監査を妨げられていた監査役が採り得る手段

監査を妨げられていた監査役が採り得る手段

監査役が資料の開示を拒まれ、取締役会にも呼ばれず、事実上職務から排除されることがあります。会社法は、監査役に対して調査の権限と是正のための手段を与えておりますので、これらを順に行使し、その経過を記録に残すことが基本の対応となります。本記事では、採り得る手段を整理いたします。

 結論 権限の行使を書面により行い、拒絶の記録を残します

監査を妨げられている場合の対応の要点は、次のとおりです。

順序 行うこと 根拠
第1 事業の報告を求め、業務及び財産の状況を調査します 会社法第381条第2項
第2 取締役会の招集を請求します 会社法第383条第2項
第3 請求後も招集されない場合には自ら招集します 会社法第383条第3項
第4 法令又は定款に違反する行為の差止めを請求します 会社法第385条第1項
第5 株主総会において報告します 会社法第384条

いずれの権限も、書面により行使することが重要です。口頭で求めて断られたという経過は、後に立証することが困難です。書面により求め、回答を得るか、回答がないことを記録することによって、はじめて職務の遂行を妨げられていた事実を示すことができます。

この記録は、後に解任された場合において、会社が「監査役が監査を行っていない」ことを解任の理由として挙げたときの反論の資料となります。解任について正当な理由がない場合には、会社に対して損害の賠償を請求することができます(会社法第339条第2項)。

 事業の報告の請求及び調査の権限

 権限の内容

監査役は、いつでも、取締役及び会計参与並びに支配人その他の使用人に対して事業の報告を求め、又は会社の業務及び財産の状況の調査をすることができます(会社法第381条第2項)。「いつでも」と定められておりますので、取締役会の承認や社長の許可を要するものではありません。

また、監査役は、その職務を行うため必要があるときは、子会社に対して事業の報告を求め、又はその業務及び財産の状況の調査をすることができます(会社法第381条第3項)。子会社は、正当な理由があるときは、報告又は調査を拒むことができます(同条第4項)。

 行使の方法

請求は、対象を特定して書面により行います。特定が不十分であると、会社の側に対応を先延ばしにする口実を与えることになります。次の要素を記載してください。

  • 請求の根拠が会社法第381条第2項であること
  • 求める資料又は報告の対象を具体的に特定すること
  • 期限を定めること
  • 提出の方法を指定すること
  • 拒む場合には理由を書面により示すよう求めること

親会社の役員である場合を除き、監査役は会社の使用人に直接報告を求めることができますので、経理の担当者に対して直接請求することも考えられます。もっとも、社内の混乱を招く場合もありますので、順序は事案に応じて検討いたします。

 拒絶された場合

会社法は、監査役の調査を拒んだ場合について、直接に強制する手続を定めておりません。したがって、拒絶された事実そのものを記録し、次の手段に進むことになります。拒絶は、取締役の職務の執行に関する事実として、取締役会及び株主総会に報告すべき事項となり得ます。

 取締役会の招集の請求

監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは意見を述べなければなりません(会社法第383条第1項)。出席は権利であるとともに義務でもありますので、招集通知が届かないという事態は、それ自体が問題となります。

監査役は、必要があると認めるときは、取締役に対し、取締役会の招集を請求することができます(会社法第383条第2項)。この請求があった日から2週間以内の日を取締役会の日とする招集の通知が発せられない場合には、請求をした監査役は、自ら取締役会を招集することができます(同条第3項)。

この権限は、実務上有効です。取締役会において、資料の開示が拒まれている事実、監査の遂行が妨げられている事実を議題として取り上げ、議事録に記録を残すことができるからです。招集の請求も書面により行い、控えを保管してください。

 取締役の行為の差止めの請求

監査役は、取締役が会社の目的の範囲外の行為その他法令若しくは定款に違反する行為をし、又はこれらの行為をするおそれがある場合において、当該行為によって会社に著しい損害が生ずるおそれがあるときは、当該取締役に対し、当該行為をやめることを請求することができます(会社法第385条第1項)。

この請求について訴えをもって行う場合には、裁判所は担保を立てさせないものとされております(会社法第385条第2項)。差止めの請求は要件が厳格でありますので、対象となる行為と損害の内容を具体的に特定する必要があります。

 株主総会に対する報告

監査役は、取締役が株主総会に提出しようとする議案、書類その他の資料を調査しなければならず、この場合において、法令若しくは定款に違反し、又は著しく不当な事項があると認めるときは、その調査の結果を株主総会に報告しなければなりません(会社法第384条)。

