の所有者ではないなどと主張し、土地の登記名義人HNMと抵当権者RKSに対する請求の棄却を求めました。

つまり、本件の対立の中心は、元の土地所有者OYM氏が保有していた株式が株主CHS氏に有効に移転したか、そして、その結果として、登記上の代表取締役AKN氏が会社の代表権を有するかにありました。株式の帰属が変われば、会社の支配と役員の選任の前提が変わるため、役員の地位の争いと株式の帰属の争いが一体となっていた事件です(この整理は当事務所の評価です)。

会社の確定申告書に記載された株式の保有状況

控訴審判決は、補正により、元の土地所有者OYM氏が、株主CHS氏が40株、登記上の代表取締役AKN氏が20株をそれぞれ保有している旨の、平成15年6月期から平成24年6月期までの10期分の各確定申告書に署名押印していると認定しています。会社の発行済株式の総数や、元の土地所有者OYM氏自身がかつて何株を保有していたかは、控訴審判決本文には記載がありません。

元の土地所有者と会社との土地の売買契約

判決本文は、元の土地所有者OYM氏と有限会社KTMとの間の本件土地の売買契約を「本件売買契約」と呼んでいます。控訴人らの主張によれば、本件売買契約は平成25年7月31日に締結されたとされるものです。控訴人らは、この売買契約は会社と会社の代表者個人との間の自己取引であり、売買代金も会社が元の土地所有者OYM氏から借り入れる形がとられ、その借入金はわずかしか返済されていないと主張しました。控訴審判決も、本件売買契約が自己取引であったこと、借入金がその後わずかしか返済されていないことに触れたうえで判断しています。

事案の経緯

時期 出来事(控訴審判決本文の事案の概要、補正及び判断による)
平成15年6月期から平成24年6月期まで 元の土地所有者OYM氏が、株主CHS氏が40株、登記上の代表取締役AKN氏が20株をそれぞれ保有している旨の会社の確定申告書(10期分)に署名押印
平成25年7月31日の約2か月前 株主CHS氏が死亡(控訴人らの主張による。控訴審判決はこの点を独立に認定する形では述べていません)
平成25年7月 控訴審判決が補正で「平成25年7月当時」と加えた時点の元の土地所有者OYM氏の状況と、会社の臨時株主総会について、第一審判決が判断しています(その具体的な内容は控訴審判決本文からは特定できません)
平成25年7月31日 元の土地所有者OYM氏と有限会社KTMとの間の本件土地の売買契約(本件売買契約)が締結されたとされる日。会社と代表者個人との自己取引。代金は会社がOYM氏から借り入れる形
平成25年6月期・平成26年6月期 第一審判決の前提事実が、この2期分の確定申告書の記載に触れています(記載内容は控訴審判決本文からは特定できません)
時期は判決本文に記載なし 会社名義の所有権移転登記〈1〉が抹消され、元の土地所有者OYM氏から土地の登記名義人HNMへの所有権移転登記〈2〉、抵当権者RKSのための抵当権設定登記がされる
第一審 有限会社KTMの請求を全部認容する判決(原判決)
控訴審 控訴人ら4名が控訴(平成30年(ネ)第1944号)。元の土地所有者OYM氏は控訴せず、同人に対する請求の関係では第一審判決が確定
平成30年8月28日 東京高等裁判所が控訴をいずれも棄却する判決

なお、控訴審判決本文には「成年後見開始の審判」という語が補正の箇所に現れており、第一審判決が成年後見に関する事実に触れていたことが分かります。しかし、誰について、いつ審判がされたのかは、控訴審判決本文からは特定できないため、時系列表には記載していません。

