役員解任・辞任強要(M&A編)!

M&Aは、2019年4月には単月ベースで、1985年以降で過去最大の件数を記録しました。

これは、非中核事業を切り離す再編型や、中小企業による事業承継型のM&Aが活発になっていることが要因に挙げられます。

M&Aには、たとえば買い手側には買収対象企業の技術やノウハウ、顧客や不動産、設備などといった資産を取りこむことで事業規模の拡大を図ることが可能となり、売り手側も創業者利潤の獲得、事業承継問題の解決、従業員の雇用維持など、一見すると双方にメリットをもたらせるように感じます。

しかし、M&Aにて不利益を被ってしまう方もいらっしゃいます。たとえば、買収された会社の役員はどうでしょうか?

買収した会社からこれまでどおりのポストを約束されるわけではなく、むしろ冷遇され、不当解任や辞任要求が行われてしまう可能性があります。

ですが、会社からの理不尽な要求を鵜呑みにする必要はありません。退職慰労金請求や損害賠償請求など、自分の権利を守る手段はいくつもあるのです。

そこでこの記事では、M&Aで買収した会社による役員解任・辞任強要に対する対応についてM&A弁護士が徹底解説していきます。

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Contents
  1. M&A買収された会社の役員はどのような処遇になるのか?役員解任・辞任強要されるのか?
  2. M&A買収され不遇に見舞われた役員(役員解任・辞任強要)の事例
    1. (例1)前の会社では有力者だった旧役員
    2. (例2)買収会社から冷遇されてしまい、会社の経営に携われなかった経営者
  3. M&A買収された役員の厳しい末路(役員解任・辞任強要)
  4. M&A買収された役員が厳しい末路(役員解任・辞任強要)を迎えてしまう理由
    1. 旧役員は急な現場への配置などに適応できない
    2. リストラが前提で会社が買収されている
    3. 買収後の会社の雰囲気に馴染むことができない
    4. 仕事に対するモチベーションの低下
  5. M&A買収された役員も理不尽な会社の要求に従うことはない!
  6. M&A買収された役員は新会社からの不当な要求にどのように立ち向かっていくべきか
    1. M&A買収された役員に不当な退職強制
    2. M&A買収された役員の役員退職慰労金の不当不支給
    3. M&A買収された役員が無視された役員退職慰労金を請求する方法とは?
    4. 重要なのは退職慰労金(役員)規定や株主総会決議が存在していると評価できること
    5. 実質的に退職慰労金(役員)規定や株主総会決議が評価できるケースとは?
    6. 役員ではなく役員兼従業員として認定できないかを検討する
  7. 正当な理由のない取締役の解任に対抗する方法
    1. 残存任期役員報酬損害賠償請求を行う
    2. 取締役解任に相当する正当な理由と判断されるケース
    3. 正当な理由が認められた又は認められなかった事例

M&A買収された会社の役員はどのような処遇になるのか?役員解任・辞任強要されるのか?

前述の通り、M&Aは会社にとっては大きなプラスに働く選択となるかもしれません。

しかし、買収された会社の役員にとっては大きなマイナスに働いてしまう可能性があります。

会社が売却されれば、これまでとは大きく環境が異なってきます。周囲の人間も、任される仕事内容も変わってくるかもしれません。

また、売却された会社の旧役員は、買収された会社から「冷遇」されてしまうというケースが非常に多いのが現実です。

職場環境の変化や不合理な会社からの冷遇などに耐え切れず、退職を考える方も珍しくありません。

M&A買収され不遇に見舞われた役員(役員解任・辞任強要)の事例

ここでは、実際に不遇に見舞われた役員の事例をご紹介していきます。

(例1)前の会社では有力者だった旧役員

その会社の役員は、会社の利益拡大に大きく貢献した有力者でした。その実力は会社の右腕と呼ばれるほどで、周囲からは次期社長との声も上がるほどでした。

しかし、業績に固執するあまりに周囲からの人間性の評価は低く、また社長への肩入れも露骨であったことから、その他の役員や社外取引先からの信頼は低いものでした。

そうした中、徐々に会社の業績が悪化し、それに伴いM&Aでの会社売却の話が舞い込んできたため、社長の判断で会社が売却されることとなりました。

実はこの時、M&Aを行う際に売却側の会社の役員の処遇についての取り決めが不十分であったため、会社買収後この役員は、はっきりとした理由もなく役員待遇から外されることとなりました。