これは義務として定められております。したがって、調査を行うために必要な資料の提出を会社が拒む場合には、義務の履行が妨げられていることになります。この点も、書面により明らかにしておくことに意味があります。

 費用及び報酬に関する規定

事項 内容 根拠
費用の前払等の請求 職務の執行について費用の前払、支出した費用の償還等を請求することができます。会社は、当該費用が職務の執行に必要でないことを証明しなければ、これを拒むことができません 会社法第388条
報酬の決定 定款に定めがないときは株主総会の決議によって定めます 会社法第387条第1項
報酬についての意見 株主総会において報酬等について意見を述べることができます 会社法第387条第3項

会社法第388条は、監査役が費用の負担を懸念して調査を控えることのないようにするための規定です。外部の専門家に調査を依頼する費用についても、職務の執行に必要である限り、会社に請求し得る余地があります。

 監査の範囲が会計に限定されている場合

公開会社でない株式会社(監査役会設置会社及び会計監査人設置会社を除きます)は、定款により、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定することができます(会社法第389条第1項)。中小の会社では、この定めが置かれている例が少なくありません。

この定めがある場合には、業務監査に関する権限は及びませんので、まず定款の定めを確認する必要があります。定款に定めがあるかどうかによって、行使し得る権限の範囲が大きく異なります。定款は登記事項ではありませんが、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨の定款の定めがある会社である旨は登記されますので、登記事項証明書からも確認することができます。

よくあるご質問

質問1 資料を出してもらえません。強制する方法はありますか。

会社法は、監査役の調査を直接に強制する手続を定めておりません。書面により請求し、拒絶の事実を記録したうえで、取締役会の招集の請求及び株主総会における報告に進むことになります。

質問2 取締役会に呼ばれません。

監査役には取締役会に出席する義務があり(会社法第383条第1項)、招集通知を発しないことは手続の瑕疵となります。招集の請求を行い、2週間以内に招集の通知が発せられない場合には、自ら招集することができます(同条第2項、第3項)。

質問3 調査に費用がかかります。自己負担ですか。

職務の執行について生じた費用については、会社に対して前払又は償還を請求することができます。会社は、当該費用が職務の執行に必要でないことを証明しなければ、これを拒むことができません(会社法第388条)。

質問4 名前だけの監査役として就任しました。責任を問われますか。

就任している以上、監査役としての任務を負います。任務を怠ったことにより会社に損害が生じた場合には、会社に対する損害賠償の責任を負うことがあります(会社法第423条第1項)。職務を遂行しようとしたが妨げられたという経過の記録は、この場面においても意味を持ちます。

質問5 妨害を続けられた末に解任されました。

監査の遂行を妨げていたのが会社の側であるという経過は、解任について正当な理由がないことを基礎づける事情となり得ます。書面による請求と拒絶の記録が、その立証の中心となります。

 記録として残すべき事項の一覧

事項 残す方法
資料の請求 書面の控え。送付の記録
拒絶又は無回答 回答書。回答がない場合はその旨の自らの記録
取締役会の招集の請求 書面の控え。2週間の経過の記録
取締役会における発言 議事録の記載。異なる場合は異議の申出
株主総会における報告 報告の要旨を記載した書面
監査の遂行の状況 監査調書、往復した書面

これらの記録は、監査役としての職務を遂行するためだけでなく、後に地位を争い、又は損害の賠償を求める場面において、中心的な証拠となります。

本記事における非開示事項について

権限を行使する順序、書面の記載の程度、取締役会及び株主総会における対応の方法は、会社の規模、株主構成、取締役との関係により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

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本記事の根拠条文

会社法 第309条第2項第7号(監査役の解任に係る株主総会の特別決議)、第339条第2項(解任された役員の損害賠償の請求)、第381条第1項から第4項まで(監査役の権限及び子会社の調査)、第382条(取締役への報告義務)、第383条第1項から第3項まで(取締役会への出席、招集の請求及び招集)、第384条(株主総会に対する報告義務)、第385条(監査役による取締役の行為の差止め)、第386条(監査役設置会社と取締役との間の訴えにおける会社の代表)、第387条(監査役の報酬等)、第388条(費用等の請求)、第389条(定款による監査の範囲の限定)、第423条第1項(役員等の会社に対する損害賠償責任)、第847条(株主による責任追及等の訴え)

判例法理による部分 監査役の職務の遂行が妨げられた事実が解任の「正当な理由」の判断に及ぼす影響については、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。

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