当事者の請求と主要な主張

控訴人らの控訴の趣旨

控訴人らは、控訴審で、本案前の申立てと本案の申立てに分けて、次のとおり求めました。

  • 本案前の申立て 第一審判決の主文第1項から第4項までを取り消し、取締役の地位を主張したSGR氏に対する地位不存在確認の訴え、監査役の地位を主張したMKT氏に対する地位不存在確認の訴え、土地の登記名義人HNMに対する訴え、抵当権者RKSに対する訴えを、いずれも却下すること。
  • 本案の申立て 第一審判決の主文第3項及び第4項を取り消し、土地の登記名義人HNMと抵当権者RKSに対する会社の請求を棄却すること。

役員の地位の不存在確認の請求(第一審判決の主文第1項及び第2項に当たると考えられます)については、控訴人らは本案の申立てとしての棄却を求めておらず、訴えの却下だけを求めていました(主文の項目の対応関係は、控訴の趣旨の記載からの当事務所の読み取りです)。

主要な主張の対比

論点 控訴人ら(役員の地位を主張した側等)の主張 有限会社KTMの立場
登記上の代表者の代表権 登記上の代表取締役AKN氏は会社の代表権を有しないから、訴訟追行権がなく、各訴えは不適法である 登記上の代表取締役AKN氏を代表者として訴えを提起し、請求の認容を求める
株式の移転 元の土地所有者OYM氏の株式について将来の相続問題が明らかで、株主CHS氏は控訴人SGR氏と抵当権者RKSに強い警戒心を持っていたから、株式を移転するなら株式譲渡契約書や議事録を作成したはずである。顧問税理士ZMS氏も移転の根拠を確認し、書類の必要性を説明していたはずである。それなのに書類がないことは、OYM氏に譲渡の意思がなく、その意図に反して譲渡が行われたことを裏付ける 第一審判決が認定したとおり、株式の移転は有効であり、登記上の代表取締役AKN氏は代表権を有する(控訴審判決が第一審判決を引用して認めた結論によります)
本件売買契約の有効性 契約日は株主CHS氏の死亡からわずか2か月後で、元の土地所有者OYM氏は直近の話をほとんど覚えられない状態だった。会社と代表者個人の自己取引で、代金は会社がOYM氏から借り入れる形をとり、返済もわずかである。OYM氏が契約内容を正確に理解して締結したかは疑問が大きい 本件売買契約は有効であり、会社は本件土地の所有者である(同上)
本件土地の所有権 有限会社KTMは本件土地の所有者ではない 本件土地の所有権に基づき、登記の抹消等を求める

表中の控訴人らの主張は、控訴審判決本文が記載した主張を当事務所が要約したものです。有限会社KTMの具体的な主張は控訴審判決本文には記載がなく、同欄は、会社の請求の内容と、控訴審判決が第一審判決を引用して認めた結論から当事務所が整理したものです。裁判所が認定した事実とは区別してお読みください。

結論を左右した争点

控訴審判決本文から読み取れる結論を左右した点は、次の3つです(この整理は当事務所の評価です)。

  1. 元の土地所有者OYM氏から株主CHS氏への株式の譲渡は、OYM氏の意思に基づくものか。株式譲渡契約書や議事録がないことは、譲渡の意思がなかったことを裏付けるか。
  2. その結果として、登記上の代表取締役AKN氏は有限会社KTMの代表権を有し、会社を代表して訴えを追行できるか。
  3. 本件売買契約の締結当時、元の土地所有者OYM氏に意思能力があったか。自己取引であることや借入金の返済がわずかであることは、意思能力の欠如をうかがわせるか。

このほか、役員の地位の不存在確認の訴えについて、確認の利益の有無も第一審判決で取り上げられており、控訴審判決はこの点の記載を補正しています。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

第一審の判断

第一審判決の本文は当事務所では確認しておらず、以下は、控訴審判決本文の記載から分かる範囲に限ったものです。第一審の裁判所、裁判日及び事件番号は、控訴審判決本文に記載がないため、確認できていません。

