株式を譲渡した後に解任された場合の契約上の請求

株式を譲渡した後に解任された場合の契約上の請求

株式を譲渡した後に、買主が支配する株主総会において解任されることがございます。この場合、解任された者は、会社に対する会社法上の請求のほか、買主に対する契約に基づく請求を検討することができます。両者は請求の相手方も根拠も異なりますので、区別して整理する必要がございます。本記事では、契約に基づく請求を中心に整理いたします。

 結論 相手方と根拠を分けて整理します

請求の整理は、次のとおりです。

請求 相手方 根拠
解任による損害の賠償 会社 解任に正当な理由がないこと(会社法第339条第2項)
在任に関する条項の違反による損害の賠償 買主 株式譲渡契約の債務不履行(民法第415条第1項)
違約金の請求 買主 契約に定める賠償額の予定(民法第420条第1項)
未払の報酬の請求 会社 報酬に関する株主総会の決議(会社法第361条第1項)
役員退職慰労金の請求 会社 規程及び株主総会の決議
契約の解除 買主 債務不履行による解除(民法第541条、第542条)

会社に対する請求と買主に対する請求とは、両立し得るものでございます。もっとも、同一の損害について二重に賠償を受けることはできません。

 株式譲渡契約における在任に関する条項

 条項の類型

条項の類型 内容
在任の期間を定める条項 譲渡の実行の日から一定の期間、売主を取締役として在任させる旨を定めるもの
報酬の水準を定める条項 在任の期間中の報酬の額又は下限を定めるもの
顧問への就任を定める条項 退任の後に顧問として関与する旨を定めるもの
引継ぎの協力を定める条項 売主が引継ぎに協力する義務を定めるもの
競業を避ける条項 売主が一定の期間、競業を行わない義務を定めるもの

これらの条項は、買主と売主との間の合意でございますので、会社を拘束するものではないのが原則でございます。買主が会社をして売主を在任させるよう努める義務を負うという形で定められることが一般的でございます。

 条項の解釈

役員は、いつでも株主総会の決議によって解任することができます(会社法第339条第1項)。したがって、契約により解任の権限そのものを制限することはできないと解されております。

もっとも、買主が株主として解任に賛成することが契約に違反する場合には、契約上の債務の不履行として、損害の賠償の責任を負う余地がございます。条項の文言が、結果を保証するものか、努力する義務にとどまるものかにより、結論は大きく異なります。

 債務不履行による損害の賠償

 要件

債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき、又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができます。ただし、その不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでありません(民法第415条第1項)。

したがって、まず契約上いかなる債務が発生していたかを特定することが必要でございます。

 損害の範囲

債務の不履行に対する損害の賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的といたします。特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、賠償の対象となります(民法第416条)。

在任の期間を定める条項の違反の場合には、残存する期間に対応する報酬の額が、損害の中心となるのが通例でございます。

 違約金の定めがある場合

当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができます(民法第420条第1項)。違約金の定めがある場合には、実際の損害の額を立証することなく、定められた額を請求することができるのが原則でございます。

もっとも、定められた額が著しく過大である場合には、その一部が公序良俗に反するとして効力を制限される余地がございます。

 会社法上の請求との関係

解任について正当な理由がない場合には、会社に対して損害の賠償を請求することができます(会社法第339条第2項)。この請求の相手方は会社でございますので、買主に対する契約上の請求とは相手方が異なります。

もっとも、譲渡の後は会社の支配権が買主に移っておりますので、会社に対する請求を行うことは、買主との交渉と切り離すことができないのが通例でございます。会社の資力の状況によっては、買主に対する請求の方が実効性を有する場合がございます。

また、株式の譲渡の代金の一部が未払である場合や、業績に応じて追加の代金が支払われる旨の定めがある場合には、これらの請求と併せて交渉することが考えられます。

 契約の解除を検討する場合

債務の不履行がある場合には、相当の期間を定めて履行を催告し、その期間内に履行がないときに契約を解除することができます(民法第541条)。債務の全部の履行が不能である場合等には、催告をすることなく解除することができます(民法第542条)。

もっとも、株式の譲渡が既に実行され、会社の経営が買主の下で相当期間行われた後においては、契約を解除して株式を取り戻すことは、実際上困難であることが少なくありません。解除を求めるかどうかは、慎重に検討する必要がございます。

 確保すべき資料

資料 意義
株式譲渡契約書及び別紙 債務の内容を特定します
基本合意書及び意向表明書 条項の趣旨を明らかにします
交渉の過程の電子メール 当事者の理解を示します
株主総会議事録 解任の決議の内容を示します
報酬の決議及び給与明細 損害の額の算定の基礎となります
解任の理由の説明 正当な理由の有無に関わります

譲渡の交渉の過程の記録は、条項の趣旨を明らかにするうえで重要でございます。仲介者を介した案件では、仲介者との間の連絡の記録も併せて整理してください。

よくあるご質問

質問1 契約に在任の条項がありません。

契約上の請求は困難となりますので、会社に対する会社法上の請求を中心に検討することになります。交渉の過程で在任について口頭の了解があった場合には、その立証の可否が問題となります。

質問2 努力する義務としか書かれておりません。

結果を保証するものではないと解される余地がございますが、買主が自ら解任を主導した場合には、なお義務の違反が問われる余地がございます。

質問3 解任ではなく辞任を求められました。

辞任した場合には、解任に関する請求が原則としてできなくなります。署名の前に、契約上の条項との関係を確認してください。

質問4 競業を避ける義務は残りますか。

契約に定めがある場合には、解任されたことにより当然に消滅するものではありません。義務の範囲及び期間を確認する必要がございます。

質問5 個人保証はどうなりますか。

会社の借入れに対する保証は、退任により当然には消滅いたしません。契約に保証を外す旨の定めがある場合には、その履行を求めることになります。

 確認事項の一覧

確認事項 確認の方法
在任に関する条項の有無及び文言 株式譲渡契約書
違約金の定めの有無 同上
報酬に関する定め 同上、株主総会議事録
解任の決議の日及び内容 株主総会議事録、登記事項証明書
代金の支払の状況 振込みの記録
個人保証の状況 金融機関との契約書
競業を避ける義務の範囲 株式譲渡契約書

契約書の文言が出発点となります。別紙及び覚書を含め、すべての書面を揃えたうえでご相談ください。

本記事における非開示事項について

在任に関する条項の解釈の主張の組み立て、努力する義務にとどまる文言の下での請求の構成、会社に対する請求と買主に対する請求との組合せの選択、交渉により解決を図る場合の順序は、契約の文言及び当事者の関係により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第329条第1項(役員の選任)、第330条(株式会社と役員との関係)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)、第361条第1項(取締役の報酬等)

民法 第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第416条(損害賠償の範囲)、第420条第1項(賠償額の予定)、第541条(催告による解除)、第542条(催告によらない解除)、第709条(不法行為による損害賠償)

判例法理による部分 株式譲渡契約における在任に関する条項の解釈及び会社法上の請求との関係については、判例法理及び契約の解釈によります。個別の事案における適用は、契約の文言及び事実関係により異なります。

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