任期の満了により再任されなかった場合に争える点

任期の満了により再任されなかった場合に争える点

任期の満了により再任されなかった場合、これを解任と同じように争うことは、原則として困難です。もっとも、争うことのできる点が存在しないわけではありません。任期がそもそも満了していたか、再任の議案を扱った株主総会の手続に瑕疵がないか、実質的に解任と評価すべき事情がないかという三つの観点から検討することになります。本記事では、この三つの観点を順に整理いたします。

 結論 三つの観点から検討します

任期の満了により再任されなかった場合、検討すべき事項は次のとおりです。

観点 検討の内容
第1 任期の満了の有無 選任の時期と定款の定めから、任期が本当に満了していたかを確認します
第2 決議の手続の瑕疵 招集の手続、議決権の帰属、決議の方法に瑕疵がないかを確認します
第3 実質的な評価 任期を短縮する定款の変更等により、実質的に解任と評価すべき事情がないかを確認します
第4 付随する権利 報酬、役員退職慰労金、個人保証、使用人としての地位の取扱いを確認します

いずれの観点についても、確認の出発点となる資料は、登記事項証明書、定款、株主総会議事録及び招集通知でございます。これらを速やかに確保することが、その後の検討を左右いたします。

 不再任と解任との違い

 任期の満了による退任

株式会社と役員との関係は、委任に関する規定に従うものとされております(会社法第330条)。役員は株主総会の決議によって選任されますので(会社法第329条第1項)、任期が満了した後に改めて選任されなければ、その地位を失うことになります。

再任するかどうかは、株主総会における選任の議案の可否の問題です。株主が再任の議案に賛成しないことそれ自体は、株主の議決権の行使にほかならず、これを違法とすることは原則としてできません。

 解任との法的な差異

役員は、いつでも株主総会の決議によって解任することができますが、解任について正当な理由がない場合には、会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求することができるものとされております(会社法第339条第1項・第2項)。

これに対し、任期の満了による退任は、解任ではありません。したがって、不再任について、この損害の賠償の規定がそのまま適用されることは原則としてないと考えられております。この差異が、不再任を争うことが困難であるとされる理由でございます。

 第1の観点 任期がそもそも満了していたか

 任期の原則と定款による伸長

役員の種類 任期の原則 定款による伸長
取締役 選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(会社法第332条第1項) 公開会社でない株式会社では、定款により選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することができます(同条第2項)
監査役 選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで(会社法第336条第1項) 公開会社でない株式会社では、定款により選任後10年以内まで伸長することができます(同条第2項)

中小の株式会社では、定款により任期を10年としている例が少なくありません。この場合、会社が任期の満了であると説明していても、実際には任期が満了していないことがあり得ます。

 選任の時期の確認

任期の起算点は、選任の時でございます。登記事項証明書には就任の年月日が記載されておりますので、これと定款の任期の定めとを照合することにより、任期の満了の時期を確認することができます。

任期が満了していないにもかかわらず退任の登記がされている場合には、退任の原因が何とされているかを確認する必要があります。辞任とされている場合には、辞任の意思表示の有無が争点となります。

 第2の観点 決議の手続に瑕疵がないか

 招集の手続

株主総会を招集するには、原則として、公開会社では総会の日の2週間前までに、公開会社でない株式会社では1週間前までに、株主に対して招集の通知を発しなければなりません(会社法第299条第1項)。

招集の通知が一部の株主に対して発せられていない場合、招集の手続に法令の違反があることになります。この場合には、決議の取消しを求める余地があります。

 議決権の帰属

役員を選任する決議は、議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数をもって行うものとされております(会社法第341条)。定款により、出席の要件を3分の1未満に引き下げることはできません。

名義上の株主と実質的な株主とが異なる場合、議決権を行使した者が正当な株主であるかが争点となることがあります。相続により株式が共同相続の状態にある場合にも、議決権の行使の方法が問題となる余地があります。

 決議を争う訴えと期限

訴えの種類 主な事由 期限
決議の取消しの訴え 招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正であること 決議の日から3か月以内(会社法第831条第1項)
決議の不存在の確認の訴え そもそも決議と評価し得る事実が存在しないこと 期間の制限はありません(会社法第830条第1項)
決議の無効の確認の訴え 決議の内容が法令に違反すること 期間の制限はありません(会社法第830条第2項)