その後は、当然ながら会社内での発言力もなくなり、またこれまでの振る舞いから人望も薄く、結局は退職に追い込まれてしまうこととなりました。

これまでは社長に次ぐ有力者だった役員でも、M&Aによって会社が売却されれば、この事例のように不合理な理由を突きつけられて役員を解任されてしまう可能性があります。

(例2)買収会社から冷遇されてしまい、会社の経営に携われなかった経営者

とある企業が経営不振に陥ってしまったため、M&Aによって会社売却を行いました。

ただし社長としては、会社を売却するからといって退職するつもりはなく、売却後も会社で働き続けることを望み、最終的には2年程度の顧問役として業務に携わる契約を交わしました。

その後、2年間は主に顧問役として今までの会社経営の問題点や引継ぎを行ってきましたが、社長の希望としてはあくまで、経営の経営に携われる中心的な仕事を希望していました。

しかし、会社からは希望する仕事を与えてもらえず、当然発言力もなく、意見も取り入れてもらえない、まるで飾りのような顧問役として2年が経過しました。

最終的に、この経営者は契約期間が過ぎると解雇されることとなりました。

会社を売却したあとでも、退職するのではなく、第一線で働きたいという方は少なくないはずです。

しかし、買収会社からすればそのような希望を叶える理由もなく、事前の契約にないならば、取締役はあっさりと解雇されることも珍しくはありません。

M&A買収された役員の厳しい末路(役員解任・辞任強要)

M&Aで会社を買収された役員・従業員は、様々な理由が重なり厳しい末路を迎えてしまう事例が目立ちます。

ここでは、その理由について解説していきます。

M&A買収された役員が厳しい末路(役員解任・辞任強要)を迎えてしまう理由

旧役員は急な現場への配置などに適応できない

M&Aにて会社が買収された場合、元の会社の旧役員は冷遇される可能性が高く、場合によっては役員を外されてしまうこともあります。

また、役員待遇から外された旧役員はこれまでとは異なり、現場に配置されることも非常に多いです。

しかし、これまでは会社全体を統括し、会社の経営を考えている立場であった旧役員が、急に現場の環境に慣れるのは中々至難の業です。

そもそも、会社全体の役目から会社の一部の役目に移り変わることに耐えることは難しく、また、これまでは社員と役員という上下関係にあったのに対し、急に同じ立場になってしまうなどの環境の変化に適応できない方も多くいます。

M&Aで会社を買収されると、正当な理由もなく役員待遇を外されたり、現場から離れて数年以上経つのに、再度その現場に急に配置されてしまうといった冷遇を受けてしまうケースがあります。

リストラが前提で会社が買収されている

M&Aの目的によっては、そもそもリストラが前提で会社が買収されているケースもあります。

たとえば、会社の設備やブランド、これまで培ってきたノウハウのみを目的とし、元々いた人材は必要としていないこともあるのです。

勿論、買収時の契約ではそのようなことは明記しませんが、最初から買収された側の社員をリストラの対象と前提しているケースは決して珍しくありません。

M&Aによって会社が売却されたあとに冷遇されてしまい、最終的にはリストラされてしまうという厳しい末路を迎えてしまう可能性は十分に考えられます。

買収後の会社の雰囲気に馴染むことができない

M&Aによって会社が買収されれば、人も会社の方針や考え方も全く異なるものとなります。

中には、会社の雰囲気が好きだからこそ、待遇が良くなくても仕事を続けることができるという方もいらっしゃるでしょう。

ですが、会社が買収されたあとは新たな会社の方針に従う必要があり、そのような新たな環境に馴染めない方も多く、また買収した側の会社から冷遇されているような旧役員などは、特に精神的なダメージを負ってしまっているケースが目立ちます。

