不当解任されたら残存任期役員報酬損害賠償請求できます!

会社の取締役は、任期途中で正当な理由なく解任されたとしても、会社法に基づいて残りの任期分の役員報酬を損害賠償請求することができます。
ではどのように残りの任期分の役員報酬を損害賠償請求すればよいのでしょうか。
今回は、強制辞任の場合の残存任期役員報酬損害賠償請求の要件について、検討してゆきます。
正当な理由がないのに会社を解任された時は損害賠償請求ができる
会社から特に正当な理由もなく、突然任期の途中で取締役を解任される、つまり不当解任される可能性はゼロではありません。これは、会社法によって取締役の解任はいつでも株主総会での決議で行えると定められているためです。
取締役としては、任期の途中で解任されるなんてあって欲しくありませんが、万が一不当な理由によって途中解任された場合は、会社に対して損害賠償請求をすることができます。これも会社法によって定められています。
損害賠償請求の対象になる報酬
損害賠償請求を行う場合、必ずしも全ての報酬に対して請求ができるわけではありません。
例えば、賞与や退職慰労金などは会社の規定などによって支払われているのであれば請求できる可能性があります。
一方で、役員報酬は基本的に途中解任の場合、残存期間分の報酬を損害賠償請求することができます。
なお、役員賞与や退職慰労金などの未支給分も、定期的に支給されていた実績がある場合には、損害算定の一部として加算される可能性があります。
また、解任による損害賠償金は原則として一時所得に該当し、税務上の取扱いにも注意が必要です。
不当解任と言えるためには?!
では、不当な理由による解任とはどのようなものなのでしょうか?続いては、不当解任のポイントとして以下の点について解説します。
- 取締役の任期途中での解任
- 株主総会で解任決議を受けていない解任
取締役の任期途中での解任
不当解任になるかどうかのポイントの1つが取締役の任期途中で解任されているかどうかです。取締役の任期を満了し、次の取締役に選ばれなかった場合は、不当解任とはならないので損害賠償請求はできません。
ただし、任期満了後に当然に再任されることが期待されていたような場合で、再任されなかった背景に不当な動機(嫌がらせ・報復的人事など)があれば、不再任も実質的な不当解任として争われる余地があります。
株主総会で解任決議を受けていない解任
先ほども説明しているように、取締役の解任は株主総会での解任決議を経れば行うことができます。これは、逆を言うと一部の取締役や社長の判断だけで取締役を解任することはできないということです。つまり、株主総会の解任決議を経ていない解任は正当なものとは認められないため、不当な解任となり残存任期の役員報酬を請求することはできます。
なお、上記のように正式には解任されていない場合で、未払いの報酬がある時はその残りの報酬の請求を行い、解任後に不当解任だとして未払いの報酬を請求する時は損害賠償として請求することになります。
また、辞任届を提出させられた場合であっても、脅迫や強要により提出したのであれば実質的には解任と同視され、不当解任として損害賠償請求の対象になりえます。
取締役を解任する正当な理由
ここまでは、不当解任になる可能性のあるポイントについて解説しました。では、逆に正当な理由による解任にはどのようなものがあるのでしょうか?続いては取締役を解任する正当な理由として以下の点について解説します。
- 法令や定款に対する違反行為がある
- 取締役本人が病気である
- 著しいレベルで職務に不適任である
法令や定款に対する違反行為がある
取締役が職務を執行する際に、法律や会社のルールに違反することを行なったことを理由とする解任は正当な理由として認められます。実際に過去の判例では、取締役が業者と癒着して利益を図ったことを理由とする解任を正当な理由としたものがあります。
取締役本人が病気である
取締役に心や体の病気があり、取締役としての職務を執行できないことを理由に解任した場合も正当な理由として認められます。過去の判例では、代表取締役を務めていた人が病気の療養のために自身が所有する株式を他の取締役に譲渡し、代表取締役を交代したら、取締役としての地位からも解任されたケースを正当だとしているものもあります。
著しいレベルで職務に不適任である
職務に不適任なレベルで職務の執行ができないこと、つまり取締役としての経営能力が欠如していることを理由にした解任も正当な理由として認められます。一方で経営判断のミスにより大きな損害を被った場合などは議論の余地があると言えるでしょう。この点に関しては、難しい部分なので弁護士を通して議論することをおすすめします。
