任期を短縮する定款の変更が行われた場合

任期を短縮する定款の変更が行われた場合
任期を短縮する定款の変更が行われ、これにより在任中の役員の任期が終了することがあります。形式的には任期の満了ですが、特定の役員を退任させることを目的として行われた場合には、実質的に解任と同様の結果が生じます。本記事では、定款の変更の手続を確認したうえで、争うことのできる点と、損害の賠償を検討し得る場面を整理いたします。
結論 定款の変更の決議それ自体を争うことが出発点となります
任期を短縮する定款の変更が行われた場合の検討の順序は、次のとおりです。
| 順序 | 検討の内容 |
|---|---|
| 第1 | 定款の変更の決議が適法に行われたかを確認します |
| 第2 | 変更後の定款により、いつ任期が満了することとなるかを確認します |
| 第3 | 決議に瑕疵がある場合には、決議を争う訴えを検討します |
| 第4 | 実質的に解任と評価すべき場合には、損害の賠償の請求を検討します |
定款の変更の決議に瑕疵があれば、任期の短縮という効果そのものが生じないことになります。したがって、まず決議の適法性を確認することが出発点となります。
定款の変更の手続
特別決議によること
株式会社は、株主総会の決議によって、定款を変更することができます(会社法第466条)。この決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行われる特別決議によります(会社法第309条第2項)。
したがって、議決権の3分の2以上を確保していない株主が単独で任期を短縮することはできません。株主の構成を確認することが、まず必要でございます。
招集の手続と議案の記載
株主総会を招集する場合には、株主総会の目的である事項を定めなければなりません(会社法第298条第1項)。定款の変更を議題とする場合には、その旨が招集の通知において示されている必要がございます。
招集の通知は、原則として、公開会社では総会の日の2週間前までに、公開会社でない株式会社では1週間前までに発しなければなりません(会社法第299条第1項)。通知に議題の記載がない場合や、通知が一部の株主に発せられていない場合には、招集の手続に瑕疵があることになります。
任期の短縮が役員の地位に与える効果
任期の定めの変更
取締役の任期は、選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされ、定款又は株主総会の決議によって短縮することができます(会社法第332条第1項)。公開会社でない株式会社では、定款により選任後10年以内まで伸長することが認められております(同条第2項)。
監査役の任期は、選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時までとされております(会社法第336条第1項)。監査役の任期については、これを短縮することが原則として認められていない点に注意が必要でございます。
在任中の役員への影響
| 場面 | 生じ得る効果 |
|---|---|
| 10年から2年への短縮 | 既に2年を経過している役員は、直近の定時株主総会の終結の時に任期が満了することとなり得ます |
| 特定の役員のみを対象とする定めの新設 | 株主平等の観点及び決議の内容の適法性が問題となる余地があります |
| 監査役の任期の短縮 | 監査役の任期の短縮は原則として認められていないと解されております |
変更後の定款の文言と、自らの就任の年月日とを照合し、いつ任期が満了することとなるのかを具体的に確認してください。
定款の変更の決議を争う場合
決議の取消しの訴え
招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正であるときは、決議の取消しを求める訴えを提起することができます。この訴えは、決議の日から3か月以内に提起しなければなりません(会社法第831条第1項)。
また、特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたときも、取消しの事由とされております(会社法第831条第1項第3号)。特定の役員を退任させることを目的として、その役員と対立する株主が主導して任期を短縮した場合には、この事由の該当性が検討の対象となり得ます。
決議の不存在又は無効の確認の訴え
そもそも株主総会が開催されておらず、議事録のみが作成されているような場合には、決議が存在しないことの確認を求める訴えを提起することが考えられます。決議の内容が法令に違反する場合には、無効の確認を求める訴えによります(会社法第830条第1項・第2項)。
これらの訴えには期間の制限がございませんが、時の経過により事実関係の立証が困難となりますので、早期に着手することが望まれます。
実質的に解任と評価すべき場合の損害賠償
