役員を不当に解任されたらどうする?損害賠償請求の方法と手続きをわかりやすく解説

会社の取締役は、任期途中で正当な理由なく解任されたとしても、会社法に基づいて残りの任期分の役員報酬を損害賠償請求することができます。

ではどのように残りの任期分の役員報酬を損害賠償請求すればよいのでしょうか。

今回は、強制辞任の場合の残存任期役員報酬損害賠償請求の要件について、検討していきます。

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役員の解任とは

「役員の解任」とは、任期の途中で会社が一方的に役員の職務を終わらせる手続きを指します。これは、役員が自らの意思で辞める「辞任」や、任期満了による「退任」とは異なり、会社側の判断により職務を強制的に終了させる点が特徴です。

従業員の解雇との違い

一般の従業員に対して行われる「解雇」は、労働契約を結んでいる会社側がその契約を一方的に終了させることを意味します。この場合、労働基準法や労働契約法といった法令によって厳格なルールが設けられており、例えば次のような規制が存在します。

  • 解雇には正当な理由が必要
  • 社会的に妥当と認められない場合は無効になる
  • 解雇予告や予告手当の支払いが義務付けられる

つまり、労働者は法律によって強く保護されているのです。

一方、取締役などの役員は、会社との関係が「委任契約」として位置づけられており、会社法第330条において「株式会社と役員との関係は、民法の委任に関する規定に従う」と明記されています。役員は会社の意思決定機関である株主総会の決議によって選任される(会社法第329条第1項)ため、その任免も株主総会の判断に委ねられています。

このように、役員は従業員とは契約形態も法的な扱いも異なり、「解雇」ではなく「解任」という形で職務から外されることになります。

突然役員を解任されたらどう対応すれば良いか

役員を解任するには、株主総会による決議が必須です。まず確認すべきは、その決議が法的手続きに則って適正に行われたかどうかです。もし招集通知の手続きや定足数の不備など決議の手続き面に問題がある場合は、「株主総会決議の取消し」や「決議の不存在」を主張し、自身が引き続き役員であることを訴える余地があります。

一方で、株主総会決議が法的に有効な手続きで実施されていた場合、解任そのものの効力を覆すことはできません。ただし、その解任に正当な理由がなかったと認められる場合、解任された役員は会社に対して損害賠償を請求することが可能です(会社法第339条第2項)。この損害賠償の根拠や具体的な請求の方法については、次の章で詳しく解説します。

正当な理由がないのに役員を解任されたら損害賠償請求ができる

会社から特に正当な理由もなく、突然任期の途中で取締役を解任される、つまり不当解任される可能性はゼロではありません。これは、会社法によって取締役の解任はいつでも株主総会での決議で行えると定められているためです。

取締役としては、任期の途中で解任されるなんてあって欲しくありませんが、万が一不当な理由によって途中解任された場合は、会社に対して損害賠償請求をすることができます。これも会社法によって定められています。

損害賠償請求の対象になる報酬

損害賠償請求の対象になる可能性のある報酬は、以下のとおりです。

  • 賞与
  • 退職慰労金
  • 役員報酬(途中解任の場合、残存期間分の報酬)
  • 役員賞与の未支給分(定期的に支給されていた実績がある場合)

損害賠償請求を行う場合、必ずしも全ての報酬に対して請求ができるわけではありません。

例えば、賞与や退職慰労金などは会社の規定などによって支払われているのであれば請求できる可能性があります。

また、解任による損害賠償金は原則として一時所得に該当し、税務上の取扱いに注意が必要です。

不当解任と言えるためには?!

では、不当な理由による解任とはどのようなものなのでしょうか?続いては、不当解任のポイントとして以下の点について解説します。

  • 取締役の任期途中での解任
  • 株主総会で解任決議を受けていない解任

取締役の任期途中での解任

不当解任になるかどうかのポイントの1つが取締役の任期途中で解任されているかどうかです。取締役の任期を満了し、次の取締役に選ばれなかった場合は、不当解任とはならないので損害賠償請求はできません。

ただし、任期満了後に当然に再任されることが期待されていたような場合で、再任されなかった背景に不当な動機(嫌がらせ・報復的人事など)があれば、不再任も実質的な不当解任として争われる余地があります。

株主総会で解任決議を受けていない解任

先ほども説明しているように、取締役の解任は株主総会での解任決議を経れば行うことができます。これは、逆を言うと一部の取締役や社長の判断だけで取締役を解任することはできないということです。つまり、株主総会の解任決議を経ていない解任は正当なものとは認められないため、不当な解任となり残存任期の役員報酬を請求することはできます。

なお、上記のように正式には解任されていない場合で、未払いの報酬がある時はその残りの報酬の請求を行い、解任後に不当解任だとして未払いの報酬を請求する時は損害賠償として請求することになります。

