監査役が解任に際して意見を述べる権利

監査役が解任に際して意見を述べる権利
監査役は、株主総会において、監査役の選任、解任又は辞任について意見を述べることができます(会社法第345条第4項において準用する同条第1項)。これは監査役の独立性を確保するために置かれた規定であり、解任の議案が上程される場面において、監査役の側が最初に用いることのできる手段です。本記事では、この権利の内容と、実際にどのように用いるかを整理いたします。
結論 意見を述べる権利は法律上の権利であり、会社は拒むことができません
監査役の意見陳述権について、まず押さえるべき点は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠 | 会社法第345条第4項において準用する同条第1項 |
| 対象 | 監査役の選任、解任又は辞任 |
| 場 | 株主総会 |
| 性質 | 法律上の権利であり、議長の裁量により奪うことはできません |
| 効果 | 議決権を有する株主の判断に直接働きかけることができます |
監査役の解任には株主総会の特別決議を要しますので(会社法第309条第2項第7号)、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。すなわち、3分の1を超える議決権を有する株主が反対に回れば、解任の決議は成立いたしません。意見陳述権は、この場面において実質的な意味を持ちます。
会社が意見を述べる機会を与えなかった場合には、決議の方法が法令に違反するものとして、株主総会の決議の取消しの訴えにおいて主張する余地があります(会社法第831条第1項)。もっとも、瑕疵が決議の効力にどのように影響するかは、事案により異なります。
意見陳述権の範囲
述べることができる事項
条文は「監査役の選任若しくは解任又は辞任について」意見を述べることができると定めております。したがって、解任の当否に関する事項が対象となります。具体的には、次のような内容が考えられます。
- 解任の理由として挙げられた事実についての認否
- 監査の遂行の状況及びその結果
- 監査の遂行が妨げられていた場合には、その経緯
- 取締役の職務の執行について指摘を行った事実と、その後の経過
- 解任の議案が提出されるに至った経緯についての認識
会社の側が示した解任の理由に対する反論は、当然にこの範囲に含まれます。監査役の職務の遂行に関する事項でありますので、事実関係を具体的に述べることが有効です。
説明義務及び報告義務との区別
監査役の意見陳述権は、次の各制度とは区別されます。混同されやすいところですので、整理いたします。
| 制度 | 根拠 | 内容 |
|---|---|---|
| 意見陳述権 | 会社法第345条第4項において準用する同条第1項 | 選任、解任又は辞任について自ら意見を述べる権利 |
| 説明義務 | 会社法第314条 | 株主から特定の事項について説明を求められた場合の義務 |
| 株主総会に対する報告義務 | 会社法第384条 | 議案及び書類を調査し、法令若しくは定款に違反し又は著しく不当な事項があると認めるときに報告する義務 |
| 取締役会における意見陳述 | 会社法第383条第1項 | 取締役会に出席し、必要があると認めるときに意見を述べる義務 |
会社法第384条は義務として定められておりますので、解任の議案そのものに法令又は定款に違反する点があると認めるときは、監査役は株主総会に報告しなければなりません。決議の要件を欠く議案が上程されている場合が、これに当たり得ます。
選任の場合との違い
監査役については、選任に関して、取締役が議案を株主総会に提出するには監査役の同意を得なければならないものとされております(会社法第343条第1項)。また、監査役は、監査役の選任を株主総会の目的とすることを請求することもできます(会社法第343条第2項)。
これに対し、解任については、同意権の定めは置かれておりません。解任の議案の提出そのものを監査役が阻むことはできず、株主総会において意見を述べ、特別決議の要件によって歯止めをかけるという構造になっております。この違いは正確に理解しておく必要があります。
意見の内容の組み立て方
限られた時間で株主に判断の材料を示すことになりますので、内容の組み立てが重要です。次の順序が考えられます。
| 順序 | 述べる内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 第1 | 解任に反対する旨の結論 | 立場を明確にすること |
| 第2 | 在任中に行った監査の内容と指摘した事項 | 職務を遂行していた事実を示すこと |
| 第3 | 会社が挙げる理由に対する認否 | 事実関係を争うこと |
| 第4 | 監査の遂行を妨げられた経緯 | 解任の真の動機を示すこと |
| 第5 | 解任により生じ得る会社の不利益 | 株主の判断に働きかけること |
抽象的な訴えではなく、日時、相手方、やり取りの内容を特定して述べることが有効です。監査役として提出した報告書、資料の請求に用いた書面、取締役会の議事録の記載を引用することができれば、なお説得力が増します。
意見の要旨をあらかじめ書面にまとめ、株主総会の場で朗読するとともに、会社に対して提出しておく方法も考えられます。書面が残ることにより、後に決議の効力を争う場面において、何を述べたかを立証しやすくなります。
機会が与えられなかった場合の対応
議長が発言を制止した、招集通知に解任の議案の記載がなく準備の機会がなかった、株主総会に出席する機会自体が与えられなかったといった事態が生じることがあります。
