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会社の破産と、取締役を解任した株主総会決議の不存在確認の訴えの利益―最高裁判所第二小法廷平成21年4月17日判決

公開 2009年4月17日更新 2026年10月30日

▶ 役員を解任した株主総会決議の効力を争う御相談

招集通知も出されず、実際には開かれていない臨時株主総会で取締役を解任されたことにされ、その旨の登記までされた取締役らが、会社を相手に株主総会決議の不存在確認を求めて訴えを起こしたところ、訴訟の途中で会社が破産手続開始の決定を受けた場面の判例です。第一審の福島地方裁判所平成19年11月22日判決は、株主の大多数に招集通知がされず、出席もなかった株主総会の決議は存在しないとして、取締役らの請求を全部認めました。控訴審の仙台高等裁判所は、会社の破産によって取締役らの地位は当然に失われるから訴えの利益がないとして、訴えを却下しました。これに対し、最高裁判所第二小法廷平成21年4月17日判決は、会社が破産手続開始の決定を受けても、会社と取締役・監査役との委任関係は直ちには終了せず、取締役らの解任又は選任を内容とする株主総会決議の不存在確認の訴えの利益は当然には消滅しないとして、控訴審判決を破棄し、事件を仙台高等裁判所に差し戻しました。

本記事では、解任された取締役の側から、開かれていない株主総会の決議による解任をどのような手続で争ったのか、第一審が決議の不存在をどのような事実から認めたのか、そして、会社が破産しても役員の地位をめぐる訴えが当然には無意味にならないという最高裁判所の判断が、実務上どのような意味を持つのかを、判決本文に基づいて整理します。

控訴審の判決本文についての注記
控訴審(仙台高等裁判所)の判決本文は入手できておらず、本記事では、控訴審の判断を上告審判決の本文の記載から分かる範囲で紹介しています。控訴審の判決本文及び差戻し後の判断を入手した後に、本記事に加筆します。

Contents
  1. 裁判例の基本情報
  2. 当事者の表記
  3. 事案の概要
    1. 旅館会社の株主構成
    2. 開かれていない臨時株主総会で、取締役らが解任されたことにされた
    3. 取締役らが決議の不存在確認を求めて提訴し、その途中で会社が破産した
  4. 事案の経緯
  5. 当事者の請求と主要な主張
    1. 取締役らの請求
    2. 主要な主張の対比(第一審)
    3. 控訴審・上告審での争点
  6. 結論を左右した争点
  7. 第一審の判断
    1. 株主構成は、会社が認めた内容で確定した
    2. 議事録の作成と変更登記
    3. 株主の大多数に招集通知がされず、出席もなかった
    4. 取締役らも議事録を偽造したという補助参加人の主張は退けた
    5. 第一審の主文
  8. 控訴審の判断
  9. 上告審の判断
    1. 民法653条が破産を委任の終了事由とする理由
    2. 役員の選任・解任は、破産管財人の権限に属さない
    3. 破産手続開始当時の取締役らは、地位を当然には失わない
    4. 訴えの利益は当然には消滅しない
    5. 控訴審判決には法令解釈の誤りがあり、差し戻す
  10. 審級ごとの結論の推移
  11. 主文及び結論
  12. 判断の射程
    1. 参考となる点
    2. 一般化できない点
  13. よくあるご質問
    1. 株主総会が開かれていないのに、自分が取締役を解任されたことになり、登記まで変えられてしまいました。どのように争うことができますか。
    2. 解任を争っている途中で会社が破産しました。訴えは意味がなくなるのでしょうか。
    3. 会社が破産したら、取締役の仕事は全部破産管財人に移るのではないのですか。
    4. 以前、株主総会を開かずに議事録を作って登記をしたのはこちらも同じだと、相手方から言われています。それでも決議の不存在を主張できますか。
    5. 監査役を解任されたことにされた場合も、同じように考えられますか。
    6. 会社が破産しても、勝訴すれば必ず取締役として扱われるのですか。
  14. 関連する記事と御相談のご案内