会社の請求を全部認容した

控訴審判決本文は、「原判決は、被控訴人の請求を全部認容したため、控訴人らがこれを不服として控訴した。」と述べています(「被控訴人」は有限会社KTMを指します)。つまり、第一審判決は、役員の地位の不存在確認の2つの請求、土地の登記名義人HNMに対する抹消登記手続の請求、抵当権者RKSに対する承諾の請求、元の土地所有者OYM氏に対する抹消回復登記手続の請求を、すべて認めました。

第一審判決の判断の構成

控訴審判決は、第一審判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の1から4までを引用しています。引用と補正の記載から、第一審判決が次の事項を判断の中で取り上げていたことが分かります。

  • 会社の確定申告書の記載(平成15年6月期分、平成25年6月期分などの確定申告書に言及しています)
  • 平成25年7月当時の元の土地所有者OYM氏の状況と、会社の臨時株主総会
  • 成年後見に関する事実
  • 元の土地所有者OYM氏が、株式の保有状況を記載した確定申告書に署名していたこと(書証による認定)
  • 元の土地所有者OYM氏の記憶の状態
  • 役員の地位の不存在確認の訴えについての確認の利益

もっとも、第一審判決がこれらの事実をどのように認定し、どのような理由で結論を導いたかの詳細は、控訴審判決本文からは特定できません。本記事では、第一審判決の理由を推測で補っていません。

控訴審の判断

東京高等裁判所は、会社の請求はいずれも理由があると判断し、第一審判決を維持して控訴を棄却しました。理由は、第一審判決を補正したうえで引用し、控訴審での控訴人らの主張に対する判断を加えるという形で示されています。結論は第一審判決と同じであり、控訴審判決は第一審判決を維持したうえで、事実の記載と理由の一部を補正しています。

第一審判決の引用と補正

控訴審判決は、前提事実並びに争点及び当事者の主張について第一審判決を引用しつつ補正し、判断の部分についても、第一審判決の「第3 当裁判所の判断」の1から4までを引用しつつ、次の点を補正しました(頁・行の指定は第一審判決のものです)。

補正の対象 補正の内容(控訴審判決本文による)
事業年度の表記 事業年度を「平成14年6月期」のように終期で表記することとし、確定申告書の記載について、「平成15年6月期ないし平成23年6月期分の各確定申告書」「平成25年6月期及び平成26年6月期分の各確定申告書」と改める(前提事実)。判断の部分でも「平成15年6月期分」「平成25年6月期分」と改める
成年後見 「成年後見の開始決定」を「成年後見開始の審判」と改める(前提事実及び判断の双方)
平成25年7月当時の事実 元の土地所有者OYM氏について「平成25年7月31日当時」「平成25年7月当時」との時点を加え、臨時株主総会について「開催の被控訴人の臨時株主総会による」と改める
主体の表記 第一審判決の一部で登記上の代表取締役AKN氏の符号で記載されていた箇所を、会社(被控訴人)と改める
株式の保有に関する認定 証拠の表示を改め、元の土地所有者OYM氏が、株主CHS氏が40株、登記上の代表取締役AKN氏が20株をそれぞれ保有している旨の平成15年6月期から平成24年6月期までの10期分の各確定申告書に署名押印していることを加える
記憶の状態 元の土地所有者OYM氏の記憶の状態に関する記載について、「周囲の者が、〔OYM氏〕は」を加え、「覚えることのできない」を「覚えることができないと認識するような」と改める
確認の利益 控訴人らの却下の申立ての趣旨は、確認の利益がないということではなく、登記上の代表取締役AKN氏に代表権がないから訴えが不適法であるというものであるとし、「現時点におけるこのような控訴人らの対応」を考慮に加える

このうち、株式の保有に関する認定の補正は、控訴審の判断の中心となった事実を明確にしたものです。また、記憶の状態に関する補正は、元の土地所有者OYM氏が覚えることができない状態であったと断定する表現から、周囲の者がそのように認識するような状態であったという表現に改めたものと読めます(この読み方は当事務所の評価です。補正の前後の文章全体は控訴審判決本文からは分かりません)。