役員は、いつでも株主総会の決議によって解任することができますが、解任について正当な理由がない場合には、会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(会社法第339条第1項・第2項)。
任期を短縮する定款の変更が、特定の役員を退任させることのみを目的として行われた場合には、この規定の趣旨を及ぼすべきであるとする議論がございます。もっとも、この点は事案により判断が分かれ得る領域でございますので、賠償が必ず認められると申し上げることはできません。
主張を組み立てるうえでは、定款の変更が提案された時期、変更の理由として説明された内容、変更の対象となった役員の範囲、変更の直後に行われた人事といった事情を、時系列に沿って整理することが有用でございます。
併せて確認すべき事項
| 事項 | 確認の内容 |
|---|---|
| 役員報酬 | 退任の日までの報酬が支払われているか |
| 役員退職慰労金 | 支給の規程の有無、株主総会の決議の有無 |
| 個人保証 | 会社の借入れに対する保証が残っていないか |
| 使用人としての地位 | 使用人を兼ねる取締役であった場合の地位の帰趨 |
| 後任の選任 | 後任が選任されない場合には、なお役員としての権利義務を有することがあります(会社法第346条第1項) |
定款の変更を争うかどうかにかかわらず、これらの事項は退任に伴って必ず生じますので、並行して確認しておく必要がございます。
よくあるご質問
質問1 定款の変更は登記されますか。
役員の任期の定めそれ自体は、登記事項とはされておりません。したがって、登記事項証明書からは定款の変更の有無を知ることができませんので、定款の写しの交付を求める必要がございます。
質問2 定款の写しを見せてもらえません。
株主又は債権者は、会社の営業時間内であれば、定款の閲覧又は謄本の交付を請求することができるものとされております。株主としての地位を有するかどうかを、まず確認してください。
質問3 自分が出席していない総会で決議されました。
招集の通知が発せられていたかを確認してください。通知が発せられていない場合には、招集の手続の瑕疵として決議の取消しの事由となる余地があります。
質問4 3か月を過ぎてしまいました。
取消しの訴えの期限は過ぎておりますが、決議の不存在又は無効を主張する余地が残る場合がございます。議事録の記載と実際の開催の状況とを照合することが検討の出発点となります。
質問5 任期が短縮されても再任されれば問題はありませんか。
再任された場合には地位は継続いたしますが、任期が短くなることにより、再任の可否が株主により繰り返し判断されることとなります。株主構成の変化に留意する必要がございます。
確認事項の一覧
| 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|
| 変更前後の定款 | 会社に対する謄本の交付の請求 |
| 定款の変更の決議の日 | 株主総会議事録 |
| 招集の通知の有無及び議題の記載 | 手元の通知 |
| 出席した株主及び議決権の数 | 議事録、株主名簿 |
| 自らの就任の年月日 | 登記事項証明書 |
| 変更の理由の説明 | 議事録、電子メール、録音 |
定款の変更の決議の日が確定すれば、取消しの訴えの期限が定まります。まずこの日を確定させてください。
本記事における非開示事項について
特別の利害関係を有する者による著しく不当な決議に当たると主張する場合の構成、定款の変更が特定の役員を対象とするものであることを裏付ける資料の集め方、損害の額の算定の方法は、株主構成及び資料の状況により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
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弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第298条第1項(株主総会の招集の決定)、第299条第1項(株主総会の招集の通知)、第309条第2項(株主総会の特別決議)、第332条第1項・第2項(取締役の任期)、第336条第1項(監査役の任期)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第346条第1項(役員が欠けた場合の措置)、第466条(定款の変更)、第830条第1項・第2項(決議の不存在又は無効の確認の訴え)、第831条第1項(決議の取消しの訴え)
判例法理による部分 任期を短縮する定款の変更が実質的に解任と評価されるかについては、判例法理及び学説の議論によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。
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