裁判例の基本情報

審級 裁判所 裁判日 事件番号 裁判の形式 結論
第一審 福島地方裁判所 平成19年11月22日 平成19年(ワ)第194号 判決 取締役らの請求を全部認容。株主総会決議(取締役3名及び監査役1名の解任並びに取締役3名及び監査役1名の選任)及び取締役会決議(代表取締役の選任)がいずれも存在しないことを確認。訴訟費用は会社の負担
控訴審 仙台高等裁判所 判決本文未入手のため、本記事には記載していません 判決本文未入手のため、本記事には記載していません 判決(上告審判決の本文が「原判決」と表示しています) 上告審判決の本文によれば、会社の破産手続開始により訴えの利益がないとして、取締役らの訴えをいずれも却下
上告審 最高裁判所第二小法廷 平成21年4月17日 平成20年(受)第951号 判決 控訴審判決を破棄し、本件を仙台高等裁判所に差し戻す(裁判官全員一致)

差戻し後の仙台高等裁判所の判断及びその後の確定の状況は、確認できていません。この表は、第一審判決及び上告審判決の本文の冒頭、主文及び末尾の記載に基づいて当事務所が作成したものです。控訴審については、上告審判決の本文に記載された範囲でのみ記載しています。

当事者の表記

判決に出てくる会社名・氏名は、本記事独自のイニシャルに置き換えています。判決が用いた符号も、そのままでは使わず、次の表記に置き換えています。判決本文を引用する部分でも同じ表記に置き換え、置き換えた箇所を〔 〕で示しています。

本記事の表記 立場
旅館会社RKN 旅館業、料理店業を目的とする株式会社です。第一審の被告、上告審の被上告人です。訴訟の係属中に破産手続開始の決定を受けました。発行済株式は20万株です
代表取締役であったKZM氏 第一審の原告、上告審の上告人の一人です。株主(6万4,910株)であり、平成19年6月28日当時、旅館会社RKNの代表取締役・取締役でした
取締役であった筆頭株主HRY氏 第一審の原告、上告審の上告人の一人です。最も多い9万2,305株を有する株主であり、同日当時、取締役でした
取締役であったMTS氏 第一審の原告、上告審の上告人の一人です。株主(700株)であり、同日当時、取締役でした
監査役であったSGW氏 同日当時の監査役で、株主(700株)です。解任されたとされた一人ですが、訴訟の原告にはなっていません
新たな代表取締役とされたANZ氏 臨時株主総会が開催されたとする議事録を作成し、変更登記を申請した人物です。取締役に選任され、取締役会で代表取締役に選任されたとされました
新たな取締役とされたCHB氏、DTE氏 同じ株主総会で取締役に選任されたとされた2名です
新たな監査役とされたEMR氏 同じ株主総会で監査役に選任されたとされた人物です
株主FJT氏、株主GTO氏、株主HSM氏、株主IKW氏、株主JNN氏、株主KMR氏 その他の株主6名です
前代表取締役LMT氏 補助参加人の主張に出てくる、旅館会社RKNの前代表取締役です
補助参加人 第一審で被告である旅館会社RKNの側に補助参加した者です。第一審判決の本文には、誰が補助参加人であるかの記載はありません

判決本文の「原告ら」「上告人ら」は、代表取締役であったKZM氏、取締役であった筆頭株主HRY氏及び取締役であったMTS氏の3名を指します。本記事では、この3名を「取締役ら」とまとめて呼ぶことがあります。

事案の概要

旅館会社の株主構成

旅館会社RKNは、旅館業、料理店業を目的とする株式会社です。第一審判決は、平成19年6月28日当時の全株式20万株の株主構成について、取締役らと会社との間で争いがないとして、次のとおり認めています。

株主 株式数(判決本文) 割合(当事務所の計算)
取締役であった筆頭株主HRY氏 9万2,305株 約46.2パーセント
代表取締役であったKZM氏 6万4,910株 約32.5パーセント
株主FJT氏 2万8,500株 約14.3パーセント
株主GTO氏 7,285株 約3.6パーセント
株主HSM氏 2,275株 約1.1パーセント
株主IKW氏 2,050株 約1.0パーセント
株主JNN氏 775株 約0.4パーセント
監査役であったSGW氏 700株 約0.4パーセント
取締役であったMTS氏 700株 約0.4パーセント
株主KMR氏 500株 約0.3パーセント

10名の株式数の合計は20万株で、全株式と一致します(合計及び割合は当事務所の計算です)。取締役ら3名の株式は合わせて15万7,915株で、全株式の約79パーセントに当たります。

開かれていない臨時株主総会で、取締役らが解任されたことにされた

新たな代表取締役とされたANZ氏は、平成19年6月28日午後2時30分から旅館会社RKNの本店で臨時株主総会が開催され、次の決議があった旨の臨時株主総会議事録を作成しました。