なお、取締役解任の決議自体に法的な瑕疵(株主総会招集通知の不備や議決権の誤集計など)がある場合には、その決議自体が無効となり、解任自体が否定される可能性もあります。
解任が正当な理由として認められた例
ここで、1つ実際に解任が正当な理由として裁判で認められた例を紹介します。
この案件は、経営能力のなさを理由に取締役を解任された人が会社に対して不当な解任だとし、取締役の残存任期分の役員報酬の支払いを求めたものです。
被告である会社は、事業の1つとしてボウリング関連の事業を展開しており、プロボウラーである原告(解任された取締役)に任期10年で取締役に就任してもらっていました。
しかし、原告である取締役は、ボウリング事業でほとんど売り上げを上げておらず、それに加えて会社には関係ない第三者に取締役の指示で顧問料として月10万円を支払う、取締役に経費削減の努力が見られない、などしていたそうです。そのため、被告である会社はボウリング事業から撤退し、取締役を解任することになりました。
判決では、この解任理由は正当な理由として認められ、原告の請求が棄却されています。
判決では、原告は役員報酬を受けていたり、顧問料の10万円を第三者に支払うなどしたりしている以上、ボウリング事業で利益を上げるように努力しなければいけないとし、にも関わらずほとんど売り上げがなかったという事実は、職務を遂行する能力がなかったものと判断せざるを得ないとされています。
会社はこのような取締役の状態などを踏まえてボウリング事業から撤退しているため、取締役の解任も正当な理由があったとされました。
会社による取締役解任の具体的な手続き
会社が取締役を解任する際には、通常、以下の手続きを踏む必要があります。
- 株主総会の招集: 定時株主総会または臨時株主総会を開催します。
- 解任決議の可決: 株主総会において、取締役の解任決議が普通決議(議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の過半数の賛成)によって可決される必要があります。
- 取締役辞任の登記: 解任された取締役の登記を抹消し、新たな取締役が選任された場合はその登記を行う必要があります。 これらの手続きが適切に行われなかった場合、解任決議自体が無効となる可能性も生じます。
損害賠償請求に必要な書類は?
不当な解任として損害賠償請求を行う場合、いくつかの書類が必要になります。具体的には以下のような書類が該当します。
- 登記事項証明書
- 委任契約書
- 定款
- 報酬がわかる書類
解任の無効を主張する場合は、株主総会の議事録、招集通知、出席株主名簿なども重要な証拠になります。正当な理由の不存在を示すために、業務成績や社内評価資料などを準備することも有益です。
任期途中での不当解任による損害賠償請求を行う場合、いつ取締役に就任したのかそして、いつ取締役を解任させられたのかを把握する必要があるため、登記事項証明書が必要になります。
また、委任契約書も取締役の就任期間や任期を把握するための書類として重要となります。さらに、定款に取締役の任期が記載されている場合は定款もあわせて用意するようにしましょう。
次に、実際にどのくらいの報酬をもらっていたのかがわかる書類も用意してください。報酬額がわからないと、いくら請求すればいいのかがわからないためです。具体的には、株主総会の議事録や役員報酬規程、報酬の明細書、源泉徴収票などが該当します。
損害賠償請求=すぐに裁判ではない
「損害賠償請求のために裁判を起こそう!」と意気込んでいる人もいるかもしれませんが、すぐに裁判に持っていくのはあまり得策ではありません。まずは会社との交渉を行い、交渉を通して損害賠償請求ができるか確認しましょう。
ここで支払ってもらえるのであれば、時間もお金もかける必要なく問題が解決できるためです。交渉する際は、先ほど紹介した報酬や任期がわかる書類を用意すると話を進めやすくなります。交渉がうまくいかなかったら、裁判を考えるようにしましょう。
まとめ
今回は、会社を不当解任になる理由と正当解任の理由、損害賠償を行う際に必要な書類について解説しました。もし当てはまるケースがある場合は、まず弁護士に相談するなどしてみましょう。
不当解任は取締役の名誉や今後のキャリアにも大きな影響を及ぼすため、単なる報酬請求にとどまらず、名誉回復や社会的評価の回復という観点からも、弁護士を通じた適切な対応が重要です。