会社売却後の社員や役員の心のケアまで考えてM&Aが行われればいいのですが、そのようなケースは非常に稀であり、多くの方は買収後の会社の雰囲気に適応するのに時間がかかり、場合によっては退職を考える要因にもなっています。

仕事に対するモチベーションの低下

M&Aによる会社の売却は、時にはモチベーションの低下に繋がります。

たとえば、これまで会社のために何十年も貢献し、やっと役員というポストまで昇進したとしましょう。

それが、いきなり会社が売却されたり、正当な理由もないのに役員を外されたりすれば、モチベーションをキープするほうが難しいでしょう。

また、会社が買収されれば方針は一新されるため、会社から何を求められているかを把握するまでにも時間がかかります。

これまでに重要な役割を担っていた役員などは尚更であるため、新会社に求められるスキルが見えなければ実績を上げることも難しく、キャリアプランも大きく崩れていきます。

さらには、新会社に冷遇され実績を上げることが困難となってしまえば、結局はリストラの対象となってしまうケースもあるのです。

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M&A買収された役員も理不尽な会社の要求に従うことはない!

前述の通り、M&Aによって会社が買収されてしまうと、買収された側の旧役員は新会社の理不尽な要求によって冷遇、あるいは解任や解雇されてしまうケースがあります。

勿論、会社から雇用されている以上、基本的に会社からの要求にはできるだけ答えるべきです。

しかし、そもそも旧役員にも守るべき権利があります。

よって、あれはあれ、これはこれであるため、理不尽で間違えていることならば毅然と立ち向かい、言うべきことは言い、自分の権利は守っていくべきなのです。

これは当然の権利であり、理不尽な要求に従ってばかりでは会社の思うつぼとなります。

また、不当な退職強制や不当な配置転換、不当な給与減額や不当な退職支払拒否などには法的手段を用いることも可能です。

M&A買収された役員は新会社からの不当な要求にどのように立ち向かっていくべきか

M&Aにて会社を買収した側の新会社は、買収された側の旧役員を解雇したくても、従業員である場合は労働法の適用があるため強制的に退職させることはできません。

また、取締役などの役員の場合であっても、株主総会で取締役の解任を決議するか、(50%以上の株主が出席し、なおかつ多数決で50%以上の賛成がある)もしくは裁判所に 取締役解任の訴えを提起することが必要となります。

要は、邪魔や不要に感じる旧役員であっても、簡単には解雇できないのです。よって、自主退職に追い込むために、新会社は旧役員を冷遇するケースが多くなっています。

M&A買収された役員に不当な退職強制

いくらM&Aによって会社を買収したとしても、これまで旧会社に貢献してきた役員や重役、番頭などの従業員を正当な理由なしに退職強制を行うことはできません。

また、仮に役員の任期中に正当な理由がなく解任されてしまった場合には、残存任期の役員報酬相当額の損害賠償請求を行うことができますし、仮に辞表を出してしまった場合でも、それは不当な退任強制として損害賠償請求を実行できる可能性があります。

M&A買収された役員の役員退職慰労金の不当不支給

役員退職慰労金は、これまで会社に貢献してきた従業員が受け取るべき報酬であり、立派な権利です。

また、会社が拒否したとしても、役員や重役、番頭などの社内実力者が従業員と認められる立場にあったならば、退職金の支給を拒否することはできません。

ただし、役員退職慰労金は労働基準法などの労働法において、「退職する役員に退職金を支払わなければいけない」というようには義務付けられていないのも事実であり、よって一般的には株主総会の承認が必要と考えられています。

ただし、株主総会の承認が得られない場合でも、例外として役員退職慰労金が支給される場合があり、たとえば、以下のようなケースでは、株主総会の承認がなくとも退職慰労金を請求できる可能性があります。

○会社の定款に退職慰労金規定などの定めがある

○退職慰労金のための保険に加入している

○退職慰労金を支給することを前提に事業計画書を作成している

○退職慰労金を支給することを前提に隠す施策を講じている

○退職慰労金について何らかの話し合いが行われている

M&A買収された役員が無視された役員退職慰労金を請求する方法とは?