  • 代表取締役KZM氏、取締役KZM氏、取締役HRY氏、取締役MTS氏及び監査役SGW氏の解任
  • ANZ氏、CHB氏及びDTE氏の取締役への選任、EMR氏の監査役への選任

また、同日、新たに選任されたとする取締役が集まって取締役会が開かれ、ANZ氏が代表取締役に選任されたとされました。ANZ氏は、翌6月29日、法務局に株式会社変更登記を申請し、法務局は申請に応じて変更登記をしました。

取締役らが決議の不存在確認を求めて提訴し、その途中で会社が破産した

取締役らは、株主には何ら株主総会の招集通知はされておらず、臨時株主総会は物理的に存在しないとして、旅館会社RKNを被告として、株主総会決議と取締役会決議がいずれも存在しないことの確認を求めました。上告審判決の本文によれば、取締役らは平成19年7月10日に福島地方裁判所に訴えを提起しましたが、旅館会社RKNは、第一審の係属中の同年9月7日に破産手続開始の決定を受け、破産管財人が選任されました。

事案の経緯

時期 出来事(各判決本文による)
平成19年6月28日当時 取締役ら3名は旅館会社RKNの株主であり、取締役(KZM氏は代表取締役)であった。株主は10名、全株式は20万株
平成19年6月28日 同日午後2時30分から本店で臨時株主総会が開催され、取締役ら及び監査役SGW氏の解任並びにANZ氏ら3名の取締役及びEMR氏の監査役への選任の決議があったとする議事録が作成される。同日、新たな取締役とされた者による取締役会でANZ氏が代表取締役に選任されたとされる
平成19年6月29日 ANZ氏が法務局に株式会社変更登記を申請し、変更登記がされる
平成19年7月10日 取締役らが福島地方裁判所に決議の不存在確認を求める訴えを提起(上告審判決の本文による)
平成19年9月7日 旅館会社RKNが破産手続開始の決定を受け、破産管財人が選任される(上告審判決の本文による)
平成19年11月22日 福島地方裁判所が、取締役らの請求を全部認容する判決
控訴審 仙台高等裁判所が、訴えの利益がないとして取締役らの訴えをいずれも却下する判決(上告審判決の本文による。裁判日は本記事には記載していません)
上告審 取締役らが上告受理の申立て
平成21年4月17日 最高裁判所第二小法廷が、控訴審判決を破棄し、本件を仙台高等裁判所に差し戻す判決

当事者の請求と主要な主張

取締役らの請求

取締役らは、旅館会社RKNに対し、次の2つの確認を求めました。

  • 平成19年6月28日の株主総会においてされたとする、取締役ら3名の取締役からの解任及び監査役SGW氏の監査役からの解任の決議、並びにANZ氏、CHB氏及びDTE氏の取締役への選任及びEMR氏の監査役への選任の決議が、いずれも存在しないこと
  • 同日の取締役会においてされたとする、ANZ氏を代表取締役に選任した決議が存在しないこと

主要な主張の対比(第一審)

論点 取締役らの主張 旅館会社RKNの認否 補助参加人の主張
株主構成 全株式20万株の株主構成は、前記の表のとおりである 認める 否認する。ANZ氏、DTE氏、CHB氏が各4万4,200株、KZM氏が2万9,340株、株主FJT氏が2万8,500株、株主GTO氏が7,285株、株主HSM氏が2,275株である
議事録の作成と変更登記 ANZ氏が臨時株主総会の議事録を作成し、翌日、変更登記を申請した ANZ氏が変更登記を申請したことは認め、その余は不知 ANZ氏が変更登記を申請したことは認め、その余は否認する
株主総会の開催 株主には何ら招集通知はされておらず、臨時株主総会は物理的に存在しない 不知 否認する。委任状を含め圧倒的多数の株主が出席して開催された
取締役会の開催 取締役会は開催されていない。仮に選任されたと称する取締役が集合していたとしても、法的には存在しない 不知 否認する
信義則 ― ― 取締役らは、株主総会を開催することなく総会議事録を偽造して前代表取締役LMT氏らの退任登記手続をしており、補助参加人が行った株主総会について異議を申し立てることは信義則上許されない

表中の主張及び認否は、第一審判決の本文が記載したものを当事務所が要約したものです。裁判所が認定した事実とは区別してお読みください。被告である旅館会社RKNは、株主構成を認め、株主総会と取締役会の開催については「不知」と答えており、株主総会が開かれたと積極的に主張していたのは補助参加人でした。