確認の利益についての補正

控訴人らは、役員の地位の不存在確認の訴えの却下を求めていました。控訴審判決は、補正により、この申立ての趣旨を次のように整理しています。

「その趣旨は、確認の利益がないということではなく、飽くまで〔AKN氏〕は被控訴人の代表権を有しないから、本件訴えは、訴訟追行権を有しない者による不適法な訴えであるというものである。」

そして、「現時点におけるこのような控訴人らの対応に加え、」と続けて、第一審判決の確認の利益に関する判断につなげています(「被控訴人」は有限会社KTMを指します)。控訴人らが、登記上の代表取締役AKN氏の代表権を争い、自らが役員の地位にあるかどうかを会社との間で争っている状態であることを、確認の利益を基礎付ける事情の一つとして考慮したものと読めます(この読み方は当事務所の評価です。補正後の文章の続きは控訴審判決本文からは分かりません)。

株式譲渡契約書や議事録がないという主張は、憶測の域を出ないとされた

控訴人らは、控訴審で、元の土地所有者OYM氏の株式について将来の相続問題が明らかであり、株主CHS氏は控訴人SGR氏と抵当権者RKSに強い警戒心を持っていたから、株式を移転するなら株式譲渡契約書や議事録を作成したはずであり、顧問税理士ZMS氏も移転の根拠を確認したはずであるのに、書類がないことはOYM氏に譲渡の意思がなかったことを裏付けると主張しました。

控訴審判決は、この主張を次のとおり退けました。

「しかしながら、控訴人らの主張は、憶測の域を出るものではなく、前記認定のとおり、〔OYM氏〕は、10期にわたって、〔CHS氏〕が40株、〔AKN氏〕が20株をそれぞれ保有している旨の被控訴人の確定申告書に署名押印していたのであり、〔OYM氏〕による被控訴人の株式の〔CHS氏〕への譲渡が〔OYM氏〕の意思に反するものであったと認めることはできない。」

そのうえで、控訴審判決は、「控訴人らの主張は、〔AKN氏〕が被控訴人の代表権を有することを認める前記1の認定判断を左右するものではない。」としました。

ここでの判断の構造は、書類がないことから譲渡の意思がなかったと推認する控訴人らの主張に対し、元の土地所有者OYM氏自身が、株式の保有状況を記載した確定申告書に長期間にわたり署名押印していたという事実を対置し、後者を重く見たものです(この整理は当事務所の評価です)。

本件売買契約の締結当時、意思能力がなかったとまでは認められない

控訴人らは、本件売買契約が株主CHS氏の死亡からわずか2か月後であり、元の土地所有者OYM氏は直近の話をほとんど覚えることができない状態であったこと、会社と代表者個人との自己取引であり、代金も会社がOYM氏から借り入れる形がとられ、返済もわずかであることから、OYM氏が契約内容を正確に理解して締結したかには疑問が大きいと主張しました。

控訴審判決は、次の2つの事実を挙げました。

  • 当時の薬剤管理指導記録に、元の土地所有者OYM氏自身が服薬管理をしており、薬効を理解し、正しく服薬できていると記載されていること
  • 手術に当たって、元の土地所有者OYM氏自身が医師から麻酔についての説明を受け、その旨の署名をしていること

そして、「本件売買契約締結当時、〔OYM氏〕に意思能力がなかったとまで認めることはできない」としました。

自己取引であることと借入金の返済がわずかであることについては、括弧書きで次のように述べています。

「本件売買契約が自己取引であったこと及び売買代金支払のために被控訴人が〔OYM氏〕から借り入れた借入金がその後わずかしか返済されていないことは、いずれもそもそも〔OYM氏〕が本件売買契約締結時に売買契約などの意味を理解できないほどの状態であったことをうかがわせる事情ではない。」