また、辞任届を提出させられた場合であっても、脅迫や強要により提出したのであれば実質的には解任と同視され、不当解任として損害賠償請求の対象になりえます。

取締役を解任する正当な理由

ここまでは、不当解任になる可能性のあるポイントについて解説しました。では、逆に正当な理由による解任にはどのようなものがあるのでしょうか?続いては取締役を解任する正当な理由として以下の点について解説します。

  • 法令や定款に対する違反行為がある
  • 取締役本人が病気である
  • 著しいレベルで職務に不適任である

法令や定款に対する違反行為がある

取締役が職務を執行する際に、法律や会社のルールに違反することを行なったことを理由とする解任は正当な理由として認められます。実際に過去の判例では、取締役が業者と癒着して利益を図ったことを理由とする解任を正当な理由としたものがあります。

取締役本人が病気である

取締役に心や体の病気があり、取締役としての職務を執行できないことを理由に解任した場合も正当な理由として認められます。過去の判例では、代表取締役を務めていた人が病気の療養のために自身が所有する株式を他の取締役に譲渡し、代表取締役を交代したら、取締役としての地位からも解任されたケースを正当だとしているものもあります。

著しいレベルで職務に不適任である

職務に不適任なレベルで職務の執行ができないこと、つまり取締役としての経営能力が欠如していることを理由にした解任も正当な理由として認められます。一方で経営判断のミスにより大きな損害を被った場合などは議論の余地があると言えるでしょう。この点に関しては、難しい部分なので弁護士を通して議論することをおすすめします。

なお、取締役解任の決議自体に法的な瑕疵(株主総会招集通知の不備や議決権の誤集計など)がある場合には、その決議自体が無効となり、解任自体が否定される可能性もあります。

解任が正当な理由として認められた例

ここで、1つ実際に解任が正当な理由として裁判で認められた例を紹介します。

この案件は、経営能力のなさを理由に取締役を解任された人が会社に対して不当な解任だとし、取締役の残存任期分の役員報酬の支払いを求めたものです。

被告である会社は、事業の1つとしてボウリング関連の事業を展開しており、プロボウラーである原告(解任された取締役)に任期10年で取締役に就任してもらっていました。

しかし、原告である取締役は、ボウリング事業でほとんど売り上げを上げておらず、それに加えて会社には関係ない第三者に取締役の指示で顧問料として月10万円を支払う、取締役に経費削減の努力が見られない、などしていたそうです。そのため、被告である会社はボウリング事業から撤退し、取締役を解任することになりました。

判決では、この解任理由は正当な理由として認められ、原告の請求が棄却されています。

判決では、原告は役員報酬を受けていたり、顧問料の10万円を第三者に支払うなどしたりしている以上、ボウリング事業で利益を上げるように努力しなければいけないとし、にも関わらずほとんど売り上げがなかったという事実は、職務を遂行する能力がなかったものと判断せざるを得ないとされています。

会社はこのような取締役の状態などを踏まえてボウリング事業から撤退しているため、取締役の解任も正当な理由があったとされました。

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損害賠償請求に必要な書類は?

不当な解任として損害賠償請求を行う場合、いくつかの書類が必要になります。具体的には以下のような書類が該当します。

  • 登記事項証明書
  • 委任契約書
  • 定款
  • 報酬がわかる書類

解任の無効を主張する場合は、株主総会の議事録、招集通知、出席株主名簿なども重要な証拠になります。正当な理由の不存在を示すために、業務成績や社内評価資料などを準備することも有益です。

任期途中での不当解任による損害賠償請求を行う場合、いつ取締役に就任したのかそして、いつ取締役を解任させられたのかを把握する必要があるため、登記事項証明書が必要になります。

また、委任契約書も取締役の就任期間や任期を把握するための書類として重要となります。さらに、定款に取締役の任期が記載されている場合は定款もあわせて用意するようにしましょう。

次に、実際にどのくらいの報酬をもらっていたのかがわかる書類も用意してください。報酬額がわからないと、いくら請求すればいいのかがわからないためです。具体的には、株主総会の議事録や役員報酬規程、報酬の明細書、源泉徴収票などが該当します。

損害賠償請求=すぐに裁判ではない

「損害賠償請求のために裁判を起こそう!」と意気込んでいる人もいるかもしれませんが、すぐに裁判に持っていくのはあまり得策ではありません。まずは会社との交渉を行い、交渉を通して損害賠償請求ができるか確認しましょう。

ここで支払ってもらえるのであれば、時間もお金もかける必要なく問題が解決できるためです。交渉する際は、先ほど紹介した報酬や任期がわかる書類を用意すると話を進めやすくなります。交渉がうまくいかなかったら、裁判を考えるようにしましょう。