控訴審・上告審での争点

上告審判決の本文によれば、控訴審・上告審では、第一審の係属中に旅館会社RKNが破産手続開始の決定を受けたことにより、決議の不存在確認を求める訴えの利益が失われたかどうかが問題となりました。取締役らは、上告受理の申立ての理由として、控訴審の判断を争いました。申立ての理由の具体的な内容は、上告審判決の本文には記載されていません。

結論を左右した争点

3つの審級の判断を分けたのは、次の2点です。

  1. 招集通知が出されず、株主も出席していない株主総会の決議は、法的に存在するといえるか。その決議で選任されたとする取締役による取締役会決議はどうか(第一審が判断)。
  2. 決議の不存在確認を求める訴えの係属中に会社が破産手続開始の決定を受けた場合、取締役らは会社との委任関係の終了によって地位を当然に失い、訴えの利益がなくなるか(控訴審と上告審で判断が分かれた点)。

第一審は(1)を判断して請求を認容しました。第一審判決の本文には、会社の破産手続開始についての記載はなく、訴えの利益についての判断も示されていません。控訴審は(2)について訴えの利益を否定し、訴えを却下しました。上告審は(2)について控訴審の判断を誤りとし、本案(決議が存在するかどうか)について審理を尽くさせるため、事件を控訴審に差し戻しました。

第一審の判断

福島地方裁判所は、取締役らの請求をいずれも認容しました。

株主構成は、会社が認めた内容で確定した

第一審判決は、株主構成について、取締役らと被告である旅館会社RKNとの間に争いがないとしました。そのうえで、株主構成を否認した補助参加人の認否については、次のとおり述べて効力を認めませんでした。

「補助参加人の認否は、被告の訴訟行為に抵触するものであるから、効力を有しない。」

補助参加人が主張した、ANZ氏、DTE氏及びCHB氏が各4万4,200株を有するという株主構成も、同じ理由で効力を有しないとされました。補助参加人は、補助参加をした相手方(本件では被告である旅館会社RKN)の訴訟行為と抵触する訴訟行為をすることができないという考え方に基づくものと考えられます(この説明は当事務所の評価です)。

議事録の作成と変更登記

第一審判決は、ANZ氏が平成19年6月29日に法務局に変更登記を申請したことは当事者間に争いがないとし、証拠によれば、ANZ氏が、同月28日午後2時30分から本店で臨時株主総会が開催され、取締役らの解任等の決議があった旨の臨時株主総会議事録を作成したことが認められるとしました。法務局が変更登記をしたことも争いがないとされています。

株主の大多数に招集通知がされず、出席もなかった

第一審判決は、証拠により、平成19年6月28日当時の株主である取締役であった筆頭株主HRY氏、代表取締役であったKZM氏、株主GTO氏、株主HSM氏、株主IKW氏、株主JNN氏及び取締役であったMTS氏の7名(株式合計17万300株)に対し、臨時株主総会の招集通知はされておらず、7名はこの株主総会に出席していないことを認定しました。7名の株式は、全株式20万株の約85パーセントに当たります(割合は当事務所の計算です)。

そのうえで、第一審判決は次のとおり判断しました。

「本件臨時株主総会は、株主の大多数に招集通知がされず、出席もされなかったものであって、その決議は存在しないというべきであり、これに基づいて選任された取締役による取締役会決議もまた不存在というべきである。」

第一審判決は、招集通知の有無と出席の有無という客観的な事実から、株主総会の決議そのものが存在しないと判断し、さらに、その決議で選任されたとする取締役による取締役会の代表取締役選任決議も、前提を欠くものとして存在しないとしました。

取締役らも議事録を偽造したという補助参加人の主張は退けた

補助参加人は、取締役らも株主総会を開催することなく総会議事録を偽造して前代表取締役LMT氏らの退任登記手続をしたのであるから、取締役らが株主総会について異議を申し立てることは信義則上許されないと主張しました。第一審判決は、この主張について、次の2つの理由から採用しませんでした。

  • 取締役らが総会議事録を偽造して前代表取締役らの退任登記手続をしたとの事実については、これを認めるに足りる的確な証拠はないこと
  • また、「そのような事実をもって、原告らの本訴請求が許されないことになるものでもない」こと(「原告ら」は取締役ら3名を指します)