こうして、控訴審判決は、控訴人らの主張は本件売買契約が有効であることを認める第一審判決の認定判断を左右するものではないとしました。

結語

控訴審判決は、結語で「被控訴人の請求を全て認容した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がない」と述べ(「被控訴人」は有限会社KTMを指します)、控訴をいずれも棄却しました。

審級ごとの結論の推移

項目 第一審(裁判所・裁判日・事件番号は確認できていません) 控訴審(東京高等裁判所平成30年8月28日判決)
登記上の代表者の代表権・訴えの適法性 代表権を認め、訴えを適法としたと考えられます(請求を全部認容していることからの当事務所の読み取り) 第一審の認定判断を引用して維持。書類がないとの主張は憶測の域を出ないとして排斥
株式の譲渡 確定申告書の記載等に基づき判断(詳細は確認できていません) 10期分の確定申告書への署名押印を補正で明記し、元の土地所有者の意思に反する譲渡とは認められないと判断
確認の利益 確認の利益を認めたと考えられます(同上) 控訴人らの申立ての趣旨は確認の利益の欠如ではなく代表権の欠如であると整理し、控訴人らの現時点の対応を加えて補正
本件売買契約の効力 有効と判断 維持。薬剤管理指導記録と麻酔の説明への署名から、意思能力がなかったとまでは認められないと判断。自己取引と返済の少なさは理由にならない
取締役・代表取締役の地位の不存在確認 認容 維持(控訴棄却)
監査役の地位の不存在確認 認容 維持(控訴棄却)
所有権移転登記〈2〉の抹消・抵当権者の承諾 認容 維持(控訴棄却)
所有権移転登記〈1〉の抹消回復 認容 元の土地所有者OYM氏が控訴しなかったため、第一審判決が確定(控訴審の判断の対象外)
費用の負担 確認できていません 控訴費用は控訴人らの負担

控訴審は、第一審判決の事実の記載と理由を補正したうえで引用し、控訴審での主張に対する判断を加えて、第一審判決の結論を維持しました。第一審判決の判断を変更した点はありません。

主文及び結論

控訴審判決の主文は、「本件控訴をいずれも棄却する。」「控訴費用は控訴人らの負担とする。」というものです(「控訴人ら」は、取締役の地位を主張したSGR氏、監査役の地位を主張したMKT氏、土地の登記名義人HNM、抵当権者RKSの4名を指します)。

この結果、取締役の地位を主張したSGR氏が有限会社KTMの取締役及び代表取締役の地位にないこと、監査役の地位を主張したMKT氏が監査役の地位にないことを確認し、土地の登記名義人HNMに所有権移転登記〈2〉の抹消登記手続を、抵当権者RKSにその承諾を命じた第一審判決が維持されました。元の土地所有者OYM氏に対する抹消回復登記手続の請求を認めた部分は、同人が控訴しなかったため、既に確定しています。

判断の射程

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。最終的な判断である控訴審判決を基準としています。第一審判決の判断が控訴審で改められた点はなく、控訴審判決は結論を維持したうえで記載を補正しています。