会社法には、役員退職慰労金を支給するためには「役員報酬を定款または株主総会決議によって決めなければならない」と定められており、これは最高裁判所も認めている通りです。

しかし、株主総会を取り仕切っているのは、買収された側の会社の旧役員や旧重役、旧番頭などを冷遇する新会社の社長や経営陣であり、とてもじゃないですが株主総会で役員退職慰労金の支給が決議されるなどということは期待できません。

よって、役員退職慰労金を支給してもらうためには、別の方法で請求を行っていく必要があります。

重要なのは退職慰労金(役員)規定や株主総会決議が存在していると評価できること

株主総会で退職慰労金(役員)の支給の決議が期待できなくても、個別具体的事実に鑑み、「退職慰労金(役員)を支給する合意があった」と評価されるような場合や、「退職慰労金(役員)を支給しないことが権限乱用、不法行為や不当利得であると評価できる」といった場合には、退職慰労金(役員)を請求することが可能となります。

たとえば、請求できる可能性がある例としまして以下のようなものが挙げられます。

○役員就任時に退職慰労金(役員)を支給する旨の話があった

○役員在任時に退職慰労金(役員)を支給する旨の話があった

○過去から退職慰労金(役員)が慣行として支給されている

○過去の株主総会において退職慰労金(役員)規定どおりに退職慰労金(役員)を支給する旨の決議があった

など

「退職慰労金(役員)の支給には株主総会の決議が必要」これは間違いのないことです。

しかし、上記の例を見ていただくとわかるとおり、形式的には、退職慰労金(役員)規定や株主総会決議が存在していなくとも、実質的に、退職慰労金(役員)規定や株主総会決議が存在していると評価できれば、退職慰労金(役員)を請求することは可能となるのです。

実質的に退職慰労金(役員)規定や株主総会決議が評価できるケースとは?

たとえば、他人に金銭を貸し付けたとします。この場合、契約書がないからといって、金銭の回収が不可能となるわけではありません。

なぜならば、契約書がない場合でも少なくとも口頭の合意はあるでしょうし、金銭を貸し付けた事実は確かにあり、それが消滅することはないためです。

勿論、金銭消費貸借契約書という確かな証拠があれば申し分ありませんが、金銭消費貸借契約書が存在しないというケースも多いです。

そもそも、金銭を貸し付けた事実があるのに対し、「金銭消費貸借契約書が存在しない」というだけで、債権の回収ができないということのほうが不合理な話でしょう。

よって、金銭消費貸借契約書が存在しなくとも、債権の回収は可能となっています。

そして、これは退職慰労金(役員)請求についても同じことがいえます。

たとえば、「退職慰労金(役員)は支払われない」となったケースでも、メールやLINEで退職慰労金(役員)に関してやり取りを行っていた場合、そこから退職慰労金(役員)の請求権が裏付けられるケースもあるのです。

その他にも、社内の議事録や文書、またはそれ以外の、一見関係のなさそうな退職慰労金(役員)請求権のことについて直接は言及していないような書類でも、ほんの些細なひっかかりから間接的に退職慰労金(役員)請求権が裏付けられることもあります。

よって、メールやLINE、社内の議事録や文書などの必要のないように思える書類でも、のちの証拠となる可能性を考えればしっかりと保管しておくべきであり、それが株主総会決議がなくとも「存在している」と評価できる糸口となるかもしれないのです。