第一審の主文

第一審判決の主文は、次のとおりです(引用中の氏名は本記事の表記に置き換えています)。

「1 平成19年6月28日、被告株主総会においてなされた「〔KZM氏〕、〔HRY氏〕及び〔MTS氏〕が取締役を、〔SGW氏〕が監査役を解任された」旨の決議、並びに「〔ANZ氏〕、〔CHB氏〕及び〔DTE氏〕を取締役に、〔EMR氏〕を監査役に選任した」旨の決議が、いずれも存在しないことを確認する。
2 平成19年6月28日、被告取締役会においてなされた「〔ANZ氏〕を代表取締役に選任した」旨の決議が存在しないことを確認する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。」

主文の「被告」は旅館会社RKNを指します。なお、主文第1項の原文では、取締役ら3名の氏名の前に「原告」の語が付されています。

お手元の資料と経緯をお聞きし、進め方の順序をお示しします。

控訴審の判断

この節についての注記
控訴審(仙台高等裁判所)の判決本文は入手できておらず、この節は、上告審判決の本文の記載から分かる範囲で紹介しています。控訴審の判決本文及び差戻し後の判断を入手した後に、本記事に加筆します。控訴審の裁判日、事件番号、控訴をした者及び控訴審が第一審判決をどのように扱ったかの詳細は、上告審判決の本文には記載がないため、本記事には記載していません。

上告審判決の本文によれば、控訴審(上告審判決の本文では「原審」)は、次のとおり判断して、取締役らの訴えをいずれも却下しました。

「〔旅館会社RKN〕が破産手続開始の決定を受け、破産管財人が選任されたことにより、本件株主総会決議で選任されたとする取締役らは、いずれも、〔旅館会社RKN〕との委任関係が当然終了してその地位を喪失し、他方、同決議で解任されたとする取締役らについても、本件訴訟で勝訴したとしても、破産手続開始の時点で委任関係が当然終了したものと扱われるので、〔旅館会社RKN〕の取締役らとしての地位に復活する余地はないから、特別の事情がない限り、本件株主総会決議等不存在確認の訴えは訴えの利益がない。そして、同訴えにつき訴えの利益を肯定すべき特別の事情があるとは認められない。」

これは、上告審判決が控訴審の判断として要約した部分です。控訴審の考え方は、次のように整理できます(整理は当事務所によるものです)。

  • 会社が破産手続開始の決定を受けると、会社と取締役との委任関係は当然に終了する。
  • そのため、決議で新たに選任されたとする取締役らも、決議で解任されたとする取締役らも、破産手続開始の時点で取締役の地位を失う。
  • 解任された取締役らが訴訟で勝っても、取締役の地位に戻る余地はないから、特別の事情がない限り、決議の不存在確認を求める訴えの利益はない。本件ではその特別の事情も認められない。

訴えを却下するという控訴審の結論は、決議が存在するかどうかという本案に入る前の段階で訴えを退けるものです。第一審が認めた請求認容の結論は、控訴審では維持されなかったことになります。控訴審が決議の存否について判断を示したかどうかは、上告審判決の本文からは分かりません。

上告審の判断

最高裁判所第二小法廷は、控訴審の判断は是認することができないとして、控訴審判決を破棄し、本件を仙台高等裁判所に差し戻しました。裁判官全員一致の意見です。上告審は、控訴審が訴えの利益を否定した前提、すなわち会社の破産によって取締役らが当然にその地位を失うという考え方を改めました。

民法653条が破産を委任の終了事由とする理由

上告審判決は、まず、委任者の破産手続開始の決定を委任の終了事由とする民法653条の趣旨を、次のように説明しました。

「民法653条は、委任者が破産手続開始の決定を受けたことを委任の終了事由として規定するが、これは、破産手続開始により委任者が自らすることができなくなった財産の管理又は処分に関する行為は、受任者もまたこれをすることができないため、委任者の財産に関する行為を内容とする通常の委任は目的を達し得ず終了することによるものと解される。」

つまり、破産によって委任が終わるのは、破産した委任者が財産の管理や処分をできなくなる以上、その財産に関する行為を任された受任者もそれをできなくなるからだ、という説明です。

役員の選任・解任は、破産管財人の権限に属さない

次に、上告審判決は、会社が破産した場合の権限の分担について、次のように述べました。

「会社が破産手続開始の決定を受けた場合、破産財団についての管理処分権限は破産管財人に帰属するが、役員の選任又は解任のような破産財団に関する管理処分権限と無関係な会社組織に係る行為等は、破産管財人の権限に属するものではなく、破産者たる会社が自ら行うことができるというべきである。」

会社の財産の管理・処分は破産管財人の手に移りますが、役員の選任や解任のような会社の組織に関する事柄は、破産財団の管理処分とは関係がないため、破産管財人ではなく会社自身に残るという整理です。