参考となる点

  • 役員の地位の争いは、株式の帰属の争いと一体になること。本件では、役員の地位を主張する側が、登記上の代表者の代表権を争い、その前提として、元の大株主から別の株主への株式の移転を争いました。会社の役員の地位を主張し、又は役員から外されたことを争う方にとっては、自分の地位の根拠となる株主総会の決議と、その決議をした株主が誰であったかが、出発点になることを示す例です。
  • 会社の確定申告書への長期間の署名押印が、株式の帰属の判断で重視されたこと。控訴審判決は、元の土地所有者OYM氏が10期にわたり、株式の保有状況を記載した会社の確定申告書に署名押印していたことを挙げ、株式譲渡契約書や議事録がないことを理由とする主張を「憶測の域を出るものではなく」と退けました。同族的な小規模の会社では、株式譲渡の書面が整っていないことも少なくありません。そのような会社で株式の帰属や役員の地位を争う場合には、書面がないという事情だけでは足りず、確定申告書など会社の継続的な記録にどう記載され、誰がそれを承認してきたかが判断を左右し得ることが分かります。
  • 代表権がないとの主張が、確認の利益を基礎付ける事情として扱われ得ること。控訴審判決は、控訴人らの却下の申立ての趣旨を、確認の利益の欠如ではなく代表権の欠如であると整理し、控訴人らのそのような対応を考慮に加えています。役員の地位を主張する側が会社の代表者の代表権を争い続けていること自体が、会社から地位不存在確認の訴えを起こされる理由になり得ることを示しています。
  • 元代表者の意思能力は、客観的な記録で判断されたこと。控訴審判決は、薬剤管理指導記録の記載と、麻酔の説明への本人の署名を根拠として、意思能力がなかったとまでは認められないとしました。また、自己取引であることや借入金の返済がわずかであることは、意思能力の欠如をうかがわせる事情ではないとしました。意思能力を争う場合には、取引の内容が本人に不利であることとは別に、締結当時の本人の状態を示す記録が必要になります。

一般化できない点

  • 本判決は、10期分の確定申告書への署名押印という具体的な事実を前提に、株式の譲渡が元の土地所有者OYM氏の意思に反するものとは認められないとしたものです。確定申告書の記載があれば常に株式の譲渡が認められるという一般論を示したものではありません。確定申告書の記載が実態と異なることを示す別の証拠がある事案では、結論が異なり得ます。
  • 控訴審判決は、株式の移転の時期、方法、株式の譲渡に必要な会社の承認の有無や、臨時株主総会で何が決議されたかについて、控訴審判決本文の中では具体的に述べていません。これらは第一審判決の引用部分で判断されているとみられますが、第一審判決の本文を確認していないため、どのような事実に基づいてどう判断されたかは、本記事では明らかにできません。
  • 本判決は、意思能力がなかったとまでは認められないとしたものであり、自己取引である本件売買契約について、会社法上の利益相反取引の承認の手続が問題となったかどうかは、控訴審判決本文からは分かりません。
  • 本件は、役員の地位を主張する側が解任の効力や解任の正当な理由を争った事件ではなく、また、役員の側から会社に損害賠償を求めた事件でもありません。解任に正当な理由がない場合の損害賠償の問題については、本判決は何も述べていません。
  • 本件の会社は有限会社です。商号に有限会社の文字を用いる会社は、会社法の施行後は特例有限会社として、原則として株式会社に関する会社法の規定の適用を受けますが、取締役会を置くことができない等の特例もあります(この説明は当事務所によるものであり、判決が述べたものではありません)。株式会社一般にそのまま当てはめる際には、機関の構成の違いに注意が必要です。
  • 上告又は上告受理の申立ての有無及び控訴審判決の確定は、確認できていません。

よくあるご質問

会社から「取締役の地位にないことの確認」を求める訴えを起こされることはあるのですか。

あります。本件では、会社が、取締役及び代表取締役の地位を主張していた方と、監査役の地位を主張していた方を被告として、それぞれ地位にないことの確認を求め、第一審判決、控訴審判決とも会社の請求を認めました。控訴審判決は、役員の地位を主張する側が会社の登記上の代表者の代表権を争っていることも、確認の利益に関する判断の中で考慮しています。役員の地位をめぐる争いでは、御自身が原告になる場合だけでなく、会社側から訴えられる場合もあることを念頭に置く必要があります。

株式譲渡契約書や株主総会の議事録がなければ、株式の移転は無効だと主張できますか。

書面がないという事情だけでは足りない場合があります。本件の控訴審判決は、株式を移転するなら契約書や議事録を作成したはずだという主張を「憶測の域を出るものではなく」と退けました。その理由として、元の大株主自身が、10期にわたり株式の保有状況を記載した会社の確定申告書に署名押印していたことを挙げています。株式の移転を争う場合には、確定申告書、株主名簿、配当や議決権の行使の実績など、会社の継続的な記録に株式の保有がどう表れていたかを確認する必要があります。