これまで会社に貢献してきたという事実があるのに、新会社の理不尽な行動で退職慰労金(役員)が支給されないのはあまりにも理不尽でしょう。

退職慰労金(役員)規定や株主総会決議が期待できない場合でも、それは決して諦める理由にはならないのです。

役員ではなく役員兼従業員として認定できないかを検討する

どうしても退職慰労金(役員)規定や株主総会決議が期待できない、またメールやLINE、社内の議事録や文書、その他の書類からも退職慰労金(役員)規定や株主総会決議の実質的評価を得ることができないという場合、役員ではなく役員兼従業員として認定できないかを検討してみましょう。

たとえば、場合によっては役員としての肩書きがありつつも、労働者としての実態も有しているケースがあります。

確かに役員の退職慰労金につきましては、通常は退職慰労金(役員)規定や株主総会決議が必要です。

しかし、従業員の退職金に関しましては、退職金規定に計算方法やその金額が定められている場合には株主総会決議などがなくとも退職金請求権が発生します。

ただし、純粋な役員か、もしくは労働者としての実態も有している役員兼従業員であるかは形式的な名称で判断してはいけません。

以下のような要素を考慮し、実質的に労働者としての地位を有しているかを検討しましょう。

○他の従業員と比較して報酬が高額である

○出退勤の自由が認められている

○労働保険や社会保険に加入し続けている

○会社の指揮命令下にある

○役員(取締役)に就任した経緯

○役員(取締役)に就任した前後で従事する業務が異なる

など

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正当な理由のない取締役の解任に対抗する方法

通常、会社と雇用関係にある従業員(労働者)が退職手続きを取れば、労働契約が終了するため退職金を貰うことが可能となります。

しかし、会社と委任関係にある取締役の場合はそのようにはいきません。なぜならば、取締役は労働者とは異なり、労働契約法上の解雇規制(労契法16条)の適用がないためです。(ただし、前述のように従業員兼取締役という立場がある方は例外)

また、取締役は正当な理由がなくとも、株主総会での決議により50%を上回る議決権を有する株主が出席し、出席した株主の過半数が取締役の解任に賛成すれば解任することが可能となっています。

会社のために代表者として身を粉にして働き、また「取締役」とは名ばかりで実際には従業員となんら待遇は変わらない。

さらには、正当な理由もなく会社の都合で解任され、退職慰労金も支払われない。このような理不尽なことがまかり通っていいわけはありません。

残存任期役員報酬損害賠償請求を行う

残念ながら、会社と取締役との関係は民法上の委任契約であるため、当事者はいつでも解約することが可能です。

よって、会社と解任自体を争うことは難しいでしょう。

しかし、正当な理由なしに取締役を任期満了前に解任した場合、会社は取締役に対し、解任によって生じた損害を賠償しなければならないと会社法にて定められています(会社法339条2項)。

これは、取締役の解任の自由を保障しつつ、正当な理由がある場合を除いて、解任そのものによる損害賠償を認めることで、取締役の任期に対する期待保護と株主の会社支配権の確保との調和を図ったものと説明されています。(法定責任説)

また、あまり意識していない経営者も多いですが、法律上会社は取締役との間で任期までの間委任契約を締結しているのです。

よって、途中でその委任契約を解任するためには正当な理由が必要であり、理由なく解任する場合には、任期満了まで取締役として務めていれば得られたと考えられる「報酬」や「退職金」など(典型的には残任期分の役員報酬相当額)を請求することが認められています。ただし、慰謝料や弁護士費用などを請求することは原則として認められていないため、その点は注意が必要です。

取締役解任に相当する正当な理由と判断されるケース

たとえば、 取締役解任に相当する正当な理由と判断されやすいものには以下のようなものがあります。

【正当な理由ありと判断されやすい事由】

○心身の故障がある場合

○重大な経営判断の失敗

○職務遂行能力を著しく欠く、著しい不適任

○法令や定款違反の行為があった(たとえば、取締役会の承認なく競業行為を行った、会社から借入をした、横領や背任により会社に損害を与えたなど)