破産手続開始当時の取締役らは、地位を当然には失わない

この2つを組み合わせて、上告審判決は次のとおり判断しました。

「そうすると、同条の趣旨に照らし、会社につき破産手続開始の決定がされても直ちには会社と取締役又は監査役との委任関係は終了するものではないから、破産手続開始当時の取締役らは、破産手続開始によりその地位を当然には失わず、会社組織に係る行為等については取締役らとしての権限を行使し得ると解するのが相当である」

上告審判決は、この判断に当たり、最高裁判所の先例となる判決1件を参照として掲げています。当事務所はその判決の本文を本記事の素材としていないため、内容の紹介は控えます。

訴えの利益は当然には消滅しない

以上から、上告審判決は、次の結論を示しました。

「したがって、株式会社の取締役又は監査役の解任又は選任を内容とする株主総会決議不存在確認の訴えの係属中に当該株式会社が破産手続開始の決定を受けても、上記訴訟についての訴えの利益は当然には消滅しないと解すべきである。」

控訴審判決には法令解釈の誤りがあり、差し戻す

上告審判決は、控訴審が、旅館会社RKNが破産手続開始の決定を受け破産管財人が選任されたことにより当然に取締役らがその地位を喪失したことを前提に、訴えの利益が消滅したとして訴えを却下したことについて、「法令解釈の誤りがあり、この違法が原判決に影響を及ぼすことは明らかである」としました。そして、取締役らの上告受理申立ての理由はこの趣旨をいうものとして理由があり、控訴審判決は破棄を免れないとしたうえで、「本案につき審理を尽くさせるため」、本件を控訴審に差し戻しました。

上告審判決が判断したのは、会社の破産によって訴えの利益が当然に失われるかどうかという点であり、平成19年6月28日の株主総会決議及び取締役会決議が実際に存在するかどうかという本案については、判断を示していません。本案は、差し戻された仙台高等裁判所で審理されることになります。なお、上告審判決は、主文で取締役会の代表取締役選任決議を含む「本件株主総会決議等」の不存在確認の訴え全体について控訴審判決を破棄しています。

審級ごとの結論の推移

項目 第一審(福島地方裁判所平成19年11月22日判決) 控訴審(仙台高等裁判所。上告審判決の本文による) 上告審(最高裁判所第二小法廷平成21年4月17日判決)
会社の破産による訴えの利益 判決本文に記載なし(破産手続開始についての記載もない) 破産手続開始により委任関係が当然終了し、取締役らが地位に復活する余地はないから、訴えの利益はない 委任関係は直ちには終了せず、取締役らは地位を当然には失わないから、訴えの利益は当然には消滅しない
株主総会決議の存否 存在しない(株主の大多数に招集通知がされず、出席もなかった) 上告審判決の本文からは分からない 判断していない(差戻し後の審理に委ねた)
取締役会決議(代表取締役の選任)の存否 存在しない(不存在の株主総会決議で選任されたとする取締役による決議) 上告審判決の本文からは分からない 判断していない
補助参加人の信義則の主張 的確な証拠がなく、仮にそのような事実があっても請求は妨げられない 上告審判決の本文からは分からない 判断していない
結論 請求を全部認容 訴えをいずれも却下 控訴審判決を破棄し、仙台高等裁判所に差し戻す

上告審は、控訴審の訴えの利益についての判断を変更し、控訴審判決を破棄しました。第一審の請求認容の判断が最終的に維持されるかどうかは、差戻し後の判断によることになり、本記事の作成時点では確認できていません。

主文及び結論

第一審判決の主文は、前記のとおり、株主総会決議及び取締役会決議がいずれも存在しないことを確認し、訴訟費用を旅館会社RKNの負担とするものです。

上告審判決の主文は、「原判決を破棄する。」「本件を仙台高等裁判所に差し戻す。」というものです。

最終的に、最高裁判所は、会社の破産を理由に訴えを門前払いした控訴審判決を破棄し、解任されたとされた取締役らが決議の不存在確認を求める訴えについて、本案の審理を続けるよう命じました。差戻し後の結論は、判決本文を確認できていないため、本記事には記載していません。

判断の射程

以下は、判決の内容を踏まえた当事務所の評価です。判決が述べた事項と区別してお読みください。最終的な判断である上告審判決を基準とし、控訴審の判断が改められた点はその旨を示します。