役員を解任された場合の損害賠償請求以外の対処方法

役員として解任された場合、必ずしも損害賠償請求だけが唯一の手段ではありません。法的手段以外にも、状況に応じた多様な選択肢があります。

役員の地位を仮に定める仮処分の申立

株主総会において、過半数の議決権を実際には有していない株主が、強引に議決を進めて取締役を解任するケースは現実にしばしば見られます。

このような事態に直面した場合、まず検討すべきは、当該株主総会決議の効力を否定する「株主総会決議無効確認訴訟」です。そして、訴訟の進行には時間がかかるため、判決が出る前の段階でも一時的に取締役としての地位を回復させるため、「仮の地位を定める仮処分」の申立てを行うという選択肢があります。

本来、解任された取締役は、訴訟で解任の無効が認められて初めて職務に復帰できますが、判決確定までの間に会社側はその復帰を拒否するのが一般的です。こうした状況において、裁判所に対し「解任が無効となる可能性が高い」と主張し、仮にその人物を取締役として扱うよう求めるのが仮処分の目的です。

この仮処分は、民事保全法23条2項に基づく「仮の地位を定める仮処分」に該当し、成立には以下の2つの要件が必要です。

被保全権利の存在

例えば、以下の訴えを根拠にすることが考えられます。

  • 不適切に選任された新任取締役の地位不存在確認訴訟
  • 自身の取締役地位確認訴訟
  • 解任決議の取消しや無効確認訴訟
  • 新たな代表取締役選定の無効確認訴訟 など

保全の必要性

仮処分を認めるには、本人に重大な損害が生じるだけでなく、会社側にとっても無視できない影響があることを示す必要があります。

例えば、以下のような事情を具体的に主張・疎明します。

  • 会社の信用が解任された取締役の個人信用に依存している
  • 解任後の取締役には経営能力がない
  • 新任取締役が会社資産を私的に流用する恐れがある

このように、仮処分を通じて法的な保護を早期に確保するには、専門的な法的判断と、具体的かつ説得力のある主張が求められます。弁護士への相談は不可欠といえるでしょう。

退職金の請求

取締役が解任された場合、企業側がその解任を理由に退職金の支給を拒否することは少なくありません。たとえ退職金規程に「解任された場合は支給しない」といった条項が盛り込まれていたとしても、解任自体に法的な正当性が欠けていた場合には、その条項の適用が否定される可能性があります。そのため、解任が無効または不当と認められれば、退職金の支払いを請求できる余地があります。

株式買取請求

中小企業などでは、経営に関与している取締役が会社の株式を保有していることが一般的です。こうした取締役が退任や解任によって会社を離れる際、会社または他の株主からその保有株式の買い取りを求められるケースがあります。

このとき、会社が深刻な債務超過に陥っていたり、継続的な赤字を抱えているような場合には、保有株に経済的価値が認められない可能性もあります。しかし、一定の純資産が計上されており、企業としての資産価値が存在する場合には、株式も相応の評価を受けることになります。そのため、適正な価格での買い取りを求めることが現実的な選択肢となります。

役員と従業員の地位の両方を有する場合の対応

取締役としての立場だけでなく、従業員としての身分も併せ持っている場合には注意が必要です。このようなケースでは、株主総会の決議により取締役としての地位は失われたとしても、従業員としての雇用関係は別物として扱われます。

したがって、会社側に解雇の正当な理由がない限り、従業員としての地位は維持されます。もし解雇された場合でも、その解雇に合理的な理由が認められない場合には、解雇無効を主張して従業員としての地位回復を求めることが可能です。

役員を解任されたら弁護士に相談を

役員の解任に関しては、手続きが適正に行われたかどうか、「正当な理由」が存在するかが重要な判断ポイントとなります。

解任理由に正当性があるか否かの判断には法律的な検討が不可欠であり、個人で見極めるのは困難なケースが多いため、まずは弁護士に相談し、状況に応じた見通しを確認することをおすすめします。

仮に、正当な理由がないまま解任されたと判断できる場合には、会社に対して損害賠償請求を行うことが可能です。こうした請求は、最終的に訴訟などの法的手続に発展する可能性もあるため、初期段階から弁護士に依頼しておくと安心です。

なお、解任ではなく役員本人が自主的に辞任した場合には、原則として損害賠償請求は認められません。ただし、会社や他の役員などから辞任を強く迫られた場合、その強要行為自体が不法行為に該当し、損害賠償の対象となる可能性があります。このようなケースでも、速やかに弁護士に相談することが重要です。

まとめ

今回は、会社を不当解任になる理由と正当解任の理由、損害賠償を行う際に必要な書類について解説しました。もし当てはまるケースがある場合は、まず弁護士に相談するなどしてみましょう。

不当解任は取締役の名誉や今後のキャリアにも大きな影響を及ぼすため、単なる報酬請求にとどまらず、名誉回復や社会的評価の回復という観点からも、弁護士を通じた適切な対応が重要です。

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