取消しの訴えには3か月という短い期限がございます。再任されなかったことに疑問がある場合には、この期限を意識して速やかに検討を始めることが必要でございます。

 第3の観点 実質的に解任と評価すべき場合

任期を短縮する定款の変更が行われ、これにより在任中の役員の任期が終了した場合には、形式的には任期の満了ですが、実質的には解任と同様の結果が生じます。このような場合について、解任に関する損害の賠償の規定の趣旨を及ぼすべきであるとする議論がございます。

もっとも、この点は事案により判断が分かれ得る領域でございますので、確実に賠償が認められると申し上げることはできません。定款の変更が行われた時期、変更の理由として説明された内容、変更の対象となった役員の範囲といった事情を丁寧に記録化しておくことが、主張の前提となります。

また、再任しない旨をあらかじめ約束していた場合や、在任期間について契約上の定めがある場合には、会社法上の請求とは別に、契約に基づく請求を検討する余地があります。

 併せて確認すべき事項

事項 確認の内容
役員報酬 退任の日までの報酬が支払われているか
役員退職慰労金 支給の規程の有無、株主総会の決議の有無
個人保証 会社の借入れに対する保証が残っていないか
会社への貸付金 役員として会社に貸し付けた資金が残っていないか
使用人としての地位 使用人兼務取締役であった場合に、使用人としての地位が残るか
後任の選任 後任が選任されておらず、役員としての権利義務が残っていないか(会社法第346条第1項)

役員が欠けることとなる場合には、任期の満了により退任した役員が、新たに選任された役員が就任するまで、なお役員としての権利義務を有することがあります。この場合、退任の登記が直ちにはされないことがございます。

よくあるご質問

質問1 再任しない理由の説明を求めることはできますか。

説明を求めることは可能ですが、会社が退任した役員に対して理由を説明すべき法律上の義務は、一般には認められておりません。株主としての地位を有する場合には、株主総会において説明を求める余地があります。

質問2 定款で任期を10年としていたのに2年で任期満了と言われました。

定款の現に効力を有する内容を確認する必要があります。定款が変更されている場合には、変更の株主総会の決議が適法に行われたかが争点となります。

質問3 残りの任期がある場合と同じ賠償を求められますか。

任期が満了している以上、残存する任期を前提とする請求は困難です。任期がそもそも満了していなかった場合や、任期を短縮する定款の変更が行われた場合には、別途の検討の余地があります。

質問4 退任の登記がされる前にできることはありますか。

登記の有無にかかわらず、決議を争う訴えの期限は決議の日から進行いたします。登記を待つことなく、議事録及び招集通知の確認を進めることが実務上の対応となります。

質問5 従業員としては会社に残れますか。

使用人を兼ねる取締役であった場合には、使用人としての地位が残る余地があります。就業規則の適用の有無、給与の支給の形態、社会保険の取扱いを確認することになります。

 確認事項の一覧

確認事項 確認の方法
就任の年月日 登記事項証明書
任期の定め 定款、定款の変更の履歴
招集の通知の有無及び時期 手元の通知、会社への交付の請求
決議の内容 株主総会議事録
株主の構成 株主名簿
決議の日 議事録、登記事項証明書
報酬及び慰労金の取扱い 給与明細、規程、議事録

決議の日から3か月という期限が定められておりますので、資料が揃うのを待たずに、まず期限を確定させることをお勧めいたします。

本記事における非開示事項について

任期を短縮する定款の変更が実質的に解任と評価される場合の主張の組み立て、決議の瑕疵を裏付ける資料の集め方、契約に基づく請求と会社法上の請求との選択は、株主構成及び資料の状況により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第299条第1項(株主総会の招集の通知)、第329条第1項(役員の選任)、第330条(株式会社と役員との関係)、第332条第1項・第2項(取締役の任期)、第336条第1項・第2項(監査役の任期)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第341条(役員の選任及び解任の株主総会の決議)、第346条第1項(役員が欠けた場合の措置)、第830条第1項・第2項(決議の不存在又は無効の確認の訴え)、第831条第1項(決議の取消しの訴え)、第915条第1項(変更の登記)

民法 第651条第1項(委任の解除)

判例法理による部分 任期を短縮する定款の変更が実質的に解任と評価されるかについては、判例法理及び学説の議論によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

関連するご案内

任期満了を理由に再任されず事実上排除されてお困りではありませんか のページで、確認すべき事項と採り得る手続を整理しております。ご相談は事前予約制です。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

このページの位置付けと、関連するページ

本ページは、任期の満了による再任の拒否に関する解説の中核となるページです。個別の論点は、次の各ページに整理しています。

具体的な御相談をお考えの皆様へ

本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。