在任期間の約束が契約書にある場合とない場合

在任期間の約束が契約書にある場合とない場合

株式の譲渡に際して、譲渡の後も一定の期間は経営に関与するという話がされることは少なくありません。もっとも、この約束が契約書に記載されているかどうかにより、解任された場合の請求は大きく異なります。本記事では、記載がある場合とない場合とに分けて、請求の組み立てを整理いたします。

 結論 書面の有無により立証の負担が大きく変わります

整理は、次のとおりです。

場合 請求の見通し
期間を明示して在任させる旨の条項がある場合 債務の内容が明確であり、請求の基礎が確かなものとなります
努力する義務にとどまる文言の場合 買主が自ら解任を主導した事情の立証が中心となります
顧問への就任のみが定められている場合 取締役としての在任は約束されていないと解される余地があります
基本合意書にのみ記載がある場合 法的拘束力の有無が争点となります
口頭の約束のみの場合 合意の成立の立証が最大の課題となります

契約は、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しないで成立いたします(民法第522条第2項)。したがって、口頭の約束であっても契約は成立し得ますが、立証の負担は重くなります。

 契約書に記載がある場合

 条項の文言の確認

まず確認すべきは、義務の主体と内容でございます。買主が「売主を取締役として在任させる」と定められているのか、「在任させるよう努める」と定められているのかにより、義務の性質が異なります。

また、会社が当事者となっているか、買主のみが当事者となっているかも重要でございます。会社が当事者でない場合には、会社に対して条項の履行を求めることはできないのが原則でございます。

 解任の権限との関係

役員は、いつでも株主総会の決議によって解任することができます(会社法第339条第1項)。契約により、この権限そのものを奪うことはできないと解されております。

したがって、条項に違反して解任が行われた場合であっても、解任の効力そのものが否定されるわけではなく、損害の賠償の問題として処理されるのが原則でございます。

 請求の内容

請求 根拠
残存する在任の期間に対応する報酬相当額 債務不履行による損害賠償(民法第415条第1項)
違約金 賠償額の予定の定め(民法第420条第1項)
顧問料の相当額 顧問への就任に関する条項
解任による損害の賠償 会社に対する請求(会社法第339条第2項)

 契約書に記載がない場合

 口頭の約束の立証

口頭の約束のみである場合には、合意の成立そのものが争点となります。立証の手掛かりとなり得る資料としては、次のものが挙げられます。

資料 意義
交渉の過程の電子メール 在任について協議していた事実を示します
仲介者が作成した資料 条件の一覧に在任の記載がある場合があります
面談の議事の記録 合意の内容を示します
譲渡の実行の後の処遇 約束に沿った処遇がされていた事実を示します
報酬の水準の推移 同上

契約書に統合条項が置かれている場合には、契約書に記載のない合意の効力が否定される余地がございます。統合条項の有無を確認することが必要でございます。

 基本合意書に記載がある場合

基本合意書は、法的拘束力を有しない旨が明記されていることが多くございます。この場合、在任に関する記載があっても、これに基づいて請求することは困難でございます。

もっとも、基本合意書の記載は、最終の契約の解釈の資料となり得ますし、交渉の経過を示すものとして意味を持つ場合がございます。

 不法行為による構成

買主が当初から在任させる意思がないにもかかわらず、在任させる旨を告げて譲渡を実現させた場合には、不法行為に基づく損害の賠償を請求する余地がございます(民法第709条)。もっとも、当初から意思がなかったことの立証は容易ではございません。

 会社法上の請求との使い分け

契約上の請求が困難である場合であっても、会社に対する会社法上の請求は別途に検討することができます。解任について正当な理由がないときは、会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(会社法第339条第2項)。

この請求においては、残存する任期に対応する報酬が損害の中心となります。したがって、譲渡の直前に任期を確認しておくことが、後の請求の可否を左右いたします。

実務上は、契約上の請求と会社法上の請求の双方を検討したうえで、いずれを主たる請求とするかを決めることになります。

 譲渡の前に確認しておくべきこと

事項 確認の内容
在任の期間 年数を明示し、始期及び終期を特定します
地位 取締役か、代表取締役か、顧問かを明示します
報酬の額 額又は下限を明示します
違反の場合の効果 違約金の定めを置くかを検討します
個人保証 解除の時期及び方法を定めます
貸付金 返済の時期及び方法を定めます

これらは、譲渡の実行の後に定めることが著しく困難となる事項でございます。譲渡の交渉の段階でご相談いただくことが望ましいと考えております。

よくあるご質問

質問1 仲介会社の担当者が在任を約束しました。

仲介者の発言が買主の意思表示と評価されるかが問題となります。仲介者が代理権を有していたかを確認する必要がございます。

質問2 契約書に統合条項があります。

契約書に記載のない合意の効力が否定される余地がございます。もっとも、契約の解釈の資料としての意味まで失われるとは限りません。

質問3 在任の期間の途中で辞任を求められました。

辞任した場合には、解任に関する請求が原則としてできなくなります。契約上の条項との関係を確認したうえで判断してください。

質問4 報酬を大幅に減額されました。

報酬の額について契約上の定めがある場合には、その違反として請求することが考えられます。役員の同意なく報酬を減額することは、原則として認められないと解されております。

質問5 どの程度の期間が約束されるのが通常ですか。

事案により大きく異なりますので、一般的な水準を申し上げることはできません。引継ぎに要する期間と、売主の意向とを踏まえて定めることになります。

 確認事項の一覧

確認事項 確認の方法
契約書の在任に関する条項 株式譲渡契約書及び別紙
統合条項の有無 同上
基本合意書の記載 基本合意書
交渉の過程の記録 電子メール、面談の記録
解任の決議の内容 株主総会議事録
任期の残り 登記事項証明書、定款

書面が乏しい場合ほど、交渉の過程の記録が重要となります。譲渡の当時のやり取りを時系列に沿って整理してください。

本記事における非開示事項について

口頭の約束の成立を主張する場合の事実の選び方、統合条項がある契約における主張の構成、契約上の請求と会社法上の請求の優先順位の判断は、契約の文言及び交渉の経過により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第329条第1項(役員の選任)、第330条(株式会社と役員との関係)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第361条第1項(取締役の報酬等)

民法 第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第416条(損害賠償の範囲)、第420条第1項(賠償額の予定)、第522条第2項(契約の成立と方式)、第709条(不法行為による損害賠償)

判例法理による部分 口頭の合意の成否及び基本合意書の法的拘束力の有無については、判例法理及び契約の解釈によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

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