また、逆に解任に相当しない、正当な理由とは認められにくいものには以下のようなものが挙げられます。

【正当な理由として認められにくい事由】

○主観的な信頼関係喪失(当該取締役を気に入らない、株主や経営者と折り合いが悪いなど)

○ほかに適任者がおり、取締役を入れ替えたい

正当な理由が認められた又は認められなかった事例

ここでは、過去にあった正当な理由と認められた事例と、認められなかった事例をご紹介していきます。

【正当な理由として認められた事例】

○心身の故障

・最判:昭和57年1月21日

・事案:持病が悪化したため、療養に専念するために代表取締役の地位を他の取締役に譲った取締役が、臨時株主総会において取締役を解任された。

・判旨:上記事情の後に経営陣の一新を図るため、療養に専念していた取締役を解任したときは「正当な理由」がないとはいえない。

○職務遂行能力を著しく欠く、著しい不適任

・大阪地判:平成10年1月28日

・事案:代表取締役が、オーナー一族と対立。その後、代表取締役の独断専行の経営が目立つようになり、業務執行の障害が生じたため代表取締役を解任した。

・判旨:取締役は、会社から業務執行を委ねられた取締役の構成員であるから、正当事由は、取締役に職務執行上の法令定款違反があった場合、心身の故障のため、職務執行に支障がある場合、職務への著しい不適任となるべき事情がある場合等、業務執行の障害となるべき客観的状況がある場合をいうものと解すべきである。

代表取締役は、オーナー一族の意向を無視して、虚言を弄して自らの妻を取締役として登記し、他の代表取締役が業務を遂行することを妨害するなどして、他の取締役、従業員の間において、当該代表取締役が取締役として業務を執行するにつき著しく信用を喪失したというべきであり、業務執行の障害となるべき客観的事情があったというべきである。

以上によれば、当該代表取締役の解任については、正当事由があるというべきである。

○経営上の判断の失敗

・広島地判:平成6年11月29日

・事案:取締役の独断で投機性の高い取引を実行した結果、会社に多額の損失を与えてしまったため、重大な経営判断の失敗と判断し取締役を解任した。

判旨:正当事由には経営判断の誤りによって会社に損害を与えた場合も含まれるものというべきである。

多額の株式の信用取引やインパクトローンという投機性の高い取引を独断で行い、結果的に多額の損失を会社に与えたものであって、これは代表取締役としての経営判断の誤りと評価されてもやむを得ないものである。しかも、会社の売上は毎年着実に伸びており、リスクの大きい株式取引に手を出さなければならない緊急性もないのであって、これは折からの財テクブームに乗せられたという側面がかなり強いものといわざるを得ず、会社資産が危殆に瀕するという事態をもたらしたことについて、経営者としての責任を逃れることはできないというべきである。

代表取締役を解任したことに正当の事由があるものという事ができるから、任期満了前の解任を理由とする損害賠償請求も理由がない。

【正当な理由として認められなかった事例】

○主観的な信頼関係喪失

・東京地判:昭和57年12月23日

・事案:代表者や他の従業員との折り合いが悪くなったことを理由に取締役を解任した。

・判旨:会社内で顕著に孤立するようになったのは、会社代表者との折り合いが悪くなったことに最大の原因があるものと推認される。

当該取締役は当初それなりの実績を積み重ねてきたことが認められ、ただ、近年は見るべき成果を上げ得ていないのであるが、これは、そのころから当該取締役が会社内で孤立し、営業活動に支障を来すような出来事に遭遇することもあったことが大いに関係しているものと認められるのであって、決して当該取締役のみの責任に帰せしめうるものではない。

取締役解任には正当な事由がないものというほかはないから、会社は、右解任により当該取締役が被った損害を賠償しなければならない。

代表取締役を解任したことに正当の事由があるものという事ができるから、任期満了前の解任を理由とする損害賠償請求も理由がない。

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