参考となる点

  • 会社が破産しても、解任を争う訴えは当然には無意味にならないこと。控訴審は、会社の破産によって取締役の地位は当然に失われるから、解任された取締役が勝訴しても地位に戻る余地はないとしましたが、上告審はこれを改めました。解任された役員の側からみると、訴訟の途中で会社が破産手続開始の決定を受けたことだけを理由に、解任決議の効力を争う訴えが却下されるわけではないことが明らかになりました。会社が破産に至った場面でも、解任を争う手続を続ける意味があり得ることを示した判断です。
  • 破産後も、会社の組織に関する事柄は会社自身に残ること。上告審は、破産財団の管理処分は破産管財人に帰属するが、役員の選任又は解任のような会社組織に係る行為等は破産管財人の権限に属さず、会社が自ら行うことができるとしました。破産手続開始当時の取締役らは、会社組織に係る行為等については取締役らとしての権限を行使し得るとされています。誰が会社の正当な取締役であるかは、破産後も意味を持つ問題であることが分かります。
  • 判断は取締役と監査役の双方に及ぶこと。上告審判決の判断は、「取締役又は監査役」の解任又は選任を内容とする株主総会決議の不存在確認の訴えについて述べられています。解任されたとされた監査役の地位をめぐる訴えにも、同じ考え方が及ぶと読めます。
  • 開かれていない株主総会による解任は、決議の不存在確認の訴えで争われたこと。本件では、株主総会が開催されたとする議事録が作成され、それに基づいて変更登記までされていました。取締役らは、株主総会決議と、その決議で選任されたとする取締役による取締役会決議の双方について不存在確認を求め、第一審は、株式の約85パーセントを有する株主7名に招集通知がされず、出席もなかったことから、いずれの決議も存在しないとしました。議事録や登記があっても、招集通知と出席の有無という客観的な事実によって、決議の存在そのものを争う道があることを示した例です。株主総会決議の不存在確認の訴えは会社法830条1項に定められており、決議の取消しの訴え(会社法831条1項)のような決議の日から3か月以内という提訴期間の定めはありません(この法令の説明は当事務所によるものです)。
  • 相手方から、取締役らも同じことをしたと主張されても、それだけで請求は妨げられないこと。第一審は、取締役らも議事録を偽造して前代表取締役らの退任登記をしたという補助参加人の主張について、証拠がないとしたうえで、仮にそのような事実があっても請求が許されないことにはならないとしました。経営権をめぐる対立の中で双方が相手の行為の不当を主張し合う場面で、参考になる判断です。

一般化できない点

  • 上告審は、訴えの利益が「当然には」消滅しないとしたもので、会社が破産しても訴えの利益が常に存続すると述べたものではありません。上告審が判断したのは、破産手続開始による委任関係の当然終了を前提に訴えの利益を否定した控訴審の考え方が誤りであるという点です。破産以外の事情(例えば任期の満了など)が訴えの利益に与える影響について、本判決は判断していません。
  • 上告審は、決議が実際に存在するかどうかという本案については判断しておらず、本案の審理を尽くさせるために事件を差し戻しました。差戻し後の仙台高等裁判所の判断は、判決本文を確認できていないため、本記事では取り上げていません。第一審の請求認容の判断が最終的に維持されたかどうかは確認できていません。
  • 上告審判決は、破産手続開始当時の取締役らが、会社組織に係る行為等について取締役らとしての権限を行使し得ると述べていますが、具体的にどのような行為がこれに当たるかを網羅的に示したものではありません。判決本文が例として挙げているのは、役員の選任又は解任です。
  • 第一審が決議の不存在を認めたのは、株式の約85パーセントを有する株主7名に招集通知がされず、出席もなかったという事実関係に基づくものです。招集通知の不備が一部の株主にとどまる場合や、株主総会が現実に開かれていた場合には、決議の不存在ではなく、決議の取消しの問題となることも考えられ、本件の判断をそのまま当てはめることはできません(この点は当事務所の評価です)。
  • 第一審では、被告である会社が株主構成を認め、株主総会の開催については「不知」と答えており、株主総会が開かれたと積極的に主張したのは補助参加人でした。補助参加人の認否や主張は、会社の訴訟行為と抵触するとして効力を認められていません。会社自身が開催を積極的に主張して争う事案では、証拠の評価が異なり得ます。
  • 判決は、変更登記の抹消や是正の方法、解任されたとされた期間の役員報酬、損害賠償については判断していません。