この場合には、まずその事実を記録に残すことが重要です。株主総会の場で発言を求めた事実、制止された事実、その時刻を、可能な限り具体的に記録してください。株主総会の議事録には会社の側に有利な記載しか残らないことがありますので、独自の記録が必要となります。
そのうえで、決議の日から3か月以内に、株主総会の決議の取消しの訴えを提起することを検討いたします(会社法第831条第1項)。意見を述べる機会が与えられなかったことは、決議の方法が法令に違反する事由として主張することが考えられます。
記録の残し方
| 記録すべき事項 | 方法 |
|---|---|
| 意見の内容 | あらかじめ作成した書面。会社への提出の記録 |
| 発言を求めた事実 | 日時を付した自らの記録。同席者の記憶 |
| 制止された事実 | 同上 |
| 招集通知の記載 | 招集通知の原本の保管 |
| 監査の遂行の状況 | 監査調書、報告書、往復した書面 |
| 資料の請求と拒絶 | 請求の書面及び回答又は無回答の記録 |
解任された後は、社内の資料へのアクセスが失われます。したがって、解任の議案が上程される可能性を認識した段階で、手元にある資料の写しを確保しておくことが実務上重要です。ただし、会社の営業秘密の取扱いには十分にご留意ください。
よくあるご質問
質問1 意見を述べれば解任を止められますか。
止められるとは限りません。もっとも、監査役の解任には出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成を要しますので(会社法第309条第2項第7号)、3分の1を超える議決権を有する株主の判断に働きかけることができれば、決議の成立を妨げる余地があります。
質問2 発言の時間を制限されました。
議事の整理のために合理的な範囲で時間を定めること自体は否定されないと考えられますが、実質的に意見を述べる機会を奪うものである場合には、決議の方法の瑕疵として主張する余地があります。制限の具体的な内容を記録に残してください。
質問3 書面を提出すれば出席しなくてもよいですか。
意見陳述権は株主総会において行使するものとされております。出席することができない事情がある場合には、書面を提出したうえで、その旨を株主総会において明らかにするよう会社に求めることが考えられます。
質問4 辞任する場合はどうなりますか。
辞任した監査役は、辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨及びその理由を述べることができます(会社法第345条第4項において準用する同条第2項)。取締役は、その者に対して株主総会の日時及び場所を通知しなければなりません(同条第3項の準用)。
質問5 解任された後に損害の賠償を請求できますか。
解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対して解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(会社法第339条第2項)。株主総会において述べた意見の内容は、正当な理由の有無を判断する資料となり得ます。
準備の手順
解任の議案が記載された招集通知を受領した場合には、次の順序で準備を進めます。
- 招集通知の記載を確認し、議案の内容と株主総会の日時を特定します
- 会社に対し、書面により解任の理由の説明を求めます
- 在任中の監査の遂行に関する資料を整理し、写しを確保します
- 意見の要旨を書面にまとめ、会社に提出します
- 株主総会に出席し、意見を述べ、その内容を記録に残します
- 決議の結果と議決権の数を確認し、決議の日を記録します
株主総会の日までの期間は限られておりますので、招集通知を受領した時点で速やかに着手することが必要です。
本記事における非開示事項について
意見の具体的な構成、書面の提出の時期、株主への働きかけの方法は、株主構成、会社との関係、資料の状況により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第309条第2項第7号(監査役の解任に係る株主総会の特別決議)、第314条(取締役等の説明義務)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第343条(監査役の選任に関する監査役の同意等)、第345条第1項から第3項まで及び第4項(監査役の意見陳述権等の準用)、第381条(監査役の権限)、第383条第1項(監査役の取締役会への出席及び意見陳述)、第384条(監査役の株主総会に対する報告義務)、第831条第1項(株主総会の決議の取消しの訴え)
判例法理による部分 手続の瑕疵が決議の効力に及ぼす影響の判断については、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。
関連するご案内
監査役を解任されて決議の効力を争いたいとお困りではありませんか のページで、確認すべき事項と採り得る手続を整理しております。ご相談は事前予約制です。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
このページの位置付けと、関連するページ
本ページは、監査役の解任に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページを御覧ください。
同じ主題を扱う関連ページ
具体的な御相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次の御案内のページに整理しています。あわせて御覧ください。


