当時の経営判断の合理性をどのように示すか

当時の経営判断の合理性をどのように示すか
在任中の経営判断について責任を追及された場合、結果として損失が生じたことのみをもって任務を怠ったとされるものではないと解されております。防御の中心は、判断の前提となった事実の認識に不注意な誤りがなかったこと、及び判断の過程並びに内容に著しく不合理な点がなかったことを示すことでございます。本記事では、これを具体的に示す方法を整理いたします。
結論 過程と内容の二つに分けて示します
示すべき事項は、次のとおりです。
| 観点 | 示すべき内容 |
|---|---|
| 前提となった事実の認識 | 必要な情報を収集していたこと、その情報に不注意な誤りがなかったこと |
| 判断の過程 | 検討すべき事項を検討し、必要な手続を経ていたこと |
| 判断の内容 | 当時の状況の下で著しく不合理といえないこと |
| 手続の遵守 | 取締役会の決議その他の必要な手続を経ていたこと |
いずれについても、当時の資料により裏付けることが基本でございます。事後の説明のみでは、説得力が乏しくなります。
前提となった事実の認識
情報の収集
判断に必要な情報を収集していたかが、まず問われます。取引の相手方に関する調査、市場の動向に関する資料、社内における採算の試算といったものが、これに当たります。
外部の専門家に意見を求めていた場合には、その意見書及び報告書が有力な資料となります。会計に関する事項について税理士又は公認会計士の関与があった場合、法律に関する事項について弁護士の関与があった場合には、その記録を整理してください。
情報の限界の認識
収集した情報に限界があることを認識し、その限界を踏まえた判断をしていた場合には、その旨が記録に残っていることが有用でございます。楽観的な前提のみに依拠していたと評価されることを避けるためでございます。
判断の過程
取締役会の手続
取締役会は、重要な財産の処分及び譲受け、多額の借財、重要な使用人の選任及び解任、重要な組織の設置その他の重要な業務執行の決定を、取締役に委任することができません(会社法第362条第4項)。これらの事項について取締役会の決議を経ていたかは、手続の遵守の基本でございます。
取締役会の決議は、議決に加わることができる取締役の過半数が出席し、その過半数をもって行われます(会社法第369条第1項)。議事録には出席した取締役が署名し、又は記名押印するものとされ、異議をとどめない者は決議に賛成したものと推定されます(同条第3項・第5項)。
議事録の記載
| 記載 | 防御における意味 |
|---|---|
| 議題及び提出された資料 | 情報の収集を示します |
| 質疑の内容 | 検討の過程を示します |
| 賛否の内訳 | 他の役員の関与を示します |
| 留保された事項 | 慎重な検討を示します |
議事録が簡略にすぎる場合には、当時の議論の内容を示す他の資料を探すことになります。会議に用いられた配布資料、参加者の手控え、直後の連絡の記録などが手掛かりとなります。
利益が相反する取引でないこと
自らの利益と会社の利益とが相反する取引に当たる場合には、株主総会又は取締役会の承認が必要とされております(会社法第356条第1項、第365条第1項)。この類型に当たらないこと、又は必要な承認を得ていたことを示すことが重要でございます。
判断の内容
判断の内容については、当時の状況の下で著しく不合理といえないことを示すことになります。同業の他社における同時期の判断、業界における一般的な取扱い、当時公表されていた情報などが、比較の材料となります。
後から見れば別の選択があり得たとしても、そのことのみで責任が生ずるものではないと解されております。事後の視点による評価に対しては、当時の視点に立ち戻ることを求めることになります。
資料が乏しい場合の組み立て
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 会社に対する資料の提示の請求 | 取締役会議事録その他の資料の提示を書面により求めます |
| 関係者からの陳述の取得 | 当時の従業員、取引先、専門家から事実関係を聴取します |
| 外部の記録の収集 | 取引先の記録、金融機関の記録、公表された資料を集めます |
| 間接的な事実の積上げ | 会社の業績の推移、同種の取引の実績から合理性を示します |
会社の側が資料を保有している場合には、訴訟において文書の提出を求める手続を検討することになります。
行ってはならないこと
会社の資料を無断で持ち出すこと、退任の後に権限なく会社の情報システムにアクセスすることは、避けなければなりません。これらの行為は、それ自体が責任の問題を生じさせ、防御の立場を損ないます。
また、当時の資料を後から作成し、又は加筆することは、いかなる場合も行ってはなりません。発覚した場合には、他の主張の信用性まで失われることになります。
よくあるご質問
質問1 取締役会が開催されていませんでした。
手続の点が不利に働く余地がございます。もっとも、実質的な検討が行われていたことを他の資料により示すことが考えられます。
質問2 議事録に自分の反対意見が記載されておりません。
異議をとどめない者は賛成したものと推定されますので、反対していた事実を他の資料により示す必要がございます。当時の連絡の記録が有用でございます。
質問3 専門家の意見に従って判断しました。
専門家の関与は合理性を基礎づける事情となります。意見の前提として提供した情報の内容も併せて確認してください。
質問4 当時の資料を保管しておりません。
会社に対して提示を求めるほか、取引の相手方及び金融機関の記録から再構成することを検討いたします。
質問5 結果として大きな損失が出ております。
損失の大きさは、直ちに責任を基礎づけるものではございません。判断の時点における合理性が問われます。
確認事項の一覧
| 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|
| 問題とされる判断の時期 | 会社からの書面、稟議書 |
| 取締役会の決議の有無 | 取締役会議事録 |
| 提出された資料 | 配布資料、稟議書の添付書類 |
| 専門家の関与 | 意見書、報告書、請求書 |
| 他の役員の賛否 | 議事録の記載 |
| 当時の事業環境 | 業界の資料、公表された情報 |
当時の資料は、時の経過により散逸いたします。請求を受けた段階で速やかに収集を始めてください。
本記事における非開示事項について
合理性を示す資料の選び方と提出の順序、議事録が簡略である場合の主張の組み立て、関係者からの陳述の取得の方法、文書の提出を求める手続の活用は、事案の内容及び資料の状況により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員の解任に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
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本記事の根拠条文
会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第355条(忠実義務)、第356条第1項(競業取引及び利益相反取引の制限)、第362条第4項(取締役会の専決事項)、第369条第1項・第3項・第5項(取締役会の決議及び議事録)、第371条(議事録の備置き及び閲覧等)、第423条第1項(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)
民法 第644条(受任者の注意義務)
判例法理による部分 経営判断の合理性の評価の枠組みについては、判例法理によります。個別の事案における適用は、事実関係により異なります。
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