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よくあるご質問

株主総会が開かれていないのに、自分が取締役を解任されたことになり、登記まで変えられてしまいました。どのように争うことができますか。

本件では、解任されたとされた取締役らが、会社を被告として、解任及び後任の選任を内容とする株主総会決議と、その後任の取締役による代表取締役選任の取締役会決議が、いずれも存在しないことの確認を求めました。第一審は、株式の約85パーセントを有する株主7名に招集通知がされず、出席もなかったことから、株主総会決議は存在せず、それに基づく取締役会決議も存在しないと判断しました。議事録が作成され、変更登記がされていても、招集通知や出席の事実を証拠で示すことで、決議の存在そのものを争うことができます。

解任を争っている途中で会社が破産しました。訴えは意味がなくなるのでしょうか。

当然に意味がなくなるわけではありません。最高裁判所第二小法廷平成21年4月17日判決は、会社が破産手続開始の決定を受けても、会社と取締役又は監査役との委任関係は直ちには終了せず、破産手続開始当時の取締役らはその地位を当然には失わないから、取締役又は監査役の解任又は選任を内容とする株主総会決議不存在確認の訴えの利益は当然には消滅しないとしました。本件では、会社の破産を理由に訴えを却下した控訴審判決が破棄され、審理のやり直しが命じられています。

会社が破産したら、取締役の仕事は全部破産管財人に移るのではないのですか。

上告審判決は、破産財団についての管理処分権限は破産管財人に帰属するとしつつ、役員の選任又は解任のような破産財団に関する管理処分権限と無関係な会社組織に係る行為等は、破産管財人の権限に属するものではなく、会社が自ら行うことができるとしました。そのうえで、破産手続開始当時の取締役らは、会社組織に係る行為等については取締役らとしての権限を行使し得るとしています。会社の財産に関する事柄と、会社の組織に関する事柄とが区別されている点が重要です。

以前、株主総会を開かずに議事録を作って登記をしたのはこちらも同じだと、相手方から言われています。それでも決議の不存在を主張できますか。

本件の第一審では、補助参加人が、取締役らも株主総会を開催することなく総会議事録を偽造して前代表取締役らの退任登記手続をしたから、取締役らが異議を申し立てることは信義則上許されないと主張しました。第一審は、そのような事実を認めるに足りる的確な証拠はないとし、また、そのような事実をもって取締役らの請求が許されないことになるものでもないとしました。相手方の主張の裏付けの有無と、仮に事実であったとしても請求が妨げられるかどうかを分けて検討することになります。

監査役を解任されたことにされた場合も、同じように考えられますか。

上告審判決の判断は、「取締役又は監査役」の解任又は選任を内容とする株主総会決議不存在確認の訴えについて述べられており、会社と監査役との委任関係も破産手続開始によって直ちには終了しないとされています。なお、本件では、解任されたとされた監査役は訴訟の原告になっていません。

会社が破産しても、勝訴すれば必ず取締役として扱われるのですか。

本判決は、会社の破産によって訴えの利益が「当然には」消滅しないとしたもので、本案について結論を示したものではありません。決議が存在しないと認められるかどうかは、招集通知や出席の状況などの事実と証拠によって判断されます。また、本判決は、破産以外の事情が訴えの利益に与える影響については判断していません。差戻し後の判断は確認できていないため、個別の事案ごとに検討が必要です。

関連する記事と御相談のご案内

開かれていない株主総会の決議によって解任されたことにされた場合には、株主名簿や株式の保有状況、招集通知の有無、株主総会当日の状況、議事録と登記申請の経緯を整理し、決議の不存在確認を求めるのか、決議の取消しを求めるのかを含めて手続を検討します。会社が破産に至った場合でも、本判決のとおり、役員の地位をめぐる訴えの利益は当然には失われません。株主総会の解任決議の効力を争う場合の当事務所の対応は役員を解任した株主総会決議の効力を争う御相談のページで、身に覚えのない退任の登記がされた場合については身に覚えのない退任登記と取締役の地位の確認の御相談のページで、取締役会で代表取締役を解職された場合については代表取締役を取締役会で解職された方の御相談のページで御案内しています。役員の不当な解任・辞任の強要全般は役員の不当な解任・辞任の強要の総合案内を、他の裁判例は役員解任・辞任の裁判例の解説記事一覧をご覧ください。

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この記事の位置付け

開かれていない株主総会の決議で解任された取締役が決議の不存在確認を求めている間に会社が破産した場面の判例を、解任された役員の側から、訴えの利益が失われるかという観点で解説します。

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