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解任撤回を拒否されつつも金銭賠償請求をした事案

公開 2026年2月2日更新 2026年10月30日

▶ 解任に正当な理由がない場合の損害賠償の請求

解任撤回を拒否されつつも、金銭賠償請求を軸に主導権を取り戻した取締役の不当な解任案件

1 事案の発端 ―「今日で来なくていい」

相談者は、地方都市に本社を置く中堅企業の取締役でした。
名目上の代表取締役はオーナー会長の親族でしたが、実際の業務運営・取引先対応・金融機関折衝の多くは相談者が担っていました。

ある日、オーナー会長から突然、次のように告げられました。

「もう信頼関係が壊れている。
今日で会社には来なくていい。
取締役も辞めてもらう。」

事前の注意、是正要求、評価面談等は一切ありませんでした。
相談者が理由を求めても、「経営判断が合わない」「空気を読めない」といった抽象的な言葉が繰り返されるだけでした。

その日のうちに、会社の入館カードは無効化され、業務用メールは遮断され、社内グループチャットからも削除されました。


2 辞任届への強制と心理的圧迫

数日後、会社から「円満退任のため」として、辞任届と秘密保持に関する誓約書が送付されました。

そこには、次のような条件が記載されていました。

  • 辞任日は遡及的に設定
  • 役員報酬は当月分までで終了
  • 役員退職慰労金は支給しない
  • 会社に対する一切の請求権を放棄する

さらに、オーナー会長からは、

「これ以上揉めたら業界で生きていけない」
「取引先にも事情を説明することになる」

といった発言がなされ、相談者は強い心理的圧迫を受けていました。

この時点で相談者は、
「もうどうにもならないのではないか」
「署名しなければさらに不利になるのではないか」
という状態に追い込まれていました。


辞任届への署名を迫られている場合、又は強要されて署名した場合の対応は、次のページでご案内しています。

3 初回相談時の状況整理

当事務所に相談があった時点で、状況は次のとおりでした。

  • 株主総会は開催されていない
  • 解任決議は存在しない
  • 辞任届は未提出
  • 役員報酬は一方的に支給停止
  • 役員退職慰労金は「出さない」と口頭で通告

相談者の希望は当初、
「できることなら解任を撤回して職務に戻りたい」
というものでした。


4 争点の本質 ―「撤回」よりも先に整理すべきこと

本件で重要だったのは、感情的に「撤回」を求める前に、次の点を冷静に整理することでした。

  • 現時点で解任は法的に成立していない
  • 会社側は「辞任」という形に持ち込みたいだけ
  • 役員報酬の支給停止は手続的に極めて危うい
  • 任期はまだ複数年残っている

つまり、会社側は、
法的に脆弱な状態のまま、既成事実を作ろうとしている
にすぎませんでした。


5 対応方針 ―「撤回一本」ではなく複線化

当事務所では、次のような対応方針を採りました。

(1)辞任届は提出しない

まず、辞任届への署名は一切行わない方針としました。
形式上の辞任が成立すれば、争点は一気に不利になります。

(2)金銭請求を正面から構成

会社側に対して、次の請求可能性を明確に整理しました。

  • 残存任期の役員報酬相当額の損害賠償請求
  • 既に支給停止された役員報酬の未払請求
  • 役員退職慰労金請求の可能性

(3)「撤回は交渉カード」として位置付け

解任撤回(地位回復)は最終目標ではなく、
会社側に選択を迫るための交渉カードとして位置付けました。


残存任期の役員報酬相当額の損害賠償の請求を軸に交渉する場合の進め方は、次のページでご案内しています。

6 会社側の反応と力関係の変化

弁護士名義で通知書を送付し、

  • 解任が成立していないこと
  • 金銭請求の法的根拠
  • 今後の訴訟リスク

を整理して提示したところ、会社側の態度は明確に変化しました。

それまで高圧的だったオーナー会長は、
「話し合いで解決できないか」
と、顧問弁護士を通じて連絡してくるようになりました。


7 解決内容 ― 撤回を拒否しつつも金銭で決着

最終的に、次の内容で合意が成立しました。

  • 解任の形式は維持(撤回・復職はしない)
  • 未払役員報酬を全額支払
  • 残存任期の役員報酬相当額の相当部分を損害賠償として支払
  • 役員退職慰労金を一定額支払
  • 相互に誹謗中傷を行わないことを確認

相談者は当初望んでいた「撤回」には至りませんでしたが、
金銭面では想定を大きく上回る回収を実現し、
精神的にも納得した形で会社を離れることができました。


8 本件から分かる実務上の教訓

  • 辞任届は「出したら終わる」場合が多い
  • 撤回を目指す場合ほど、金銭請求を軽視してはいけない
  • 会社側は法的整理が入ると急速に態度を変える
  • 初動対応が結果の大半を決める

この事例は、
「撤回できるか」ではなく「主導権を取り戻せるか」
という視点が、役員の不当な解任案件では重要であることを示しています。

この記事の位置付け

解任の撤回を拒まれつつ金銭の賠償を実現した解決事例のメインのページです。本ページは、取締役の解任をめぐるトラブルで主導権を取り戻した案件の経過をご覧いただきます。賠償の要件そのものは別のページをご参照ください。

▶ 解任に正当な理由がない場合の損害賠償の請求

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、2024年(令和6年)10月には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ました。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めています。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。

著書

非上場会社における少数株主対策の手法と実務
『非上場会社における少数株主対策の手法と実務』(日本法令)
中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策
『中堅・中小企業のためのM&Aトラブル事例と実務対策』(清文社)
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