登記上の代表者には代表権がないと主張すれば、会社からの訴えは却下されますか。

代表権がないことが認められれば訴えが不適法となる余地はありますが、本件では認められませんでした。控訴人らは、登記上の代表取締役には代表権がないとして訴えの却下を求めましたが、控訴審判決は、株式の譲渡が元の大株主の意思に反するものとは認められないとして、登記上の代表取締役が代表権を有するとした第一審判決の認定判断を維持しました。代表権を争うには、その前提となる株式の帰属や選任の決議の効力について、具体的な証拠に基づいた主張が必要になります。

元代表者が会社とした取引は、判断能力がなかったとして無効になりますか。

本件の控訴審判決は、当時の薬剤管理指導記録に本人が服薬管理をし、薬効を理解して正しく服薬できていると記載されていたこと、本人が手術の際に麻酔の説明を受けて署名していたことから、意思能力がなかったとまでは認められないとしました。また、会社と代表者個人との自己取引であったことや、売買代金のための借入金がわずかしか返済されていないことは、意思能力の欠如をうかがわせる事情ではないとしました。取引の内容に疑問があることと、本人の意思能力がなかったことは、分けて立証する必要があります。

役員の地位を争う場合、最初に何を確認すべきですか。

本件を踏まえた当事務所の考え方としては、まず、御自身が役員に選任された決議と、役員から外されたとされる決議(又は相手方が役員に選任された決議)が、いつ、誰の議決権によってされたのかを確認します。そのうえで、その当時の株主が誰であったかを示す資料(確定申告書の株主に関する記載、株主名簿、株式譲渡の承認の記録、配当の記録等)を集め、相手方の主張する株式の帰属と食い違う点を具体的に洗い出します。本件のように、相手方の主張に沿う記録に長期間にわたり関係者が署名押印している場合には、その記録が実態と異なることを示す別の証拠が必要になります。

関連する記事と御相談のご案内

役員の地位をめぐって会社や他の株主と争いになった場合には、御自身の選任と相手方の選任の各決議、その当時の株主構成と株式の移転の経緯、会社の確定申告書や株主名簿の記載、登記の記載とその変更の経緯を整理し、株式の帰属、決議の効力、代表権の有無を分けて検討します。役員の不当な解任や辞任の強要に関する当事務所の対応は役員の不当な解任・辞任の強要の総合案内で、役員から外されたことを前提に損害賠償を求める場合の考え方は解任に正当な理由がない場合の損害賠償の請求で解説しています。他の裁判例は役員の解任・辞任の裁判例の解説記事一覧をご覧ください。

役員の解任・辞任に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所
03-6435-8418
受付時間 8:00~21:00(土日祝含む)

資料がすべてそろっていない段階でも御相談いただけます。御相談は事前予約制です。秘密は厳守します。

この記事の位置付け

取締役・代表取締役や監査役の立場を主張していた方が、会社から地位の不存在確認を求める訴えを起こされた場面の判例を、株式の帰属と登記上の代表者の代表権の観点から解説します。

役員の地位をめぐる紛争や、不当な解任・辞任の強要に関する当事務所の対応は、役員の不当な解任・辞任の強要の総合案内のページで御案内しています。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

役員の地位を失った方、不当に解任され又は辞任を強要された役員の方に向けた当事務所の取扱内容及び対応の進め方は、次のご案内をご覧ください。

役員の不当解任・強制辞任と残存任期の役員報酬相当額の損害賠償の御相談

03-6435-8418受付 8:00〜21:00(土日祝含む)相談申込LINE
役員の解任・辞任のご相談03-6435-8418受付 8:00〜21:00(土日祝含む)相談申込LINE